「それじゃいくぞ?、ワンツー!」
タタキはスタジオ内に、適当なドラムのリズムをスタートさせた。
何で僕まで…
シンジはギターを持たされていた。
体が自然とリズムを刻んでしまっている。
ま、いっか…
シンジは口元に浮かんで来る笑いを、そのまま素直に現わした。
「いくよ、レイ!」
「うん!」
シンジの前で、同じように弾んでいるレイのお尻があった。
レイって、結構良い音感してるんだよね…
シンジは何の曲かも告げずにスタートした。
「止ぉめどなく、あぁふれてぇー…」
レイ、ちゃんとアレンジして自分の曲にしちゃう事も出来るし、凄いよね…
素直にレイの才能に感動している。
だがそのシンジにも、タタキ達は驚いていた。
「やれるじゃないか…」
山寺が感嘆の声を漏らしていた。
足でリズムを確かめている。
シンジのギターは完璧なリズムを刻んでいた。
「レイちゃんの声も効いてるけど、しかしな…」
レイもドラムのビートに沿って歌っている。
そこからは一度も外れていない、メトロノーム並に完璧な感覚だ。
しかしギターを操って、それに追従しているシンジ君は…
レイは喉がぶれないように、体を揺する程度にとどめている。
しかしシンジは乗っているのか?、足踏みをしたりと忙しない。
それで手元が狂う事もない?、いつのまにこんなにレベルを上げたんだ…
タタキが知っているのはオーストラリア前までだ。
それまでか、それ以降か…
「レイちゃん、光ってるよぉ?」
ニヤリと口元が歪む。
レイは汗で額に張り付いた前髪を気にしながら微笑み返した。
ここは、やはりシンジ君も一肌脱いでもらわなきゃな?
タタキは冊子を手に持ち、軽く表紙をパンと叩いた。
「なんです?、それ…」
「秘密書類」
そこには「アイドルプロジェクト」と言うタイトルが印刷されていた。
●
運よく二人っきりの時間が追及されないまま、金曜日が訪れた。
ドタドタドタドタドタ、バタン!
さて諸君は、幸福量保存の法則と言う者を御存じであろうか?
今日、この日シンジのお腹は切迫していた。
起きた途端に「ギュルルルル!」だ。
…不幸とは突然にして訪れる物かもしれない。
普段が幸せであればあるほど、不幸はその質量を増して襲って来る。
「はうっ!」
個室の中からくぐもった悲鳴。
端的に説明すると…、シンジはチャックで挟んでしまった。
「はううううう、シンジ様、シンジ様、シンジ様ぁ、大丈夫ですかぁ?」
通学路、何故か前屈みで電信柱に手を突き歩くシンジを心配する。
「だ、大丈夫だよ、多分…」
言えない、これは言えない…
シンジは真っ青な顔をして、なんとか無理矢理に笑っていた。
はぅん…、シンジ様、よっぽどお辛いんですねぇ…
何かを誤解しているミズホ。
シンジの脳裏には、つい先程のトイレでの光景が思い浮かんでいた。
進退きわまった前方での事故。
チャックを上げる事も下ろす事も出来ない。
すでに絶対防衛線を越えている後方のトラブル。
もう、だめ…
中腰のまましゃがむ事も立つ事も出来ずに固まっていたシンジ。
「ちょっとシンジ!、早く出なさいよね!!」
そこにドンドンドン!っと激しく扉が叩かれた。
ヤバい、向こうも切迫してるんだ…
これ以上粘ると何を言われるか分からない、思い切ったシンジの行動、その結果が…
「無様なもんよねぇ…」
だった。
「大体シンジが悪いのよ、いっくら面倒臭かったからって、着替えないで寝ちゃうんだから…」
ううっと、恨みがましく見るシンジ。
「しかたないだろう…、夕べは悩んでるうちに寝ちゃったんだから…」
その言葉に、シンジの背中にレイがピトッと張り付いた。
「ね?、ね?、悩んでたって、なにを?」
無邪気に耳に息を吹き掛ける。
「わっ!?、な、なんだよ、なにするんだよ!?」
「冗談だってぇ、それより、悩んでたって何?」
「うん…」
シンジはちょっとだけ嬉しそうな顔をした。
「アスカのプレゼントなんだけどさ…」
その言葉に照れるアスカ。
「まだ見てなかったのぉ!?」
レイはあきれた様に驚いていた。
「見たよ!、見たけど…、どう解釈すればいいのかと思ってさ…」
何が入っていたのかしら?
