Episode:6C





「ふふふふふ、こうかぁ?、ここが抵抗してるんだな、ほうらこれで真っ赤になった」
 眼鏡を光らせ、妖しい雰囲気をかもし出しているケンスケ。
 公衆電話に取り付くと、自分の携帯端末を繋ぎネットに潜っていった。
 街なかの電話だけに恥ずかしかった、…のはトウジとレイ、それにキィのカッコをしたシンジらの方だったが。
 ケンスケは電話ボックスの中で座りこんでいる、その電話ボックスにもたれかかってる三人。
「なにやってんの?」
 覗きこむシンジ。
「さっきキィさんが歌ってたのを取り込んだからさ、それをサンプルとして流してるんだ」
「えええええっ、録ってたの、あれ!」
 油断も隙もない。
「画像だけじゃ心許ないからね」
 話してる間も手を休めない。
 写真まで…
 逃げられなくなっていく自分を感じるシンジ。
「この赤いのがネットでの広がり具合なんだ、ほら、もう日本中のほとんどの宣伝欄を埋めつくしたよ」
 頭が痛くなったシンジは、ケンスケから離れて座り込んだ。
「あ、キィ携帯持ってる?」
「うん、あるけど?」
 ちょっと貸してと奪い取る。
 いつも使っているからか慣れたもので、短縮ダイヤルで自宅を呼び出した。
「もしもし?、あ、レイちゃんね?」
「はい、お母さま」
 そうか遅くなるからなぁと、この辺りまではシンジも落ち着いていた。
「はいシンちゃんも一緒です、今日ちょっと帰れそうにないんで、ご飯は食べて帰りますから」
 どがっしゃーんっと、何やら派手な音が、離れていたシンジにも聞こえた。
「あらあらまあまあ、それじゃ明日はお赤飯にしようかしら」
「やだもうお母さまったら!」
 赤くなってもじもじしだすレイから携帯を取り上げる。
「ちょっと母さん!」
バカシンジー!
「あああああ、アスカ!」
 なぜ!?
「ちょっとあんた今どこにいるのよっ、いまっ、すぐにっ、帰ってこないとお仕置きするわよ!」
 恐怖におののくシンジから携帯を取り返す。
「ま、そういうわけだからごめんねぇ」
「レイさんんんんん〜〜〜」
「こらミズホ返しなさいってば!」
 向こうでも何かやってるらしい。
「大丈夫よぉ、相田君に鈴原君、それにカヲルも一緒なんだから」
「ちょっとなによ、その組み合わせは?、あんた達いったい何やってるの!」
「内緒、それじゃ切るね、ばいばーい!」
「ちょっとこら、レイ!」
 レイはすばやく電源を切った。
「もう、シンちゃん相田君にバレたらどうするのよ」
「バレたっていいよっ、それよりアスカたちの方が恐いんだから!」
 絶望的な状況に陥っている。
「あれ?、カヲル、どうしたの?」
 沈みこんでしまったシンジを一時無視する。
「いや…、どうして人目を引く真似をしたのかと思って」
「ああ、マイね?、やっぱ甲斐さんがなにか企んでるんじゃないの?」
 今ひとつ解せないというカヲル。
「それがわからないと、このままではやる意味がないんだよ」
「どうして?」
「同じことをして、打ち砕いてやらないと、あいつらはこたえないからね」
 不穏当な発言、カヲルもまた、悪戯を企んでいるような顔つきをしていた。


「レイ…、カヲル、シンジ、あんた達いったい何を考えてんのよ…」
 アスカは困惑していた、アスカもまた無差別メール攻撃を食らっていたからだ。
 メール内容はケンスケが掲示板や広告欄に載せたものよりも、もう一段階濃い内容になっていた。
 これは人に噂話をさせるのが目的のメールだった。
 これですっかり、シンジの女装はバレるとこまでバレてしまったわけで…






