Episode:26 Take3



 メイが居なくなっちゃったのよ!
「やはりな…」
 ゴオオオオオ…
 テンマの髪が強く引っ張られるようになびいていた。
 やはりって…、テンマ!
 カスミの問いただすような口調にも、テンマは少しも動じなかった。
 彼は今、水門の上に立っている。
 北からも南からも距離は同じだった、水門の中央だ。
「マイを狙った連中がそちらの建物の裏手に消えた、死角になる所に通路がある、マイがダメならメイを狙うのは当然だろう」
 じゃあメイはこの城のどこかに!?
「連れ出されてはいない、だが「声」に答えない所を見ると眠らされたか…」
 殺されてはいないと確信しているテンマ。
 テンマ、何か知っているのなら話しなさい!
「……」
 テンマ!
 テンマは口を閉ざしてしまった。
 その顔には、珍しく嫌悪感らしい物が浮かび上がっていた。






 甲斐達の居る城のすぐ側の浜辺に、リキ、マイ、ツバサ、ミヤ、イサナが揃っていた。
「…で、俺とミヤで行く」
 ミヤは小さく、しかしはっきりと頷いた。
「ぶぅ、いいなぁ、ミヤまでお出かけなんて…」
 なにか誤解しているマイ。
 あのねぇっと、ミヤはマイを見た。
「それじゃ頼むぞ、イサナ?」
「ほーい!」
 元気に右手を振り上げる。
 イサナには城の近くまで運んでもらう算段になっていた。
 海中から攻めるのだ。
「大半は瓦礫に埋もれてる、でもリキなら進入できるよ」
 それがツバサの見たてだった。
「イサナに運んでもらって、道は俺が作る、ミヤにはバックアップを頼む」
「うん」
 また頷くミヤ。
「なぁにをカッコつけてんだか、気楽にいこうよ、ギャグキャラなんだし」
「誰がだ!」
 ほんっきで怒るリキ。
「おお恐…」
 ツバサは首を縮めながらも、ミヤに向かって何かを放って投げ渡した。
「あっと!」
 慌ててキャッチするミヤ。
「…なにこれ、血?」
 それはアンプルのような入れ物に入っていた。
「切り札だよ、持ってって」
「…誰の?」
「飲めばわかる」
 二本の指で差すツバサ。
 その顔はいたずらっ子のそれだった。
「それじゃ、行くとするか!」
 リキはシャツを脱ぐと、そのまま足元に落とした。
 膝までの迷彩パンツを、そのまま水着代わりにするつもりなのだ。
 ミヤはリキと違って、ちゃんと服の下に水着を着ていた。
 だが色気のない、紺の水着だった。
 目立たないようにするつもりらしいのだが、どうして「日本のスクール水着」なのか?、みな突っ込んでみたくてしょうがなかった。






 昼間と違い、夜の海は冷たかった。
 すぐさま体温は奪われていく。
 唇、青くなっちゃってるかなぁ?
 心配して、小型のボンベを加えたままで、ミヤは舌先で唇を舐めた。
 正面に何かが見えて来る。
 堆積した土砂だ、その中から墓石のように顔を覗かせている建物が見えた。
 ミヤは手を引いてくれているイサナを見た。
 楽しそうに進んでいく、反対側にはリキが、やはりイサナに手を引かれていた。
 溺れそうになっていたマイを引き連れていた時とは違って、今度のイサナはその力を存分に発揮して泳いでいた。
 つんつん…
 リキが前方を指差した。
 頷くイサナ、そこに下水管が顔を覗かせていた。
 三人でその前に立ってみる。
 ゴウ…
 髪がその流れの勢いになびいた、水が流れ出してきているということは、どこかに続いていると言うことだ。
 イサナ、残っててくれ。
 リキは「声」でそう伝えると、先に立って歩み出した。
 ミヤも続く。
 流れは強く、リキですら手を下水管の壁につき、踏ん張らないと進めないほどだった。
 俺を盾にしろ。
 ミヤは「声」の言う通りに、リキの大きな体を使って流れを避けた。
 リキ!
 ミヤの声に、足元を見るリキ。
 遺体が転がっていた、スーツ、カジュアル、その中にはダイバースーツの物まであった。
 …ジャイアントシェイクの時のものか?
 中には白骨化している物もある。
 だがここだけに集中して転がっているのはおかしい。
 腐敗途中の物まであった。
 さらには奥へ向かえば向かうほど、その数は増えていきそうな感じになっていた。
 その上で光る物がある。
 そこにはあの金貨が転がっていた。
 それは奥へ奥へと続いている。
 イサナが拾った場所からはかなりの距離があった、自然に…、と言うにはあまりにも不自然な感じであった。
 第一、坑道のような下水管の中にあること自体がおかしい。
 足跡は…、ない。
 その代わり、奥から何かが迫って来るのがわかった。
 リキ!
 点のような光が、幾つか点いたり消えたりしている。
 リキ達の側の死体がふわりとゆらめき、軽く浮き上がった。
 まるで手招きするように、その遺骸の手が動く。
 ジュボ!
 二人の真横を、とてつもない熱量が走りぬけた。
 くっ!
 とっさに壁を展開できたのはリキだけだった。
 ミヤの壁は自動展開すら間に合わなかった。
 熱い!
 もがくミヤ。
 だが瞬間沸騰した海水も、すぐに元の冷たさを取り戻していた。
 今のは!?
 奥で何かがうごめいていた。
 JA!、あんなものまだ動かしていたのか!!
 それはあの自動自走兵器だった、だがかなりの改造を受けているのだろう、もちろん水中仕様になっていることもあるが、大出力のレーザーが取り付けられていた。
 エネルギー供給を受けるためのチューブが背後に取りつけられている。
 来る!
 中央、腹部の下で光が明滅した。
 今度は待ち構え、リキは壁を展開して受け止めた。
 くっ!
 壁で受け止めたのがいけなかったのかもしれない、その向こう側の海水が水蒸気爆発を起こした。
 ドン!
 後は何がどうなったのかわからなかった。
 ただリキが確認できたのは、海流に飲み込まれ、JAの更に背後へと流されていくミヤの姿だけであった。






