ひょこ…
 シンジが自分のテリトリーではない校舎に入り込むのは珍しい。
「レイ、いないのかな…」
 シンジは加持に聞いた通りに歩いていた。
 やっぱり聞けば良かったかな…
 周りに人は一杯いる、けど聞けなかった。
 ねえ、あれ、碇君じゃない?
 その一言に緊張してしまったのだ。
「あれ、碇君?」
 シンジは教室を覗き込もうとして、そのままびくりと跳びあがってしまった。
「い、碇君!?」
 それに目を丸くしたのはヒカリだ。
「あ、な、なんだ、委員長じゃないか…」
 ずりずりと壁に背を擦るシンジ。
「どうしたの?、こんな所に珍しいわね?」
 ヒカリが差し伸べた手を、シンジは気軽につかんでしまった。
 ザワ…
 ちょっとした騒がしさが起こる。
「あ、ごめん…」
「うん…」
 シンジの反応に、ヒカリも気がついてしまった。
「大変ね、碇君…」
「慣れないよ、やっぱり…」
 ヒカリのことを誤解している視線が多い。
「ごめんね、委員長まで」
「いいわよ…、それよりアスカ?」
「ううん、レイなんだ…、あ、別にアスカに内緒ってわけじゃないんだけど」
 ヒカリはちょっとだけ苦笑を浮かべた。
「ま、いつものことよね?、ちょっと待ってて…」
 シンジに変わって教室に入るヒカリ。
 まいったよなぁ…
 ほんの三十秒ほどだが、シンジは我慢を強いられた。
 二人のクラスかぁ、覗いて見たいなぁ…
 でもわずかなためらいがあった。
 ここにいるだけでこれだもんな…
 好奇の視線が集中して来る。
「あの…、碇君?」
「え?」
 やはり話しかけて来たのは知らない女の子だった。
「あ、なに?」
「ううん、あの、やっぱり綾波さんに会いに来たの?」
 シンジはちょっと迷った後、「うん」と素直に頷いた。






 すたすたすたっと、シンジの手を引きレイが歩く。
「ちょ、ちょっと待ってよ、レイ!」
 シンジはその勢いに転びそうになっていた。
 まったく!、どうしてすぐでれでれしちゃうの!?
 アスカではないが、レイはシンジに嫉妬していた。


「え?、シンちゃん!?」
 レイは小声で、耳打ちして来たヒカリに確認した。
「ええ、廊下で困ってたのよ…」
 ヒカリはクスリと笑った。
 もう!、またどうしようか迷ってたのね…
 その様子が思い浮かぶようでおかしい。
「あん?、レイの奴どうしたのよ?」
 アスカはいそいそと出て行くレイを訝しんだが…
「さあ?」
 と言うヒカリの曖昧な態度に、何となく護魔化されてしまっていた。


 廊下に出たレイが見たのは、女の子に組み付かれて赤くなっているシンジであった。
 そこ!、あたしがしようと思ったのにぃ!
 それができなかったから、レイは…
「いこ?、シンちゃん!」
 っと、強引に腕を取って、シンジを引っ張ってしまったのだ。
「レイ、痛いってば!」
 ピタ…
 レイはそのシンジの叫びに立ち止まった。
 隣の校舎への渡り廊下。
「れ、レイ?」
 怒っちゃったのかな?
 振り向いてくれないので、シンジはこそっと前に周り込んで見た。
「どうしたの?」
「シンちゃん!」
「れ、レイ!?」
 シンジは両肩を捉まれていた。
「ど、どうしたのさ?」
「あのね?、あの…」
 レイはなにかを言おうとして…
 あれ?
 良く分からなくなってしまった。
 あたし、何言おうとしたのかな?
「レイ?」
 シンジが心配そうに覗き込んでいる。
「大丈夫?、しっかりしてよ…」
 シンちゃんの目って、丸くて可愛い…
 少なくともレイはそう思っている。
 どうして、そんなに人のこと心配できるのかなぁ?
 不意にわいた疑問が溶けない。
「ね?、シンちゃん…」
「なにさ?」
 キーンコーンカーンコーン…
 授業開始の予鈴が鳴る。
 だけど二人ともその場を動こうとしない。
「何の用だったの?」
 レイには結局、それを聞くのがやっとであった。






