NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q':5B





「みてみて、加持さぁん!アーリーマックツイストぉ!」
 空中でテールをかかと側に180度横回転させながら前方宙返りをしてノーズから下りる。
 赤いウェアに赤い髪の女の子は、陽光の中を見事にかけぬけていった。
「やるなぁ、アスカちゃん」
 加持はスキー板を履いていた、アスカがボードで走るのを止まって見ている。
 宿から歩いて五分、小高い丘になっている場所があった。
 まだ時間が早いからだろう、地元の子供しかいない、それもぱらぱらと。
「きゃん!」
 微笑ましく見守っている加持のすぐそばで、ミズホが悲鳴を上げた。
「ほらミズホ、穴だらけになっちゃうわよ?」
「ふえ〜ん!」
 すべるだけなら何とかなってるレイと、全くすべれないミズホ。
「ミズホの尻型ー!」
「酷いです〜!」
 ミズホとレイは雪合戦に切り替えたようだ。
「この!」
 ミズホは振りかぶって、そのまま固まった。
 林の方を指差して、ぱくぱくと口を開閉させる。
「どしたのミズホ?」
「あれ…」
 女の子がいた、青い髪の。
 距離が少しあるので、顔までは見えない。
 ふっとかき消えるように見えなくなった。
「まって!」
 レイはスキー板を滑らせた。
「あれ?、レイ…、ミズホ、何かあったの?」
「ふえええええん、アスカさぁん、おばけですぅ〜」
 そのままかくんと、ミズホは気を失った。


 レイは林にかなり深く入っていた。
 不安はない、いざとなれば力があるから。
 気になるのは、レイの力を持ってしても探し出せない女の子の方だ。
「レーイ!」
「アスカ!?」
 危な気もなく、ボードを操って樹々の間を抜けて来た。
「よくわかったね」
「板の跡があるじゃない」
「でも幽霊かもしれないのに、怖くないの?」
「人間よ、間違いなく」
 アスカは確信していた。
「どうしてわかるの?」
「だって昨夜、おじさまと睨みあってたもん」
「ホントに!?」
 何かを考え込むレイ。
「何を探しているの?」
 どきーんっと、心臓が止まりそうになった。
 背後からの声、薄暗い場所、寒気が駆け抜けた。
 振り返る、いた!
 まるで急に現れたような、気配を消していたとでも言うのだろうか?
「あなた、誰?」
「あなたこそ、誰?」
 その子はゆっくりと顔を上げた。
 レイは悲鳴を上げそうになった、その顔は幼い頃のレイにそっくりだったから。
「あなた、誰なの」
 いや、綾波に似ている、ゆっくりと近づいてくる、その胸には大事そうに銅板を抱えていた。
「あたし、宝物探してるの…」
 そう言って、その子はふらふらと歩きだした。
「あ、待って!」
「追わないでやってください」
 第三者。
「あれは可哀想な子ですから」
 神主姿の男だった。






「まったくもう!、ちょっとおばけ見たくらいでなに!」
「普通倒れるですぅ〜〜〜、きゅう」
 お昼すぎ、ミズホは丘に上がったマグロと化していた。
 布団こそしいていないものの、座布団を枕代わりに寝っころがっている。
「それで、二人はどうしたの」
「すまん、見失った」
 らしくない加持。
「あんた、何か隠してない?」
「俺が何を隠すって?」
「…ま、いいわ」
 すんなり諦める。
 加持は焦ってない、それに碇夫妻も気にしている様子はない、ならば当面は安全なはずだ。
 …それでも担任としての責任は果たさないとね。
 ミサトは二日酔いを精神力でふり払うと、ハーフコートを引っ張りだして着込んだ。
 白のナイロン製。
「おいおいおい、どこに行くんだよ」
「決まってるわ、迎えに行くのよ」
 加持は肩をすくめ、ミサトに付き合うことを決めた。