 ケンスケは時間差で噂に真実を混ぜていった。
 やがて噂は真実そのものと入れかわる。
「はい、はい11時のシティニュースですね」
 ケンスケは確認をとって、最後の情報を作成した。
 シティニュースは高視聴率を誇るニュース番組だ、毎回おかしな特集を組み込む色物番組としても有名である。
 ケンスケの携帯の向こうでタタキはわめいていた。
「今すぐ局まで来い!、速攻で打ち合わせを済ませるぞ」
「はい!」
 ケンスケは広げていた端末だのなんだのをすべて片付けた。
「行こう!、…って、あれ、トウジは?」
「帰るって、ハルカちゃんが待ってるから」
「そっか、あいつ食うだけ食っていったなぁ」
 金を払ったのはケンスケのみだ。
 とりあえずタクシーを拾ってレッツゴー!っと、声を張り上げた。
「元気だなぁ…」
 シンジはかなり疲れていた。
「どうしたの?、大丈夫、もうちょっとなんだ、頑張ろうよ!」
「どうしてそんなに張り切れるんだか…」
 シンジのぼやきに、ケンスケは真面目な顔をして考えこんだ。
「しょうがないよ、俺みたいに特別じゃない奴は張り切るしかないんだから」
「特別って…」
「綾波とか渚…、惣流や信濃もそうだよな、みんなどこか光ってるんだ」
 それはシンジにもわかるような気がした。
「へぇ、そんな風に見ててくれたんだ」
 レイは面白そうな話だと割り込んだ。
「誰がどう見たって特別じゃん、じっとしてても目立つしさ、他のクラスどころか別の学校のやつにまで名前知られてるじゃないか」
 ケンスケはあーあっと頭の後ろで手を組んだ。
「だからチャンスだと思ったら走るしかないんだ、何も考えずに走れー!ってね、持って生まれたものの上にあぐらをかいてるだけじゃ、大した人間にはなれないんだ」
「それじゃまるで僕達が何も考えてないみたいだね」
「あ、悪い」
 笑いながら謝った。
「でもわからなくも無いよ、より強い光の前では、どうしても霞んでしまうものさ」
「そうそう」
 レイとカヲルは、気づかれない程度にシンジを見た。
「相田君だって光を放ってるさ、ただ僕やレイ、アスカちゃんにミズホと一緒じゃ、そりゃ輝こうったって無理ってもんだよ」
「だからこうやって利用させてもらってるじゃないか、今は相田ケンスケ、相田ケンスケをよろしくって叫んでるしかないけど、無駄じゃなかっただろ?、もうちょっとで業界関係に食い込めそうなところまできてるんだ」
 ぐっと拳を作ってみせる。
「見ててくれよ!、この相田ケンスケ、やるときゃやる男だって見せてやる!」
 ゴン!
 立ち上がろうとして、車の屋根に頭をぶつけた。
「おきゃくさーん、つきましたよぉ?」
 やたら迷惑そうにしている運転手だった。






「良いのか?、碇」
「ああ…」
 スタジオのコントロールルームでファイティングポーズを作っているゲンドウ。
 隣には冬月。
「例えどのような経過があったにしろ、これはチャンスだよ、冬月」
「それはわかるが、早すぎるぞ」
「スケジュールの調整は効く、時間を戻せないのなら進めるのみだ」
 冬月はため息をついた。
「シンジ君として立たねば意味がないのではないかね」
「今は経験してくれればいい、そのうちはまってくれるだろう」
 立ち上がる。
「後は頼む」
 返事を待たずにゲンドウは出ていった。
「今日は夫婦水入らずだからな」
 黙認する冬月であった。






