NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q':3B





「それじゃミズホ、また明日ね〜」
「はいですぅ」
 たいていのものは近くの商店街で買えばすむ、とはいえ女の子同士でないとし辛い買い物だってあるわけで…
 ミズホは戦利品の入った紙袋を抱えなおすと、家へと帰路へついた。
「シンジ様がわたしの気持ちに気づいてくださってる分、ヒカリさんよりはマシなのかもしれませんねぇ」
 そんな風に考えてみるミズホだった。






「あー、雨あがっちゃったねぇ」
「おかげで持ちやすくなったよ…」
 空気はずいぶんと冷えているのに、シンジは汗だくになっていた。
 夕方の商店街、人ごみのせいもある。
「ごめんねぇ、でも配達頼むと高いんだもん」
 シンジが持たされているのは、油絵なんかを描く時に使うボードだった、紙は張られてない。
「こんなに大きい絵、描くの?」
 縦向けに置けば、シンジの胸のあたりまであった。
「卒業課題なの、クラブの、でも間に合いそうにないから家で描いちゃおうって、そういうわけ」
「ふーん、大変なんだ」
 クラブに入ってないシンジには、今ひとつ理解できない。
「でも…、みんなこんな時だけ頼るんだもんなぁ」
「こんな場合だからでしょ」
 …っと、こずえはシンジの鞄を振りまわしてシンジの背を叩いた。
 鞄を人質に取られているシンジは、大人しく言うことを聞くしかない。
「碇クンってさ、使いやすいのよね〜、だって大人しそうだし」
 がーんっとシンジ。
「そ、そんな風に見えるの」
「思いっきり♪」
 そうか、そうだったのかと、いまさらながらに自覚する。
「優しそうだしさ、知ってた?、碇クンのファンだって子、結構いるんだよ?」
 それはシンジに大きな驚きをもたらした。
「うそ!?」
「ほ・ん・と、あたしもその内の一人でーっす」
 シンジは焦ってどもりはじめた。
「だ、だめだよ、僕好きな子いるし、えーと、えーと」
「ぷっくく…」
 マジになってるシンジがおかしい。
「自信過剰ー、冗談よ、ジョーダン」
「あー、もー、またからかったのー!?」
 膨れるシンジ。
「騙されやすいんだ〜」
 成長してないともいう。
「ま、これでも飲んで休憩してよ、機嫌直してさ」
 いつ買ったのか、こずえは鞄の中からUCCの缶コーヒーをちらっと見せた。
「あっちで飲もう?」
 こずえはまたも腕を絡めてシンジを引っ張った。
「シンジさまっ!?」
 人ごみを貫いて届く澄んだ声。
「み、ミズホ?」
 ミズホは驚きに目を見開いて、口を手で覆い隠し、体をうち震わせていた。
「あ…、まずかった…かな?」
 こずえの独り言、ようやくシンジは腕を組んでいる状態を客観的に見ることができた。
「あ、ち、違うよミズホ、あの」
 凄い形相でミズホが近づいてくる、心臓が破れてしまいそうな程、勢いよく跳ねまわった。
 殺される!、シンジは覚悟を完了した。
 ミズホはそんなシンジを無視して、ぐいっと腕を引っ張り抱きついた。
「シンジ様は私の旦那様になる方ですぅ!」
 真剣なまなざしで、こずえに訴える。
 シンジは恥ずかしさで心臓が破裂するかと思った。
 ざわざわざわっと、周囲がざわめく。
「えっと…、あの…」
 リアクションに困るこずえ。
「私のシンジ様に手を出さないでください!」
 カーーーーーっと、ミズホは自分のしたことに驚き、恥ずかしくなりながらも、言い切った。
 シンジはすでに真っ赤だ、恥ずかしさの余りおつむが沸騰していた。
 観客の視線が自然とシンジに集中する、この状態にどういうコメントを吐くのか?
