NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':80 


「黙々と読んでるねぇ?」
「今いいとこなんだから黙ってなさいよ!」
 黙ればいいのかい?
 ちらりと見れば、オヤジ二人は頭にネクタイをまいて出来上がっている。
「こんな状況でも浸れるなんて、僕にはアスカちゃんの神経が分からないよ」
 カヲル、本日二度目の空中遊泳となった。


「山岸さん!」
「碇君…」
 泣き脅えているマユミの姿にカッと来る。
「なにやってるんだよ!」
 二人の男子と、一人の女の子が取り囲んでいる。
 トウジ、ケンスケ、それに洞木さん!?
 シンジは目を疑った。
「あ、いや、シンジ…」
「ちゃうで、なんか誤解しとるんとちゃうか?」
「そ、そうよ、あたしはちょっと聞きたい事があって…」
 だがそれも「ぐしゅ…」っと言う、マユミの鼻すすりの音で全て否定された。
「また、アスカなの?」
 押し殺した声が異様だった。
「そりゃアスカの友達だからってのはわかるよ、でもだからって、こんな…」
「そりゃちゃうて」
「あのね?、あたし達、ただ」
「もういいよ!」
 シンジは本気で怒っていた、だから話を聞こうともしない。
「行こう、山岸さん」
 強引に手を引く。
「あ、シン…、ジ?」
 アスカはシンジを見かけて追って来ていた。
 だが言葉の後半で『それ』に気がつき、アスカは目を釣り上げた。
「なに手なんて握ってるのよ!」
 びくっと反応するマユミ。
 それが直に手を通してシンジに伝わった。
 だからアスカを睨み付けた。
「な、なによ…」
「もうやめてよ」
「え?」
「もういい加減にしてよ!、なにが楽しいんだよ、僕達に構わないでよ!」
 たじろいだアスカだったが、聞き逃せない部分があった。
「僕達ってなによ!」
「わかっててやってるくせに…」
 ここぞとばかりに、いままで溜めこんでいた不満をぶちまける。
「腐れ縁なんだろ?、だったらもう関係無いじゃないか、無視してよ!」
「どういう意味よ!」
「苛められるのはもう嫌なんだよ!」
 それはアスカが冗談で言っていた障害の内の一つのことだ。
「なんだよ、好きでもなんでないくせに近寄らないでよ!、僕のことなんて何とも思ってないんだろう?、なのになんでみんなから苛められなきゃならないのさ!」
 そう、アスカは奇麗になった。
 可愛かった頃、それはからかいの対象であったけど、そんなアスカにシンジはいつもドキドキしていた。
 ずっとそんなアスカを見て来た。
 でも…
 中学に上がってアスカは変わった。
 制服を着たアスカは女の子になった。
 アスカではなくなった。
 女の子になったのだ。
 人前ではシンジを避けるようになった。
 奇麗な女の子は、シンジを戸惑わせ、ただコンプレックスを抱かせるだけの存在になった。
「どうせ僕はバカでなんにもできないよ!、だからって苛付くんなら無視すればいいだろう?、なんで山岸さんにまで、こんな酷いことさせるのさ!」
 悪いのはアスカだ!
 シンジの中で、その想いだけが凝り固まった。
 アスカはそんなシンジに驚き、表情を強ばらせたまま動けない。
 シンジはぎゅっと唇を噛むと、その脇をすり抜けた。
「あ…」
 マユミは急な一歩に声を出した。
 つかまれ、引かれている手が痛かった。


「…アスカちゃんは気に入らないみたいだね?」
「…これ、本当に逆転するんでしょうねぇ?」
 アスカは疑いの目を向ける。
「するよ、アスカって娘が主役なんだから」
「そう…」
 すうっと落ちつくために深呼吸する。
「でも正直、役者に合わせてただけでこんなにイメージが変わるとは思わなかったよ」
 カヲル、余計な一言でまた飛んだ。


 それから僕達はいつも一緒にいるようになった。
 それが僕とアスカの仲を決定的に否定する証拠にもなったし。
 少なくとも、僕は気が楽になった。
「碇君も、これ、読んだの?」
「あ、うん…、おかしいかな?」
「ううん」
 山岸さんは笑うとほんとに可愛いんだ。
 学校では図書室で、休みの日は図書館や本屋を巡って…
 のんびりとした時間が過ぎていく、本当に穏やかで、心地いい。
「僕は…、山岸さんの事が好きなのかもしれない」
 僕はいつものように屋上で、カヲル君にだけ告白した。
「…いいのかい?、それで」
「え?」
 カヲル君はいつものようにはにかんだまま、でもなにか思うように空を見上げている。
「アスカちゃんだよ…」
「アスカ?、アスカは関係無いじゃないか…」
 ほんとうに?
 そう尋ねられているようで、僕はカヲル君から目を背けた。