「良いか、裏の駐車場に特別ステージを作った、なんだかんだで人は集まっている、おおよそ三千人といったところだな」
「ささささささ、三千人ですか!?」
 驚愕するシンジ。
「三千人のギャラリー全てを巻き込め、でなければ勝てんぞ」
 シンジとカヲルにはっぱをかける。
「カヲル…」
「僕とシンジ君なら軽いさ、でもマイが何をするために月の歌を歌ったのか、それがわからないことには…」
 カヲルの不安はそこにあった。
 このままでは、ただ意味もなく歌うだけに終わってしまう。
 甲斐の元にいる仲間たちは、自由に見えても最低限のコントロールを受けているはずなのだ、意味もなく人前に現れるわけがない。
「それさえわかれば」
 唇を噛む、そんなカヲルとレイの様子に気がつかないほど、シンジは緊張しまくっていた。
「だいじょうぶだよ、初めはびびるけどさ、歌い終わった時には病みつきになってるって 」
 ニコニコとケンスケ。
「ダメだよ…、やっぱだめだ、失敗したらどうするんだよ、こんなのできるわけないよ…」
「どうしてさ」
 真剣な顔つきに変わる。
「やってみなくちゃわからないじゃないか、ホントは俺が出たいよ、出たいけど、俺は…」
 爪あとが残るほど、強く拳を握る。
「俺のためみたいに言ってるけど、これは君にとってもチャンスなんだ」
「どうしてそうなるんだよ」
「だってそうだろ?、特別じゃない人間が光り輝くには、何かのきっかけが必要なんだ、小さくてもいい、でもいま目の前には大きなきっかけがあるじゃないか」
 シンジはその熱の入り様に押された。
「頼む、お願いだ、キィ、歌ってくれ!」
 シンジはゆっくりと顔を上げた。
「わかったよ,ケンスケ」
「キィ!」
「行ってくるよ!」
 待ってるからなぁ!っと、ケンスケは大きく手を振って送り出した。
「いやぁ、乗せやすい子だなぁ」
 誰かに似ている気がしてならないケンスケだった。






 駐車場の車はすべて移動されていた。
 いくらTV局が街の外れにあるとはいえ、それでも道端にまで溢れかえっている人を前に、シンジは緊張を隠しえなかった。
 特設舞台には上がったものの、そのまま固まってしまっている。
「どうしよう、あれじゃ歌えないよ」
 カヲルを見るレイ。
「まだ時間はあるんだ、何とかしないと」
 その時だ。
「レイ!、カヲル!!」
 アスカとミズホがADの制止を振り切って入りこんできた。
「あちゃー、きちゃったの?」
「来ちゃったじゃないわよ、おじ様が連れてきてくださらなかったら、いくらレイでもこうよ、こう!」
 といって、きゅうっとカヲルの首を絞める。
「ああ、シンジ様が毒牙にかかる前で良かったですぅ」
 さらりと凄いことをいう。
「お父さまが来てるの?」
「おば様もね」
 きっとビデオカメラを構えていることだろう。
「あれシンジでしょ?、なんであんなカッコしてるのよ?」
「あはははは、まあ演出って奴よ、演出」
「ふ〜ん」
 やはり納得がいかないらしい。
「それよりお願い、一緒に考えて、シンちゃんを歌わせたいの、でもあの状態で…」
「あんたもバカねぇ」
 あきれ顔。
「単純なのがシンジでしょ?、ノせちゃえばいいのよ」
 アスカはミズホが大事そうに抱えているものを見せた。
「これって…」
「ギターだね、あの時の」
「そうよ、あのバカ二つ同時にやらせると余計な考えなんてぶっ飛ぶのよ、これ弾かせながら歌わせればいいわ」
「でも弾くまでが…」
「レイさん、手伝ってください」
「あたし?」
「あたし達で前座をやるのよ」
「ぜんざぁ!?」
 さすがのレイもびびった、この数の観客の前に出るのは恐いらしい。
「そ、ノリを作るの、そのまま流れるようにシンジとカヲルに任せればいいわ、そうすればシンジのことだもの、流されながら何とかするわよ」
 緊張しきって、アスカたちに気がついてないらしい、アスカがいくら見つめても、シンジは震えたまま立ちつくしていた。
「ホントにうまくいくの?、それで」
「だてに長く付き合ってるわけじゃないわよ」
 羨ましそうにするミズホ。
「さ、さあ今日の衣装はミズホの自信作よ、はりきっていきましょう!」
 ごまかすアスカ。
「任せたよ、レイ」
 カヲルは口元を隠して笑っていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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