「だだだ、だってさ…」
「なによ?」
 シンジは半身を通して、アスカの全存在を感じ取ってしまっていた。
 押し付けられた体は、シンジの知っている誰よりもボリュームがあった。
「前は…、クラスも同じだったし、大体いつも一緒だったから」
 胸、また大きくなったよね?
 不謹慎な事も考えている。
「だから、なに?」
 そんなことには気付きもしないアスカ。
「うん…、同じことして、同じ物見てたから、話すことも同じだったし、面白いって思える事も一緒だったでしょ?」
 そうねぇ…
 アスカは適当に思い浮かべた。
 まあ少なくとも、マンガの趣味は同じなのよね?
 お互い貸し借りをしていたために、平均化してしまっていたのだ。
「でも、今は楽しいんだ」
「何がよ?」
「う〜ん…」
 言っておきながら、シンジは後から言葉をまとめにかかった。
「知らないアスカがいる事、かな?」
 そして導き出した答えがそれだ。
「なによそれ?」
 苦笑を浮かべて、困るシンジ。
「うん…、うまくは言えないんだけどさ、一緒に居ない時、見かけない時、何してるのか不安になる事があるんだ…」
 そりゃあたしの方よ…
 つい口にしてしまいそうになったのだが、アスカは全プライドをかけて、その一言を飲み込んだ。
「で?」
 代わりにそ言葉が口をついて出る。
 そんな内面の葛藤には、これっぽっちも気のつかないシンジ。
「でね?、その時何してたとか、後からレイに教えられたりするんだよ…」
 あの子は…、口が軽いんだから、まったく!
 ちょっと怒る。
 シンジは勢いに乗って来たのか、口をどんどん滑らせていく。
「アスカにも聞かされたり、うまく言えないけど、なんだか気になる女の子のこと聞いてるマンガの主人公みたいで、楽しいんだよ…」
 はぁん…
 アスカはようやく、ピンと来た。
「それって、あたしが浮気してないかって事?」
「ええ!?」
 分かっていてからかう。
「そ、そんなこと!」
「考えた事もない?」
 ちょっと悲しそうな顔を作って見る。
 ほんとのこと言わないといけないよな…
 その顔にシンジはまんまと騙された。
「…ある」
 シンジは素直に答えた。
「どうして?」
 あたしは裏切ったりしないわよ?
 シンジのことは、棚上げしている。
「だってさ…、ラブレター貰ったとか、告白されたとか、色々と話を聞くから」
 噂だけなんだけどねぇ?
 アスカは自信を持ってそれを言えた。
 なぜならラブレターは即ごみ箱行きだし、告白についてはにべもなく断っていたからだ。
 でもアスカはシンジを安心させなかった。
「あんたがもうちょっと頑張って、彼氏って態度とってくれたら良いんじゃないの?」
「どうしてさ?」
 アスカは目尻を釣り上げた。
「あんたバカァ?、虫のくっついてる女の子なんかに、言い寄るような奴なんて居ないじゃないの!」
 あ、うん…、ごめん。
 シンジは反射的に謝っていた。
 これだものねぇ…
 ちょっとでも期待してる自分がバカみたい…
 アスカはそんな心を慰めるために、シンジの腕をもっと余計に抱き込んだ。
「あああ、アスカ!?」
「ほら!、あんたはどう答えてくれるのよ?」
 シンジには無理と分かっていても愚痴ってしまう。
「わかったけど…」
 シンジは一生懸命シュミレートした。
 でもそんなの無理だよ…、みんなだっているんだからさ…
 シンジは素直に口にした。
「レイ達が許してくれるはずないよ、そんなの…」
「まあね」
 みんなが居る場所で腕なんか組んでいたりすれば、当然反対側の腕も誰かに取られる事になるだろう。
「どうしたの?」
 シンジはアスカの様子が気になった。
「なにがよ?」
「いや、その…」
 もっと怒られるかと思ったのに…
 そんなにおどおどしなくてもいいじゃない…
 アスカはそんな態度こそに不満を感じていた。
 許してくれたら、あたしと付き合う気があるのかしらね?
 そっちの嬉しさの方が大きかったのだ、自然と頬が緩んでしまっている。
「でも今は二人っきりなんだから…」
 ぽてんと、シンジの肩に頬を当て、アスカはねだるようにシンジを見上げた。
「できるでしょ?」
「…努力して見る」
 シンジにしては、思い切った返事だったかもしれない。
「で、話は戻るんだけど…」
「ん?」
 こいつ、背が伸びたわね?
 アスカはちょっとだけ見直し…
「何処に行くの?」
 そしてちょっとだけ変わってないと、安心した。






