Episode:20 Take3



「はう〜、シンちゃあん!」
「わっ、レイどうしたの!?」
 テニス部の部室へ向かっていると、いきなりレイに飛びつかれた。
「アスカがいじめるぅ!」
「なに?、またケンカ?」
 うんざり顔。
「なにって…、シンちゃん酷い!」
 周囲からの視線が痛い、針のむしろに居るようだ。
「ぼ、僕はなにもしてないじゃないか」
「それだけじゃないよぉ、今日初めて会ったんだよ?、ほかに言うことないの?」
「と、とりあえず離れてよ…」
「やだもん!」
 背中にしがみつく。
「もう、レイ…」
「なにやってんのよ、あんた達…」
「アスカ」
 冷ややかな視線におののく。
「あ、あのさぁアスカ?」
「なによ?」
 とりあえずレイを押しのけるシンジ。
 まったく、人が誰のために苦労してると思ってんのよ!?
 きっつい目つきで睨まれる。
「うう、恐い…」
「シンちゃん気をつけてね?、アスカお昼抜きで気が立ってるから…」
「お昼抜いたの?、アスカが!?」
 何か信じられないようなものを聞いたような想いで聞き返す。
「あんたねぇ、あたしだってたまにはお昼ぐらい抜くわよ」
「そんな…、朝昼晩はきっちり食べて、三時のおやつに食後のデザート、夜食は最近プリンがお気に入りのアスカが…、あ、ごめ…」
 アスカの形相に恐れおののく。
「あれぇ?、前半と中盤はともかく、プリンって何?」
「あんたは知らなくていいの!」
「えー、仲間外れにしないでよぉ!」
「いいって言ってんでしょ!、それより何よシンジ、何か用なの!?」
「あ、うん…、今日のことなんだ…けど」
 アスカの剣幕に語尾が弱くなる。
「今日?、今日がどうしたのよ?」
「…覚えてないの?」
 はて?、と考え込む。
 聞き返そうとするが、シンジはそれよりも早く「あ、ならいいんだ」と寂しい笑顔を浮かべた。
「は?、ちょっとあんたが良くても、あたしが…」
「良いんだ、じゃ…」
 去ってくシンジ。
「あ〜あ、アスカ、シンちゃん落ち込ませちゃった」
 何よバカ!っとレイを睨みつける。
 シンジもシンジよ、用があるならはっきりと…、はて?、今日?
 ん〜っと首をひねる。
 なにか大事な…、とても大事な用があったような?
「アスカはそこで悩んでてね?、あたしシンちゃん慰めてくるから」
「あ、ちょっと!」
 隙きをつかれた。
「んっ、もう!」
 アスカはぷーっと、頬をふくらませた。


「待って、待ってよシンちゃん!」
「レイ…」
 思ったよりも意気消沈しているシンジ。
「シンちゃん、どうしたの?、不幸のどん底に居るみたいだよ?」
 覗きこむ、ついでにシンジの額に手を当てた。
「なんでも無いよ…」
「アスカが約束忘れたの…、そんなにこたえたの?」
 シンジが手の平を何度も握りなおしている。
 その癖に気がつくレイ。
「シンちゃん…」
「約束って言っても、大した用じゃないんだ」
 無理に笑って見せる。
「ほら、屋根裏部屋の天窓…、陽が射しこんでくるから眩しいでしょ?、それでね、タペストリーか何かで隠しちゃおうかって…」
「そんな約束してたんだ?」
「…ごめん」
「どうして謝るの?、シンちゃん悪い事してるわけじゃないのに」
「だって…、レイ達に内緒で…」
「どうせアスカがそうしようって言ったんでしょ?」
「違うんだ、タペストリーとか売ってる店って知らないから…、アスカに頼んだんだ」
「シンちゃんが?」
「うん…」
「それは珍しいよね、いいなぁアスカ、シンちゃんに頼られて…」
 罪悪感に満ちた顔を向ける。
「だから、謝らなきゃと思って…」
「気にしすぎだよぉ、それぐらいで怒ったりしないって」
「でも、機嫌悪くなるでしょ?」
「アスカほどじゃないけどね?」
 クスリと笑いあう。
「…そうだ、レイ、放課後暇?」
「クラブがあるけど…、え?」
「あ、じゃあ駄目だね、時間、空いちゃったからどうしようかと思ったんだけど…」
 がしっと手を取るレイ。
「行く!」
 瞳がきらきらと輝いている。
「絶対行く!」
「え?、でもクラブは…」
「サボるもん!」
 期待に満ちた瞳を向ける。
「これってデートだよね、シンちゃん!?」
「そんなオーバーな…」
「ううん、デートなの!、これはデートだからね!!」
 燃えるぅ!っとレイのオーラが立ち上った。
「…ちょっと早まったかなぁ?」
 シンジは早くも後悔しはじめていた。






「はやくぅ、シンちゃあん!」
「ちょっと待ってよレイ!」
 元気に駅のホームへ駆け上がって行くレイ。
 シンジも慌てて後を追った。
「一体どこへ行くのさ?」
「ジオフロントだよ?」
「え?、ジオフロントって…」
「いまちょうど良い映画やってるの!」
 腕を取られる。
「ちょ、ちょっと、離れてよ、恥ずかしいよ」
「二人っきりなのにぃ?」
「だってこんなに人が居るのに…」
「この間だってぇ…」
 甘えた声。
「こうしてたじゃなぁい…」
 ゴクリと咽喉が鳴ってしまう。
「ふふ、シンちゃんてば、や〜らしぃんだから…」
「ひ、酷いや、そんなこと言うなんて」
「隠さなくっても良いの!」
 耳元に唇を近づける。
「待ってるんだからね?」
 きゃっと照れて顔を背ける。
 シンジの頭は既に爆発していた。
「うう、シンジ様の浮気モノぉ…」
「ふ、なんて罪深いんだい?、シンジ君は」
 そんな二人を、カヲルとミズホが尾行していた。