「逃げましょう!」
 こずえの声、1も2もなく、シンジはあれ程苦労していたボードを軽々と抱えあげ、ミズホの手を引いて走り出した。






 シンジは無我夢中で走った。
「い、碇クン止まって!」
 こずえの声に我に帰ったシンジは、ようやく足をとめた。
 商店街を出て、もうマンションが立ち並ぶ手前まで来ていた。
「び、びっくりしたぁ…」
 シンジはぜぇぜぇと呼吸を整えると、こずえがくれた缶コーヒーを一気に飲んだ。
「あ、あの…、あっ、あなたは、その、シンジ様とどういう御関係なんですか…って、あれ?、こずえさん?」
 どうもミズホは相手の顔まで見ていなかったらしい。
 自分の元クラスメートだと知って、勢いが落ちる。
「そ、もう信濃さんってば、突然凄いこと叫ぶんだもん、びっくりしちゃった」
 うつむくが、すぐに顔を上げるミズホ。
「だ、だって、あれはこずえさんが!」
「すとーっぷ、もう、勘違いしてるってば、心配するようなことないって、第一あたし、彼氏いるし」
 ウィンクしてみせる、呆然とするミズホ。
「じゃ、あの…」
「第一あたしには、とてもあーゆーセリフは言えないしぃ」
 ミズホは恥ずかしさでもう何もいえなかった。
「信濃さんが心配するようなことはないってば、それじゃあたし、もう帰るね」
「あ、ボード…」
「ここからならもうすぐだから大丈夫、持って帰れる、じゃねー」
 すごくあっさりとこずえは行ってしまった。
「末永くお幸せに〜」
 と、遠くから聞こえた。
「あ、あれ、わたしってなんなんでしょう、もしかして……」
 ひとりズモウ?、と悩んでしまうミズホ。
「勘違いだって言おうとしたのに…」
 そのセリフは薮をつついただけだった。
「だ、だって、シンジ様だって悪いんですぅ、仲良く腕なんか…」
「あ、あれは天野さんが急に…」
「酷いですぅ、頑張って…、頑張ってお弁当作って喜んでもらったのに、そのすぐ後に別の女の人とあんなこと…、酷いですぅ」
 しくしくと泣きはじめるミズホ。
「泣くほどのことじゃ…」
「酷いですぅ〜〜〜」
 こ、これは勝てない…、シンジは困り果てて起死回生の何かを求めた。
 これだ!、天啓を受けるシンジ。
「ミズホ、こっち来て!」
 シンジはミズホを引っ張ってまた走った。
「し、シンジ様!?」
 その強引さに驚くミズホ、シンジはどんどんと人気のないほうへ進む。
 い、いや、でも、そんな、え?、うそ、まさか、シンジ様…
 最後にはハートマークが付いていたかもしれないが、ミズホの想像とは大分食い違っていた。
「ほら、ミズホ!」
 マンションの裏手に回ると、そこからは家並みが一望できた、マンションがあるのは高台なのだ。
 夕日、オレンジ色に染まる空。
「ふわ〜〜〜、凄いですぅ」
 ミズホはもう泣きやんでいた。
 マンション裏手にある公園、子供が登れる程度の石垣の上だ、公園から子供が落ちないよう、フェンスが張られている。
 そのフェンスごしにでも、夕日は十分に楽しめた。
 景色の綺麗さに圧倒されている、雨上がりだからだろうか?とても澄んだ色をしていた。。
 よかった…
 シンジは危機を脱したと感じた。
「シンジ様?」
「なに?」
「どうして腕なんておくみになられたんですか?」
 現実はそう甘くなかった、うろたえるシンジ。
「天野さんが強引に…、ほんとに何でもないんだ、傘にいれてもらったお礼に、ボード運び手伝ってただけで…」
 ミズホは上目使いに、じっとシンジを見た。
「…わかりました、信じます」
 ミズホはいつもの強引さをださないで、わりとあっさり引いた。
 シンジはその素直さに違和感を感じた。
「ミズホ…、どうしたの?」
「なんでもありません…」
 夕日を眺めなおす、でもシンジは追求をやめなかった。
「変だよ、やっぱり、洞木さんとなにかあったの?」
 ミズホは答えない。
「言いたくないなら…いいけど」
 うちあけてくれないのかと、ミズホに寂しさを感じるシンジ。
「…ヒカリさんと話してたんです」
 そんなシンジの気持ちを察したのか、ミズホはぽつりぽつりと話しだした。
 シンジはフェンスにもたれかかった。
 がしゃりと音をたてる。
