NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':5C
その頃シンジは。
「アスカたち、今頃おいしいもの食べて、いっぱい遊んでるんだろうなぁ…」
暇を持て余していた。
さて、遅めの昼食を取った後、やることが無くなった三人はそれぞれに暇を持て余していた。
部屋に戻ってごろごろしている、まだ昨夜のお酒の匂いが残っていた。
アスカとレイはキクと遊ぶことに決め、あや取りをしている。
「あーーーーー!」
ミズホが急に大声をだした。
「これみてください、これ!」
ミズホはあわてて端末機を引っ張った。
暇つぶしにネットに潜っていたのだが、自分宛のメールにとんでもないものを見つけたのだ。
「なになに?、ケンスケからじゃない…ってこれ!?」
妖しいカヲルの写真が数枚。
「なになに?、自費出版「KAWORU」、定価2000円、オールカラー40P、画像データのみの場合は1500円、お申し込みは…」
それ以上読んでいられなかった。
「し、しばらく見かけなかったけど、こんなことやってたのね!」
腹を抱えて笑うレイ。
だが逆にアスカは神妙な面持ちで画面を見ていた。
「どうしたんですかぁ?」
「これは由々しき問題だわ」
「何が?」
「レイ、覚えてない?、シンジのベッドの下にあった本」
「えーーーっ、なんですかそれぇ!」
無視するアスカとレイ。
シンジが後生大事に隠していたのはデラべっぴんでも内田ユキ写真集でもなく、ケンスケ発行の月刊第三新東京市中学校美少女図鑑、特別編集第一中学校編だった。
1・2・3号で、それぞれアスカ、レイ、ミズホ。
「シンジが自分で買ったものか、それとも押し付けられたものかはともかくとして、あたしたちでさえ別刊だったのに、よりによってあいつのが、あんなやつのが写真集として世に出るなんてぇ!」
うきー!っとアスカは端末にバックドロップをかけた。
「ああっ、私のなのにぃ!」
しくしくとミズホ。
「これは一度きちんと話をつける必要があるようね」
「話しって?」
「いや、だから…」
「なんていうの?、カヲルのを出すより、アスカのを出せって?」
返事につまる。
「それより、シンちゃんになんてコメントしたのか聞いたほうがいいと思うな」
「それこそどうするのよ」
「ベッドの下の本と合わせて、どっちがよかったか聞くの♪」
「それは面白そうですぅ」
端末が無事だったので、ミズホは安心して次のメールを読み出した。
「あああああ、これも凄いですぅ!」
「今度は何よ」
「カヲルさんが女の子のことを話してたってぇ!」
なにい!?っとレイが食い付いた。
「詳しい情報が欲しかったら1000円払えってぇ!?、まったくがめついんだから」
レイは後で直接問い詰めることに決めた。
背中に重みを感じる、キクが乗りかかって、覗きこんでいた。
「これがカヲル?」
画面写真を指差す。
「うん、そう、どう思う?」
「かっこいい…」
げえっ!っとアスカは引いた。
「でも好きじゃない」
ミズホがうんうんとうなずいた。
「嫌いでもないけど」
キクはそれ以上興味を持てないようだ、急に黙り込んだ。
「キクちゃん?」
「恋人?」
レイのセーターの裾をつかんだまま、座り込んでいる。
「どうしてそんなこと言うの?」
「気になるから」
「なにが?」
キクは画面を指差した。
「あの目」
レイはアスカ、ミズホと同じように驚きの表情を作った。
●
「あーーーーーーー、退屈ぅ」
あれからキクが眠り込んでしまったため、アスカは一人で散歩に出た。
キクは眠ってもレイに噛り付いていた、決して離れようとしないのだ。
「なんなんだろうね?」
レイも困っていたが、邪険にはしなかった。
アスカが「しょうがない」と布団を借りにいっている間に、ミズホも眠り込んでしまっていた。
やることもなくぶらぶらしている。
明日の祭りのためか、村は準備で騒がしくなっていた、それを見ているだけでも飽きはしないのだが、観光客に混じるのも億劫になっていた。
とにかくシャッターを押してくれと頼まれること頼まれること。
