Episode:8C





「湖が見えましたぁ!」
 どうにもこうにも復活してくれないペンペンを引きずって、ミズホは丘向こうの湖へやって来た。
「ペンペンさん…って、あれ?」
 足を持ったまま引きずられて、満身創痍、傷だらけのペンペン。
 落ち込んで動かなくなったので、ミズホは「しょうがありませんねぇ」と足をつかんでかけだしたのだ。
「あら、脱水症状ですか?、きっと水に浸からせてあげれば治りますよね?」
 ぽいっと放る。
「ぐわあああああああ!」
 傷に染みたペンペン。
「なにするぐわ!」
「ああ、よかったきっと水でもどせると思ったんですぅ」
「ワカメじゃないぐわ!」
 肩で息をつく。
「もういいぐわ、それよりレイさまはまだぐわ?」
「はい、まだ戻られませぇん」
 不安げなミズホ。
「まあ待ってればそのうち戻ってくるぐわ」
 そう言いながら、ペンペンは何処からか水着を取りだした、それもかなりカットのキワドイものを。
「しばらく泳いで遊んでるぐわ」
 ミズホはそのデザインに引いた。
「そんな、レイさんが頑張ってらっしゃる時に遊んでなんていられませぇん!」
「そうぐわ?、残念だぐわ、美容と健康、それに若さを保つ水を湛えていると有名な湖なのにぐわ」
「泳ぎますぅ!」
 コンマ一秒とかからずに即決する。
「これもシンジ様のためです、はい!」
 いそいそとドレスの下で着替えるミズホ。
 にやり、ペンペンは口の端を釣り上げたが、ミズホはそれに気がつかなかった。


「くすくすくす、これに火をかければ良いのね?」
 ガスバーナーで味噌汁の入った鍋を焼こうとするちびレイ28号。
「わぁ!、ちがうよ、鍋は火「に」かけるんだよ」
「くすくすくす、つまんない…」
 とてとてと調理場から出ていった。
「ねーー、シンジぃ、はーやくぅ〜〜」
 アスカの声。
「まってよ、もうちょっとだからさぁ!」
 うう、やっぱりおさんどんさせられる運命にあるんだな、僕って。
 泣きたくなるシンジだった。


「ちびレイ、定時報告は!」
(くすくすくす、シンジ、誘ってる)
(くすくす、アスカ、シーツ…)
(くす)
「うーーー、なにがなんだかわかんないってば!」
 相変わらず妄想だけが膨らむ。
 地上に戻る。
「あれ?、ミズホとペンペンは?」
 丘向こうから声が聞こえる。
「なんだろ?」
 とりあえず行ってみることにした。


「うっわー…ですぅ」
 鏡を見なくても今自分がどんな格好をしているのか、赤面モノである事はわかっていた。
「ちょっと凄すぎですぅ」
 恥ずかしいので、さっさと水の中へ逃げ込む。
「ふぅ、気持ち良いですぅ…、あれ?」
 心なしか水着が小さくなっているような気がする。
「ふっ、引っかかったぐわ!、その水着は水に浸かると溶ける特製だぐわ!」
 どんどん千切れるように溶けていく、ミズホは慌てて両腕で胸を抱き込んだ。
「な、なんですかぁ!、そんなぁ!!」
 言ってる間に、どんどん溶けて流れていく。
「ふえええええぇん!」
「ぐわぐわぐわ!、大人しくサービスするぐわ!」
「ぐわじゃないって、乙女の敵がぁ!」
 ペンペンの股間をレイが蹴っ飛ばした。
「ぐわーーーーー!」
 ぼっちゃんと水の中に消える。
「ふえええええん、レイさぁん!」
「ほら泣いてないでもう、さっさと服着なさい」
 ざざざざっと、湖面に細波が走った。
「そうはさせないぐわ!」
 湖の上に立っているペンペン。
「あ、あなたただのペンギンじゃなかったんだ!」
「どこからどう見ても普通じゃなかったですよぉ」
「…って、もう服着ちゃったぐわ?」
 つまんねーと、あからさまにがっかりするペンペン。
「まあいいぐわ、とにっかく!、おまえらにはここで死んでもらうぐわ!」
「どうしてよ!?」
「全てはアスカ様のために!ぐわ」
 ペンペンの足元から、大きなものが浮上してきた。
「タコですタコです、デビルフィッシュですぅ!」
 頭部だけで2メートルぐらいあるだろうか?、足もあわせれば10メートル近い。
「くぅっ!、仕方ない、ミズホ、あいつを倒してアスカの居所聞き出そう!」
「はいですぅ!」
「ふ、どうやって倒すつもりだぐわ、そんなの無理ぐわ」
「「ステップオブトーホールド、ウィズフェイスロック!」」
 一行で片付いた。






