NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':65
「じゃ、キクちゃん、帰りましょうか?」
レイの顔をじっと見上げるのだが、キクは諦めたように頷いた。
「送って来ます」
「はいはい、あ、ちょっと待って、シンジぃ?」
ユイが呼んでも返事は無い。
「シンジ君なら、レンタルビデオへ出かけましたよ?」
「あら…、じゃあカヲル君お願いできるかしら?」
え〜!っとレイが不満そうな顔を見せても、これだけはユイは譲らなかった。
いくらなんでも夜道は危ないと思ったからだ。
「キクちゃんは誰のことが好きなんだい?」
何聞いてるの?っと、レイは怪訝そうな顔をする。
「ママ…」
「ママ?」
「うん…」
じっと熱い視線で見上げる。
「…そう」
今は裏切れないと感じるレイ。
ううん、思いたいだけかも…
この瞳を裏切るの?
恐怖感に包まれる。
まあいつか分かるよね?
あたしがママじゃないって事が。
二人手を繋いで夜道を歩く。
「…ママ?」
「なに?」
「先生…、好き?」
「ん〜〜〜、キクちゃんは?」
「…悪くない」
「そう?、じゃあ好きかな…」
ただ受けて答えただけの言葉だ。
だがキクは嬉しそうに笑んだ。
背が低くて、レイはその笑いに気がつかなかった。
ぼうっとレンタルビデオ店で並んでいるタイトルを見ていたシンジだったが、気が乗らないのでそのまま出ようとした。
「いや、あの綾波レイにそっくりなんだな」
なんだろう?
妙な言い回しが引っ掛かった。
「似た子だなと思ってたんだけど、親までそっくりで…、しかも未亡人らしくて」
「へぇ?、久々に当たったか?」
あ、あの人…
シンジはキクの担任だと確認すると、反対側の棚へ周り込んだ。
「そう言い方はやめてくれないか?、俺は純粋にだな…」
「はいはい、お前っていっつもそうだよな?」
「なんだよ…」
「そうやって人を可哀想だって言って慰めて良い奴ぶってさ、点数稼いで女捕まえるんだから」
「俺は!」
「お前電話番号聞き出そうってとっからして、信用無いぞ?」
後は笑い声だけが続いた。
ふぅん…
シンジはそのまま後にする。
店を出てしばらく経っても、別段怒る気持ちは出て来ない。
優しくしてるのは本当みたいだし…
その優しさにほだされたのなら、別に悪い事でも無いだろう。
「そっか」
シンジは立ち止まって考えた。
「…僕と同じだ」
あの男は。
積極的かどうかは別として…
「ママ?」
「なに?」
「ひとりぼっちは嫌…」
きゅっと手に篭る力が強くなる。
「そう…、でもお父さんとお母さんが居るでしょ?」
「…本当のパパとママがいい」
与えられた父と母でなく、自分で選んだ人がいい。
そう言う意味なのだが、もちろん通じるはずが無い。
「えっと…、でもね?」
「君のママは死んだんじゃなかったのかい?」
「カヲル!」
ぴたっとキクの動きはとまっている。
「似てるから選んだのかい?、でもレイは君の選んだ人をパパにはしないよ」
ゆっくりと顔が上がる。
その瞳が何を物語っているかは…、わからない。
空を見上げる、月がある。
街灯も明るくて不安は無い。
だがふと見た電柱の影が妙に気になる。
シンジは本能的な恐怖を感じている。
得に意味は無いはずだった。
お化けでもいたらどうしよう?
