NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q':3C





「はう〜〜〜ん、猫しゃん、こっちこないでくださぁい!」
 がたがたと椅子の上でミズホ、背もたれにしがみついているが、今にも倒れそうだ。
「はいはい、ほうぉら、おねぇちゃんが怖がるから、あっちいってましょうねぇ」
 ミサトは猫を抱き上げると、隣の部屋に放り込んで、扉を閉めた。
 二人と一匹は、あの後ミサトに拾われてアパートまで遊びに来ていた。
 暫くはかりかりと戸を掻く音がしていたが、それもすぐに消えた。
「はう〜、たすかりましたぁ」
 ほっとしてミズホは、ようやくシンジを探す余裕を得た。
 シンジはミズホ、ミサトと同じく、キッチンにいた、だが一人だけ椅子には座らず、ごみ袋を片手にうろうろしていた。
「センセー、床がべとべとしてますよぉ、掃除してます?」
「うっさいわねぇ」
 生徒の手前、酒が飲めないミサトはお茶を一気に飲み干した。
 もちろんそれを入れたのもシンジだ。
「シンちゃん立派な主夫になれるわよぉ、愛想つかされたら先生が貰ったげるから安心しなさい♪」
「先生!?」
 ミズホがうきーーっと乗りだした。
「冗談よぉ、もうやぁねぇ、中学生に手を出すほど飢えてないわよぉ」
 ぱたぱたと手を振って落ち着かせる。
「しっかし最近の中学生はませてるわねぇ」
「そ、そんなんじゃないですよ!」
「なぁにが、女の子三人に取りあいされて、そんなこといってんじゃないわよ」
 ミサトは椅子に座るシンジの額をつついた。
「僕はただ…、ああいうのが苦手だから」
「シンジ様?」
 ミズホは始めてシンジがどう思ってくれていたのか聞いたような気がした。
「まるっきり嫌ってわけじゃないんです、でもどう受け答えしていいのかわからないし…」
「まあねぇ〜、中3で恋愛慣れしてたら恐いもんねぇ」
 ミズホは瞳をうるませてシンジに迫った。
「私たち、御迷惑でしたかぁ!?」
「そ、そうじゃないんだ」
 冷や汗を流すシンジ。
「トウジたちと遊んでるのは楽しいんだけど、…あ、ミズホたちと遊んでるのがつまらないってわけじゃないんだ、でも誰と誰がどうだとかって気にしなくちゃいけなかったり…、うまく言えないけど、ぼくはただみんなと一緒に楽しくやりたいだけなのに…」
「ふ〜ん、シンジ君はシンジ君なりに悩んでるのねぇ」
 教師の顔つきになるミサト。
「まだ友達とわいわいやってる方が楽しい年頃だもんねぇ」
「やっぱり御迷惑だったんですねぇ」
 うるうるとミズホ。
「そうじゃないのよ、信濃さんは男の子としてシンジ君を見てつきあってるけど、シンジ君は男の子と女の子とで遊びに区別をつけられるほど、大人じゃないのよ」
「そうなんですかぁ」
「でなかったら、一緒に住んでる綾波さんなんて、とっくにシンちゃんの毒牙にかかってるわよん♪」
「し、シンジ様!」
「そんなこと考えたことも無いよ!、からかわないでくださいよ、もう!」
 膨れるシンジ。
「あれー?おこったぁ、ごめんねぇ」
 お茶のおかわりを要求するミサト。
「慣れないんです、嬉しいとか喜ばれたり、なんだか怒ってたり、何が良かったのか、何が悪かったのか、よくわからなくて…」
「そうやって人の顔色ばかり伺ってると、疲れるわよ?」
「わかってますけど…」
「これから分かるのよ」
 ずずずっと茶をすする。
「いいんです、人に気をつかわせるよりは、ずっと良い」
 うなだれるシンジ。
「でもまぁ、贅沢な悩みよねぇ」
「先生ぃ、シンジ様は真剣なんですぅ」
「そうかもしれないけどね」
 あははっとミサト。
「第一中学校の中でもトップクラスの女の子3人に言い寄られて、しかも独占状態なのよ?、これが贅沢な悩みじゃなかったらなんなのよ?」
 記憶を掘り起こすシンジ。
「加持さんにも似たようなこといわれたなぁ」
「加持にぃ!?」
 大仰に反応する。
「はい、その時は「どうだうらやましいだろう」って、胸をはっとけって言われました」
「あいつらしいわねー」
「そんな話知りませんでしたぁ」
 裏でシンジも色々悩んでいたのだと、ミズホは認識を改めた。
「周りを気にするのはやめたんだけどね…、アスカは正真正銘の幼馴染だし、レイやカヲル君、ミズホだって昔から知ってるみたいで…、みんな好きだよ、好きなんだとおもう、でもどう応えればいいのかわからないんだ…」
「そっかぁ、みんな好きだから、一番をつけられないのね」
「そうかな、そうなのかもしれません…」
「幼馴染の延長なのね」
「シンジ様?、私はそれでも良いと思いますぅ」
「ミズホ?」
 ミズホはシンジを見てはいなかった、じっと手の中にある湯呑みを見ている。
「良いじゃないですか、シンジ様はみんなにお優しいままのシンジ様のままでいいと思います、だって、それ以上望んだらきりがないと思いますから…」
「信濃さん…、だからって、進路調査のアンケートに「シンジ様がいかれる学校」なんて書いちゃ駄目よ、ちゃんと再提出すること、いいわね?」
「ええっ!?、ミズホそんなこと書いたの?」
「だって…やっぱりシンジ様と一緒にいたいんですぅ…」
 すねる。
「最近そればっかりだね?」
「初恋は大事にしたいものなのよ、わかる、シンジ君?」
 いじめられてばかりのシンジではない。
「ミサト先生はどうだったんですか?、初恋って、中学の頃にはなされてたんですか?」
「ええっ!?、あ、あたし?」
 大きくうろたえるミサト。
「ミサト先生が好きになった人は、ちゃんとミサト先生の気持ちとか考えてくれたんですか?」
 シンジにそう聞かれては答えないわけにはいかない、しかし…
「ん〜、そんな場合じゃなかったのよねぇ…」
「え?」
 できるだけ明るめに答える。
「ジャイアントシェイクがあったから」
 頭をぽりぽりと掻く。
「あ…」
「ごめんなさい…」
「ううん、いいのよ、それでねシンジ君、その悩みはそうそう答えはでないわよ?」
 え?っとシンジ。
「大人になるほどわからなくなっていくって言う方が正しいかな、好きと愛してるの違いとかね?、だんだん素直になれなくなったり、何かから逃げるために人を好きになったりしてね、悩みはどんどん増えていくわ」
 シンジは憂いを帯びるミサトの横顔に、大人の女性なんだと感じた。
「ま、シンジ君も一人前に大人の悩みを覚えたってことよ、よかったじゃない、これで鈴原君達にバカにされないですむわよー♪」
「な、なんでそこでトウジたちが出てくるんですか!」
「あらー、だってあの子達はそういうのに聡いもの」
「じゃあシンジ様だけがお子様だったんですねぇ」
 悪気はない、悪気はないが…
 ちょっとショックを受けるシンジだった。






