「ふわああ、レイさんが言ってたのと全然違いますぅ」
 あらためて自然の良さを満喫する。
 余計なこと言うなーっと、目で訴えているレイ。
 その後ろでミサトがクスクスと笑っている。
「せっかくだからと思って、穴場を調べて来たのよん☆」
 そこはちょっとした入り江のようになっていた。
 川幅はちょっとしたもので、時間によっては観光客のボートも通るらしい。
 それ程の急流では無く、流れは穏やかなもの。
 河はここで大きく曲がっているのだが、その流れがカーブの外側をえぐり取って、この入り江を作り上げているのだった。
「芦は少ないけどね?、ここは流れが死んでるから水草が多いのよ…、それに河の流れに押されてここに迷いこむ魚もね?」
「あ、ほんとだ」
 シンジは入り江の隅を指差した。
「お魚さんが跳ねてますぅ」
 ピチャッと飛沫が上がり、黒い影が沈んでいく。
「…深そうですね?」
「見た目よりはね?、で、シンジ君は釣れるの?」
 竿などを下ろすシンジ。
「一応は、ケンスケにしこまれましたから」
「あ、シンちゃんあたしがやったげるぅ」
 それを奪い取り、リールをセットするレイ。
「あ、ありがと…」
 なに焦ってるのかな?っと、シンジは訝しんだ。
 ふふふ、こうやってポイント取っておかないとね?
 にやけるレイ。
「あ〜ん、シンジ様ぁ、よくわかりませぇん!」
「あ、ごめん、ちょっと待って…」
「わーい、ありがとうございますぅ!」
 しまったぁ!っと、レイは振り返った。
 シンジがルアーを結んでいるのを、わくわくしながら見ているミズホ。
「策士策に溺れるって言葉、知ってる?」
 ミサトの言葉が、非常に痛いレイであった。






 上の空だな…
 苦笑する加持。
 カフェテラス、頭の上には白いパラソルが陽射しをやわらげてくれている。
「ジュース、無くなってるぞ?」
「え?、あ…」
 慌ててストローから口を離すアスカ。
「どうした?、シンジ君が心配か?」
「もうやだなぁ」
 すねたように口を尖らせる。
「デート中にシンジのこと言い出すなんてぇ」
「おいおい、ぼうっとしてるのはそっちだろ?」
 苦笑する。
「ま、二人っきりってならともかく、みんな一緒なんだから…」
「それもあるけど…、シンジ、ホントはレイの事が好きなんじゃないかって」
 しょぼくれる。
「おいおい、そりゃ初めっから判ってることだろ?」
 かぶりを振る。
「そうじゃなくて、もっと違う意味で…、ここんとこずっとレイの事ばっかり考えてるし、あいつ…」
 うつむく。
「だからって、俺といちゃついたってシンジ君は何とも思わないぞ?」
 カーッと赤くなるアスカ。
「図星か?」
「ごめんなさい…」
 加持には素直な所も見せる。
 ふうっと加持。
「いいさ、俺もわかってて付き合ってるんだしな?」
「でも…」
「女性はいつも遥か彼方の存在だよ、俺達にとってはね?」
「はあ…」
 良く判らないっと、首を傾げる。
「だからわりと分かりやすい女の子に惹かれるんだよな、どうすれば良いか迷わなくてすむし、本音と建前の区別もつきやすい…」
 と諭すように言って、加持は立ち上がった。
「どこに行くんですか?」
「シンジ君達の所さ、こんな所にいたって、シンジ君は見ちゃくれないぞ?」
「…はい!」
 元気に立ち上がるアスカに、加持も「よし!」っと、元気づけた。