愛想笑いも引きつりだしていた。
「おじょーさん?」
またか、と今度は断ろうとする。
「一緒にお茶でも飲まない?」
振り返ると、出雲だった。
「あんたも暇ねぇ」
出雲はにこにこしているだけで、皮肉もさほどは通じなかった。
「いやあ、キクが世話かけてるんだって?、悪いね」
「礼ならレイに言ってよ、あたしはなにもしてないんだから」
祭りのメインになる社の側で、二人は腰を下ろしていた。
「レイって、キクによく似てる娘?」
出雲がおごってくれたコーラに口をつけるアスカ。
「機嫌悪いね」
「暇なんだもん」
そっけない。
「あんたは何もしないの?」
「鼻つまみものだからね、手伝わせては貰えないんだ」
「そんなカッコしてるのに?」
出雲は前と同じ神主のかっこうをしている。
「そういえば新興宗教にはまってるんだっていってたわね」
「誰が?」
「竹崎さん」
じいちゃんかーと頭を抱える。
「そんな大したもんじゃないんだよ、ほら、古文書とかってあるだろ?、それを調べてったら今の祭りって後からできたものらしくてさ、で、昔の祭りをやろうって団体作ったわけ、ところがそれが宗教作ろうとしてるとかなんとかって…、ほとんど言いがかりなんだよな〜」
危ない方ではないとわかって、アスカは安心した。
「ねえ?、キクちゃんって、いつもはあんたが世話してるんでしょ?、ホントの妹じゃないって言ってたけど、…その、あんたのお父さんとかはどうしてるの?」
「オヤジとおふくろは第三新東京市だよ、働きにいってる、ここは何にもない村だからね」
ちょっとばつが悪くなるアスカ。
「俺も一緒に行かないかって誘われたんだけどね、やめといたんだ」
「どうして?」
「だって、田舎の好青年の方がもてるだろ?」
「ばっかじゃない?」
本気で呆れてる。
「男なんてそんなもんだよ、もてないよりはもてる可能性の高い方を取る」
「で、うまくいったことあるの?」
「ないんだよなー、これが、やっぱこのかっこうじゃなぁ」
服を広げてみせる。
「かっこうは関係無いんじゃないの?、加持さんだっていつも同じかっこうしてるけど、みんなに人気あるもん」
頬が赤くなってる。
「やっぱ内面よね、外見より」
意地悪な目つき。
「あれ?、でも好きなのって加持って人とは別じゃなかったっけ?」
「ああ、シンジ?、あいつはかっこいいのとはちょっと違うし、ま、幼馴染ってのもあるかな?、半分は腐れ縁ね」
表情がそれ以上のものもあると語っている。
「優しいだけなら加持さん以上ね、でも底抜け過ぎて誰にでもってのが玉に傷だけど」
にやにやとしている出雲。
「なによ」
赤くなるアスカ。
「不満があるんだ、他の奴にも優しいから」
「うー…、それに優しくして欲しい時に気づいてくれないし」
「ああ、だから加持さんなわけね」
合点がいったと出雲。
「そりゃしょうがないさ、同い年なわけ?、シンジくんって…、ならなおさらだよ、その歳で女の子の気持ちなんてわかってたら、すっごいナンパな奴になってるぜ、絶対」
そりゃそうだわ、と納得する。
「そうだ、あした巫女選びがあるんだ、出てみたら?」
「なにそれ?」
祭りのメインイベント。
「巫女は神様と一緒にお酒を飲むって儀式があるんだけど、その女の子を選ぶんだ、参加資格は特になし」
「なんでそんなものに出なくちゃならないのよ」
「なんだ出ないのか」
そっけないアスカにゲンドウが残念がった。
「お、おじさま!」
いつのまにか、背後にゲンドウ。
「TV中継もある、シンジが喜ぶだろう」
「やります!、おじさま!」
手のひら返して、即断即決するアスカ。
引きつっている出雲と、決意を全身で現しているアスカを置いて、ゲンドウはその場を離れた。
ユイがその隣に並ぶ。
「この祭り、全国放送されました?、ケーブルTVですよね、あれ…」
「運がよければニュースで流れる、まあシンジにはビデオで見せてやろう」
それもそうですね、とユイは深く追求しなかった。
●
「…ってわけで、出ることになったんだけど、あんたたちも出てみない?」
「あたし、いい」
「私もですぅ」
かっぽーんっと温泉。
