NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':83 


 テンガロンハットを被った少年が、食堂用の食材搬入口にいる業者に銃を突き付けていた。
「ちっちっちっ、お前の潜入工作術、大久保町じゃあ二番目だ」
 どこだかわからない地名を吐く。
 が、それでもCIAの工作員のプライドを傷つけるには十分だった。
「っ!」
 呼吸一発でセラミック製のナイフを抜く、背後に向かって狙いを定めたものの、そこには銃を構えたライが居た。
「正当防衛」
 にやりと笑って引き金を引いた。


 プラスチック製の銃は装弾数が少なく、また銃身部分も熱ダレを起こすためにそう何度も使用できない。
 ライは太股を撃ち抜く事で、次々と効率良く相手を無効化していった。
「きゃー!」
 悲鳴が上がって生徒たちが逃げ出す。
 警備員が銃に倒れた男達を保護していく。
(状況変化、しかしチャンスか)
 黒人の調理師は素早くマイの背後に回った、その巨体で視界からマイを隠す。
 さらに押されている振りをしてマイを別の通路へと誘導した。
「あっ…」
 マイは前を走るジョン達に声を出そうとしたが、口を塞がれてしまった。
(やだ!)
 とっさに力を使おうとしたが、それよりも早く男の手に塗られていた、べたついた液体の香りに意識が遠くなっていく。
 こちらの通路には、もう皆逃げてしまったのか人影が無かった。
 マイを軽々と抱き上げ、黒人の男は引き上げようとする。
 しかし。
 ガチャン!
 バン!
 男の正面と背後で音がした。
 正面が窓を割って入り込んだジャン。
 背後は戸を開けて転がり込んで来たライだった。
 ジャンは飛び込んで来たままの、半腰を浮かせた状態。
 ライは転がり、片膝をついて銃を構えていた。
「フリーズ!」
 CIAはマイの体を両方へと誇示した。
「…誘拐は犯罪の中じゃ一番割に合わないって知ってるか?」
 ジャンが動いた、CIAは急に軽くなった腕に驚き、確認する。
「ワッツ!?」
 少女がいない。
 顔を上げればジャンが抱いていた。
 そのジャンの向こうでライが問う。
「逃げるか死ぬか、三秒で選べ」
 男は一秒で逃げ出した。






 ゴォオオオオオ…
 南米に向かう専用機の中で、マイはその手紙を握っていた。
 ジャンに送った「あの時のお礼」に対する返事である。
 気絶寸前のもうろうとした状態のマイを抱き上げ、教師に引き渡したのは皆知っている。
 マイはそれに対して実にレポート用紙五枚に渡るお礼の言葉を出していた。
 帰って来た手紙に書かれていたのは「あんなところで寝てんじゃねーよ」だけだった。
 だがその手紙をマイは両手で握り締めていた。
 南米までは後一息である。


「ようこそアーカムへ」
 日系人らしい男がナオコに握手を求める、が、ナオコはあっさりと無視してすり抜けた。
「よろしくお願いいたします」
 しかし代わりにサヨコが手を握ってにっこりと微笑んだので問題は起きなかった。
 第一印象としてはかなりいいものが残せたようである。
「それで?」
「は?」
「ここから研究所まではどの程度かかるのかしら?」
 その様子にナオコの眉はピクピクと動いていた。
「あ、車で二十分と言う所です、どうぞ」
「田舎ね」
 ボソリと口にした言葉が彼の耳に届かなかったのは幸運と言えたが、それがまたまだ彼がサヨコの魅力によっていたためだと感付くと、さらに不機嫌さを増す原因となってしまった。