「はい、シンジ、あ〜ん、…どお、おいしい?」
「う、うん」
「よかったぁ!」
 ぱあっと顔を明るくほころばせてから、アスカは自分の分をかきこみはじめた。
「ひどいや、僕が手を抜いて作るかもって思ってたんだね…」
 しょぼくれる。
「あ、ごめん、そういうわけじゃなくて、あたしの口にあわせたんなら、シンジにはあわないんじゃないかって心配したの、ほんとよ?」
 心配そうに覗きこむ、が食べることはやめない。
「あのね、シンジ…」
 かちゃかちゃとスパゲティをフォークでもてあそぶ。
「ほんとにここで暮らさない?」
「え?」
 シンジは来たっ!と身構えた。
 だがいつもとは様子が違う。
「あ、嫌ならいいんだ、いくら引き止めても、女神のあたし…、ううん、水に縛られてるあたしにつきあって、水の底の小さな家で一緒に暮らしてくれなんて、無理な話しだもんね」
「アスカ…」
 そっとナプキンで涙をぬぐうアスカ。
 くくく、やっぱりこの手に弱いのね。
「夢だったんだ、起きたら独りぼっちじゃないの、誰かいてくれて、こうして一緒に食事して、楽しくお話しして、ちびレイがいるから、賑やかなのは賑やかなんだけどね」
「淋しいの?」
 アスカは寂しそうに微笑んだ。
「ごめん、食事の最中にする話じゃなかったわね、あ、良いものがあるの、ワイン、取ってきてあげる」
「アスカ!」
 席を立つアスカの手を、思わず取ってしまうシンジ。
 勝った!
 心の中でアスカはガッツポーズを決めた。






「空間湾曲、くらえドカンボー!」
 トゲトゲの鉄球がついた棒を振り回す。
 レイの怒りと共に空間が歪んで道が開けた。
「ああ、あそこにおうちが見えますぅ!」
 大ダコとペンペンが消滅した後には、一本のクラブが残されていた。
 それを使ってアスカの隠れ家へたどり着く二人。
「アスカ!、シンちゃん返しなさい…って、ああっ!、なにしてるのよ」
 見つめあっているふたーり、アスカとシンジ。
「れ、レイ、ミズホも」
「あう〜ん、シンジさま何をなさってるんですかぁ!」
「もう、良いところだったのに!」
 天井から垂れ下がってきた謎のヒモを引く。
「うわっ!」
 シンジの足元の床が開いた、椅子ごと落ちていく。
「ああっ、シンちゃん!」
 ああああああとドップラー効果を残してシンジの悲鳴は遠ざかる。
「アスカ!、シンちゃんをどうするつもりよ!」
「どうって…、そんなの決まってるじゃない」
 ぽっと頬を赤らめる。
「うっきー!、アスカ、今日こそ決着をつけないといけないみたいね!」
「やーよ、あんたの相手はこいつがしてくれるわ」
「あーーー!、ばかガエルぅ!」
「ゲコ、息子の敵を討たせてもらう」
 カエル仙人を放り投げるアスカ。
「ケロケロあたーっく!」
 炎を纏って走りまわる。
「くっ、プロテクトシェード!」
 がちょーんっと手を突き出して、またも熱波を放出する。
「ああっ、熱同士がぶつかって無茶苦茶あっついですぅ!」
「こらカエル仙人、火事になっちゃうでしょうが!」
 こいつ、やるな。
 こいつ、やるわね。
 二人だけの世界に突入するカエル仙人とレイだった。






