NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':79 


 体よく奈々を追っ払い、美代はミズホを連れて道場へ赴いた。
 そこには苦笑いを浮かべたクニカズが居て、この時点でミズホは「嫌な感じがしますぅ」と身構える。
 次に出た命令は奈々に教わった舞いを舞えと言うものだった。
 渋々ながらも、ちゃんと着替え、用意をし、美代の前でちゃんと舞う。
「素晴らしいわ…」
 なによりもそのリズムが。
 一定のリズムを狂うことなく足捌きに現し、動く。
 それはシンジにはできなかった事だ。
 どれほど音感が良かったとしても、メトロノーム並みにリズムをキープできたとしても、それに体を合わせるとなると別問題である。
 そのためには長く、そして十分な練習、鍛錬が必要となる、はずなのだ。
 この子、なにか習っていたのかしら?
 そう思わせるほど動きは流れるように踊り、狂いを見せない。
 美代は舞いが終わるのを待って、ミズホを自分の前に座らせた。
「…ミズホさん」
「はいぃ?」
「あなた、これからどうなさるの?」
 赤くモジモジとクニカズを見るミズホ。
「…えっとぉ、とりあえず、そのぉ」
「…なんですか?」
 深く考えるまでも無かったかしら?
 わずかに淡い希望を抱く。
「お」
「お?」
「お手洗いにぃ…」
 ぷっとクニカズが吹き出した。


「うう、なにも怒らなくてもぉ…」
 ゴツンといかれたのか?、頭を押さえているミズホ。
「帰って来てそのまま引っ張られたもんねぇ」
「はいですぅ」
 トイレに行きたかったのを我慢していたらしい。
「冗談をやっているのではありません!」
 おもらしなんてしたくないですぅ。
 さすがヤバいと肌で感じたのか?、口に出しては訴えなかった。
「それよりミズホさん!」
「はいぃ?」
 ちょっとびびり気味のミズホ。
「本格的に学んでみるつもりはありませんか?」
「はい?」
「小和田流の門に入るつもりは無いのか?、と聞いているのです」
「ないですぅ」
 やけにきっぱりと答えるミズホ。
「な、何故ですか!?」
 アイデンティティを崩されて、はっと我に帰るのに数秒かかった。
「あなたになら小和田の名を与えても構わないと言っているのですよ!?」
「無駄ですよおばさん」
「クニカズさんは黙ってらっしゃい!」
 価値観が違うんだって…
 ミズホと美代は同じ言葉を話していない、会話になっているようで、その間には外国語ほどの開きがある。
 おばさん、それが分かってないから…
 わからないからムキになってしまうのだろう。
「舞いを覚えることは楽しくありませんか?」
「そんなことはありませんけどぉ」
「これから多くの人があなたを誉め、そして期待して下さる様になります、必ず」
「はぁ…」
「良い縁にも恵まれましょう、碇シンジ君、だったかしら?」
「はい?」
「悪いと思いましたが、少々調べさせて頂きました」
 これにはクニカズも漏らさざるを得なかった。
「…そこまでしますか?」
「お黙りなさいと言ったはずです!、ミズホさん、あなたは思い違いをしていますよ?」
「はい?」
「あなた、ご両親がいませんでしょう?」
「はぁ」
「さぞかし寂しくも心細かったでしょうに…、そんなあなたが心を豊かにするには誰かにすがるしか無かったのでしょう」
「ふえ?」
「まあそれも出会いではあります、けれどもその殿方があなたに相応しいと言えますか?、あなたを良く理解して下さっていますか?」
「ふきゅう…」
「ほらごらんなさい、あなたはあなたに相応しい、あなたを想って下さる方を探すべきなのですよ」
 ちなみにここでも誤差が生じている。
 シンジ様は、シンジ様はわたしの、わたしを理解…
 ミズホ、可愛いよ…
 やんですぅ!
 でもミズホはどんな時が一番可愛いのかなぁ?
 それはぁ、シンジ様にぃ…
 熱弁を振るう美代は気付かないままだが…
 あれは別のことを考えてるなぁ…
 とクニカズはだらしないミズホの口元を見て思っていた。
「ですから!、あなた程の人であれば」
 はっとミズホも自分に帰る。
「ですから本格的に学ぶんですかぁ!?」
 慌てて合わせたからか?、やや語尾が上擦った。
「そうです!、どうですか?、考えて下さいませんか?」
「じゃやっぱりお断りしますぅ」
 ほぼ即答に近かった。
 ぷっと吹き出す音がまたもする。
「な、なぜに!?」
「うんとぉ、確かに楽しいですけどぉ、別にやりたくはありませんしぃ」
「なんてことを言うのですか!」
 我慢ならずに立ち上がる。
「そんなもんですよ、今時の女の子なんて」
「クニカズさん!、いいですか、小和田は名流として…」
「ですから、小和田とかの名前なんて意味無いんですって」
 ジェネレーションギャップとでも言えばいいのだろうか?、あるいは住んでいる世界の違いかもしれない
 ミズホの「一般人」としての世界には「茶道」だの「華道」だのはあっても、その具体的な流派などに触れる部分は存在しない。
 逆に美代は常にそんな立場を重んじ、自らの重責や責務と、宗家としての名を背負って生きていた。
 逆に言えば小和田の名を知らない人間には出会わなかったのである。
 その価値観には多大なずれが存在していた。
「それにぃ、シンジ様はお優しいですぅ」
「ですから先程も!」
「それはシンジ様にも至らない点はありますけどぉ、でもでもぉ、お優しいからぁ、いつでも助けて下さいますしぃ」
「そうだなぁ、人間そうやって、なんとかしてあげたいと思って育つもんですよ」
「そうですぅ!」
「ミズホちゃんだってそうですよ、シンジ君に相応しくなりたいと思ったからここへ来ている、もしシンジ君のためでなくなれば?」
「こんなことしませぇん」
「だろうね、遊んでる方がよっぽど楽しいですよ」
「そんな…」
 がっくりと膝をつく。
「クニカズさんまでその様な事をおっしゃるのですか」
「おばさんにはすみませんけど…、僕にはそんなつもりがありませんからね?」
「何故です!、あなただって…」
「そりゃね、好きですよ?、ミズホちゃんの事は」
 ふえ?っとミズホは赤くなってハッとした。
 だ、だめですぅ!、シンジ様と言うものがありながら、なんてはしたないんですかぁ!
 修行の成果か?、一応自分を戒めた。
「でしたら!」
「でも一生かかっても愛そうとは思わないでしょうね?、僕の好きと言う感情はおばさんほどはっきりしたものじゃなくて、もっと大雑把なものですから」
「どういう意味ですか?」
「人間好きと嫌いに別れれば、大抵好きと答えるって事ですよ、それに…」
 ちらりとミズホに視線を送る。
「おばさんの言うことが正しいと証明できない以上、言葉なんて空しいですよ」
「証明ですって?」
「…ミズホちゃんを今以上に幸せを感じさせる、そのための保証ですよ」
 ミズホも同意したのかうんうんと頷く。
「ミズホちゃんには才能がありますよ、それを開花させることは人間性の豊かさには繋がりますが、幸せに通じることにはなりません、…言い過ぎかもしれませんけど、奈々の方がミズホちゃんの事を良く分かっているみたいですね?」
「奈々?、奈々が!?」
 意外さが驚きの口調の中に現れる。
「人を育てるということは大変な事ですよ、押し付けにしないためにも、いまそこに持っているものを肯定して、認めてあげたままで何が必要なのか?、必要な何を与えてあげるために何をすればいいのか?、それを考えなきゃいけないんですからね?」
「奈々がそこまで考えているというの!?」
「さあ?、でも強引な事はしてませんね?」
 ふうっと道場を見回す。
「奈々はただ見せて、教えているだけですよ、そこから何を汲み取るのかはミズホちゃん次第、道を選んでいくのもミズホちゃんでしょ?、勝手には決めないで下さい」
 最後の部分だけは、クニカズ自身の話になってしまっていた。