「うおっそーーーーーーーーーーーい!」
 アスカの怒りはシンジの枕にぶつけられた。
 ベッドの上でのジャーマンスープレックスが失敗し、アスカは枕ごとカーペットへ転がり落ちた。
「いったーーーーっ、もうっ、これもバカシンジが悪いのよ!」
 枕を壁に投げ付ける。
 怒りの激しさにレイは口が挟めない。
 ミサトからの電話で居場所は分かっていたものの、やはり昼間のミズホから嫌な想像が広がっていた。
 触らぬ魔神にたたり無し、レイはシンジのCDコレクションを物色して時間を潰していた。
「あれ?」
 アスカがベッドの下に何かを見つけた。
「なになに?」
「雑誌みたい…」
 アスカとレイは顔を突き合わせて、アイコンタクトで「確認の要ありと認む」とうなずきあった。
「でも…、やっぱり男の子がベッドの下に隠してる本っていったらあれよねぇ?」
「まさか…、シンちゃん、いってくれればあたしが見せてあげるのにぃ」
 きゃあきゃあとなにやら妄想している。
「はいはい」
 実際に言うわけはないので相手にしない。
「もし予想通りなら…、シンジが買ったものなのかしら?」
「そんなわけないよー、きっと鈴原君か相田君から借りたんじゃない?」
「借りたって…、何のために」
「えっと…」
 二人は一度に赤くなった。
「「エッチバカ痴漢変態、何考えてんのよ〜!」」
 指をさしあう二人であった。