「シンジ様は、進学、どうなさるんですか?」
「たぶん第3高校に行くとおもうよ、家から近いし」
「ヒカリさんが…、鈴原君と、同じ学校に行こうって、頑張ってるんです…」
「うん…、でもトウジはまだ進路決めてないけどね」
「私…、怖いんです」
 足元を見るミズホ、表情がよくみえない。
「もし、シンジ様と同じ学校に行けなかったらって、ばらばらになってしまったら、どうしようって」
「そっか…、そうだね、それはやだなぁ…」
 ずっと一緒というのが自然だと思ってた、そんなふしが自分にもあったことを、シンジは至極あっさりと認めた。
「でもそれ程深刻になること無いよ、だって家は隣なんだしさ」
「でもでも、もし遠くの学校に行くことになったら、寮とか、一人暮らしすることになったら?」
「そ、そんな話があるの!?」
「もしもですぅ」
 シンジは胸をなで下ろした。
「シンジ様の側にいたいんです、怖いんですぅ」
 ミズホはシンジの両肩に手を置くと、額を胸に押しあてた。
 髪の香りが、シンジの鼻をくすぐる。
「大丈夫だって!、だって、ミズホが落ちるようなところに、いつも赤点ぎりぎりの僕が入れるわけないじゃないか!」
「……」
「逆だよ逆、僕がみんなと一緒に学校に行けるよう、頑張らなきゃいけないんだから」
「そ、そうですね」
「あ、ひどいなぁ」
 顔を上げるミズホ、満足のいく答えを与えてあげられなかったのが一目でわかった、まだ表情に陰りが残っている。
「シンジ様…、約束してください、きっと、ずっと側にいてくださるって…」
「……やだなぁ、ミズホと会ってからずっと、一緒にいたじゃないか、これからだってそうだよ」
 シンジは答えに迷って、視線を合わせなかった。
「シンジ様…」
 ミズホの意味ありげな声音に、シンジは視線を戻した。
 ミズホの目が閉じられている、心持ち上向きな顎。
 こ、この状態は!
 シンジはたりたりたりっと、汗が流れ落ちるのを感じた。
 不安げなミズホと、二人を包む夕日、状況がシンジの行動を制限していく、シュチュエーションはばっちりだ!
「するなら早くしろ」
 突然誰かの囁きが聞こえて来た。
 頭の上に、赤い眼鏡の悪魔がいた。
 その隣に天使。
「できればおしたおせ」
 ニヤリ。
 理性は何処だ〜!っと、シンジは叫びそうになった。
 唐突に、ファーストキスの夜を思い出す、あの時レイに対してのシンジの行動をアスカは叱った。
 ならもし今なにもしなかったら、ヤッパリ怒るんだろうか?
 だが複雑な人間関係から培った学習能力が、危険信号を発していた。
 もしここで手を出せば、今まで「シンジ様ー」っとべたべたされていたのが、手を出した後では「シンジ様ー」っと、って、あれ?
 …変らない?
 ゲンドウ天使と悪魔が同時に親指を立ててつきだした、「ぐっ!」
 んじゃまいっかーっと、シンジが意を決する。
 ここまでわずか0.5秒、音速に匹敵する早さで心を決めたシンジは、アスカやレイ、カヲルの追求が、至難を極めるであろう事を楽観視した。
 やらないで後悔するより、やって後悔した方が何万倍も良い!…と思う。
 まだ少し後ろ向きなシンジ。
「ミズホ…」
 シンジの声に、ミズホは身を硬くした。
「シンジ様…」
 ミズホはゆっくりと目を開けると…
「ねこですぅーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
 …ミズホのベアハッグは一級品だった。
 茶に黒の縞模様の仔猫が「うにゃん」とひっくり返って、愛嬌を振りまいていた。
「ぐ、ぐえええええ…、ミズホ、ロープ…」
 金網をつかんで、がしゃがしゃとゆらすシンジ。
 ミズホには聞こえない。
 だが救いの女神は、シンジを見捨てはしなかった。
 公園下の道路を、青いスポーツカーがドリフトを決めて停車した。
「こらーーー!、不順異性交遊は禁止ーーーーーーーー!」
 ミサトの声が、お経のように聞こえるシンジであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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