「おばけ!?、誰が」
「あの子よ、あの子!」
 アスカの問いかけに、彼、宮内出雲は腹を抱えて笑った。
 腰まで届く長い髪を、首の後ろで縛っている。
 二十代半ばぐらいの優男だった。
「そりゃじいちゃんにからかわれたんですよ」
「から…」
 アスカは真っ赤になって、怒るかどうか戸惑った。
 倒木に腰を下ろす出雲。
「キクは僕の妹です、そういえば、君に似てなくもないなぁ」
 一言も喋らないレイに微笑みかける。
 レイは無表情なままだ。
「まあ本当の妹ってわけじゃないんですが、両親を早くに亡くしましてね、それでうちで引き取ったと…、何処からかあの銅板を見つけて来まして、そこには死んだ両親を生き返らせることのできるものがあると信じているんです」
 アスカは深呼吸して気分を落ち着けた。
「でも危なくないの?、昨日なんて真夜中にうろついてたわよ」
「しょうがないんです、一時は生きることを否定して、衰弱死するすんぜんまでいきましたから」
「な、なにそれ!?」
「信じられますか?、心が生きることを拒絶したんです、今は生きる希望が必要なんですよ、例え嘘でもね」
「嘘はいつかはがれるわ」
 冷たくレイ。
「そうかもしれませんが、生きたいという想いが生まれるまでは、ね?」
 シンジのように微笑む、アスカはそう感じた自分を、否定しようとした。
「それはそれとして、なんであんたはここにいるの?」
「あの子は地図のとおりに歩いてますからね、毎日同じ場所を、たまに様子を見に来てるんですよ」
「ふーん、優しいのねぇ」
「お、だからって惚れちゃダメですよ、これでも神道に使える身ですからね」
 ふふんっとカッコをつけてみる。
「ばーか、中学生相手に敬語使ってるような人なんて興味ないわ」
「ちゅ、中学生!?、うそだろ?」
 まいったなぁ…と頭をかく。
「ただのナンパだったのね」
「ふふん、あんたに比べたら加持さんの方がよっぽどかっこいいもんね〜」
「加持さんって、連れの、無精髭の人かい?」
「な、なんで知ってるのよ!」
「言ったろ?、あの子の様子を見に行ってるって、何度か君達も見かけたからね」
 さっきよりもずっと口調がくだけてきている。
「ずっと大人なんだもん、加持さんは、それでいて強くて、なんでも相談に乗ってくれるの、ほんとに優しいんだから」
 うっとりとしている。
「ふ〜ん、でも君の言い方だと、誰かと比べてるみたいだけどな、その加持って人も」
 アスカはびくっとした。
 思い当たる点がたくさんあったからだ。
「シンちゃんと比べてるのね」
「シンちゃんって?」
「あたしたちの恋人よ!」
 アスカはレイと肩を組むと、にぃっと笑ってみせた。
「なんてこった、二股かけられてるのか、君達は」
 大いに嘆く。
「二股って言うか…四人いるんだけど、いや敵はもっと多いか」
 ぶつぶつと本気で数えだす。
「かけられているわけじゃないわ、あたし達が好きでそばに居るんだから」
「それがわかってないって事なんだよ、いいかい?」
 出雲は真剣な表情を作った。
「誰かを傷つけたくないから選べないとか、女の子を自分のものだなんて傲慢なこと言えないだなんてセリフを平然と吐く奴は信用しちゃいけない、その辺の本に載ってるような、都合の良いセリフを引用してるだけなんだから」
「それは貴方も同じでしょ?」
「いやこりゃ一本取られた!」
 あっさりと引き下がる。
「ま、僕がいったとおりの嫌な奴なら、他にも誰か居るなんてばれないようにするし、君達みたいにお互いのこと知ってたら、取り合いになってるだろうしね、女の子四人に慕われてるのか、いいなぁ、理想だよなぁ」
 アスカとレイは顔を見合わせてから、ぷーっと吹き出した。
「なんだよ、おかしなこと言った?」
「なんでもないのよ」
「ほんとに、何でもないわ」
 男が一人混ざってるなんて、想像するわけがない。
 カヲルを自分達と同じに考えていたことに気がついて、アスカとレイはおかしくてしょうがなかった。






「うーん…、重いですぅ、苦しいですぅ〜、うーん…」


「いったぁー!」
「それで済ませてあげたんだから感謝しなさい!」
 ミサトはレイとアスカ、それぞれげんこつ一発で許してやった。
「ミサト先生本気なんただもぉん」
「あたりまえです、怒る時は本気で怒るわよ!」
 加持はいつも通り一歩差がって微笑んでいる。
 宿まで帰って来た四人は、襖の向こうからミズホのうめき声を聞いた。
「なにかしら?」
「さあ…」
 1・2の3で襖を開ける。
「……!」
 ミサトは顎がはずれそうなほど驚いた。
「か、金縛りですぅ〜〜〜、うーーーん…」
「キクちゃん!」
 キクが眠ってるミズホの上にまたがっていた。


「おーーー、キク、来とったのか」
 ジト目を受けてもものともせず、竹崎はキクを抱きかかえた。
「いや実は孫でしてな」
 にやけてみせたが、ジト目は消えなかった。
「それにしても誰かになつくとは珍しい…」
「お姉ちゃんと、いる」
 キクははっきりとレイを指差した。
「いや、しかしなキク」
「いるの」
 暴れて竹崎から逃れると、レイのセーターの袖口を握った。
 じっと見て、離さない。
「兄貴の方は変な宗教にはまっとりましてな、安心して任せておけんのですよ」
「それって、出雲って人のことですか?」
「しっとるんですか?」
「さっき会いました、ね?、レイ」
「うん」
 レイは心底困っていた。
「いいじゃない、レイ?、面倒見てあげられるわよね?」
 ユイにそう言われては、ハイもイイエもない。
「それじゃキクちゃん、少しの間だけど、よろしくね?」
 キクはこくっと小さくうなずいただけだったが、それでもユイは満足そうに微笑みかえした。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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