「まあ、それじゃあ明日は…」
「はい、シンジと二人っきりで出かけて来ます!」
 思いっきりご機嫌なアスカは、にこにことユイに報告していた。
「それでシンジは?」
 シンジはミズホに捉まっていた。


「ミズホぉ…、いいかげん離してよぉ」
「うるうるうるですぅ…」
 ミズホは負けたショックに寝込んでいた。
「わかったよ…」
 はぁっと言うため息をつくシンジ。
 ミズホは心配して見に来たシンジの手をつかむと、逃がさないようにつかんでいた。
 シンジがいくら頼んでも離そうとしないのだ。
「でも気分が悪いならちゃんと寝てないと…」
「うるうるうるうるぅ…」
 はぁ…
 ずっとこの調子である。
 シンジは諦めて、ミズホを寝かし付けることにした。
「じゃあここに居るから、安心しなよ」
「はいですぅ…」
 シンジに優しく撫で付けられて、瞳を閉じるミズホ。
 まいったなぁ…
 シンジは所在無げに視線を漂わせた。
 ミズホの使っている机は製図画用のパイプと板だけで構成されたシンプルな机で、その上に怪しげな薬が並んでいた。
 …誰に使う気なんだろう?
 ぞっとするシンジ。
 あれ?
 その一つ、漢方薬風の箱の表記に、知っている名前のものがあった。
 あれは…
 そう、「赤木印のツヨキニナールZ」であった。






 用法を守って御使用下さい…か、ミズホ、何も確認しないで使ったんな…
 その副作用を思い出しぞっとする。
 翌日の朝、シンジは夕べなんとなく持ち出してしまった薬瓶を眺めていた。
「シンジぃ、どこにいるのよぉ?」
「あ、うん、いま行くよ…」
 慌ててポケットの中にしまい込むシンジ。
「もう着替えはすんだのかい?」
 子供部屋に朝食を取ったばかりのカヲルが顔を出した。
「うん、カヲル君…」
 シンジは未練の残る目を向けた。
「じゃあ…、後はお願いするけど」
 カヲルはまだ何か言いたそうなシンジを遮って答えた。
「わかったよ、君は心配性だね?」
 くくっと小さく笑いを堪えるカヲル。
「そうかな?」
「そうだね?」
 こほんと、その笑いをカヲルは消した。
「でも気にかけてもらえることは嬉しいものさ、ましてや愛しい人ならね?」
「かかか、カヲル、くん!?」
 カヲルの手がシンジの頬に添えられた。
「僕の心配はしてくれないのかい?」
 からかうような言葉。
「そんなの!、必要ないじゃないか…」
 だからシンジは振り放って距離を取った。
「どうしてそう思うんだい?」
 ちょっと傷ついたような顔をしているカヲル。
「だって…」
 目線を外すシンジ。
「カヲル君は、なんでもできるし、しっかりしてるし」
 シンジの頬が赤くなっていく。
 照れているのかい?
 カヲルの目に妖しい物が宿ってきた。
「そんなことはないさ」
「あるよ…」
 カヲルはもう一度触れ合おうと近寄る。
「少なくとも僕にはレイに安らぎを与えることはできない…、それは君だけにできる特権的な行為だからね?」
 うつむくシンジの体を抱く。
「でも、レイはそれを捨てた…」
 シンジは一瞬吐き捨てた。
「そう思っているのかい?」
 シンジの頭に腕を回すカヲル。
「…わからない」
 シンジは正直に答えた。
 カヲルの腕に手をかける、だがそれはほどくためではない。
「だって自分のためじゃなかったの?、だから頑張るって、僕たちのクラスに来たんじゃなかったの?」
 かけた手に、不自然なくらいの力がこもった。
「僕も手助けできて嬉しいって思ったんだ、でもレイはそうじゃなかった…」
 寂しげに、カヲルの首元にうつむく。
 カヲルはやれやれと頭を悩ませた。
 恋敵に恩を売るのも悪くはないかもしれないけどね?
 そうやって、自分をごまかしてから口にする。
「レイが言っていたよ…」
「え?」
 シンジは顔を見ようとしたが、カヲルは逆に固定した。
「シンジ君にかまって貰える、一番の方法かもしれないって…」
「一番?」
 なんのことだか、意味が分からない。
「付きっきりに、なってあげたんだろう?」
 あっと驚く。
 そんな…
 シンジの声が少し震えた。
「…じゃあ、自分のためじゃなかったの!?」
 純粋に驚いてしまっている。
「それもあるよ、もちろんね?」
 シンジ君に側に居てもらいたいと思っていたんだろうからね?
 カヲルは説明を「少しばかり」省いて続けた。
「でもそうかもしれないね?、僕はレイじゃないから、心の全てはわからないよ…」
 シンジはふと考え込んだ。
「じゃあ、レイは…」
「もっと一緒にいたかったんじゃないのかい?、だから賭けにも乗ったんだと思うよ?、それは「独占」と言う甘美な言葉と同義だからね?」
 独占…
 あっと思い付く。
 上機嫌のアスカ。
 レイも、二人っきりになりたかった?
 急に塞がり、考え込む。
 やれやれ、シンジ君も人の心と言う物を少しは理解しなくちゃね?
 もちろん、自分の気持ちを一番に理解してもらいたいと、捉まえた腕に力はちゃんと込めている。
「さて、そろそろ時間なんじゃないのかい?」
 カヲルはそれでも、ちゃんとシンジを解放してあげた。
「…え?、あ、うん、そうだね」
 冷めていく温もりに名残惜しさを感じるシンジ。
「楽しんで来ると良いよ、その間のご機嫌ぐらいは取っておくから」
「ごめん、ありがとうカヲル君!」
 シンジは慌てて玄関へ向かった。
 ふうっと、息を深くつくカヲル。
「…レイ、かくれんぼはもう、やめにしてもいいんじゃないのかい?」
 レイはこそこそと襖を空けて、自分の部屋から顔を出した。
「その目はなんだい?」
 口を尖らせているレイ。
「おせっかい…」
「かも知れないね?」
 ぷうっとそっぽを向くレイに、カヲルは微苦笑を浮かべていた。