「うう、シンちゃ〜ん…」
 スタジオの隅っこでいじけているレイ。
「どうしたんだ?」
「シンジ君を取られちゃいましてね?」
 タタキに説明するカヲル。
「なにぃ?、そいつは痛いなぁ…」
 タタキは予定していた内容を、頭の中で回転させた。
「そうなんですか?」
 分かっていて尋ねるカヲル。
「ああ、やってもらいたい事があったんだが…」
 ちらりとレイを見やる二人。
「当面こっちを問題にするしかなさそうだな」
 タタキの言葉に、カヲルは苦笑を浮かべて応じた。






「そうねぇ…」
 アスカはちょっとだけ考えていた。
「とりあえずどこまでの切符を買う?」
「うん?」
 シンジはいつもの調子で、ジオフロントまでの切符を買おうとしていった。
「街には行かないの?」
「行ったって遊べるほどお金ないんでしょ?」
 あ、そっかと、シンジはボタンを押すのをためらった。
「あそこに行って見たいって思い付くかもしれないし、そういうのも楽しまなくっちゃ、せっかくの土曜でしょ?」
 微笑むアスカ。
「そうだね、時間はあるんだから…」
 シンジは返却レバーで、お金を戻した。
「短いわよ、すぐに過ぎちゃうんだから…」
「え?、でもまだ10時にもなってないよ?」
 シンジは時計を持って来ていなかった。
 かわりに携帯電話の時計で確認する。
「楽しい時間って、過ぎてくのが早いのよ!」
 勢いではなく、わざと耳元で怒鳴ってみる。
 シンジは耳が痛かったが、アスカの目が笑っていたので、自分も笑って済ませてしまった。

「あんた…」
「え?、なに」
 振り返る。
「ほんと、なに考えてんのよ…」
 本屋で立ち読みしていたデートマップ。
 本屋に行って決めようよ。
 それがシンジの出した妥協案。
 結果、悩んだ末にシンジが選んだのが動物園だった。
「なんだよ、アスカが早く決めろって言ったんだろ!?」
 まぁだぁ?、いつまでかかってんのよ?
「あんたがこれはどう?、そっちはって、自分の意見を持たないからでしょうが!」
 言葉のやり取りだけではケンカしているようにも思える。
 しかし腕を組んでの状態ではそうは見えない。
「ほんと、あんたってばせっつかないと決められないのね?」
 しかしアスカは照れていた。
「だったらアスカが決めれば良かったんじゃないか…」
 口を尖らせる。
 でも怒ってはいない。
「嫌よ」
 アスカは逆に微笑んだ。
「なんでだよ?」
 どこでも良いじゃない、あたしといて楽しけりゃ。
 その言葉がシンジを押した。
「あんたがどう思ってるかは知らないわよ?」
「うん?」
 アスカと目線を合わせる。
「でもね?、あたしはそう…、誕生日プレゼントのお返しだと思ってるのよ…」
 でもなぁ…
 それでもシンジは納得がいかない様子だった。
「だからもっと楽しそうに、あんたがリードしてよね、お返しなんだから!」
 囁くような事はせずに、弾みを付けるように口にする。
 はぁ…
 シンジは一息だけため息をこぼしてしまった。
「わかったよ」
 でも次の瞬間には、アスカに突っ込まれるよりも早く笑いを顔に浮かばせている。
「それで、アスカは喜んでくれてるの?」
「シンジが連れて歩いてくれれば、それで良いのよ」
 だったらもっと素直になってよ…
 でもシンジは同時に知っていた。
 まあ、これでも十分素直かも…
 歩く度に、シンジの肘がアスカの胸に食い込んでいる。
 気にしちゃダメだ、気にしちゃダメだ、気にしちゃダメだ…
 いつもなら振りほどく、でも今日はその理由が見つからない。
「ほら見て見てシンジィ、お猿よ、さぁる!」
 わかってるって…
 シンジははしゃぐアスカの対応に苦慮していた。
「アスカってさ…」
「なに?」
 猿を見たまま、返事をする。
「ほんと、お猿が好きだよね?」
「そんなことは無いわよ?」
 言葉なんかとは裏腹に、そういう風にしか見て取れない。
「だって…、アスカ、僕の名札のついたお猿のぬいぐるみ持ってたじゃないか」
 ビシ!
 その瞬間、アスカは完全に固まっていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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