Episode:28 Take3
「何をしている!」
ヘリポートに伯爵が姿を見せた。
屋敷の街との反対側が、庭をかねたヘリポートになっていたのだ。
庭はその昔、シドニーの北東にあったロイヤル・ボタニック・ガーデン と呼ばれる巨大植物園の名残と連なっていた。
ジャイアントシェイクの後、その植物達は野放し状態で放置されていた。
鉤爪のような物を広げた、おかしなヘリがローターの回転速度を上げ、待機している。
伯爵はその風に負けないよう、かがんで近づいていった。
「申し訳ありません、何しろ初めて使うシステムでして…」
ヘリの下には、巨大な竪穴が口を開いている。
「言い訳は聞かん、急げよ」
「ははぁ…」
ジョドーはいつもの執事の姿に戻っていた。
ヘリの起こす風に嫌気を覚えながら、伯爵は高揚を感じていた。
竪穴からせりあがって来る、それは間違いなくメイの捕らえられている部屋、そのものだった。
ただし外側はコンテナのようになっている、特殊合金製の。
「計画発動までに残された時間は、後わずかしかないのだ…」
ジョドーは高くなりつつある太陽を見た。
「月が姿を見せる頃、もうすぐですよ?、姫…」
ヘリを見る、その鉤爪が閉じられ、四角いブロックのような部屋を、しっかりと抱きかかえていた。
「場所はわかっているな!?」
「シドニー復興10周年記念祭、式典会場でございますね?」
正確には、半ば海に浮かんでいる巨大ドーム、新オペラハウスのことであった。
「うむ、それまでに…」
「はい、今一人の歌姫を…」
ジョドーは深々と頭を垂れた。
「全ての駒が揃わねば、計画の発動はありえんのだ…、人は夢があるからこそ生きていける、その夢、全てこのわたしが生み出してくれよう」
伯爵の誇大妄想癖は、どうにも止まりそうに無い様子だった。
●
「こちらミヤ、計画は失敗、直ちに退却します」
ミヤは「声」を使ってそう仲間に告げると、入って来たドアからひょこっと外の様子を確認した。
ビシッ!
その扉のすぐ下で何かが弾けた。
サーッと青ざめるミヤ。
廊下には武装した傭兵部隊が、ずらりと並んでM16を構えている。
「やっばぁい…」
様々な人種の者たちがいた、服装もばらばらなのだが、男であることと、屈強であることが共通している事項だった。
彼らは、瓦礫の手前で隊列を整えている。
「抵抗するな!」
隊長格らしい男が声を張り上げた。
だがライフルのスコープは覗いたままだ。
「仲間は押さえた!」
仲間?
ミヤはたっぷり三秒ほど考えてから、ようやくムサシのことを思い出した。
「あっちゃ〜」
もう一度覗いてみる、ムサシが縛り上げられ、転がされていた。
青たんを作ってはいたが、元気そうだった。
「普通、「俺にかまわず逃げろ」って言うんだろうけど…」
ムサシは強気に、「できるなら助けてくれないかな?、デートの約束もした仲だしさ?」っと、ミヤに微笑んだ。
「いい度胸だな」
にやにやと片手をあげる。
リーダーの指示に従い、全員が銃口を下ろした。
「女と子供は殺さない主義だ、さ、出て来なさい」
少し悩んだ末に、ミヤは両手をあげて姿を見せた。
女の子じゃないか…
素っ頓狂な声が上がる。
ミヤはゆっくりと進み出た。
よっと、起き上がるムサシ。
縄で縛られたままで、器用に立ち上がる。
茶化す者はいない、できるなら下卑た笑いが欲しいとムサシは思っていた。
隙があるようで、ない。
ミヤはムサシの真正面で立ち止まった。
「このまま捕まるって?、冗談じゃないよな」
ムサシの言葉に、ミヤは微笑む。
「そうね」
ミヤはムサシを優しく抱きしめた。
「え?、え、ちょっと!」
「黙って…」
ムサシの顔が赤くなった。
黒人、白人、東洋人、いかつい顔の男達が、ニヤニヤと二人を見た。
その隙をミヤは見逃さなかった。
「サヨコ!」
直後足元の影が広がり、二人をその中へと飲み込んでいた。
●
パパパパパン!
軽い小銃の音が響いている。
「他に誰かいるのか?」
ヨウコは眉をひそめていた。
後から工事して付け足したらしい、スチール製の非常用階段を駆け上がっていく。
ヨウコの中にあるのは、邪魔者と言う単語だけだった。
「ならば排除すればいい」
バン!、ヨウコは外への扉を開いた。
バババババ…
ヘリがローターを回し、飛び上がろうとしている。
芝生が風に波を立てていた、その腹にコンテナのようなブロックを抱きかかえている。
「そこか?」
メイが居ると直感した。
ヨウコが出て来たのは、変電所を装った地下への入り口だった。
金網によって囲われている。
パパパパパン!
