NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':101
「あ〜、面白かった」
ケタケタとレイ、隣ではシンジが抜けかけた腰をなんとか真っ直ぐに維持しようと勤めていた。
それだけに、余計情けなくよたつくことになってしまっているのだが。
「シンちゃん情けなぁい」
(無茶言うなよなぁ…)
ムッとするシンジ。
「でもま、ちょっと高かったもんねぇ?」
レイは半歩先を行くようにしてベンチに向い、腰掛けた。
それはレイなりの気遣いなのだが、シンジは気が付かずにどすっと座り込んだ。
「レイは恐くないの?」
「恐いよぉ?、決まってるじゃない」
(絶対嘘だ)
と思うがそんな事は無い。
「恐いから面白いのに」
「わかんないよ、そんなの」
シンジは溜め息を吐きながら体を折った。
「落ちたら死んじゃうじゃないか…」
「一日何百人って乗ってるんだから、そんなことないない」
無責任に言い放つ。
「万が一、なんて考えてたら遊べないじゃない」
「それはそうだけどぉ…」
上手く説明できない自分に苛立つ。
本能的な恐怖心は拭いされない、これがお化け屋敷なら話しが違って来るのだが。
学校の屋上程度であれば問題無いのは、それは感覚が麻痺しているからである。
慣れが恐ろしさを感じさせなくなる、だからこのような刺激が楽しい、だがそれよりもっと根本的な部分で、レイとシンジには決定的な差があった。
「じゃあ次はもうちょっと大人しく…、コースターにしよっか?」
(何処が大人しいんだよ…)
「ほらっ、早くぅ!」
「…わかったよ」
やれやれと年寄り臭く腰を上げる。
決定的な差、それは…
「一度乗ってみたかったのよねぇ」
好奇心、その塊の大きさであるらしかった。
●
ミヤとレイ、あるいはサヨコもだろう、妙に共通している部分を探せば、こう言う事になってしまう。
『親に育てられたわけではない』
深く読み取る必要は無い、上辺程度の話しである。
公園への散歩、デパートへの買い物、遊園地へのお出かけ、そう言った子供なら誰でも経験のあることが欠けていた。
それだけにはしゃいでしまうし、逆にそう言った事を当たり前に知っているシンジには、どこか『この歳になって』と気恥ずかしさが滲み出ていた。
だからシンジは、レイに比べておとなしかった。
(やっと落ちついてくれたのかな?)
「あ〜、面白かった」
レイはコーラの入った紙コップを手に、空いた腕はシンジに軽く絡めていた。
「そんなに?」
「うんっ!、『ジェットコースター』って結構スピード出てるのね、知らなかった」
ニコニコと無邪気に感想を報告する。
その態度はどこかお子様を連想させた。
(変なの)
だが悪い気がするはずもなく、シンジも微笑みを返していた。
初めてのものに触れた衝撃と感動を、レイは必死になってシンジに伝えようとする。
逆にシンジは既に知っている事だから、余裕を持ってレイの驚きを受け止めていた。
(こんなに喜んでくれるのなら、もっと早く誘ってあげれば良かったな…)
シンジはソフトクリームを舐めた、冬には少し冷えるかと思ったが、思った以上に汗をかいていて暑くなっていた。
「そっか」
「なに?」
「ううん…、ちょっと厚着し過ぎたなと思って」
人いきれと言うには閑散としているが、それでもそれなりに人はいるのだし、それに歩き詰めなのだ。
汗をかくのも当然だろう。
「暑くない?」
「それって、引っ付くなって事?」
「そ、そうじゃないよ!」
レイはくすくすと笑った。
「冗談だってば」
「やめてよね、まったく…」
シンジはぶすっくれてちょっとだけ足を速めた。
「あ、ちょっとシンちゃん」
腕を組んでいたために引っ張られ、ちゃぷっと跳ねたコーラが手にかかる。
「もう…」
レイはそれを舐めて片付けた。
「あそこ」
シンジはそれを横目に見ながら、ソフトクリームで先を差した。
「なに?」
「逆バンジー、見に行かない?」
「行く行く!」
シンジが乗り気を見せてくれたのが嬉しかったのだろう。
レイははしゃいで、舐めたばかりの手にまたコーラを引っ掛けた。
レイが『ジェットコースター』と口にしたこと、その前後の態度に、シンジは一瞬子供を相手にしている様な錯覚に陥った。
瞬間の戸惑いとはいえ、それはシンジを大人びさせた。
(今時ジェットコースターって…)
口にはしないだろう。
その単語の古めかしさが苦笑を導く。
雑誌や漫画、テレビのバラエティなどで見てはいても、実際には知らない。
(僕だって…)
スクーバやダイビング、スキーはともかくとしてスノーボード。
知ってはいてもやった事があるものは限られる。
興味が無いわけではない、および腰なだけである。
シンジはぼうっと、貧困な頭で考えた。
何となく山登りなどが思い付く。
(景色って奇麗みたいだし)
楽しいのかもしれないと想像するとわくわくしてくる。
ハイキングコースを登るだけでも良い、大きな山でなくても、夏の森林の青さと涼しさは魅力的な物だろう。
(レイは…、だからなんだろうな?)