「約束、やくそく、ヤクソク…、おっかしいわねぇ、どうしても思い出せないし…」
 放課後、レイを探してうろつくアスカ。
 だがどうしてもレイが見つからない。
「おっかしいわねぇ、シンジがいない、レイもいない、ミズホもカヲルもいない…、まさか…」
 独りぼっちにされちゃった?
 仲間外れにされちゃったのかなぁ?
 不安が募るが…
 でもどうして?、なんであたしが!、これもみんなシンジが悪いんじゃない!
 怒りを幸が薄いんだか余りまくってるんだか、よくわからない少年へ向ける。
「これはもうお仕置きするっきゃないわよね?」
 なににしよっかなぁ?っと、一気に妄想が楽しい方向へ。
 おはようのキスから始まって…、だめね、朝はカヲルが邪魔するし、シンジ天窓からの朝日で、あたしより先に起きちゃうし…、ん?、天窓?、天窓…
「ああ!」
 急に大声を上げて立ちつくす。
「わ、忘れてた…」
 血の気が引いていく。
 シンジはもう帰った後だ、遅い。
 シンジの寂しそうな笑みが思い出される。
 浮かんできたその表情が消えてくれない…
「あたし、どうしよう…」
 どうすれば良いかわからない。
「もしもし?」
「お困りのようやのぉ?」
 そこへ救いの手を差し伸べる、なぞの二人組が現れた。






「シンちゃんこれ、これなんかどう?」
 おサルのプリント入りタペストリー。
「おサルはやめようよぉ〜」
「えー、どうしてぇ?、シンちゃんそっくりなのにぃ」
「だから嫌なんだってば…」
 頼むからわかって?っと懇願する。
「じゃあ無難にこのあたりかなぁ?」
 柄も何も無い、薄水色のタペストリー。
「そうだね、僕はそれの方がいいや」
「そ?」
「うん、水色って、なんだかレイの色だよね」
 何気ない一言。
「シンちゃん…」
 うるうると瞳を潤ませる、だがシンジは意識してなかったので気がつかなかった。
 ちょうどタペストリーの店を見つけたので、二人で覗いていたのだ。
「うう、シンジ様のバカ…」
「浮気モノ…、でもシンジ君、君の優しさがいつかレイを傷つけないことを祈るよ」
「はあ?、それってばどういう意味ですかぁ?」
「いつかシンジ君は僕の元に帰ってくるからね?」
「そんなことは絶対にありません〜!」
 ポカポカと叩く。
「痛い、痛いよミズホ…」
 だがふふふと漏らしている暗い笑いはやめない。
「あ、移動しますぅ」
「今度はどこへ行くつもりだろう?」
「上の階みたいですぅ」
 カヲルは案内掲示板をざっと眺めた。
「これだ」
 一点に目が止まる。
「映画館がある、今ちょうど恋愛ものをやっているみたいだね…」
「そ、そんな!」
 夕べの勘違いがフラッシュバック。
「ふ、不潔ですぅ!」
「僕達も行こう」
「はい、もちろんですぅ!」
 勢い込む二人だった。






「Do you love me?」
 その一言に万感の思いを込めて、ヒロインは青年へと投げかけた。
 青年は腕を広げることで答えに変える、飛び込んでいくヒロイン。
 ふっと肩が重くなる。
 レイが頭をもたげていた、その髪が鼻孔をくすぐる。
 シンジはごく自然に、レイへと寄り添い返した。
 意外なシンジの行動に、レイは小さく身をすくめた。
 だがすぐに緊張を解き、シンジへ全てを預ける。
「……」
 何かを口にしようとしてやめる…、口にすれば、きっとシンジは逃げてしまうから。
 いまはこれだけで我慢しよう…
 だがそれすらも許そうとしない二人がいた。
「ん?」
 何か刺すような視線を感じて、シンジはちょっとだけ後ろを見た。
 キィ…
 ちょうど誰かが出て行く所だった、開かれた扉から漏れ入る光。
 ミズホ!?
 離れた場所から、凄い形相で睨んでいる女の子がいた。
 いくら暗くとも間違えようがない。
 その隣で冷笑を浮かべている少年。
 カヲル君!
 シンジは前に向き直った。
 どうして二人がここに!?
 冷や汗が流れ出す。
「ん…、どうしたの?」
「あ、いや、なんでも…」
 急に固くなってしまったシンジに、いぶかしげな視線を投げかける。
 ちらっともう一度振り返る。
 二人とも怒ってる!
 シンジは正面に集中した。
「奈落の底へ落ちていくぅ!」
 黙っててよぉ!
 つい映画のセリフに突っ込む。
「シンちゃん、なに緊張してるの?」
 ギギッと音がしそうな感じで、シンジはレイに首を向けた。
「やだもう、いまさら意識する事無いのに…」
 勘違いして、レイはそれなりに幸せそうだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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