NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':61 


「…なんだ、また何処かに行くのかと思った」
 単に船内の売店である。
「お金持って来なかったんですぅ」
 ニコニコとしている。
「いいよ、これくらいは、はい」
 わぁいっと派手に喜んで受け取ったが、ただのソフトクリームだ。
 シンジはメロンソーダのジュース。
 二人で適当なテーブルにつく。
 ペロペロと嬉しそうに舐め出すミズホ。
 口の周りがべたべたになってしまっている、その様子だけ見ているとまるで子供だ。
「…なんですかぁ?」
 シンジはぼうっとしている自分に気がついた。
「あ、うん…」
 慌ててハンカチを差し出す。
「ふえ?」
「手、垂れて来てるよ?」
「はうう!」
 慌てて反対の手に持ちかえ舐め取るが、当然持ち代えた手にもクリームはつく。
「あうあうあう!」
「持っててあげるよ…」
 シンジはハンカチと交換し、コーンに垂れてきているクリームを舐め取った。
「あ…」
「ん、なに?」
「な、なんでもないですぅ!」
 慌ててソフトクリームを取り返す。
 あ、ああ…
 今度は両手で持って、大切そうにする姿に、大体何を考えたのか想像する。
「…ミズホってさ?」
「はい?」
「好きな人…、いる?」
 シンジの唐突な問いかけ。
 キョトンとしたミズホは、次の瞬間じわっと涙を溜めこんだ。
「どうしてそんな事、聞かれるんですかぁ?」
「え?、み、ミズホ?」
「わたしが好きなのはシンジ様ですぅ!」
「あ、ご、ごめん!、そうじゃなくて」
「何が違うんですかぁ!」
 参ったなっと、頭を掻く。
「あ、あのね?、ミズホが僕を好きなのはわかってるよ…」
 ぐしっと鼻をすするミズホ。
「でしたら…」
「わかってる、それに最近分かって来たんだ…」
「ふえ?」
「…僕、情けないよね?」
「そんなことないですぅ!」
 ミズホは泣きかけていたのを忘れた。
「シンジ様は!」
「アスカ達も待ってくれるって言ってた」
 ミズホはそのセリフに息を飲んだ。
「アスカさん達が…」
「うん…、けど僕には選べない」
 真剣な表情。
「選ぶ権利が無い」
 手を組み合わせ、指で遊んでいるのは落ちつかないから。
「そんな…」
「夕べのことで分かったんだ…」
「ふえ?」
「僕は…、誰でも良いのかもしれない」
「でしたら!」
「だから、恐いんだよ」
 シンジの視線に、ミズホは言葉を失い固まった。
「シンジ…、さま?」
「僕は、ミズホが…、恐いんだ」
 シンジの言葉が、酷くミズホの頭に響いた。


「もう!、どこ行っちゃったのよ、あの二人!」
 アスカとレイは、二手に別れて探していた。
「シンジの奴ぅ!」
 もちろん見つけたいのはシンジだけなのだが…
「ミズホがそそのかしたに決まってるわ!」
 暇だから…、ほか見て来ようか?
 はいですぅ!
 突然腕を組んで微笑ましく去って行く二人のイメージが思い浮かび、アスカは慌てて否定した。
「バカシンジが、そんな気の効いたこと…」
 暇だから。
 みんなに呆れて。
 暇を持て余して。
 時間潰そうっと。
 シンジ的なありえる行動に青ざめる。
「まずい!」
 シンジは深く考えずとも。
「ミズホ、きっと誤解してるわ!」
 わぁい、シンジ様のお誘いですぅ!
 喜びのあまりピョンピョン跳ねている姿が、瞼を閉じずとも思い浮かぶ。
「まったくもう!」
 ついには、どちらに怒っているのか分からないような状態に陥っていた。


「シンちゃあん?、いるぅ?」
 ひょこっと通路を覗いては、またとんとんとんっと跳ねて行く。
「どこ行っちゃったのかなぁ?」
 どうせミズホも一緒と思い、レイは二人を一度に探していた。
「あ、みっけ☆」
 鉄階段の向こうっ側に、特徴のあるリボンが見えた。
「ミズホ?」
 覗き込むが、ミズホはうずくまったまま顔を上げない。
「ミズホってば!」
 ぐいぐいと腕を引っ張るが、意地になったように抵抗される。
「もう!、どうしちゃったの!?」
 キョロッと辺りを見回して、レイはふっと気がついた。
「ねえ、シンちゃんは?」
 びくっと震えるミズホの体。
「…なにか、あったの?」
 ひっくとミズホはしゃくりあげた。


「居た居た…」
 船尾側。
 シンジは手すりにもたれるように、今にも湖に落ちそうなポーズをしていた。
「…なにやってんのよ?」
「…うん」
 その気のない返事に直感する。
「また下らない事で悩んでるんでしょ?」
 アスカもシンジの横で髪を押さえた。
「で?、今度は何よ…」
 風がきつく髪を揺らす。
 シンジの顔にもばさっと当たるが、シンジは気にするそぶりも見せない。
「…ミズホに、聞いたんだ」
「あん?」
「好きな人、いるの…って」
「はあ!?」
 それはまた、唐突な切り出しであった。


