Episode:7B





 ちょっと曇り気味、四時間目の授業は体育だ。
 男女混合でミニマラソン。
「お、センセ何みとんのや?」
 ぼうっと走っているシンジに組み付く。
 カメラを覗いたまま走っているケンスケ。
「黒い逆三角形に決まってるよな、シンジ?」
「なんやそれ?」
「ブルマーだよ」
「ち、ちがうよ!」
 やたら顔を赤くして言い張る。
「レイが朝からドタバタやってて…、アスカとミズホも何かしてたみたいだし、声が聞こえてただけなんだけどね、まあお弁当作ってたんだろうけど、それで眠たそうだなって思って見てただけだよ」
 アスカもレイも、いつもなら先頭を切って走っているのに、今日は中程、シンジたちの少し前を走っていた。
 大きくあくびをシているのがわかる。
「は〜、うらやましい悩みだよな」
 深くため息をつく。
「ま、わしらにゃ関係ない話やもんな」
「何言ってんだよ、トウジだって委員長のことがあるだろうが」
 真っ赤になるトウジ。
「委員長は関係あらへんやろ!」
「そっかなぁ、三人姉妹で、それとトウジの分だろ?、四人分って、結構な量になるよ?」
 手間を考えてみるシンジ。
「四人分…、そやなぁ、考えたら、そやなぁ…」
 今更ながらに考えはじめる。
「良いじゃないか、純粋に好意でしてくれてるんだからさ、とりあえずはこの後の時間を楽しみにしてようぜ?」
 意地悪な目をするケンスケだった。


「何やってんのかしら、あの三バカトリオ?」
 遠目に見ながら、アスカはあくびを堪えていた。
「アスカぁ、あくびする時は口隠したほうが良いよ?、丸見えだから」
「あんたもじゃない」
 レイも大あくびをしていた。
「まあ、朝早かったもんねぇ、アスカとミズホも大変だったみたいだし」
 くぅっと、寝たり起きたりしながら走っているミズホ。
「ちょっと、どうしてレイが知ってるのよ」
「だって、あれだけ大きな声で台所の取り合いしてたら…」
 真っ赤になるアスカ。
「シンジには言わないでよ?、恥ずかしいから」
「無駄だとおもうよ?、だってシンちゃんも起きてたし」
「どうして起きてるのよ、だって今日はあたしが起したのよ!?」
「カヲル用のお弁当を用意してから、もう一度寝ちゃったみたい」
 アスカの表情が固くなる。
「もうっ!、カヲルにお弁当作ってるぐらいで怒らなくてもいいじゃない」
「そんなんじゃないわよ!」
 ばっかにして…、アスカは小さく呟いた。
「アスカ?」
「どうせまた機嫌損ねられたら困るとか、そんなこと考えたのよ、あのバカ!」
 こりゃまた機嫌治してもらうのに苦労するかな、シンちゃん。
 いつものことだと、気楽に考えるレイだった。






