Episode:27 Take2



「ふえええ〜ん、シンジ様が行方不明ですぅ!」
 ミズホは泣きながら、庭の片隅にある生ごみ用のごみ箱を漁っていた。
「わたしが、わたしがあんなことを言ったからですぅ」
 びえええええ〜んっと、近所迷惑も考えずに泣きじゃくる。
 その頭を、こつんとアスカが軽く小突いた。
「あんたバカァ?、あの状況で、レイ以外の誰がシンジを連れてっちゃうのよ?」
「うう、やはりシンジ様はレイさんをお選びに…」
「ああもう!、自分で焚き付けておいて泣かないの!」
「だってぇ、ですぅ!!」
 びえええええ〜んっと、ミズホはしつこく泣き出した。
「なんだ、騒がしいな…」
「おじ様!」
 庭木に水でもやりに来たのか、ゲンドウは片手にホースを持っていた。
「シンジが居なくなっちゃったんです!、何か知りませんか!?」
「ああ…」
 ゲンドウはどうしたものかと、わざとらしく顎を手でさすった。
「何か知ってるんですね!?」
 目ざとく…と言うか、ゲンドウの思惑どうりに引っ掛かるアスカ。
「…シンジは今、シドニーだ」
「しどにぃ!?」
「シドニーって、あのオーストラリアのシドニーですかぁ?」
 目を丸くする二人に、ゲンドウは静かに頷いた。
「シドニー復興10周年記念祭があるのでな?、タタキ君達がどうしても取材したいとレイに話を…、なんだ聞いてなかったのか?」
「しどにぃ、外国…」
「白い浜辺、開放的な海…」
 ぼうっとしている、ゲンドウの話すら聞いているかどうかも妖しい。
「危険ですぅ!」
「そうよ!、シンジだって男の子なんだから!」
 はたと顔を見合わせる二人。
「…行くかね?」
「「行きます!」」
 即座に二人ははっきり返した。
 眼鏡の奥でほくそ笑むゲンドウ。
 だが悟られないように、表面上はなんとか押し隠していた。
「そうか…、では準備を進めておこう、君達は支度を整えて来たまえ、ああ、トランクケースならユイのを使うと良い、パスポートは持っているね?」
「「はい!」」
 二人はばたばたと走って家の中に駆け込んでいった。
 どうしてそこまで用意が良いのか、まったく考えようともせずに…
 携帯電話を取り出すゲンドウ。
 ダイヤル、相手は眠そうな声を出した。
「ふわぁい、誰よこんな時間にぃ…」
「わたしだ」
「……」
 相手方は声を失ったようである。
「実は君に頼みたいことがあるのだが…」
「…わたしに、ですか?、加持は」
「彼にも関係のあることだよ」
 ゲンドウはこれまでに至る経緯を説明し始めた。
 アスカたちの準備が終わるまで、たっぷりとかかって、なるべく詳しくと彼女に興味を引かせるために…






 事件はアスカがシンジの部屋に入り込んだことから始まった。
「もうバカシンジが!、布団ぐらい上げときなさいよね!!」
 足の踏み場もない、アスカは布団をめくれば座る場所くらい確保できるとそう踏んだ。
「まったくもう、どうして男ってこう、ずぼらなのかしら!?」
「アスカが世話焼くからじゃないの?」
「ずるいですぅ」
 うるうるとミズホ。
 レイは頭の後ろで腕を組んでいた。
 呆れた様子でアスカを見ている。
「そりゃあんたも似たようなもんだから…って、あんたまさかゴキブリとかわいてないでしょうねぇ!?」
「まっさかぁ、そこまで散らかしてないよぉ」
 レイは適当にごまかした。
「ちゃんと掃除はしてるよぉ?、アルバイトが忙しいから、毎日はできないけどね?」
 まったく!
 敷布団をたたみ、その上に掛け布団を乗せる。
 最後に枕を手にするアスカ。
「ん?」
 その手が何かを感じた。
 怪訝そうに枕をくしゃくしゃと潰してみる。
「なになに?」
「何か入ってるのよ…」
 枕の中身を漁りだす。
「それはきっと、わたしの写真ですぅ」
 ミズホはぽ〜っと妄想に入った。


「さあ、今日もミズホを感じながら寝るんだ」
「ん?、どうしたんだいシンジ君?」
 怪訝そうにカヲル。
「あ、うん、なんでもないよ、なんでも!」
「そうかい?」
 シンジは「危ない危ない」と冷や汗を拭った。
「気付かれたら取り上げられちゃうもんね…、ごめんねミズホ、本当は君のことが一番好きなのに、僕に勇気がないんだよ…」
 シンジはぼふっと布団を被った。
「だからせめて夢の中だけでも愛してあげるよ、さあ今日も可愛い姿を見せておくれね、ミズホ…」
 そう言ってシンジは夢の中へと落ちていった。