「山岸さん、どうしたの?」
 はっとする表情を訝しむ。
 いつからかな?、もうすぐ三年生になるって頃になって気がついたんだ。
 時々何処かを見て、ぼうっとしてる。
「ううん、何でも無いの」
 嘘だ、と、思う。
 僕はその視線の先を知っている。
 そしてその理由も分かっていた。


 ある雨の日、僕は用事があって学校を早退したんだ。
 そしてカヲル君と、カヲル君のお迎えの黒い車を見かけたんだ。
 そこからは山岸さんが降りた、本屋に送っておろした、ただそれだけのこと。
 でも僕は隠れた、でなきゃ何を言ってしまうか分からなかったから。
 幸せそうな山岸さんは、頬を上気させて車の中に向かい頭を下げている。
 手渡された傘は、とても立派なものだった。


 渚カヲル。
 カヲル君はどこかの社長さんの長男らしい。
 良くは知らない、でもどうして僕なんかを親友って言ってくれるのかわからない。
 尋ねたシンジへの返答は簡単なものだった。
「だからだよ」
 シンジが色眼鏡で見ようとしないこと、それを喜んだのだ。
「ねぇ…」
「なんだい?」
 少しずつ、マユミへの疑念が増える度に、カヲルと過ごす時間が増えていた。
 まるでその考えを否定してもらいたいかの様に。
「どうして、そんなにアスカのことを気にするのさ?」
 でも出てしまうのは違う言葉だ。
「…彼女は、僕と同じだからね?」
「え?」
 その言葉の意味が分かるまでに、シンジには沢山の時間が必要だった。


 誰もいない放課後の図書室で…
 僕は山岸さんに借りた恋愛小説を返したんだ。
 そしてシンジは気がついていた、その内容が、自分と、マユミ、そしてカヲルを当てはめた、マユミの偽り無いメッセージだと言う事に。
「ごめん、もう、山岸さんとは付き合えない…」
 マユミははっとした表情でシンジを見上げた。
「なに、言ってるの?」
「…ごめん、もう話したくないんだ」
「どうしたの急に、ねえ?」
 泣きそうになるくらいなら…
 僕は置いたままの小説を目の端に止めた。
「ねえどうして?、あたし何か気にさわるようなことをしたの?」
 したよ。
 つい口にしそうになる。
 こんな本読ませておいて、良く言うよな…
 シンジは胸の痛みから、我慢の限度を越えてしまった。
「もういいだろう?」
「え…」
「…黒い車の彼氏と、仲良くすれば?」
 泣いた、山岸さんは絶対に泣いた。
 嗚咽を堪えるように手を動かしたのは見えた、でも僕には見てるだけの勇気も無い。
 だからシンジは、マユミの前から逃げ出した。


「シンジ…」
 校門、シンジは一人の寂しさを纏って歩いていた。
「アスカ、どうしたの?」
 鞄を胸の前にして、じっと誰かを待っている。
「し、シンジを待ってたのよ!」
「僕を?」
 今更、なに?
 それが表情に出てしまう。
「い、一緒に帰るぐらい、いいじゃない…」
 アスカも聞いたのかな…
 僕が振られたって事。
 仲が良かっただけに、お互い離れてしまった僕達のことは、そう時間がかからずに知れ渡った。
 前とは違う、山岸さんは友達も多くなったし、こんなことで一人になったりはしない。
 …一人になったのは僕だ、でもアスカ達のしたことは忘れられない。
 僕はアスカを無視して歩き出した。
「待ってシンジ!」
 切羽詰まった声で腕を組まれた。
「…離してよ、離してくれよ!」
「嫌よ!」
「なんでこんな事するんだよ!」
「なんでってなによ!?」
「いまさらなんだよ?、おかしいよ!」
 シンジは無理矢理腕を振りほどいた。
「またアスカの言いなりになれって言うの?、アスカと話すなって、近寄るなって、殴られそうになって…、蹴られた事だってあったじゃないか!」
 アスカにも心当たりはあった。
 その現場を押さえた事だってあるのだから。
「もう嫌なんだよ!、何も言ってくれないくせに、教えてもくれないのに、利用されるのなんて」
「利用?、利用って何よ!」
「アスカが言ったんじゃないか!、昔…」
 シンジは唇を噛み締めた。
「うっとうしいから…、最初は他人の振りをしろって」
 うっと引く。
 まずったわね?
「あ、あれは…」
 場違いに赤くなる。
 いまさら恥ずかしかったなんて言えないわよ!
「もういいだろ?、アスカのために嫌な思いして、我慢して、それでどうなるっていうんだよ!」
「シンジ!」
 アスカは俯いて、切羽詰まった声を出した。
「今日、の晩…、団地の公園に来て」
「…なんだよ」
「お願い…、そこで話すから、大事な事、話すから」
 これ以上触られたくない。
 そんな想いが、シンジに返事をさせてしまった。
「…わかったよ」
 それからお互い、少しの距離を置いて並んで歩いた。
 二人とも深く何かを考えるような顔つきをしていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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