「つまり、こう?」
 前頭葉を人差し指で押さえて頭痛を堪える。
「ミズホの好きな人達って、どんな人達なのかなって思ったと…」
「うん」
「だから尋ねてみたわけ?」
「うん…」
 もうどうしようもないという目でアスカは怒る。
「あんたばかぁ!?」
「え?」
「そんな紛らわしい聞き方してんじゃないわよ!」
「あ、ま、まあそうだったんだけど…」
 どもってしまう。
「それにっ、はん!、あんたに選択権があるですって?」
「え?」
「なんのためにあたしとレイが張り合ってんのよ?」
「……」
「あんたを誘惑して、誘って、ケンカして…、あんたを取り合ってるんでしょうが!」
「うん…」
「勝った方がシンジを貰うの!」
 真っ赤になりながらも、真横のシンジをきつく見据える。
「それって…」
「あんたに決める権利なんて無いわよ!、そんなのとっくに無くなっちゃってる!」
「そんな…」
「酷い?、はん!、待ってたって、あんたはなんにもしてくれないじゃない…」
 アスカはすねるようにそっぽを向いた。
「アスカ…」
 シンジはどう言えばいいのか分からない。
「悔しいわよ、あたしだって…」
 唇を噛み締めているのがわかる。
「レイの誘いにどうして乗るのよ!」
 吐き捨てる、煽られた髪と一緒に飛んだのは…
 涙?
「アスカ…」
「なんでよ!、あたしの方が胸だってあるしお尻だって!」
「ちょ、ちょっとアスカ!?」
 方向性がずれている。
「あたしの方がよっぽど女らしいのになんで?、どうしてレイなのよ!」
「そ、それは…」
「それがショックだってぇのよ!」
 再び顔を上げたアスカの瞳には、嫉妬の炎が宿っていた。
「え、えっと…」
「答えてよ!、あたしの努力って何?、なんでも出来るから?、だからシンジは放っておくの?、守ってくれないの?、支えてくれないの!?」
「そんなことはないよ!」
 怒鳴るようにアスカを遮る。
「そんなことは…」
「じゃあ?」
「でも…」
 シンジは迷いながら口にした。
「でも?」
「でも、僕にはもう、アスカ達の悩みなんて、わからないんだ…」
 アスカはふうっと、呆れる様にため息をついた。
「ほんとにバカね?」
 自然とシンジの胸に背中を預けてもたれ直す。
「アスカ?」
「これでいいじゃない?」
 シンジはかるくアスカのお腹の前で腕を組んだ。
「いいの?」
「シンジは…、誰のために頑張ってたのよ?」
「それは…」
 もちろんみんなのためである。
「なら…、そのまま頑張ってなさいよ?」
「え?」
「あたしは、シンジがあたしにドキドキしてくれるのが好き…」
「そう?」
「今だって、そうでしょ?」
「うん…」
 アスカはわざとシンジの頬に髪をすり寄せた。
「あたしより下らなかったら、そりゃああんたを捨てるわよ?」
「アスカは下らなくなんて」
「当ったり前じゃん!」
 シンジの手に、自分の手も重ね合わせる。
「シンジは自分に釣り合わないぐらい可愛いって思ってくれてるんでしょ?」
 うっと、唸る。
「…あんたほんとに情けないわね?」
「…ごめん」
 意味無くつい謝ってしまう。
「とーにかく!、だからあんたは自分にはもったいないって思うんでしょ!?」
「まあ…」
「それが同じだってぇのよ」
「え?」
 アスカの耳が赤いように見える。
「あたしにはもったいない様に思えて…」
 誰が?、シンジが。
「そんな!?」
「黙って聞いて!」
 相当恥ずかしいのだろう。
 深呼吸?
 腕がアスカのお腹の動きを伝えて来る。
「もったいないから、手放したくないの!、見向きもされなくなるのは嫌!、だって恐いから…」
「僕…」
「あんたのことだもの、誰かを選んだら、きっと「ごめんなさい」って気持ちで一杯になって…」
 顔も合わせないかもしれない。
 それはまた、容易に想像がついてしまう。
「…だから、あたしはあんたがもったいないって思う女じゃなきゃいけないのよ…」
「逃げ出しちゃうくらいに?」
「そ!」
 シンジの腕から抜け出し、真っ正面に向かい合う。
「あんたがあたしのことしか考えなくなっちゃえばいいのよ!、でもそのためにはライバルの邪魔はなんとかしないとね?」
「なんだよそれ…」
 胸をトンッと突かれて、シンジは軽く笑いを浮かべた。
「一つだけ聞かせてくれない?」
「なに?」
「あたしと…」
 赤くなったままで唇を小さく動かす。
「二人っきりだったら、どうしたの?」
 言った後にそっぽを向く。
 アスカって、可愛いよな…
 それでもちらちらと目だけを動かして様子を窺っている。
「僕…、そんなに信用、あるのかな?」
 半分程度は、アスカを満足させてくれる答えであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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