またも銃声。
「誰だ?」
知らない男の子が自動小銃を構えていた。
林からの射撃だ、その上ヘリを傷つけまいとしているのか、狙いが甘い。
ヨウコは知らないが、ケイタだった。
「あれでは逃げられてしまうな」
ヒュン!
光の鞭が走った、バチッと音を立てて、金網がヨウコの形に切れ落ちた。
ヨウコはバッグを捨てスタートを切った、100メートルを世界記録を超える速度でヘリに迫る。
狙撃がやんだ。
「いい判断だ」
知らない少年を誉め、ヨウコは地を蹴った。
手を伸ばす、その手がメイの居る部屋をつかんでいる鉤爪をつかんだ。
「ふん!」
むき出しの腕が一気に膨らんだ、地道に鍛えた筋肉だけで、自らの体を持ち上げる。
キキュン!
再び力を振るう、高度はすでに20メートルを超えていた。
遥か下に海、そこに向かって壁の一部が落ちていった。
ヘリはいったん湾から出ようとしている。
ゴウ!っと風が室内に吹き込み、メイとマイのグッズを吹き飛ばした。
「撃て!」
特殊鋼の壁。
「それをやすやすと切り裂くような武器の持ち主に、わざわざ近寄ったりはせんよ」
姿を見せた人影に、伯爵はほくそ笑んでバカにした言葉を投げかけた。
黒づくめ達は、プライドを捨ててウージーの弾が尽きるまで引き金を引き続けた。
パララララララララ…
銃声がやんだ、だがまだその女は立っていた。
「わたしに銃は効かない」
外からの逆光に見えなかったが、ヨウコは壁を展開していた。
「メイは、返してもらう」
「本人の自由意志だ、彼女はわたしの妻となろう!」
賊が何を言うか!っと、伯爵は逆切れした。
それをあざ笑うヨウコ。
「賊、か?」
「そうだ!」
「…ならば賊らしく、頂いていこう」
キキュン!
だらりと下げていた左手から、何かの光がまたも走った。
ガコン!
振動と共に部屋が傾く。
「まさか!?、正気か!」
ヨウコは部屋を支えている鉤爪を切断していた、巨大なベッドがヨウコに向かって滑って来る。
「ぬわあ!」
慌てて道を開ける伯爵、わずかの差で、伯爵のいた場所をベッドが滑っていった。
「私の姫が!」
斜めになった床に滑らないよう這いつくばる伯爵。
ドォン!
ベッドが壁に激突した、カモフラージュ用の石材と、その中のプラズマディスプレイの破片が飛び散って、やはり外に向かって吸い出されていく。
ベッドの上から、片手でメイを抱き上げるヨウコ。
「可哀想に、薬をかがされたな?」
ヨウコは感情を殺した目で伯爵を見据えた。
「では、失礼する」
そしてそのまま身をひるがえし、入って来た穴から空中に身を躍らせた。
「ばかな!?」
慌てて穴まで滑る、伯爵は立ち上がると手を引っ掛けて下を覗いた。
「……」
ヒューンと、風切り音が耳に痛い。
「気を失っているが…、その方が水は飲まないか?」
ヨウコはメイの頭を抱きかかえると、壁を盾に衝撃を防いで、その海中へと姿を消した。
「死に行く者の目ではない」
伯爵は、根拠も無く二人が死んでいないと確信していた。
●
…なんだ、あれは?
意識が混沌としている、ヨウコは水の中で、なんとかメイを離すまいとしていた。
なんだ、あれは?
海中にはビルや家屋などが、風化の一途をたどっていた。
中には海藻が取り巻き、あるいは魚が巣を作っている場所もある。
そんな合間を、何か黒いものが進んでいた。
魚?、違う、潜水艦の類でも無い。
なんだ?
人に見える、巨大な人。
なんだ?
10メートルはある、異形の巨人。
なんだ?
混濁していく。
ヨウコ…、ヨウコ?
呼ぶ声がする。
「ヨウコ!」
目を覚ます、誰かが覗き込んでいた。
「…イサナか?」
「へへー、メイはそっち」
隣に寝かされていた。
ふうっと息をつく。
「…賭けが多かったな、プロのやることではない」
プロって、何のプロなんだろう?
聞いていたのがイサナだったので、そんな疑問を持つ者は、誰一人としていなかった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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