「ところでさ、シンジに隠れて浮気か?」
 ケンスケは口元を手の甲で隠しながらカヲルに尋ねた。
「まさか?、僕がそんな事をするように見えるのかい?」
 うんうんと頷くケンスケ。
「見えるね、きっぱりと」
「酷いね、君は?」
 苦笑する。
「そっちが不満そうだからな?」
「本妻でーす」
「じゃあ内縁の妻取った!」
「取らないでよぉ!」
 和子の首を締めて振る。
「ほーほっほっほっ!、薫なんて援助交際で十分よ!」
「和ちゃんこそ捨てられて五寸釘でわら人形打ち付けてればいいのよ!」
「べーっだ、じゃあやっぱりカヲルとまず付き合うのはあたしで決まりね!?」
「おい、良いのか?、凄い事になってるけど…」
 さすがのケンスケも引きまくる。
「これが彼女達の愛情表現だからね?、見ているしか無いのさ」
 アスカたちを見ている為か、つい静観する癖が出てしまう。
「そっか」
「「って納得しないで下さい!」」
「そのハモリ方見てるとさぁ…」
「「ぷいっ!」」
「仲がいいとしか…」
 和子はくいっと腕を取った。
「カヲル、行こう?」
 カヲルの腕に組み付き引っ張る。
「ちょっと和ちゃん、腕組まないでよ!」
 だから薫は、反対側の腕を奪った。
「あんたこそ!」
 カヲルの前でにらみ合う。
「仲がいいよな?」
「そうだね?」
「じゃあな、シンジみたいでカッコいいぞ?」
「それは嫌味と受け取っておくよ?、さよなら、和美ちゃん」
「あ、はい」
「じゃあね!」
「お休み、和美ちゃん」
「おやすみなさぁい」
 和美達が遠くなる。
「いいのかい?」
 カヲルは十分に離れてから和子に尋ねた。
「まあ、しょうがないし」
 舌を出す。
「恐いのかい?、拒絶が」
「信頼されるのも、でも笑ってたから…」
 苦笑いを浮かべてしまう。
「薫のように?、それとも君のようにかい?」
 カヲルは明るい薫が好きだという話を思い出した。
「あの人には、和美ちゃんが必要なんですよ」
 義理の母親を指しているのだ。
「君がお父さんにとって必要であったように?」
「大切にしてる、見ればわかりました」
「それだけじゃないんだろう?」
 和子はカヲルの腕から離れた。
「お父さんがいつも言ってました…」
 月を見上げる。
「あたしが元気づけてくれるって、カンフル剤になってるって」
「…今は?」
 カヲルと薫、腕を組んでいる二人を羨ましげに眺める。
「今は薫だけじゃなくて、みんなの元気薬になるって決めてる!」
「そのためのから元気なのかい?」
「これは本物!、お父さんが死んだ時に全部捨てたんです」
「捨てた?」
「そう…」
 ちょっとだけ前にでて振り返る。


「あの子、お父さんが死んでも泣きもしないのよ?」
「それどころか、楽しそうにね?」
「嬉しいのかしら?」
「酷い子だものね?、友達にも酷い事をしたって話しじゃない?」
「ああ、友達の付き合ってた子をってやつでしょ?」


「冷たいって言われたけど何とも無かった、みんな居なくなってたし、ひとりっきりって…」
 女の子らしく、胸の前で手を合わせる。
「和ちゃん…」
 カヲルから離れる薫。
「あ、違う違う、もう昔の話だって、今は薫だっているんだから!」
「うん」
 それでも和子の腕にそっと組み付く。
「それで…、まあ、どうでも良いかなって思ってたんだけど、気付いちゃって…」
「気付く?」
「うん…」
 和子は薫の髪に顔を埋めた。
「みんなに合わせてたあたし、お父さんに心配かけないでおこうとしてたあたし、友達友達って、好きとか嫌いとかって考えないようにしてたあたし、でもいい人は好きになれるし、嫌な人は毛嫌いするのが当たり前なんだって気がついちゃって」
「でもそれは寂しい事だね?」
 和子の息の熱さを旋毛に感じる。
「でも無理をしてまでってことはないから、お父さん、たまに愚痴こぼしてました」
「愚痴って?」
 薫はくすぐったいのか逃げるようにする。
「うん、会社のこととか、でもあたしがいるからってやらなきゃいけないって事は隠して、そのせいで余計なストレス溜めこんじゃって…」
「辛かったのかい?、見ていて」
「気付きませんでした、後で考えてて…」
「気のせいじゃないのかい?」
「思い違いかも…」
 顎の下に指を当てる。
「でもあたしの記憶が正しければ…」
「思い当たる節はあるか…」
 はいっと和子は頷いた。
「だからあの人もきっと同じ…」
「和美ちゃんは支えでもあり、生きるための目的でもある?」
「きっと和美ちゃんがとっても大事なんですよ、だからあたしみたいのは居ない方が良いって…」
 薫はぎゅっと、和子の腕を抱きしめた。
「薫…」
「君は自虐的なんだね?」
 しかしカヲルの言葉には首を振る。
「それほど不幸せじゃないですから」
「ほんとに?」
「くどいって薫は」
 いつもの笑みを見せてやる。
「お父さんは確かにいたし、お父さんが残してくれた物はあるし、あたしは自分で見つけた物だってあるの!」
 腕を抜き、和子は逆に薫の腕を抱き込んだ。
「薫のことかい?」
「そう!」
「和ちゃん、憂しい!」
 和子の頬にキスをする。
「こら!、襲っちゃうわよ!?」
「ん〜、今日だけは許したげる!」
 もう一度。
「あ、もちろんカヲル君も一緒に…」
「僕はおいとますることにするよ、いいかな?」
「先輩!、あたしのことが嫌いなんですね!?」
「和ちゃん芝居バレバレ…」
「僕はそういうのは苦手なのさ」
「え〜!?、じゃあ先輩も一緒に磨きましょうって!」
 薫と二人で両脇を固める。
「何を磨くんだい?」
「「ナニを」」
「…聞かなかったことにしておくよ」
 逃げようとしたが、すでに状態は固められてしまっていた。
「そうはいきませんって!」
「ねえ?」
「僕の純潔は僕のものさ」
「いえいえいえ、無理矢理って燃えるらしいですよぉ?」
 カヲルの耳をパクッと咥える。
「和子ちゃん、君に必要なのは陰気さだね?」
「そんな役に立たない物、捨てたって話したでしょ?」
「薫は嫌じゃないのかい?」
 隣に逃げ道を探索する。
「ん〜とぉ…、まあ二番目ぐらいなら許してあげてもいいかなぁって…」
 はぁ…とカヲルはため息をついた。
「じゃあ一生縁は無いね?」
「「作ります!」」
「おやすみ」
「「逃がしません!」」  てやっ!っとカヲルの足を引っ掛ける薫。
「極上だぜ!」
 和子はぐっと親指を突き出した。