「うわあああああああああっ!」
 どすんっと、柔らかいものの上に落ちるシンジ。
「こ、これって…」
 ダブルベッド、それもピンク色のシーツ、壁も淡いピンク色で、なぜかたくさん大きな鏡が張られていた。
 血の気が引くシンジ、部屋の使用目的が明らかすぎた。
「に、逃げなきゃ、逃げなくちゃ」
 だがどこにも出口がない。
「うわああああん、助けて、誰か助けてよぉ!」
 とりあえず駄々ッこのように鏡を叩いてみる。
 その手を何かにつかまれた。
「うわ、なんだよこれ!」
 鏡の中から腕が生えていた。
「いやだよ離してよぉ!」
 腕は力強くシンジを引っ張る。
「シンジ君」
「か、カヲル君!」
 鏡の向こうにカヲルがいた。
 シンジは急に安心して、引き寄せられるようにカヲルのもとへと鏡をすり抜けた。
「やあ、ごめんよシンジ君、恐がらせちゃったかな?」
「カヲル君、どうして?」
「アスカちゃん達に恐い目にあわされてるんじゃないかと思ってね」
 ウィンクして見せる。
「さあシンジ君、逃げようか」
「うん!」
 シンジは一も二もなくうなずいて、鏡の中の世界を歩きだした。


「ねぇねぇ」
 膠着状態に陥っているレイとカエル仙人。
 その横でアスカが右往左往している、どうしていいものやら悩んでいたミズホの袖を、ちびレイ58号が引いた。
「わぁ、レイさんのお子さんですかぁ?」
 言ってから「誰との?」と恐い考えになってしまって、一生懸命否定する。
「シンジ、カヲルが連れてったよ」
「「なにぃ!」」
 レイとアスカが同時に振り返った。
「ちやーーーんす!」
「やかましい!」
 ぶぎゅる!
 味方を踏み潰すアスカ。
「そんなぁ、アスカさまぁ〜〜〜」
 しばし床に平面カエルとして残っていたが、すぐに消えていった。
「ちぃっ、まさかカヲルまで出てくるなんて!」
「なにやってんのよ、ドジ!」
「あ〜ら、そのドジに大事な人かっさわれたのは、どこのどなたでしたかしら?」
 ばちばちっと火花が散る。
「あの〜…」
 どうにも割り込みづらいミズホ。
「シンちゃんはここに住もうってあたしの言葉に、手をとって見つめてくれたわよ、目で「うん良いよ」って語りながらね!」
 うっとりとアスカ。
「脳に回る栄養が、全部胸に回ってる程度のおつむして、適当なこというなー!」
「なぁんですって!、このぺったん胸が!」
「うるさいわよミルクタンク女!」
「え〜とぉ、洗濯板でもホルスタインでもどちらでも構いませんけどぉ」
「「誰もそんな事言ってないわよ!」」
 見事なシンクロ。
「ふえ〜ん、シンジ様を見つける方が先だと言いたかったんですぅ」
 はっと我に帰る。
「そうだわ、シンジ!」
「早く見つけないと、カヲルの毒牙にかかっちゃう!」
 一瞬ミズホの脳裏に、薔薇をバックに絡み合うシンジとカヲルの絵図が浮かんだ。
「ちょっと倒錯の世界ですぅ」
 それはそれで良いかもしんないと思うミズホであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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