 一方はまあ見栄えしないでも無いだろうがと言う程度の少年。
 ただそう見せているのは、隣の快活そうな美少女の存在だった。
「ねえ、今日はどこに行く?」
 住宅街を、駅に向かって歩いていく。
 少女ははしゃぐ自分を隠そうともしないで、少年の顔を覗き込んだ。
「え〜?、アスカ決めてたんじゃなかったの!?」
 おもむろに不平をぶちまけたのは当然シンジだ。
「あんたねぇ…、こういうのは男の子がリードするもんだって決まってるでしょうが?」
 アスカの口元に不満の歪みが現われる。
 と同時に、シンジの口にも歪みが生まれた。
「…そんなの誰が決めたんだよ」
 あたしっと、アスカは自信をもって胸を張る…
 逆らうだけ無駄なんだよな…
 シンジはアスカに一応の抵抗を試みた。
「言っとくけど、そんなにお小遣いないからね?」
 えーーー!っとアスカは悲鳴を上げた。
 通りがかる人が居れば、十中八九、振り返りそうな大声だったが、幸いにも辺りに人は居なかった。
「あたしだってそんなにないのに…」
 明らかにアスカはシンジの財布を当てにしていた。
「え?、どうしてさ」
 アスカいつもちゃんと貯金してるのに…
 当然シンジの無駄遣いだって心得ているはずなのだ。
 しかしアスカは黙り込んでしまっている。
 …あんたに上げた弦、高かったんだからね?
 しかしそんな恩着せがましいこと…
 言えるはずないじゃない、気がつきなさいよね!
 アスカはシンジの腕に組みついた。
「な、なに!?」
 えいっと言う思い切った行動に、一瞬焦ってしまうシンジ。
「恥ずかしいでしょ?」
「うん…」
 挑むような笑みに、シンジはつい、はにかんでしまった。
「…なによ?」
 怪訝そうに、だが確実に照れてしまっているアスカ。
「…うん、アスカとこうするのって、何だか不思議で」
 シンジは鼻先をポリッと掻いた。
「そお?」
 ついでにシンジの肩に頭を預ける。
「だってめったにないから、アスカが腕を組んでくれるなんて」
 あたしだって、もっとしたいわよ。
 そんな呟きが耳に入った。
 そっとアスカの顔を覗き込もうとしたが、アスカが照れてあっちを向いていたので見えやしない。
「アスカに好きって言っておいて、良かったと思うよ」
「え!?」
「あ、いや!」
 シンジはつい口にしてしまった言葉の意味に気がつき、焦った。
「そ、その違うんだ、あの、僕はアスカと話してると楽しいとかうかれちゃうとか、あの…」
 だんだんとしどろもどろになっていく。
「ふぅん…」
 取り消そうとした事には腹が立った。
 でも、悪い気はしないわね?
 シンジの様子に、にんまりとしてしまう。
 照れなくてもいいじゃない。
 アスカはシンジの耳元に唇を寄せた。
「シンジって、あたしといるとそんな感じがしてたんだ?」
 あうっと、シンジは真っ赤になってどもってしまった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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