「えーと、竿を振って、糸が出るようにして、勝手に糸が出ないように指を引っ掛けると…」
「指が切れるとおもうよ?」
 シンジの一言に「あうー」っと情けない顔をするミズホ。
「竿を振る時にルアーがどっか飛んでっちゃうでしょ?、だから勝手に糸が出ないように指をかけておくんだよ…」
 離すのは竿を振るのと同時ぐらいでもいいんじゃないかな?
 つきっきりで親切に教えているシンジ。
「あ、来た来た!、これは間違い無くランディーサイズ!」
 ギャリギャリとリールを巻く。
「やったぁ!、見て見てシンちゃん!」
「すごいやレイ!、あ、ミズホそっちを攻めた方がいいと思うよ?」
「ふええ〜ん、変な所に飛んでっちゃうんですぅ」
 ぷうっとレイの頬が膨れる。
 何よシンちゃんってば…
「きゃ!」
 直後、急に抵抗が無くなった。
「ああ〜、逃げられちゃったぁ…」
 まさに踏んだり蹴ったりである。
 レイはぽいっと竿を投げ出し、ジュースを漁りにクーラーボックスを開いた。
「なに、もうお終い?」
「うーーー…」
 威嚇の声を漏らすレイ。
「はいはい、そろそろお昼にしてあげるから、その間に次の手でも考えなさいよ」
 恨みがましい目をミズホに向ける。
 ビク!
「どうしたの?、ミズホ…」
「はあ、なんだか急に肩が重くなったような…」
 ミズホはしきりに首を傾げるだけであった。






「シンジ様ぁ、はい、サンドイッチを作って来たんですぅ」
 差し出されたバスケットに、シンジは驚き素直に誉めた。
「どこで作って来たの?」
「ホテルの調理場をお借りしたんですぅ、上手だって誉めていただきましたぁ」
「へぇ…、ほんとに美味しいや」
「よかったですぅ」
 ミズホも一緒になってパクつく。
「……」
 その顔が「ふにゅう」っと情けなく歪んだ。
 うう…、なんだかしょっぱいですぅ。
 ちらりとシンジを見るが、平然と口に運んでいる。
 シンジ様…、あんなにおいしそうに…、はっ!、ミズホが作ったから…、無理をなさって!!
 事実はたまたま挟んだレタスに、塩か何かの塊が付いていただけだ。
 シンジ様、お優しいですぅ…
 今度はうるうる目でシンジを見やる。
「あきないわねぇ、この子見てると…」
 何故か赤くなったミズホを楽しむ。
「さ、こっちはと…」
 今度はレイを確認するミサト。
「……からい」
 カツサンドに大量のマスタードが入っていたらしい。
 くっ、これってばミズホの陰謀!?
 被害妄想が暴走している。
 ミズホってば、シンちゃんには自分で選んで渡してるし…
 これじゃどれが食べられるのか判らないじゃないっと、判断に迷った。
 もちろん、レイがマスタードサンドを手にしてしまったのは偶然である。
「あれ?、レイ、もういいの?」
「う、うん、まだ一匹も釣れてないし、ちょっと頑張ろうかなぁって…」
「そっか、そう言えば僕もだよ、じゃあ一緒に釣ろうか?」
「うん!」
 レイは晴れやかに笑顔を浮かべた。






 …よかった、機嫌直ったみたいだ。
 横目でレイのご機嫌をうかがうシンジ。
「え?、何か言った?、シンちゃん」
「あ、ううん」
 慌てて首を振る。
 今朝から沈んでたみたいだったし、ここに来るのも無理にはしゃいでるって感じだったから…、でも。
 かりかりとリールを巻く。
 もしかしてアスカとミズホのせいで、二人きりじゃなくなったからかな?、はは、そんなわけないか…
 そんなわけあるのだが、シンジは適当に考えた。
 まあきっと、朝ので食べ過ぎてたんだよね?、今もあんまり食べなかったし…
 相手がレイだけに、それだけは絶対に無い話であった。