「おかえり、父さん」
 キッチンでカメラの手入れをしているケンスケ。
「ああ、和美ちゃんは?」
「寝ちゃったよ」
「そうか…」
 ふうっと疲れたように腰掛ける。
「なにかあった?」
「ああ…、あの後二人で話したんだが…」
 ぴらっと一枚の写真を机に投げる。
「この写真?」
 ケンスケはその古い写真の少女を観察した。
「こっちに、娘さんが一人で暮らしてるって話し、したよな?」
 髪は長いが間違いは無い。
「これ、和子ちゃん?」
「知ってるのか?」
 驚いたように声を出す。
「今日ジオフロントで会ったじゃ…、気がつくわけないか」
「すまん」
 頭を下げる。
「いいけど、和子ちゃんが?」
「…実の娘じゃないらしい」
「それで…、か」
「ん?」
 ケンスケは二度のおかしな態度を気づかった。
「昼間の態度、きつかったからさ」
「そうか…、どう思う?」
「どうって…」
 きつく当たった部分だけは引っ掛かる。
「いい人だとは思う、ただお前にまで…」
「いいって、子供じゃないんだからさ、それに…」
「それに?」
「父さん達とは別に暮らすんだろ?、なら大丈夫だよ」
 明るく笑う。
「寂しくはないか?」
「俺より和美ちゃんの心配をした方がいいけど…」
「和美ちゃんの?」
 神妙な顔をする。
「知ってるんだよ、和子ちゃんが追い出されたって話」
「ほんとか!?」
 がたんと椅子を鳴らして立ちあがった。
「それで自分もだって…さ」
「それで泣いたのか…」
 あちゃーと顔を手で被う。
「父さん達の問題だけど、和美ちゃん、俺のこと気に入ってくれてるみたいだから…」
「頼めるか?」
 ケンスケは小さく笑った。
「和子ちゃんは?」
「…俺が話す」
 ケンスケは父の言葉に頷いた。
「…お兄ちゃん?」
「あれ?、和美ちゃん起きちゃったの?」
「話し声が聞こえたから…、お母さんは?」
 きょろきょろと探す。
「お母さんはホテルの方に戻ったよ、来週また来ますって」
「えーーー!?」
 和美はがっくりと肩を落とした。
「夏休みだからっておじさんが頼んだんだよ」
「おじさんが?」
 しゃがみこまれても、まだ見上げなくちゃならない。
「ああ、ここが気に入ってくれるかどうか、一週間お泊まりで遊んでいってもらおうと思ったんだ」
「はい…」
「嫌か?」
「…じゃないけど」
 ぶるぶると首を振る。
「向こうで遊ぶ約束でもあった?」
「…うん」
「そっか、じゃあ帰る?」
「ううん、お兄ちゃんと遊ぶ」
 和美は座っているケンスケの手を取った。
 ぎゅっと抱きつく和美。
 ケンスケはつい赤くなった。
「…ケンスケ、お前」
「な、なに誤解してるんだよ!」
 しかしどもっていては説得力が無い。
「少々危ない趣味を持っていると思ったら…」
 眉間に指を当てて頭を振る。
「バカなこと言わないでくれって!」
「冗談だよ、さ、和美ちゃん、今日はもう遅いから寝ような?」
「うん、お兄ちゃんと寝る…」
 和美はケンスケを引っ張った。
「ケンスケ」
「だーかーらー」
 やはり説得力は生まれなかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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