「なぁんちゃって、なぁんちゃってですぅ!、はう〜ん、シンジ様ぁ☆」
 頬が上気していて目が危ない。
「それはないわね…」
「シンちゃんがそんなセリフ言うわけないしぃ…」
 二人は冷たい視線をミズホに向けた。
 アスカの手が、枕の中にあるものを探り出した。
 中に入っていた物を取り出し、「ひきっ」と頬を引きつらせるアスカ。
「なに?、どしたのアスカ?」
 レイは肩越しに固まっているアスカの手元を覗きこんだ。
「こ、これは!」
 ミズホの目が驚きに見開かれた。
 パラパラとアスカはその雑誌をめくっていく。
 間違い無い、危険度指数80%近い、いわゆるHな本だった。
「ば、バカシンジがぁ!」
 女の人が大股を開いている。
「やだ!、シンちゃんったら…、ちょっと凄いよ…」
 しかもノーカット無修正である。
「シンジ様ぁ〜、わたくしと言うものがありながら」
 とか言いつつも、視線が雑誌から離れない。
「そうよ!、こんな本見なくっても、あたしってもんが…、やだ、何言ってんのよ、あたし…」
 アスカは両頬を手で押さえた。
「シンちゃん、こんなの見なくてもいつでもオッケーしてあげるのに…」
 レイは雑誌を胸に抱いて、体をくねくねとくねらせた。
「シンジ様、浮気者ですぅ!、不潔です、こんなのぉ」
 と言っているミズホの目もやっぱり危ない。
「あれ?、みんなどうしたの?」
「「「ひっ!」」」
 そこへシンジ登場、階段を昇って来て、顔だけ出している。
「バカシンジがぁ!」
「うわぁ!」
 バン!
 本を顔面に投げ付けられるシンジ。
「うわあああ!」
 ドタドタドタ!
 シンジは派手に階段を転げ落ちていった。
「びっくりするじゃない、もう!」
 アスカもレイもミズホも、首から上が真っ赤になってしまっている。
「なんだよもう、…なんだこれ?、うわ!」
 慌てるシンジの声に、アスカは即座に使命を思い出した。
「バカシンジィ!」
 ダン!っと、アスカはシンジたちの屋根裏部屋から、階段も使わずに飛び降りた。
 ぐんっと足を曲げて着地の衝撃をやわらげると、顔を巡らせるように立ち上がる。
 その途中で、怒りに燃えた瞳がしっかりとシンジを捉えていた。
「なによバカシンジ!、あんたなんでそんな本、隠し持ってんのよ!」
「え?、ええ!?、ぼ、僕のじゃないよ!」
「嘘おっしゃい!、だったらなんであんたの枕の中に入ってんのよ!」
「そ、そんな、誤解だよ、何かの間違い…」
「うっさい!、抱きしめてくれない、キスもしてくれないくせに、どうしてそんな本に頼ってんのよ、あんたわ!」
「…頼るって、なにが?」
 レイが上から、首だけ覗かせて突っ込んだ。
 ぼんっと真っ赤になって爆発するアスカ。
「そんなの決まってますぅ!」
 邪魔よとばかりに、レイを突き飛ばすミズホ。
「あぶ、あぶ、あぶ!」
 レイは何とか落ちるのを堪え、ミズホと共に降りた。
「とにかく、シンジ様は黙ってわたしの部屋に引っ越せばいいんですぅ!」
「あんたバカァ?、どうしてシンジがあんたの部屋に移んなきゃいけないのよ」
 アスカは逃げ出そうとしていたシンジの腕に腕を絡めた。
「それはもちろん、魔窟からお救いするためですぅ!」
 ミズホの言い分に、レイもぽんっと手を打った。
「あ、そっか、カヲルと一緒だからシンちゃん不健全になってくんだよ、うん」
「…さっきから何の話をしてるのさ、みんな?」
 三人は同時にシンジに目を向けた。
 アスカは怒っている、レイは何だか妖しい、ミズホは誘っているような感じだった。
 後ずさろうとして、シンジはアスカに引きずり戻された。
「そうね、この際だから、はっきりさせてもらおうじゃないの」
 アスカの提案に頷く二人。
「は、はっきりって…」
「いいこと?、今、誰が一番好きなのかちゃんと答えなさいよ」
「えええーーー!」
 シンジの額に、どっと汗が吹き出していた。
「そ、そんなの無理だよ!、できるわけないよ!!」
 半泣きになるシンジ、だがなんだか嬉しそうでもあった。
 それもそのはずで、シンジの腕は今、アスカの胸元に抱き込まれている。
「今、で良いのよ?、そうでなきゃ巻き返しが計れないじゃない?」
 将来なんて関係無いのよ、ずっとじゃないんだから。
 口調は実に穏やかだったが、アスカの目はまったく笑っていなかった。
 一番はアスカだと言わなければ、どうなるかは目に見えている。
 ふとシンジはレイとミズホを見た。
 黙りこくって、ジーっと見ているレイ。
 赤い瞳がシンジを見据えている。
 うう、恐い…
 ミズホはと言えば…
 もじもじと、自分が選ばれることに何の疑いも持っていないようだった。
「僕は…」
 ごくり…
 シンジの声に重みが増した。
 全員が息を呑む。
「僕は…」
「シンちゃんお醤油まだぁ?」
 階下からユイの声が邪魔をした。
「…うん、すぐ行って来るよ!」
 シンジはまずそう告げてから、みんなと一人一人視線を合わせた。
 まずアスカ、アスカはじっと見られて、怖じ気づくように腕を解放した。
 次にミズホ、ミズホは恥じらうようにうつむき、視線をそらしてしまう。
 最後にレイ、レイは引きも押しもしない、先に折れたのはシンジの方だった。
「…お使い、頼まれてるんだ」
 じゃあ…と、シンジはレイとミズホの脇を抜け、上着を取りに自分の部屋へ上がった。
 顔を見合わせる三人。
 お互いに、続きを聞けと催促しているようだった。
 だが動けなかった、シンジがもう一度、今度は一階へ降りるために通り過ぎても動けなかった。
 あいつ、今なんて言おうとしたのかしら?
 いつもみたいに逃げようとしなかったし…
 でも…、どうして悲しそうになさったんでしょうかぁ?
 聞いた方が良かったのか、聞かなくて良かったのか、お互いに微妙な感じを抱いている三人であった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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