「お子様はないよぉ」
「ごめんなさいですぅ」
「まぁまぁ」
 軽くなだめる。
「まあキスもしたこと無いんじゃ、お子様っていわれてもねぇ」
「キスぐらいしたこと有ります!」
 言ってからしまった!と口を押さえるシンジ。
「えー!、シンジ君経験あるんだ、やるわねー」
 あたしだってその歳ではまだだったわよ、っとミサト。
「え、じゃあミサト先生って始めてはいつだったんですか?」
「あ、あたしぃ!?」
 逆襲される。
「私も聞きたいですぅ」
 ミズホがにじり寄る。
「やっぱりはじめての時って、緊張しましたぁ?」
「どんな気持ちだったんですかぁ?」
「どんな感じでしたぁ?」
「どんな人だったんですかぁ?」
「「先生ぃ〜」」
「あーーーー、もう、中学生が不健全な質問すんじゃないのぉっ!」
 ミサトはぶちきれた。
 シンジとミズホを外へ放り出す。
「命令!コンビニまで走って晩ご飯買ってくること、帰りも走るのよ!」
「えー?」
「なにも考えず走れー!」
 どこから持ち出したのか、竹刀を振りまわしはじめたので、シンジとミズホは逃げるように駆け出した。


 トゥルルルル、トゥルルルル…、かちゃ。
「はい?」
「リツコ〜…」
 電話の向こうで情けない声。
「ミサト?どうしたのよ」
 かちゃかちゃかちゃっと、キーを叩く手は休めない。
「シンジ君達がいじめるぅ〜」
「なあに?今になって教生いじめにでもあったっての?」
 にゃ〜ん。
 リツコの眼鏡がきらんと光った。
「猫がいるの?」
「ああ、うん、ちょっちね、仔猫、拾ったの」
「飼うの?」
「うち飼えないしぃ」
「そう…」
 リツコはどんな仔猫か気になって、キーを打つ手が止まっていた。


「あ〜あ、ちょっとふざけすぎちゃったね」
「先生、耳まで真っ赤でしたぁ」
 くすくすとミズホ。
「でもびっくりしたな、ミズホってああいう風に考えてたんだ」
「シンジ様にもびっくりしましたぁ」
「そお?」
「だって、アスカさんやレイさんとずっと仲良くなさってましたから、もっと色んなことなさってるのかと…」
「色んなことってなんだよぉ」
「えっと…、その…手を繋いで帰られたりとか」
 がくーっと、シンジは力が抜けた。
「いや、まあ確かにしたことあるけど」
「ああ、やっぱりぃ、ずるいですぅ」
 ミズホはいきなりシンジの手を取った。
「み、ミズホ?」
 語尾が上擦る。
「ズルいのはダメですぅ」
 シンジは諦めて、そのままコンビニに行くことにした。
「きっと恋人同士に見えますよねぇ」
 もっと幼い関係に見えるんじゃないかな…とは、さすがのシンジも言わなかった。
 コンビニでの買い物、出来合いのものを中心にレトルトで攻める、ミサトの部屋に米がないことは確認していたので、シンジはパックのご飯を大量に買いこんだ。
 かなり重い…が、シンジは頑張った。
「私も持ちますぅ」
「いいよ、女の子に持たせるわけにはいかないよ」
「し、シンジ様、優しい…」
「あ、そうじゃなくて、重いから…」
「シンジ様おくゆかしいですぅ」
「いやあのね…」
 ホントに他意のないシンジ。
「それより、ミズホ進学は僕と同じ学校にするの?」
「はい♪」
「どうしてそんなにこだわるの?、嬉しいけど…、僕にはよくわからないよ」
「それは…」
「冷たい!」
 ミズホが真剣なまなざしを向けた瞬間、シンジは首筋に水滴を感じた。
 空を見る、どんよりと曇った空から、雨が降りはじめていた」
「シンジ様、あそこで雨宿りしていきましょう!」
 雨はどんどんきつくなって来た。
 ミズホがさし示した電話ボックスに駆け込む。
 次の瞬間、雨はその勢いを増して、数メートル先も見えないほどの土砂降りとなってしまった。
「通り雨みたいですぅ、15分もすればやみそうですね」
「そうだね……」
 上の空で答えるシンジ。
 電話ボックスは狭かった…、密着するミズホの身体に、シンジは「気にしちゃだめだ、気にしちゃだめだ、気にしちゃだめだ」と、呪文のように呟くのだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。



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