「はい、シンジ様、お待たせしましたぁ」
 天気が悪いので教室で弁当を広げることになった。
 シンジの前に並ぶ三つの箱。
 一つめは重箱、ミズホだ。
 中身は鮭の切り身、カニかまぼこを入れた卵焼き、それにきんぴらなど、うつわに相応しい内容になっていた。
 二つめはレイ。
 ごく普通のプラスチックの弁当箱に、ハンバーグなどの定番系のものでまとめ上げられていた。
 どことなく昨日シンジが作ったものに内容が酷似している、違いといえば、ご飯にまぶされている卵のそぼろだろうか?。
 最後にアスカのバスケット。
 サンドウィッチにサラダ、サンドウィッチはカツサンド、ツナサンド、タマゴサンドなど、バラエティーに富んでいた。
「はいっ、このあたしが作ってあげたんだから、心して食べなさいよっ!」
「何怒ってるのさ?」
「べつに!」
 ぷいっとそっぽを向くアスカ。
「朝ばたついてたでしょ?、気恥ずかしいみたい」
 そっと耳打ちするレイ。
「そんなの気にする事無いのに」
 この阿呆!っと、コーラの缶がホップしてシンジを直撃した。
「あたまがーーっ!」
「あんたが気にしなくても、あたしが気にするのよ!」
「乙女心いうんは、難しいもんやで」
 トウジにだけは言われたくなかろう。
「とにかく食べてみたら?、碇君」
 ヒカリがさり気なくアスカのサンドウィッチを薦めた。
「あ、シンジ様、お食事前には食前茶を」
 青汁をカップに注ぐ。
「ばかねぇ、それじゃ舌が麻痺しちゃって、味なんてわからなくなるじゃない、はい、シンちゃんあ〜ん」
 ご飯の上にまぶしてあったそぼろを箸に取る。
 くすくすとカヲル。
「ほらほら困ってるじゃないか、そうやって薦めてる限り、順番に迷って手をつけられなくなっちゃうよ、シンジ君は」
「じゃあどうするんですかぁ?」
「じゃんけんでキメましょうか、順番」
「おっけー!、意義なぁっし!」
 手と手をクロスさせてくるっと回し、手のひらの間にできた空間を覗きこむレイ。
「「「じゃーんけーん…」」」
 三つとも全部食べなきゃ駄目なのかな?
 シンジは胃の大きさに不安を感じていた。