少しわくわくとしてしまう。
だが実際にそんなものが居るはずは無い。
シンジはそのまま帰り路を急ぐ。
「あ、カヲル君」
「シンジ君」
立ち止まって微笑むのは、シンジが歩み寄るのを待つためだ。
「どうしたの?」
「レイの護衛でね?、キクちゃんの家まで」
「レイは?」
「途中でキクちゃんの先生につかまって、連れ去られたよ」
肩をすくめる。
先生って、さっきの人だよな…
「心配かい?」
「あ、うん…、でも」
シンジの瞳には迷いが見える。
「…シンジ君」
「あ、なに?」
「僕がどうして遠回しに君に言葉を伝えていたのか分かるかい?」
「え?」
シンジは戸惑う。
「どうしてって…」
「シンジ君が変わったからだよ」
「変わった?」
そうだよ?、っと憂いを見せる。
「僕の好きだったシンジ君が影を潜めたからね?、変わることは悪くは無いけど」
「好きな?」
「そう…」
カヲルは瞼を閉じて天を仰ぐ。
「ねえ、シンジ君?」
「なに?」
「何度もシンジ君は、レイやアスカちゃんから離れようとしたね?」
「うん…」
「でもその度により強く繋がった、なぜだか分かるかい?」
「なぜって…」
とても言葉には出来ない想いが渦巻く。
「それはね?、シンジ君がいつも追いかけたからだよ」
「あ…」
「シンジ君が諦めたら、僕も、レイも、シンジ君とは繋がりを保てなくなる」
「そんなの変じゃないか!」
「なぜ?」
「だって…」
「僕たちは他人だ」
どきりとする。
「でもシンジ君が必要としてくれる限り、僕たちは自分の居るべき場所に引け目を感じずにすむ…」
「そんな…」
「帰るべき家、ホームがあると言うことは幸せに繋がる、でも僕たちにとっての家は建物じゃない、シンジ君なんだよ?」
カヲルの言葉を租借する。
「だから、僕なの?」
「僕たちのことを思って、考えて、求めてくれるシンジ君は好きだよ?、でもシンジ君は勘違いをしていたからね?」
「勘違い?」
「好きって事さ」
「好き?」
「シンジ君の好きは、消去法なのかい?」
好きな人の中から、最後に残ってくれた好きを取る。
「間違いじゃないさ、一番強い想いが最後に残るのならね?、でも強い想いほど最初に疲れるのもまた事実だよ…」
シンジは唇を噛んだ。
「シンジ君の変わりたいと言う想いは、何処から来ていたんだい?」
「どこって…」
「強くなって、何でもできるようになって、そして誰もが居なくなってもいいように、強くなりたかったのかい?」
「違うよ!」
「じゃあ誰のためにカッコ良くなりたかったんだい?」
「僕は…」
「そう、君は吊り合いたかったんじゃないのかい?、誰かと、みんなと」
「僕は」
カヲルに乗せられようとしている自分を感じたが、悪い気がしないのはなぜだろう?
「レイは恐さを知っているが故に、その恐怖を人には与えようとしない」
「恐さ?」
「孤独だよ」
ズキリと来る。
レイが同じように実験台にされた仲間、友達を思う時の異常な程の感情の高ぶりを知っている。
「今頃困っていると思うよ?」
「困る?」
「キクちゃんを思うあまり、無下にできなくてね?」
いま歩いて来た道を振り返る。
「僕じゃ役不足だからね?」
「わかったよ…」
しぶしぶといった感じだったが、足の方は表情を裏切り駆け足だった。
「知らなかったなぁ、キクちゃんがレイちゃんの友達だったなんて」
ポイントの高い子だ、などという下心が丸見えである。
もう時間も遅いんだけどなぁ…
キクが帰りたがらないどころか、なぜか彼といたがるので困っていた。
と言ってもカヲルが吹き込んだほど切羽詰まっているわけではない。
たんに邪魔くさいのだ、相手をするには。
でも…
ちらりとキクを見る。
早く帰りたいから、などと言えばキクはきっと悲しむだろう。
あたしだってシンちゃんと居たいからって引き伸ばす時があるし…
シンジはそう言う時、嫌嫌ながらも付き合ってくれる。
「夜分遅く女の子が歩くのは危ないでしょう?、帰りも送りますよ」
「と、とんでもない!」
「いやいや、こう見えても教師ですから」
下心は隠れてないけど。
さてどう断ろうか?
キクを見る。
ごめんねキクちゃん?
後で謝罪する事を決めたが、結局は口にせずにすんでしまった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
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