 亜熱帯地方特有の植物に囲まれたやけに小さな建物が、アーカム所有の研究所だった。
「ふぅ、…ん」
 カッカと踵で床を蹴り、リツコは小馬鹿にしたように天井隅に隠されたカメラを見た。
「地下はどの程度の広さがあるのかしら?」
 リキが口を寄せる。
「研究所建設当時の土砂排斥量から、地下に直径百メートルクラスのドームに匹敵する施設が存在している可能性があります」
「各種実験施設に施設全体のエネルギー発電所、と言った所かしら?、ところで…」
 バタバタと所員が走り回っている。
「この騒ぎはなに?」
「君、なにがあった?」
 慌てて彼女達を案内して来た…、所長だったらしいマクガソンが所員の一人を捕まえた。
「メインコンピューターがダウンしました、原因は外部からのクラッキングです」
「ばかな、ここのシステムは三重の回線を通してデータ変換しているはずだ、毎秒十万通りのパターンで変更される暗号以外のデータは無視されるはずだぞ!?」
「ええ、ですから犯行は内部で行われたものと」
 ふぅっとナオコは溜め息をついた。
「まったく、リッちゃんと『研究所』と名の付く所に来るとこれだから…」
「…人のせいにしないでくれる?、それで、どうするの?」
「…こんなところに長居してもしようがないわ、メインサーバーの端末に案内して」
「いや、しかしそれは」
「案内しなさい、今、すぐに!」
 ゴゥン!
 爆発と震動。
「…早くしないと、外の人達に突破されるわよ?」
「…わかりました」
 マクガソンはまだ渋りながらも頷いた。


 ナオコ達が通されたのは所長室だった。
 ナオコがログインして状態を確認している間に、リツコは机の下にあるパネルを開いて各配線を剥いていった。
 白衣の内側からパワーグローブを取り出し、それか伸びるケーブルを接続、さらにパワーグローブからの端子を同じく掛けたサングラスのフレームに差し込んだ。
「母さん、処理をこっちにも回して」
「ええ」
 グローブをはめたリツコの手が、何も無い空間を叩き始める。
「クラッキングでわたしと張り合おうというの?、しゃらくさい…」
 サングラスがヘッドセットディスプレイの代わりとなって、デジタルの世界を視覚的に作り出す。
 さらに別回線にリキがナオコのノートをシリアル接続して、さらに携帯無線機とも繋いで何処か外部との中継を始めていた。
「…こちらからも入ります」
 液晶画面に「11th・OnLine」とメッセージウィンドウが開かれる。
「どう、ですか…」
 あまりにも鮮やかな手並みに、マクガソンは自分の部屋でありながら居心地を悪くしていた。
「プログラムYAMA?、運がいいわね、あと三十秒でここの全システムが無差別排除に乗り出す所だったわ」
「さ、三十秒!?」
「リッちゃん、ワクチンは?」
「この程度のウイルスにワクチンなんて必要ないわ」
 一方、リキが仕事をしているようでしていない作業も終了間際の状態になっていた。






「いや、さすがは赤木博士、これ程早くシステムを把握なさるとは…」
「…ここのシステムが旧式なのよ」
 リツコはにべもなく言い放つ。
「それで?、前哨戦の結果はいかがでしたの?」
「おそらくは米軍でしょう、このところ妙な動きが多いのです」
「妙?」
「…この先五十キロ、密林の奥にある村が突然消滅しました」
「消滅?」
「全ての家屋は破壊され、住人は一人も発見されず、調査に向かって団体は民間、軍部問わず全滅、屍を晒しております」
「それで、わたし達に何をしろというの?」
「こちらへ」
 ナオコ、リツコ、リキは地下の研究所へと通された。


「つまんなぁい」
 ぶぅっと膨れながら、マイは今だ騒がしい研究所内を散策していた。
「お仕事ですもの、ね?」
「うん…」
 一応はぐれないようにサヨコと手を繋いでいる。
 が、場違いなのは間違い無いだろう。
「とにかく、俺達だけじゃ手が足りねぇって言っとけ!、っと、悪ぃ!」
 部屋から出て来た青年がぶつかりかけて謝った。
「あ?、なんでこんな所に子供が…、お前!」
「あー!、ジャンだぁ!!」
 遊園地でお目当ての乗り物を見付けた子供。
 そんな感じでマイは笑みを広げた。


「これが見せたかったものです」
「これが?」
「はい」
 予想通りに存在した地下隔離施設。
 その中央の培養槽の中で肉片とおぼしきものが緑色の溶液の中を泳いでいた。
「我々はこれをA細胞と呼んでいます」
「それで?」
 リツコは主導権をナオコに任せて、ただ後を歩いている。
「この細胞が見つかったのは偶然でした…」
 それは「その村」が全滅して、最初に送り込まれた調査隊が持ち帰ったものだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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