アスカを見やるが、とぼけた顔をしたまんまである。
「まあいっけど…、ねえ、それよりぃ…」
レイは隣に並び、シンジの股間部を前屈みになって見下ろした。
「ほんとに大丈夫?、一体シンちゃんなにやったの?」
無言のシンジとアスカに、なんとなくピンと来てしまう。
「あああー!、なにかエッチな事してたんだ!」
「えええ!、そうなんですかぁ!?」
「んなわけないだろぉ!?」
「ないってどういう事よ!」
あ、あの、その…
予想外のアスカの突っ込みにうろたえてしまった。
「ふふふ…、まあいいじゃないか、シンジ君」
「カヲル君…」
みんなの背後から、全員を掻きわけ引きはがすようにシンジの隣に並ぶ。
「あんたいたの?」
その冷たいお言葉にも、余裕をもってかわしてあげる。
「男にしか分かち合えない苦しみさ、そうだろう?、シンジ君…」
「うう…、出来れば知らないままの方が良かったよ…」
ボト…
前方正面、少し先で少女の手から鞄が落ちるのが見えた。
「あ、薫さん」
無邪気に微笑むシンジ。
パタン…
縦に落ちた鞄がゆっくりと倒れた。
「だめえええ!」
薫ダッシュ!、一気にカヲルに飛び付き、逆手でシンジを振り払う。
「うわぁ!」
ゴン!
「あっつぅ…」
電柱に頭をぶつけて涙目になるシンジ。
「し、シンジくぅん!」
慌てて駆け寄ろうとするカヲル、しかし薫がじゃまで身動きできない。
「不潔な関係なんてダメよカヲル君!、ちょうどそこにホテルがあるから!」
とんでもない事を言い放つ。
さすがのカヲルも動揺の顔色を浮かべた。
「学校の近くには建てられないって決まっているんじゃないのかい?、それに表札にナカザキって書いて…」
「気のせいよ!」
シンジくぅん…
泣き声がドップラー効果を生んで消えていく…
「あたたたた、あれ?、カヲル君は?」
呆れた表情でアスカが近寄る。
「あんた…」
「ごめん、耳鳴りしてて良く聞こえないんだけど…」
アスカは黙って、シンジの前髪を掻き上げた。
「…コブができてるわね?」
「それですんで良かったよ…、こっちはそうもいかないしさ」
「そっちって?、あ…」
アスカはまたも赤くなってしまった。
「えーー!、まさかシンちゃん、あそこ怪我しちゃったのぉ?」
気付かれちゃった!?
シンジははっとして身構えた。
「ちょちょ!?、あんた声おおきいわよ!」
しかしアスカはレイの口を塞ぐので手いっぱいだった。
「そんなぁ!、それではご使用不能になる前に、せめて数百ccは保存しておかねば!」
「「「えっ!?」」」
一同は身をよじり照れまくるミズホに、どう突っ込んで良いものやら戸惑ってしまっていた。
●
ガラ!
教室に入って来たカヲルを見て、シンジは息を止めてしまった。
「か、カヲル君、どうしたの、一体…」
「酷いねシンジ君は、危うく犯される所だったよ…」
髪はぼさぼさに乱れ、シャツはボタンが二つほど飛んでいた。
「…誰にやられたの?」
「薫だよ…」
「薫ちゃんが!?」
シンジには信じられなかった。
薫にカヲルを襲えるほどの力があるとは思えなかったのだ。
「シンジ君…、女の子って言うのはね?、時として常識を越える物なのさ…」
シンジはマナをじぃっと見た。
「…そうかも」
「あ、ひっどーい!」
ぷうっと真っ赤に膨れ上がるマナ。
「あ、ごめん…」
思わず机の上で平謝るシンジ。
でも、僕は…
シンジが見ていたのはそこにいるマナではなく、いつも見ている三人の女の子の影であった。
●
「さて、では今日で綾波さんは四類に移ることとなり…」
教室の一番前に立っている。
レイはニコニコとしているのだが、逆にアスカはあんぐりとしてしまっていた。
あのバカ!、結局行くつもりになってたのね!?
それを隠していたのだと気がついて、アスカはもう一つの可能性にも引っ掛かった。
シンジ!
あいつも知ってたんだわ…
ギリっと歯ぎしりしてしまう。
やってくれたわね、二人でもって!
アスカのボルテージが上がっていく。
シンジの命は後、灯火と言えるほども残っていないかも知れなかった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
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