「シンちゃんったら…」
 体にタオルを巻き、両膝を揃えて座っているマナ。
「あたしそんなに魅力的だったかなぁ?」
 自分の胸元を見やる。
 その下には、「う〜ん」っとうなり声を上げているシンジの顔。
 膝枕をしたままで、ぽわんと頬に手を当てる。
「みんなで慣れてるんじゃなかったのかなぁ?、でも慣れてるならそれはそれで、と・く・べ・つ、だから興奮しちゃったのかなぁ?」
 きゃうんと身をよじる。
 弾みにシンジの頭がゴチンと落ちた。
 タイルの上にもろだ、頭が割れたのか血溜まりが広がっていく。
「ふふふ…、ここでもしあの子達が来れば…」
 あんたなにやってんのよー!っとアスカは激怒し…
 シンジ様ぁ…と、ミズホは涙目。
 不潔なシンちゃんなんてぇ!、…ってなもんよ!
 一人で妄想を爆発させる。
「勝った、勝ったわ、これでシンちゃんはあたしのもの!」
 ふふーんっだ!っと、高笑いを上げてしまう。
 ドクドクドク…
 その足元で、シンジは後頭部から血を流し続けていた。






「シンジは!」
「あ、アスカさぁん…」
 非常階段を息切れしたミズホが続く。
「トロイわよ、なにやってんの!」
「ですけどもぉ…」
 はあはあと、言いたいことが言えないらしい。
「言いたいことがあったら、はっきりと言う!」
「…三階に浴場なんてありましたっけぇ?」
「え?、あ!」
 走りながら振り返ろうとしたために足がもつれてしまった。
「きゃあああ!」
 ゴガン、ゴゲン!っと、転がり落ちるアスカ。
「…大丈夫ですかぁ?」
 心配げにおろおろと覗き込む。
「あんたがよけいなこと言うから!」
「…凄いからまり方ですぅ」
 どう見ても関節がおかしくなっているようにしか見えない。
「いいから!、思い出しなさい、浴場はどこ!」
「多分、最上階のラウンジの下ではなかったかと…」
「…そう言うことは、早く言いなさいよね、早く!」
 声がぶるぶると震えている。
 非常灯の表示階は、ちょうど三階を示していた。






「まあ、座りなよ」
 ベッドが無くなってしまったので、浩一は椅子を前後反対に腰掛けた。
 レイ、いや、綾波はじっと浩一を見ている。
「…君はよほどの時にならないと出て来てくれないみたいだからね?」
 レイの表情に変化は無い。
「マナには…、好きに遊んでてもらうよ」
 何故?
 声に出さずとも、赤い瞳がそう問いかけている。
「楽しんでるんだよ、あれでも」
 微笑ましい笑みを広げる。
「君達には迷惑かもしれないけれど…」
「ええ…」
 にべもない返事に苦笑する。
「ねえ?、学校にも行けず、友達と言えるほど遊びもしないで、ただ人の中に埋もれている感じってどうだった?」
「なにを…、言うの?」
 半分は分かっていた。
「君のことは大体調べたよ、でもね?、マナも同じ、ずっと「そうあること」を義務づけられてきたんだ」
 シンジの側で、無邪気に笑っているマナの姿が思い浮かぶ。
「いま彼女はようやく、ありのままにはしゃぐことを覚え始めてるんだ」
「そのための碇君?」
 頷く。
「好き…、なんだと思う、出会いは偶然、引き合わせられたのは必然、きっとシンジ君は怒るだろうね?、そしてそれからマナの境遇に同情するんだ…」
 顔をふせる綾波。
 わたしと同じ?
 そうなれば、きっとシンジはレイと同様にマナを扱うだろう。
「でもマナはそんなことはしない」
 顔を上げる綾波。
「嫌われることが恐いんじゃない、強いんだよ、彼女は」
 うらやましいの?
 心の中の声に頷く。
「そんなものに関係無く、シンジ君が気に入ってしまったから…」
 あのジオフロントのコンサートホール。
 レイの元へ駆けつけたシンジ。
 羨ましげな視線。
「自分のことを何も知らないシンジ君だからこそ、マナは振り向いてもらいたいのさ…」
「良く分かっているのね…」
「付き合いが長いからね?」
「あなたは…」
 ん?
 途切れた言葉に首を傾げる。
「あなたは、どうなの?」
 その答えは綾波自身に向けられる。
 それがわかってしまうだけに、綾波には訊ねづらかった。