「シンジ様ぁ、ボートが来ますぅ」
 一通り食事の後を片付けたミズホが、河を指差してはしゃいだ。
「ほんとだ、観光の人かな?」
「アスカさんですぅ」
「ええ!?」
 良く見るとボートの上で、上半身にビキニのブラ、下半身はショートパンツのアスカが手を振っていた。
「シーンジー!」
 隣には加持がいる、操船しているのは現地のガイドだ。
「アスカ!、どうしたの買い物は?」
「ばかねぇ!、あんたが居ないんじゃつまんないじゃない」
 ドキッ!っと、いまさらながらに赤くなるシンジ。
 逆にレイはぷうっと膨れた。
「で、釣れてるの?」
「全然…」
「へっぽこねぇ、ちょっとそこで待ってなさいよ?、適当な所で下ろしてもらってくるから!」
 最後にニヤリとレイを見る。
 ムッとするレイ。
「釣りったってシンジと何回も行ってるんだから!、あんたなんかに負けないわよ!」
 ボートが流れに乗って離れていく。
「むー!、あたしだってやれるんだからぁ!」
 ビュンッと、レイは竿でアスカを指した。
「あ、レイ!」
 ルアーが一直線にアスカに向かって飛んでいく。
 ボートに座ろうと油断していたアスカのブラの紐に引っ掛かって…
「え?、あ、きゃー!」
 くいっと引っ張られてバランスを崩すアスカ。
「ちょ、ちょっと何すんのよ!」
「ごっめーん!」
 てへっとレイ。
 シャリシャリとリールを巻く。
「ばかぁ!?」
 アスカはそのまま、どぼんと落ちた。






「う〜、なんてことすんのよ、あんたわ!」
 ぼたぼたと髪から滴を落とすアスカ。
 ブラを取られたので胸を両腕で隠している。
 結局泳いではいあがっていた。
「なんて言うかぁ?、60キロ級ゲットって感じぃ?」
「そんなにあるかぁ!」
 ぱしっと、レイが差し出したブラを奪い取る。
「シンジ!、こっちを見るんじゃないわよ!!」
「見ないよ、そんなの…」
「なんですってぇ!?」
 どうしろって言うんだよ…
 苦悩する。
「くぅ〜、魚一匹つれないくせに、どうしてこういらないことだけうまいのよ」
「あ、そう言うこと言う?、良かったじゃない、お魚さんと一杯戯れちゃってさ」
 二人の間にバチバチと火花が散った。
「アスカってばすっかりお魚臭くなっちゃって」
「あんたこそ、どかた焼けが目に痛いわ?」
 え!?っと腕を見るレイ。
 シャツの袖から出ている腕だけが、強い陽射しに赤くなってしまっていた。
「こりゃさぞかし立派なパンダになることでしょうねぇ?、名前、「レイレイ」とか、それらしいのに変えたら?」
「アスカこそ頭に藻なんて付けちゃってさ、あ、ごっめーん、それってもしかして髪の毛だったぁ?」
 アスカの後頭部に青筋が浮く。
「何よやる気!」
「そっちこそ!?」
 あうあうと慌てるシンジ。
 ミズホに助けを求める…、が。
「もうちょっとでコツがつかめそうですぅ」
 びゅんびゅんと竿を振っている。
「ミサトさぁん」
 情けない声を出す。
 苦笑するミサト。
「はいはい二人とも、シンジ君が困ってるじゃない」
「何よシンジ!、あんたこの女の味方するつもり!?」
「シンちゃんはあたしと旅行に来たの!、お邪魔虫はアスカなんだからね!」
「ようやく本音を聞いたわよ!」
「こんな所まで追いかけて来るなんて!」
「はいはいはい!、じゃあこうすれば?」
 ミサトは無理矢理仲裁に入った。
「今日は釣りをしに来てるんだから、一番大きい魚を釣った人の勝ち、どう?」
 間違い、あおりに入った。
 激しくにらみ合う二人。
「いいわね?」
「やったろうじゃない!」
「ハンデ、欲しい?」
「あんたにこそくれてやるわよ!」
「「じゃあ、デートをかけて勝負よ!」」
 誰とのだよ…
 どう転んでも自分が不幸になる気がするシンジであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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