NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':77 


「いやはや、波乱の幕開けね?」
 金の髪に泣きぼくろ。
「で、朝からわたしを呼び出したのは覗きのためなの?」
 赤木リツコが何故だか加持の校長室に座っている。
「いやぁ、最近ミズホちゃんと仲が良いって聞いたからね?」
 加持の机に投影スクリーンで、走るミズホ達の様子が衛星から盗撮されている。
 ちなみに応接セットに腰掛けるリツコからは、その映像が裏から見えていた。
「仲が良いと言えば、そうね…」
「ミズホちゃんも大人の体になってきたなぁ」
「だめよ、つまみ食いは」
 冷静に釘を刺しつつもほくそ笑む。
 ふふ、誰もシークレット全身タイツを着せているとは気がついてないようね?
 そのため色気が当人比1.5倍に上がっている。
「おいおい、今や俺も教職者だぞ?」
 しかしそんなものは、慣れた加持や鈍いトウジにとっては誤差の範囲だ。
「あら?、わたしが”あっち”の店での暴れっぷり、知らないと思ってるの?」
 ひくっと、少々引きつる加持。
「し、知らないなぁ、なんのことかな?」
「…ま、いいわ、最近ミサトも荒れてるみたいだし」
「そっか…」
 しばしの苦悩。
「ま、それは俺が何とかするよ」
「そう…、で、本題に入ってくれない?」
 三時間目までには戻らないといけないし…
 リツコは加持がいれたにしては意外と美味しいコーヒーに口をつけた。






「えーーー!?、じゃあ今度はミズホに?」
「そですぅ」
「ほんま、なに考えとんのかわからんわ、あの男は」
 屋上に集まってお弁当にしているヒカリ、ミズホ、トウジの三人。
「そないにしてまで、シンジに張り合いたいんか?」
「あのね?、バンドのみんなは、関係無いって」
「はん?」
「大和先輩がどうしたって、こっちはバンド活動がやりたいだけだからって」
「さよか…」
 シンジとの対決に出て来んかったんわ、そないなことかいな…
 見栄を維持するためだけのギター合戦には興味が無かったと言うわけだ。
「しっかし、ほんま美味そうやのう…」
 ついじゅるっと涎が流れそうになってしまう。
「小和田先輩のお手製ですぅ!」
 ミズホのお弁当は重箱の五段重ねだ。
「な?、ちょこっとだけ、つまましてぇな?」
「う〜、じゃあこの…」
「煮付けはもろたぁ!」
「あうあうあう!」
「ん〜、こりゃ美味いわ、信濃もええとこに嫁いだもんやのう」
「酷いですぅ!」
 ふみ〜んっとポカポカ叩く。
「悪かったって、許してぇな」
「ふぇえええん!」
 さらにポカポカと叩くが、じゃれ合い程度なので痛くはない。
 ベシ!
 しかしヒカリの心には痛みが走った。
 ミズホ、わたしのトウジといちゃいちゃして!
 手の中で箸が折れている。
 トウジとミズホは、ヒカリに構わずさらにじゃれあいを続けていた。


「っと待てよ!、なんだよそれ!」
 こちらは大和とそのバンド仲間。
「だからよぉ、ギター勝負なんだろ?」
「そうそう、自分でトウジとかヒカリちゃんを引っ張り出しといてさ」
「負けたらいいわけにすんのかよ」
 バンドのメンバー、残りの二人の冷めきった言葉が、パンをかじる間に次々と漏らされる。
「だからあれはぁ、向こうがレイちゃんと組みやがってさ?」
「そんなの関係ねぇよ」
「そうそう」
 二人にはマサシに荷担しようと言う気が毛頭無い。
「お前なんか勘違いしてっだろ?」
「そうそう」
「なんだよ…」
 少し引き気味になるマサシ。
「俺たちゃ碇なんてどうでもいいの」
「バンドだって、楽器弾きたくてやってんだからさ」
「んだよそれはぁ!」
 今まで媚びるようにして来た奴らの反乱に、急激に頭に血が上る。
「だからさぁ、お前がギターで目立ちたいってのは分かるけど…、正直まともに演奏させて欲しいんだよな?」
「お前は楽しいかも知んないけど」
「お前らは大人しくやってりゃいいんだよ!」
 引き立て役として!
 ついつい本音が漏れてしまう。
 一瞬、三人の間に沈黙が落ちた。
「そっか…」
 ふてくされたようにテトラパックのコーヒー牛乳を吸い始める。
「やっぱ勝手にしてくれって感じだよな?」
 もう一人も完全に付き合うのをやめたようだ。
 マサシのケンカにも、トウジ達は人が良いから付き合った。
 しかし彼らはもう少し冷めていたのだ。
「面倒臭ぇんだよな、やっぱ…」
 それが彼らの本音であった。