「ねぇ…」
 アスカは自室に引き上げると、身を投げ出すようにベッドに転がった。
 こいつ、なんでいるのかしら?
 いつものようにニヤけながら紅茶の用意をするカヲルに疑問を持つ。
「キス、しようか…」
 ふいに言葉がついて出た。
「またどうしたんだい?、急に…」
 答えられない。
 あたし、なに言ってんだろ?
 自分でもよく分からない。
「あたしって、堅いのかしら?」
「気にしているのかい?」
「…そうね」
 適当に、それこそお茶を濁すように返事をする。
「好きな人にだけ自分を許すのは当たり前の行為さ、それを護魔化すために役者と言う人種は本当に相手を好きだと錯覚するそうだよ」
 ああ、そうね…
 モヤモヤが少しだけはっきりとする。
 あのシンジに似てる感じ、あれだわ…
 こいつとならキスできる。
 シンジだと思って護魔化せる。
 そっか、あたし…
 その考えが恐かったのだ。
 シンジに悪いわね…
 誰かを代わりに出来てしまう事が。
「でもまあ、君とキスするのは遠慮しておくよ」
「なんで?」
「…したいのかい?」
 少々呆れたような感じが声に混じる。
「…そういうわけじゃ、ないわよ」
「だろう?、君の自棄に付き合わされて、傷つけるためだけにしようと言われてもね?」
 アスカはガバッと起き上がった。
「そんなこと言ってないじゃない!」
「同じことだよ、僕に傷つけろと命じて、自分は汚れたと満足して、酔った状態のままのぞんで、そして僕を憎む事で解消する、でもそんなことはどうでもいいのさ」
「…どうでもってなによ」
「僕はそんな君の心の隙を突いて唇を奪ってしまった、そんな思いを抱いて君に付き合っていくしか無くなる、例え君に強要されたとしてもだよ、それを酷い事だとは思わないのかい?」
 ミズホやレイのように寂しがってる子につけいるのは簡単だからね…
 しかしシンジを卑下したりはしない。
 でも、その思いに答えるのは大変な事だよ、逃げ出さない勇気もね?
 ズボンのポケットに押し込んでいるウォークマンを意識する。
「…あんたでしょうが、このバイト持って来たの」
「そうだね?、だから言ってるのさ、嫌ならやめればいい、人のことなんて知らない、それでいいと思うよ?」
「…勝手な奴」
 しかしそれが一番の解決法でもある。
 逃げちゃおうかしら?
 一種の誘惑にも近い考えが浮かんだ。
「で、どうするんだい?」
「さあ、ね…」
 ふぅっとカヲルは息を吐いた。
「君に、とてもいいものを上げるよ」
 そう言って取り出したのは、先程から意識していたウォークマンだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

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