 食ったー!
 まさに全身で表現しているシンジ、お腹が膨れあがり、ベルトをゆるめるばかりかズボンのボタンまで外していた。
「で、味はどうだったんだよシンジ?」
 パンを買いに行っていて、ケンスケは誰の弁当から手をつけたのか知らない。
「すごい勢いで口に放り込んでたけど、ホントに味はわかったのか?」
 何とかうなずくシンジ。
「はいシンジ様、胃腸にいいお茶ですぅ」
 最近ミズホの青汁に慣れはじめてるシンジ。
「で、誰のが一番やったんや?」
「レイ…かな、やっぱり」
 すらっと言ってしまうシンジ。
「やったぁ!」
「何ですってぇ!」
「何がお気にめさなかったんですかぁ!」
 涙目のミズホに対して、血走らせているアスカ。
 レイは勝利宣言を黒板一杯に落書きしていた。
「理由を言いなさいよ、さあっ!」
 胸倉につかみかかるアスカ。
「ふ、深い意味は無いよ、ただレイのが一番お弁当らしかったから…」
 ずるずると教卓の裏に沈んでいくレイ。
 アスカは肩を落とし、ミズホはきょとんとしていた。
「どういう意味よ、それ」
「だって、アスカもミズホも頑張りすぎだよ、大変だったでしょ?、これ作るの」
「大変じゃありませんん〜、食べていただけることが嬉しいから、おいしいものをと頑張って…」
「でもここまで作り込んだら普通のお昼だよ、お弁当の枠超えちゃってる…」
 納得いかないミズホ。
「学校で食べるお弁当なんだから、こんなに凄いものじゃなくてもいいんだよ、みんなでわいわいやりながら口にできる物のほうが良いと思うな」
 シンジのこだわりは、ミズホには理解できないようだ。
「じゃあ、あたしのはどうなのよ?」
「アスカ…、たくさん種類作ろうとして、一気に作ったでしょ?」
 あっと、レイはアスカのこめかみに青筋を見つけた。
「カツサンドなんて、パンに油が染み込んじゃってたもん、晩のうちに下準備しておいておくか、種類を少なくして一つずつ様子見ながら作ってみれば良かったのに…」
「それじゃ、手ぇ抜いて雑に作ったって思ってるわけ?」
 笑顔に、やけに鮮やかなこめかみの血管。
「そうじゃないよ、頑張りすぎだっていっただけじゃないか…」
「それから?」
「あ、だから、あの…、いきなり凄いもの作ろうとしないで…」
「腕にあったものを作れっての!?」
「う…、うん」
 バンっと、机を叩くアスカ。
「それじゃあレイやミズホに負けちゃうじゃない!」
「ご、ごめん、そんなつもりじゃ…」
「謝るんじゃないわよ、惨めになるじゃない…」
 半泣き。
「ち、ちがうよ、そんなつもりじゃなくて…僕はただ…」
「ただ、なによ」
「勝ち負けにこだわってお弁当作って、楽しいのかなと思ってさ…」
「こだわるわよ!、じゃあなに?、あんた誰のためにあたし達が張り合ってると思ってんのよ!」
「僕はものじゃないよ…」
「あ、あたしがモノ扱いしてるっての!?」
 いきり立つ。
「だってそうじゃないか!、賭けの賞品扱いされて、それで食べるお弁当なんておいしくもなんとも無いよ!」
 その叫びはレイとミズホも傷つけた。
 青くなる三人。
「みんなで、みんなでお弁当食べるのって楽しいから、だからカヲル君にも作ってあげたのに、どうしてこんなことになるんだよ…」
 シンジの肩を叩くカヲル。
「カヲル君…」
「シンジ君はみんなに仲良くしてもらいたいだけなんだよ、わかるよね?」
「わかってるわよ、そんなこと!」
 シンジはうつむいてしまって、アスカを見ようとしない。
「シンジ君は食べさせてあげたいと思ったから、お弁当を作ってくれたんだ、君はどうなんだい?」
「どうって…」
「本当にシンジ君のために作ろうとしてるのかい?、意地の張り合いをしているだけなんじゃないのかい?」
 シンジに食べてもらうことよりも、シンジの作った弁当にショックを受けていた。
 それが今回のきっかけだ。
「悪いっての!?、シンジにおいしいもの食べてもらおうと思っちゃ!、シンジよりもおいしいものを作れなくちゃ…」
 お嫁さんになる意味が無いじゃない!とはさすがに口にできなかった。
 真っ赤になって口をつぐむ。
「それなら張り合う事はないさ、ただおいしいものを作ればいい、違うかい?」
「それだけじゃ嫌なのよ!、だめなのよ!」
 これ以上は言えない!
 アスカはシンジをちらっと見て、逃げ出した。
「アスカ!」
 ヒカリの制止を振り切って、アスカは教室を飛びだしていく。
「渚君!、女の子を泣かせるなんて!」
「アスカちゃんは意地っ張りだからね、あれぐらい言わないと本当のことを口にしないのさ」
 カヲルはヒカリに向かって「ほら、追いかけて」と後押した。
「見守ってあげるのは友達でも恋人でもなくて、親友の役目だよ」
 どこか楽しそうなカヲル。
「うう…、渚さんって、良い人だったんですねぇ」
 涙ぐむミズホ、レイは気味の悪いものを見たと、嫌悪感をあらわにする。
「アスカ?」
 なぜアスカは頬を染めていたのか?
 悩んでしまうシンジであった。






「アスカ…」
「なにも言わないで!」
 屋上で風に吹かれているアスカ。
 赤い髪が舞う、それを手で押さえながら…
「わかってるわ、あたしはやるしかないのよ」
 決意を込めて、呟いた。
「やるわわたし」
 くるっと回ってヒカリを見る。
 いつもの不敵な笑みを浮かべる。
「こうなったら、なんとしてもレイやミズホを、ううん、シンジだって見返してやる!」
「そうね、アスカ」
「ありがとね、ヒカリ」
 怪訝そうなヒカリ。
「ヒカリが来てくれなかったら、口にしてすっきりできなかったと思う、だからありがとね」
 ヒカリには素直なアスカ。
 ヒカリは微笑んだ。
「じゃ、がんばらなきゃね?」
「もっちろんよ!、傷つけられたプライドは十倍にして返してやるんだから!」
 暗雲広がる空に向かって、拳を突き上げるアスカだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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