NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':66 


 シンジは夢の世界に放り出されていた。
 ここは何処?
 碇シンジの背界さ。
 せかい?
 背徳の生み出す世界だよ、ごらん?
 僕は誰と話しているの?
 そんな疑問も沸き起こる。
 こ、こんなの…
 でもこれも君の欲望が生み出す世界だ。
「こんなのってないよ!」
 そこには裸で寝そべる少女達が居た。


「シンちゃん!」
 シンジの目は黒く、そしてその中央で赤い光が灯っていた。
「正気じゃ…、ありませんよね?」
 マユミが引いた、マナを庇うように。
「だめよ、シンちゃんが」
「マナじゃだめです」
「どうして!」
 言ってからマユミの態度に気がついた。
「…マユミ?」
「こ、恐くて」
 震えが走っていた。


 最初はレイとのデート。
 最後まで上手く行った。
 上手くいったから、朝帰りになってしまった。
 アスカが張り合ってシンジを誘う。
 もちろんこれも上手く行く。
 ミズホと続いて関係を持つ。
 これはミズホが泣いてすがるのだから、あやすのとなんら変わらない。
 後はくり返すだけ。
 そう、くり返すだけだ。
「でも違う、これは違うよ」
 こんな関係は望んでいない。
「そうなのかい?」
「僕はただ楽しければいいんだ、それで良かったはずだ」
「だから?」
「そのために、僕は変わりたかったはずなのに…」
「なぜギターを弾いたんだい?」
「アスカに…、泣かれたくなかったんだ」
「そんなものさ」
「そうなのかなぁ?」
「そんなものだよ、きっかけなんて」
 なにかが像を結び始める。


「あ、レイ、さん?」
 だが二人は訝しんだ。
 これがほんとうにレイなのか?、と。
 近寄るマユミを歯牙にもかけず、綾波はシンジだけを見つめている。
「碇君…」
 そっと手を伸ばす。
 その手が金色の壁に弾かれる。
 心の壁に。
 綾波はふっと諦めた様に一歩下がった。
 果たしてこれは幸いなのだろうか?
 住宅地のド真ん中でこれほどの騒ぎを起こしているにも関らず、住人の姿が一人も見えない。
 その上アスカだ、家の近所だというのに、一体何処へ行ってしまったのだろう?
 いい、気にしないから。
 そう、今は気にしている場合ではない。
 大事なのはシンジの安否だ。


 あれは僕だ、僕の心だ…
 そこには先程の自称教師がいた。
 自分は好い事をしていると信じている。
 それで嫌な事はしていないと確信している。
 だから人に好かれて当然だと思いこんでいる。
 じゃあ僕はどうなのかなぁ?


 綾波が手を振り上げる。
 そのまま手刀のように切り落とす。


 ばかシンジぃ!
 そう、僕はバカだよね?
 ああそうか、そうなんだ…
 笑いたかったんだ、みんなで。
 急にヴィジョンが開けだす。
 うわぁ…
 青々とした丘。
 その上にある大きな木。
 みんながお弁当を広げて笑っている。
 シンジを呼んで、こっちに座れと手を振っている。
 アスカ、レイ、ミズホ、それにカヲルくん。
 みんな大好きだよ。
 それでいいのに。


「くっ、はっ…」
「レイ!」
「レイさん!」
 シンジの指が食い込んでいく。
 その細い首が今にも折れてしまいそうだ。


 かり、くん…
 弱々しい思念が届く。
「綾波!?」
 シンジはその幻に背を向けて駆け出した。
 苦しげな声が聞こえて来たから。
 幻想を振り切る事に迷いは無かった。


「はっ!」
 気がつく、自分が何をしているのか知って驚く。
「あ、綾波!」
 慌てて手を離す。
 ドサッと落ちる体に驚く。
「あ、ご、ごめん!」
 抱き起こす。
「…いい、気にしてないから」
「そういう問題じゃあ…」
 もう…、傷が塞がってる。
 冷静に観察するマナ。
 その分、あの男への注意がそれていた。
「マナ!」
 マユミが叫ぶ。
「え?、あ!」
 勾玉がズレ、その下から別の勾玉が生まれている。
「復元したの!?」
 シュル!
 再び伸びる鞭。
「くっ!」
「綾波!」
 綾波の背中を鞭が打った。
 シャツが弾けるように裂けて千切れた。
「綾波ぃ!」
 今度はシンジが庇う。
「マユミ!」
 再びマユミが態勢を整える、だが。
「あ!」
 枝が突き出され、放射状に開かれた。
 マユミの力がその表面で弾けて爆発する。
「が、学習してるの!?」
 マユミの力が通じない。
 ガンガンガン!
 マナは躊躇なく銃を撃った、しかしこれも網によって防がれてしまう。
「シンちゃん、レイ!」
 非常識の前にはあまりに無力だ。
 シンジは二度目の死を確信する前に、ふとデジャヴのようなものを感じた。
 ああ…、こんなの、いっぱいあったっけ。
 その度に誰かが怪我していた様な気がする。
 その後に泣かれて、抱きつかれていた様な気がする。
 いつもは他人だったような気がする。
 中心には居なかったような気がする。
 でも、今狙われているのは?
 なぜ僕なの?
 その想いがついて出る。
「ねえ、そんなにレイが欲しいの?」
 シュッ!
 鞭が伸びた、しかしそれはレイの壁によって弾かれる。
「綾波!?」
「くっ、う…」
 シンジの腕の中で、苦悶に悶えながら体を起こす。
 こんな時には力が欲しくなって当然かもしれない。
 それでも自覚も無いものに頼るほど楽観的な性格でも無い。
 何とかしなくちゃ、なんとか!
 ガン、ガン、ガン、ガン、ガン!
 二本の鞭を使い、何度も壁を殴打する。
「マナ!」
「弾切れ!、マユミは?」
「ごめんなさい…」
 酷く息が荒い、無茶をし過ぎたのかもしれない。
「う…」
「碇君、だめ!」
 一瞬マナの脳裏に先程の光景が再生される。
「うわあああああああああああ!」
 シンジは叫んだ、大事なのは一つだから。
 恐くない、恐くない。
 恐いことなんてあるもんか!
「綾波、お願い!」
 キョトンと気を抜いた綾波の壁が一瞬消える。
 自己防衛ならばともかく、シンジを狙う攻撃に対しては意識しなければ壁は使えないのだ。
 自動展開されない力。
 ドッ、ジュルッ!
 何度も突くように叩いていたのに、急に抵抗が無くなったためかそのまま間抜けな伸びを見せた。
「碇君!」
 シンジはその鞭を二本ともつかんだ、両脇に挟み込むように持つが、手のひらの皮がずる剥けた。
 綾波も反射的に動いていた。
 堅くした力を勾玉にぶつける。
 パキン!
 今度も割れた、だが綾波の顔が怒りに歪む。
「消えて」
 パン!
 さらに弾けて砕けた。
 男を覆っていた根の様な葉脈や木の皮、さらに攻撃のための鞭、枝が硬化して固まった。
「碇君!」
 シンジが倒れた、それを抱き留めたのは…、カヲルだった。







[BACK][TOP][NEXT]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q