「な、な、な…」
 声が上擦る。
「なによこれぇ!?」
 やけに簡略化された眉と目と口。
 それが描かれた壷、カーペット、花瓶、トレー、台車、扉、床、天井、壁。
「まるで生きてるみたいですぅ、ふわ!」
 慌ててしゃがみこむ、その上を花瓶が通過していった。
「どうなってんのよ!、まさかこれもあの女が!?」
 実はロデムの仕業である。
 ロデムを構成する6つの因子の一つにより、壷は超電磁浮遊していた。
「うわっきゃ!」
 いきなりシュルシュルと巻き取られたカーペットにひっくり返る。
「ま、負けるもんですか…」
 這いつくばったままのアスカ。
「タフですねぇ…」
 ミズホは非常口の影から見守った。






「君は、辛い思いはしてないかい?」
 びくっと綾波。
「レイさんが幸せな間、君は表に顔を出すことは少ない…、誰とも話さない事の方が多い、そんなことは無いのかい?」
 答えられない。
「必要が無いのかもしれない…、そう思ったことは?」
 黙って…
 パシッと、浩一がもたれている背もたれが「はぜた」
「特別な力があるから強くいられるわけじゃない、現にシンジ君は、そんな力が無くても君を助けたことがある」
 やめて。
 バシッ!
 浩一は寂しい目をして立ちあがった。
 カタン…
 椅子の足が折れ、倒れる。
「特別な力がいらないのなら…、君が必要でないのなら、君はどこへ帰ればいい?」
 パキン!
 窓ガラスにヒビが入った。
「…君も、居場所を見付ける時が来たんじゃないのかい?」
 シンジ君が見ているのは「レイ」だ。
「君じゃない」
 辛いと思うのなら…
「離れたほうがいいんじゃないのかい?」
 ぽろっと、綾波の瞳から涙がこぼれた。
「綾波…さん?」
 だけど…
 声が聞こえた。
 それでも、わたしは…
 心の声だ。
「わたしは、いたいもの」
 この居心地のいい場所に…
 綾波の側に歩み寄る。
「だけど、君は…」
 その瞳を覗き込む。
「辛い想いをしてるじゃないか…」
 綾波の頬に、浩一の手が添えられた。






「ついに…、たどり着いたわよ…」
 肩で息をしているアスカ。
「ふええ…」
 その道程を振り返り、ミズホは感心しきっていた。
「よくここまで破壊活動を…」
「うっさい!」
 ごちんっと度突く。
「いったいですぅ!」
 涙目でえぐえぐとミズホ。
 廊下は無残にも壁がへこみ、あるいはめくれ、床は陥没、もしくは抜け、天井にも不可思議な「足跡」がついていた。
「それより、踏み込むわよ?」
 アスカの確認に頷くミズホ。
 浴場はどうやら、スポーツクラブとセットになっているらしかった。
「普通シャワー室とかさぁ…」
「まあ、日系のホテルですからぁ…」
 適当言ってごましておく。
「んじゃいくわよ?」
「はいですぅ」
こらぁ!、バカシンジィ!!
「って、うっきゃー!、シンジ様ぁ!?」
 来た!
 マナは会心の笑みを浮かべて振り返った。
「遅かったわね、シンジ君とあたしはこの通り…」
「シンジ様、大丈夫ですかぁ!?」
 どんっとマナを突き飛ばすミズホ。
「ちょ、ちょっとなによその反応は!?」
 シンジに駆け寄ったミズホに驚く。
 見ればアスカもふるふると震えていた。
 口元を手で覆い隠し、顔が青ざめている。
「知らなかったわ…、あんたがそこまで思い詰めてたなんて」
「え?」
 振り返る。
「シンジ様、シンジ様?、シンジ様ぁ!」
 気を失っているシンジをかっくんかっくんと揺さぶるミズホ。
「あ…」
 シンジの頭は、派手に真っ赤に染まっていた…







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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