「「ただいまー!」」
 レイとシンジが仲良く帰って来たのは、結局夕方の5時になってからであった。
「あ、やっぱりまだアスカ達帰ってないみたいね?」
「当たり前だよ、クラブだってあるんだからさ…」
 ユイもいない、買い物だろうと見当をつける。
「でもシンちゃんと学校サボったのって初めてかも」
「二人っきりって言うのは、ね…」
 別に不良化したわけではない。
 ちゃんと「校長の御墨付き」を貰っていた。
「でも毎日こうならいいかもしれない、ずっとシンちゃんと一緒だし」
 レイは靴を脱いでいるシンジの隣に並んで腰かけた。
 ちょっと顔が赤らんでいる。
 一秒、二秒、三秒…
「ちょっとシンちゃん?」
「ん、なに?」
 シンジは一生懸命靴の紐を解きにかかっている。
「もう!、どうしてちゃんと聞いてくれないの?」
「ごめん、緊張してて…」
 え?
 レイはギシッと固まった。
「だってさ、僕なんかに本当に旨くサポートできるのかって、ちょっと心配になっちゃって…」
 なんだ…
 二人っきりのことを言っているのでないと知ってがっかり来る。
「大丈夫だって、だってシンちゃんにはあたしの付き人してもらうだけなんだから…」
「そう言うわけにはいかないよ」
「え?」
 立ち上がられると、ちょっとだけレイはシンジを見上げる事になってしまう。
「レイを知らない人達ばかりの所になんてやれないでしょ?」
 シンちゃん…
 レイはほうっと見とれてしまった。
 そうさ…
 シンジの脳裏に思い浮かぶ光景。
 あの時みたいに、泣かせちゃいけないんだ…
 ジオフロントでの涙。
「ちゃんと側にいるからね?」
「うん!」
 レイはシンジに抱きついていた。






「シンちゃん、何処行くの?」
「えっとね…」
 シンジはレイに、加持に貰った地図を見せた。
「これって…、第三新東京テレビのスタジオ?」
「うん…、収録が行われてるから見てこいって、加持さんが」
 どういうつもりなのかなぁ?
 レイは訝しんだが、もう学校を出てしまっている。
 今二人は駅を出て、スタジオを探して歩いていた。


「よお、来たな?」
「お邪魔します…」
 シンジにとっては始めてのスタジオであった。
 わかっていても、ついきょろきょろとしてしまう。
「やあ、君達か」
「あ、山寺さん!」
 中から出て来たのは、あのレイとあわや危ない共演をしそうになった山寺だった。
「久しぶりだね、綾波さん」
 軽めの感じを見せているが嫌味じゃない。
「あ、この間はお世話になりました…」
 ちょっと赤くなってしまうレイ。
 レイははにかむように笑った。
 シンちゃんのことじゃお世話になっちゃったしね…
 なんだよ、ちえ…
 だけどシンジは誤解している。
「今日ここに行けって言われたんですけど…、山寺さんの見学をしろって事だったんですか?」
 シンジは二人の邪魔をしないように、わずかに引いてタタキに尋ねた。
「なんだ、また説明してもらえなかったのか?」
「……」
 シンジはすねるように二人を眺めた。
「僕には、関係無いって事でしょ?」
 こりゃ重傷だなぁ…
 くっくっくっと、忍び笑いを漏らすタタキ。
「おおい、山寺」
「なんですか?」
 レイはあれ?っと首を傾げていた。
 その表情は、「どうしてそんな所にいるの?」と言ったものである。
 シンジはずっと、隣にいると思っていたのだ。
「いいから、この二人にさ、遊んで行ってもらおうや?」
 タタキのウィンクは、いたずら心が詰まりに詰まったものだった。







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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