「くそ!」
 リキは咥えていたボンベを砂浜に叩きつけた。
「ミヤは?、ねえミヤは!?」
 泣きそうなマイ。
「そっちの心配はない…」
 うん、大丈夫みたい…
 すぐにミヤの声が返ってきた。
 やっと骸骨とか無くなったの、気持ち悪かったぁ…
 その声には、本当にほっとしている様子がうかがえた。
「今どこに居る?」
 お城の中みたい…、まだ空気のある所に出られないんだけど。
 リキはツバサを見た。
 時計を確認するツバサ。
「あと15分で空気がなくなるよ…」
 ぎりぎりか…
 リキが悔しがっているのは、ついていくことができなかったからだった。


「お先にお帰りになられたのか、迷っておいでなのか…、まあ広い建物ですからな」
 なによこいつ…
 カスミはジョドーののらりくらりとした態度に苛立ちを募らせていた。
「もしお残りになられているようでしたら、後でご連絡を…」
 ぷいっと、カスミはレディーにあるまじき態度でもって返事にした。
 甲斐と共に車に乗り込む。
 黒いベンツだ、運転席には…、テンマがいた。
「テンマ!」
 甲斐が片手を上げてカスミを制した。
 むくれるカスミ。
「…アルミサエルは?」
「現在潜行中、メイもそろそろ目覚めます」
「そうか…」
 くっくっくっと、甲斐は楽しげに笑いを漏らした。
 甲斐さん…
 カスミはそんな甲斐の考えていることが計れなくて、少し寂しい思いを味わっていた。






「なるほどなぁ…、じゃあこの金貨も」
 ベッドに腰掛け、景気よくビールをあおるカスミから話を聞かされて、リキはイサナから貰った金貨をしげしげと見つめていた。
「うげぇ…、水いっぱい飲んじゃったよぉ」
 ツインのベッドルームだ、しかもベッドは特大。
 その端っこでマイは首から下を向こう側に落として舌を出していた。
「マイは水難続いたもんなぁ」
 けらけらとツバサ。
「ツバサだって泳いだじゃない〜」
「そんなの気にしてたら切りないって」
 ツバサはやはり簡単に笑い飛ばした。
「第一、どざえもんを見たわけじゃないしさ、そんなのとっくの昔に魚の餌だよ」
 マイにはどうしてもそう簡単に割り切ることができなかった。
「で、甲斐さんはなんて言ってる?」
「なんにも」
 カスミは肩をすくめた。
「甲斐さんが気にしてるのは別のことみたい…」
 それを教えてもらえないので、カスミはかなり苛立ってしまっていた。
「わたしに話してくれたのも、甲斐さんの気にしてることとはあんまり関係がないからみたいだし…」
 しょぼくれるカスミ。
「ミヤは?」
「城の中に入った、今探りを入れてる所だ」
「そう言えば…」
 急に気がついたように、カスミは人数を確認した。
 マイとメイとツバサとリキ。
 後の面々は姿が見えない。
「みんなは?」
 カスミは頭痛を堪えてなんとか尋ねた。
 部屋の隅っこに避難するリキ。
「宝探しに行くってさ」
 やっぱりカスミの怒りは、…爆発した。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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