シンジは隣でギャラリーの一人となってカウントダウンしているレイを見やった。
「ごーよん、さんにーいち、ぜろー!」
きゃーっと嬉しそうな悲鳴が満ちる中、挑戦した男性が跳ね上がっていった。
うずうずしているのが見ていて分かる、スカートで無ければすぐさま順番待ちの列に並んだであろう事が容易に想像できてしまった。
(なんだかんだ言ったって…)
まだ子供で、女の子なんじゃないかと余裕で構える。
いつもの大胆さからつい気後れしてしまうのが嘘のような態度であった。
もちろん、シンジが思ったような部分があることも事実ではあるが。
(さってと)
レイは昼食をどうするかの段に入って、ようやく思考を切り変えていた。
(知的好奇心は満たしたし)
ちょっと漢字が多くなるのは、それだけ頭を使っているからだ。
(後は抜け駆けされた分っと)
レイはアスカに負けぬよう、少なくとも同じ程度には甘えさせてもらおうと考えていた。
(アスカの事だから…)
キスぐらいはさせたかもしれないと考える。
その程度では挫けない、と公言してはいるレイであっても、シンジが赤くなりながらもアスカと唇を合わせる所を想像すると、胸が軋むように掻き乱された。
「どうしたの?」
「なんでも…」
この辺り最悪のシナリオを想定するのはアスカ似である。
そしてもう一つ。
(やっぱり、割に合わないもんね…)
抜け駆けされた分は取り返さないととシンジの横顔を盗み見る。
過剰奉仕で謝罪を求める所も、やはり非常にアスカに近い。
「あ、シンちゃん、あのお店」
レイはイタリアンレストランを指差した。
休みの日であれば外のテーブルまで埋まるのだろうが、流石に平日、皆寒さをしのいで店内に陣取っている。
それでも多くのテーブルが空いていた。
「そうだね、あそこにしようか」
シンジはレイに合わせて歩き出した。
(問題はどうやって持って行くかよねぇ…)
もちろんレイには、アスカとシンジとの間に『隠された情事』があるとは思っていなかった。
その様な事があれば、シンジは正直に顔に出すから。
(それもシンちゃんが裏切ったからだもんね!)
自分とキスして、それを追及されるシンジを想像し、レイは気の早いいたずら心にはやっていた。
●
「どうも、クニカズです」
偶然とはあるもので、エレベーター待ちしていた所でミヤは突然話しかけられた。
『失礼…、秋月さん?』
ミヤは自分の写真と交換してもらったクニカズのフォトを目に焼きつけていたため、狼狽気味に返答した。
『は、はい!』
それを思い出すと赤面してしまう。
『三人』は適当な喫茶店で昼食を取る事になっていた。
(ああもう胸がいっぱい…)
恐縮して赤くなる、つい先程まで何を食べるかで涎を垂らしていたのが嘘のようだった。
「そうですか」
「はい、こちらには越して来たばかりで」
にこやかに、固まったミヤの代役を担うサヨコ。
どちらかと言えばサヨコとクニカズが良い雰囲気で、ミヤがおまけにも見えるのだが、側によるとそんな感じは払拭された。
それはクニカズの物腰のせいだった。
サヨコ同様に、浮かれた物がなく、落ちついているのだ。
「この子にもよいお友達が居ればと」
「いやぁ、俺みたいなおじさん相手でいいのか」
な、と振ると、ミヤは裏返った声で反射的に『はい!』っと答えて返してしまった。
実際、クニカズはおじさんと言うほど歳を食っているわけではない。
見た目にも若い、それでも自分をおじさんというのは『牽制』であった。
(本気で好かれてもな…)
奈々やミズホと同様に、そう言った点では相手にしていない。
クニカズは今時珍しく、同年代の恋愛こそが正常だと考える古臭い思想を持っていた。
年下は見守り、年上のものには気を使う。
「でもお話してみて安心しました」
「そうですか?」
「良い人のようで」
サヨコの言葉にクニカズは吹き出しかけた。
意識的にいい人で居ようとしている事を見抜かれたようで。
(まさか…)
様子を窺うが、サヨコは変わらずニコッとしている。
(この人は…)
クニカズは背中に冷や汗がつたうのを感じた、それは自分の善人面を上回る仮面を見たように思えたからだった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
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nary
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