NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q':4C





「ふ、二人とも、病院なんだから、ね?」
 やたらとはしゃいでいる薫とハルカに辟易するシンジ。
「カヲル君って呼んでいいって言ってもらえたの!」
 昨日までの何かを憂いている薫はいなかった、シンジはたったそれだけのことで女の子は変わるのだと驚いている。
「なにをはしゃいどんのや」
 ノックも無しにドアを開けたトウジは、妹が他人のベッドで遊んでいるのを見て、眉をしかめた。
「ハルカ!、寝てなあかんやろ」
「は〜い」
 ぶすっくれて、自分のベッドに戻る。
「すんません、なんや迷惑かけてしもて」
「い、いいえ!」
 必要以上に緊張してどもる。
 トウジと一緒にカヲルが入って来たからだ。
「そ、そないに大きな声ださんでも」
「あ、ご、ごめんなさい」
 今度はしゅんとなる。
「ああ、いや怒ったわけやあらへんのや、だから」
 逆にトウジがしどろもどろになった。
「おねぇちゃんいじめちゃだめだよぉ」
 ここぞとばかりに、トウジをいじめるハルカ。
「純真なんだよ、ナカザキさんは」
 薫に微笑みかけるカヲル。
「シンジ君と同じようにね」
 さり気なくポイントを稼ぐ。
「あの…、カヲル君、あたしも薫で良いから」
「そうかい?」
 その笑みにしばしボーっとしてから、はっと我に返る。
「あ、あの、なぎ…、カヲル君…は、鈴原君や碇君と同じ中学校なの?」
「そうだよ…、どうして?」
「だって、とても中学生には見えないから…」
 体格的には大きい方じゃない、むしろ細身から小柄に見える。
 風格や落ち着きぶりは、たしかに常人ばなれしていた。
「そやなぁ、でもまあ、もうすぐ高校生なんやし、そんなもんちゃうかぁ」
 あいからず、余り深く考えてない。
「いいなぁ、高校かぁ…」
「ナカザキさん?」
 寂しげな影を感じ取るシンジ。
「あたし高校行けるかどうかわからなくて」
「薫ちゃんはね、小学校も中学校も、ほとんど病院に入院してたんだって」
「こらハルカ!」
 他意は無くても言葉は凶器になる、トウジはその辺りに厳しかった。
「いえ、いいんです、ハルカちゃんにはおもしろいお話し、いっぱいしてもらってるし」
「ハルカから?、ほんまですかぁ」
「ええ…」
 そう言って薫は、ハルカの運動会や遠足、勉強や好きな男の子の話、はやってる本とかテレビのことを教えてもらったと答えた。
「お、男…、ハルカが」
 なにやらショックを受けてるトウジ。
「こらハルカ!、誰やお前が好きな男っちゅうのは!」
「カヲル君」
 あっけらかんと答える。
「カヲルっ、おまえまさか!!」
 怒気で真っ赤に頬をふくらませてる。
「僕が好きなのはシンジ君だけだよ、鈴原君が心配するようなことはないさ」
 カヲルは真顔で答えてみせた。
「そういやそうやな」
 トウジは言葉のままに受け取った。
「とりあえずハルカ、こいつだけはあかん、やめとけ」
「えー、なんでぇ?」
 明確な答えを見つけられないトウジ。
「こ、こいつはホモや、だからあかん」
 苦し紛れ。
「ホモって何?」
 通じなかった。
 その間に持って来たポットからお茶をいれるカヲル。
「あの…、碇君?」
「ナカザキさん、なに?」
 シンジはカヲルから湯呑みを受け取った。
「碇君って、カヲル君の恋人なんですか?」
 だあっと大口を開けてお茶を漏らすシンジ。
「うあっ!、なにしとんのや!」
 あわててタオルを探すシンジ。
「き、昨日も言ったじゃないか、そんなんじゃないって」
「まあ気持ちは分かるわ」
「トウジぃ〜〜〜」
 トウジはニヤついてシンジとカヲルを見やった。
「なにげに茶ー入れて、それをさも当然のように受けとっとる、まさに夫婦やないか」
 言い返せないシンジであった。






