NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':76
「はうはうはうぅ、気持ち良いですぅ」
ブォオオ…と低い震動がシートを痺れさせる。
「もう限界?」
「ううぅ…」
窓を全開にしているため、少々声は聞こえにくい。
それでもミズホの胸にはざっくりと来た。
「ま、慣れないことはするもんじゃないね」
「でもでもぉ、これも全てはシンジ様のためにぃ…」
「よく分からないけどさ…」
クンクンッと横Gがかかる。
「シンジ君って、そんなに気にするのかい?、その…」
「はいぃ?」
「料理ができるとか、できないとか」
クッと体重がシートに押し付けられる。
深く座り込めるシートは左右が微妙に盛り上がり、小柄なミズホでもお尻がずれるということは無い。
現在は芦の湖へ向けてのドライブ中。
車は赤のインテグラ、TYPE−Rだった。
実際はまだ数日を過ごしただけである。
しかしそれでもミズホの精神を削るには十分であった。
「朝はきついかい?」
湖岸の周回道路を流している。
「それは大丈夫ですぅ」
「そっか」
実際それまではお弁当などの都合で早起きして準備していた。
今は就寝時間も早く、かなりゆっくりとしていられる。
「うう、お弁当が作りたいですぅ…」
逆に時間が余り過ぎているのだ。
日課が減っただけで、自分の時間が大幅に増えていた。
それは修行とやらの時間を差し引いても余りある。
「そっか…、じゃあ僕のお弁当なんて、作ってくれないかな?」
「ほへ?」
「暇だったらで…、いいんだけどね?」
「うきゅう…」
人差し指を咥えて考え込む。
「あ、シンジ君に悪いかな?」
「うぅ…、人に食べてもらったこと、ないんですぅ」
だから自信がないらしい。
「酷いなぁ、そんなものを食べさせてるのかい?」
「わたしなんて、まだまだですからぁ」
「そっか」
うきゅう…
まだ指を咥えて悩んでいる。
アスカさんには及びませんしぃ…
基準は美味しいかどうかではなく、シンジの口に合うかどうかだから。
うにゅう…
ちなみにミズホはついシンジの嫌いなものを避けてしまう。
「ほぉおおおお?、あたしが作ったものを残すってわけね?」
たったそれだけの言葉で全部を食べさせてしまうアスカにはまだ遠く及ばない。
嫌いなものでもアスカが作れば食べるのがシンジだ。
ふみゅう…
まあ食べる理由が、微妙におかしいのだが…
「でも大変だねぇ、ミズホちゃんは」
「ふきゅ?」
「そこまでしないと勝てないライバルでいっぱいってわけだ」
「ううぅ、シンジさまは素敵な方ですからぁ」
恋は盲目というか腐っても鯛。
シンジの本質を見ているミズホには、上辺の情けなさは関係無い、…らしい。
「ま、勝負は最後に勝てばいいからね、気長に頑張ればいいよ」
「はいですぅ!」
ミズホの元気に答えるように、クニカズはまた一台車を抜いた。
●
「あれ?、先輩は」
「帰りおったわ」
「一人で?」
「ぼろくそ言われたで」
そう言ってトウジはククッと笑う。
「どうしたのさ?」
「今日は面子が悪いんやと」
「?」
「あのね?、先輩の友達じゃなくて、あたし達だからノリが悪かったって…」
ヒカリも困ったようにはにかんで笑う。
「だからトウジが、じゃあギターだけで勝負し直せば?って、言っちゃって…」
「それで怒って帰っちゃったんだ…」
「まあそんなとこや、それよりシンジぃ」
「なに?」
「お前、えろぉ、うまなったやないか?」
シンジは「そっかな…」と、少し照れて頭を掻く。
「ちょっとは練習したけどね…」
「綾波とか?」
「一人でだよ!、そっちこそどうなのさ?」
「なにがや?」
「委員長と練習してたんでしょ?」
「そりゃしたわな…」
「うん、トウジがいつも遅くまで教えてくれたから…」