「で、ね?、シンちゃん…」
「ん?」
 仲良く弁当をつつくマナに小首を傾げる。
「ホントの所はどう思ってんの?」
 こ〜のっと肘でつつく。
「どうって…、いわれてもさ」
 ミズホのことだ。
「んもう!、そこまでしてもらってぇ、男冥利に尽きるって奴?」
「そんな大袈裟な…」
 苦笑するが、マナはその返事に不満を募らせる。
「シンちゃんわかってなぁい!」
「へ?」
「これはもう挑戦よ?」
「…なんでさ?」
 へっと吐き捨てるように笑うマナ。
「これ見よがしに花嫁修業なんてしちゃって、これはもうみんなに「そこまでの仲なんですぅ!」ってパフォーマンスに決まってるじゃないの!」
 ねぇっとレイに振る。
「レイもそう思わない?」
「…思わない」
 一言答えてから、またカフカフと掻き込みに戻る。
「ま、ミズホっちがそこまで考えてるわけないっか」
 マナもてへっと笑ってから食事に戻った。


 しかしそうは考えない人間も居た。
『あなたは考えが古いわよ』
「そう?」
 電話しているのは奈々の母の美代で、相手はクニカズのお母さんだ。
 美代は生け花をしながら、フリーハンドモードの子機を相手に話している。
『今時の子が、マジメに修行に打ち込むはずないでしょう?』
「でもねぇ、少しでも小和田流に触れてもらった以上は…」
 本人達がどうであれ、それは対外的な恥になりかねない。
「宗家としても」
『でも花柳界を目指すと言うわけではないのでしょう?』
「あら?、でも奈々は筋がいいと誉めていたわ?」
『今時殿方のためと生活態度を改めるだけでも貴重よ?、それに一月でそこまで求めるのは酷では無くて?』
「奈々は基礎地はできていると」
『あなたは奈々ばかりね?』
「あら?、碇さんも覚えは早いと誉めていましたよ?」
『碇さんも?』
 少しだけ考え込むような沈黙が続く。
「それでね?、わたし試技をして見ようかと思うの」
『試技を?』
「奈々は日舞だけだけど、碇さんは華道や茶道にも通じているでしょう?」
『そうねぇ、それなりには教えられているのかも…』
「でしょう?、それをねぇ、試して見ようかとも思うの」
 ま、やってみれば?
 それがその日の長電話の結論になった。






「ふぅん…、いつもの彼女が居ないからって、穴埋めか?」
「タタキさんまで!、もう…」
「冗談だよ、悪いねぇ?」
「ほんとに酷いです!、あたしが本命なんですから!」
「って言うか、どうしてマナがここにいるの?」
 ジト目のレイ。
 ここはいつもレイとタタキが逢い引きしていたスタジオだ。
 ちなみにいつものスタッフも揃っている。
「で、今日はなんのお話ですか?」
「ああ…、この間のレコードの件だよ」
 レコードは旧メディアのレコードを指すのではなく、レコーディングしたもの、DVD、CD、MD、DATテープ等と言った、多様化したメディアの元になるものを指す。
「えー!、シンちゃんディスク出すの!?」
「出すのはレイだよ…」
「いや、俺としてはシンジとユニットでやってもらいたいんだが…」
 シンジはちらっとスタッフを見た。
 不思議とみなほころんだ顔をしている。
「でも…、僕みたいな素人が急に」
「その素人さんの音を聞いた上での結論だよ」
「え?」
「この間のやつを皆に聞いてもらって、それから決定した」
「はぁ…」
「一応会社だからな、企画も通らないようなものは表に出さないよ」
「それってシンちゃんのが上の人達に認められたって事ですよね!」
「あたしの歌もあるわ」
「べーっだ、レイはおまけ!」
「ふんっだ、シンちゃんと組むのはあたしだもぉん」
 両腕を引っ張られて困った顔をするシンジ。
「まあテレビに出るわけじゃないし、カバーも適当なグラフィックで護魔化すから顔は出ないよ」
「えーーー?、テレビに出ないのぉ?」
「今からダンスステップなんざ習ってくれんだろ?」
「習いませんよ!、そんなの…」
「それに表に出すとなぁ…、色々とうるさいんだ」
「なにがですか?」
「お前らちゃんとしたとこで習ったわけじゃないだろ?、発声練習も知らんし」
「そうなの?、シンちゃん」
「だって、ねぇ?」
「うん…、シンちゃんのギターに合わせてるだけだし」
「いや、それはそれで良いんだよ、お前らはな?」
「じゃ、なにがいけないんですかぁ?」
 マナにはちょっと想像がつかないようだ。
「う、ん…、まあいずれわかるたぁ思うが、うちで本格的に学ばせてみろだとか、うちで面倒見させてくれないかとかな?」
「じゃあじゃあ!、有名な先生に弟子入りするって事!?」
「まあ、よく言えば、だな?」
 タタキの引っ掛かりに、シンジは少し声を潜める。
「…何かあるんですか?」
「ようするに売名行為ってやつだよ、有名なやつを引っ張ってうちで育てたって看板にする」
「それは…、嫌ですね?」
「だろう?、お前らの良さってのは声とギターで音を合わせる部分にあるからな?、技巧だけに走ると潰れる可能性があるんだよなぁ…」
 それと、とこれは心の内で付け加える。
 こいつら金とか有名になるってことに興味は無いからなぁ…
 あまりどす黒い部分を見せると、敬遠されてあっさりと逃げられる可能性がある。
「ま、のびのびやるのにしがらみは少ないほうがいいだろう?」
 タタキは軽くはぐらかしたつもりだったが、マナの目は笑い顔に隠して値踏みするものに変化していた。







[BACK][TOP][NEXT]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q