 カヲル…カヲル?
 天の暗闇から降りてくる白い妖精。
 クリスマスも過ぎれば、街は大晦日へ向けて走り出す。
 師走ともなれば夜も街の動きは激しい、カヲルは高層ビルの上にたち、眼下に広がる街の灯りを眺めていた。
 突風に近い風が雪と共に舞い飛んでいく、だがカヲルを揺るがすことはできない。
「なんだい、レイ…」
 遠くからの音ではない声。
 女の子に告白されたんだって?
 レイの声には笑いが含まれていた。
 カヲルは答えない、ただじっと雪を見ている。
 男でも女でも、よっぽど好きにならないと友達になったりしないカヲルが、めずらしいね。
 茶化すような物言いは続く。
 だがカヲルは、いつもの調子で答えた。
「似てるんだ」
 似てる?
 訝しげにレイ。
「あの頃のぼく達にね」
 はっとするレイの息遣いが聞こえて来た。
「病室、薬の匂いを染み込ませて、外の世界に憧れていたぼく達に」
 カヲル…
「病院の空気に触れたせいかな、たまには感傷的になるのもいいだろう?」
 カヲル自身、いつもの自分ではないと感じていた。






「カヲル君…」
 はう…、と漏れる溜め息吐息。
 病院は夜でも完全に電気を消したりしない。
 薫はカヲルの写真集をちゃっかり自分のものにして、繰り返し繰り返し何度も見ていた。
 シンジは寝たふりをしながら、そんな薫の様子をうかがっている。
「それじゃまた明日、シンジ君」
 そういってカヲルは帰って行った。
 なげキスを残していったカヲル。
 その後さんざん薫にうらやましがられたのだがそれはさておいて。
「碇君、おきてるんでしょ?」
「う、うん」
 つい返事をしてしまうシンジ。
「ごめんね、ちょっとの間だけだから…」
 シンジはわけがわからなかった。
 わからないから、話題をかえる、詳しく聞くことを何故だか恐れた。
「ハルカちゃん遅いね」
 トイレに行ってからかなり時間が経っていた。
 あばらの疼くシンジは、様子を見に行こうにも動けない。
「あたしが見て来るね」
 ベッドを抜けだそうとする。
「だめだよ、薫さんは無理しちゃいけないって念を押されてたじゃないか、それなら僕が行くよ」
 シンジは脂汗を流しながら上半身を起こした。
「でも…」
「大人しく待っててね?」
 薫は部屋を抜けだす口実を探していると、シンジは気がついていた。
 だからなんとかしたかったのだ、シンジの目には、薫の顔色が悪すぎるように見えていたから。


「ここか…」
 真っ暗な医務室に、幽鬼のように白く光り輝く人影。
 カヲルは使われていない診察室に忍び込んでいた。
 いつものように両手をポケットにいれたまま、ちらりと端末を一瞥する。
 患者の治療記録を修めているデータベース、それにアクセスするための端末だ。
 モニターが灯をともし、名簿を表示する。
 一秒間に何千行という名をスクロールさせて、とまる。
 薫の名があった、画面はその治療内容に切り替わる。
 カヲルは眉一つ動かさず、その記録に目を通していった。


 シンジはハルカを探しながら、あることに思い至っていた。
 …薫さんは笑顔を作ってる。
 確信はなかったが、レイやカヲルが時折見せるおもいつめた表情、それを隠している時の微笑みに似ていると、シンジは気がついてしまっていた。


 ハルカはシンジと入れ違いに部屋に戻っていた。
 そこでハルカが見たものは、涙を流している薫だった。
「おねぇちゃん、どうしたの?」
 小さな声に、ようやく薫はハルカが戻って来ていたことに気がついた。
「ううん、なんでもないの」
「うそ!、だって目が真っ赤だもん」
 ハルカは薫のベッドにもぐりこむと、薫の腕に抱きついた。
「ハルカちゃん…」
 じっと薫を見つめてる。
 薫はそんなハルカが羨ましくなった、思ったことを、思ったとおりにできるハルカが。
 またも涙が流れ出す…
「おねぇちゃん、おねぇちゃん…」
「…んでもない、なんでもないの」
 シンジが出て行き、ほんの僅かな間、一人ぼっちになった。
 それだけで怖くなった、圧し殺して来た自分の心が悲鳴を上げた。
 抑えることが出来ない想い。
「ハルカちゃんみたいに走ってみたい、遊んでみたい、お話ししてみたい、どうして?、どうしてあたし…」
 自分の気持ちを吐露していく。
「おねぇちゃん…」
 ハルカには難しすぎる気持ちだった。
「助けて…、神様助けて、神様助けてよ…」
 どう答えていいのかわからない。
 だがそれで良かったのかもしれない、ハルカから聞かされた想い出、喜ばせようとして話したことが、逆に傷つけてしまっていたなどと、分からないほうがよかったのだから。
 シンジは両手で口を押さえていた、でなければ嗚咽を漏らしていたかもしれない。
 いたたまれない。
 そんなシンジの肩を誰かが叩いた。
 振り返るとカヲルがいた。
 カヲルは悲しみに満ち満ちた目で、壁の向こうにいる少女を思いやっていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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