「あ!、じゃあ鈴原君が家まで送ってくれたり?」
「え、ええ…、ってレイ、相田君は?」
「タタキさんと悪巧みしてる、先に帰ってていいって」
そう言うわけで、さっさとこちらに来たらしい。
「ほなら行こかぁ…」
「ねぇねぇ、ヒカリと鈴原君ってどうなってるの?」
「ど、どうって?」
「家まで送ってもらっちゃって、それだけって事は無いんでしょ?」
後から着いて来る二人に耳を傾けつつ…
「いいの?」
「なにがや?」
「からかってるみたいだけど…」
「別にバレて恥ずかしいことはしとらん」
「じゃあ恥ずかしくないことはしてるの?」
ちらっと見れば、頬が赤い。
「鈴原くぅん☆」
「おわっ!、なんや綾波!?」
「もうキスしまくりなんだってぇ?」
「わ、悪いんかい!」
「ん〜、べっつにぃ、ふぅん、へぇ〜、ほぉ〜」
うりうりと肘で突っつく。
「で、どんな時にするの?、ねえ?」
「んなこと!、…言えるかいかな」
「え〜、でも教えて欲しいなぁ」
「なんでやねん!」
「だってぇ〜」
レイの目線がシンジを見る。
それにつられるようにトウジも向ける。
「ね?」
「…それ以前の問題やろが」
「なにが?」
「…碇君、にぶ過ぎ」
ヒカリにまで呆れられるシンジであった。
●
「ねね!、シンちゃん」
「なに?」
シンジの部屋。
ギターを持ってコードを確認しているシンジと、レイはたたんだ布団を背もたれ代わりに座っている。
「こういうの弾ける?、こういうの!」
「こう?」
ペレレンっと適当に弾く。
「そうそう、で、ね?」
「こう?」
「ん〜ん、タタタタン、タタン、って感じ」
「こう、かな?」
「そうそう」
ん〜っと手元でギターを弾く真似をする。
「あー!、やっぱりギター欲しいぃ!」
ジタバタともがく。
「はまっちゃったね…」
「面白いんだもん!」
音の出せるおもちゃ程度に。
「じゃあ買う?」
「うう…、高いんでしょ?」
「そんなことはないよ、ほら」
週間雑誌を渡す。
「練習用に安いのを探せば、三万円程度でそこそこのが買えるよ?」
通販の広告が載っている。
「え〜?、シンちゃんみたいのはぁ?」
「これは無理だよ…」
苦笑しながら手の内にあるギターを見る。
父に貰った、特別なギター。
「これってちょっと高いとか、そんなのじゃないから…」
「値段が付けられないって事?」
「そんな事は無いと思うよ?、何十万とか、何百万って世界だと思うけど」
「ふぇええええ…」
まじまじとギターを見る。
「よくそんなの弾いてるね?」
「楽器だもん、使わなきゃ意味無いよ」
「…なんだかシンちゃんらしくない」
「当たり、父さんの受け売りなんだ」
「ふぅん…」
昼間のことを思い出しながら弾き始める。
「そうだ、明日ギター見に行く?」
「え?」
「予備の弦がなくなっちゃったから、買って来ようかと思ってるんだけど」
「うん、行く!」
レイはニコニコと返事をした。
「…あなた、なに聞いてるんです?」
「ああ…、ちょっとな」
ゲンドウは書斎でヘッドフォンを着けていた。
その繋いでいる先は端末本体の外部音声端子だ。
「なんの波形です?」
「音だよ」
「音?」
ケンスケとタタキが解析した結果である。
音の波形がいくつものパターンで表示されていた。
「あら、いい歌」
歌…、と言っても、この場合は音の全てを指していて、決して歌詞のことではない。
ゲンドウはヘッドフォンを取られたので、波形データのみに注目した。
「試せる…、な」
「はい?」
また悪巧みしてるわね、この人は…
ユイは苦笑気味に微笑んだ。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
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