竹崎の話から想像していたものよりは、はるかに大きかった。
女湯と男湯、そして真ん中に混浴と、大きな岩が三つに区切っている。
小さな山の下にあって、山と露天風呂の間には川が流れていた、景色を楽しむには十分だったが、あいにくとそれを楽しめるほど彼女達は大人では無い。
雪はやんでいた、だが月が顔を出すほど雲は切れていない、夜、備え付けられている照明が、暗めの灯りを与えていた。
「なんでー?」
「興味ないもん」
「人前でお酒は怖いですぅ」
ミズホの理由にうなずき、納得するアスカとレイ。
レイの膝の上にはキクが座っていた、直接では口元まで湯に浸かってしまうからだ。
「ミズホはしょうがないとしても、レイは?」
「キクちゃんと遊んでるほうが良い」
キクはぱちゃぱちゃと波をたてて遊んでいた。
「ねーキクちゃん」
こくんとうなずく。
「ママといたい」
「ママって…」
呆気に取られるアスカ。
すっかり呼び方が定着していた。
「あーーー、可愛い!、ほんとにキクちゃんみたいな子供欲しいなぁ」
うっとりする。
「ああっ!、今だれとの間にって想像したんですかぁ!」
「そんなの決まってるじゃない」
うっきーとミズホ。
「ダメですぅ!、シンジ様と子供を作るのは私ですぅ!!」
発言の凄さに気がついてない。
「ママはママみたいに優しいから好き…、きっと良いママになる」
「キクちゃんっ、ありがと!」
抱き締める。
「あうー!、私だって優しいですぅ」
キクを奪いとると、赤ん坊を抱くようにかかえた。
「キクちゃんぷにぷにしてて気持ち良いですぅ」
キクはほっぺをつつかれて、うっうっと嫌がった、嫌がった拍子に腕が弾力のあるものに触れる。
キクはじっとミズホの胸を見た、一応言っとくがタオルごしだ。
タオルを巻いてないのはキクだけ。
「ママみたい」
真っ赤になるミズホ。
がーんっとショックを受けてるレイ。
「なによそんなもん!、あたしの方がよっぽど…」
アスカもキクを抱いてみる。
「……あの人と同じぐらい」
ずっどーーーーーーーん!
「ちょ、ちょっと待って、もう一度ちゃんと確かめてよ、ねぇ…」
アスカの呷きを無視して逃げるキク。
「そういえばミズホって最近あたしのブラ使ってたりするし、でもあたしってミズホのジーンズ履けないよね、それってあうあうあう…」
自分の世界に落ち込んでいく。
「いいなぁ、あたしなんて全然サイズあわないもん…」
キクはレイの元に戻って慰めた。
「大きいと後で垂れるだけだから…」
レイの復活も遠そうだった。
旅館への帰り道。
5分程度の道のり、レイはキクの手を引きながら、心でカヲルに語りかけた。
「カヲル…カヲル?」
空を見上げる、月が無くても、話すぐらいならできるはずだ。
なんだい、レイ…
わずかに間を置いて、返事が返ってきた。
音ではない声が心に直接。
「女の子に告白されたんだって?」
笑いを含めて。
あれ?
カヲルから答えが返ってこない。
「男でも女でも、よっぽど好きにならないと友達になったりしないカヲルが、めずらしいね」
茶化してみた、これぐらいで動揺することはないとわかっている。
いつもの調子で答えが返る。
似てるんだ。
「似てる?」
訝しげなレイ。
あの頃のぼく達にね。
はっと、レイは顔を上げた。
どうしたのかと、キクが不安がる。
レイは気づかない。
病室、薬の匂いを染み込ませて、外の世界に憧れていたぼく達に。
「カヲル…」
つい、呟いていた。
病院の空気に触れたせいかな、たまには感傷的になるのもいいだろう?
レイはそれ以上、話しかけなかった。
キクを見る、キクもレイを見つめていた。
レイはキクを抱き上げると、頬をすりあわせた。
あたしは、この子を通してあたしを見てるのかな。
小さな頃の自分を。
「ごめんね」
言葉になるかどうかの小さな声で、レイ。
キクはレイの頬に手を当てた。
そして初めて、微笑んだ。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
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