NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':86 


「なんだかねぇ…」
 やはりのめり込めないのか?、アスカはずり落ちるように背もたれにもたれていた。
「ま、今日はミズホが満足してるんだしいいじゃない」
「そりゃ泣き出されるよりマシだけどぉ…」
 ちらっと見ると、前のめりに画面を注視しているミズホが居る。
「そう言えば」
 レイは苦笑いを浮かべながら話題を切り換えた。
「明日よね?、誕生日」
「まあねぇ…」
 なにやら浮かない表情をしている。
「…なにかあるの?」
「ん…、今年は催促しなかったのよね?」
「シンちゃん?」
「あのバカ…、ちゃんと何か用意してるのかしら?」
 腕組みして眉間に皺を寄せる。
 不安が塗り重なっているのだ。
「大丈夫だってぇ、シンちゃんのことだから一生懸命考えて…」
「あっまーい!、あんた今だにシンジってバカのことがよくわかって無いようね?」
「なんで?」
「そういう肝心な所でぼけぼけっと「忘れてた」なんて顔するのがシンジなのよ!」
「そう?」
「それってぇ、シンジ様の愛情が足りてないだけですぅ」
 クスクスと笑うミズホの脳天にゴン!っと拳が降り落ちる。
「痛いですぅ…」
 涙目のミズホ。
「あんたは大人しく鑑賞してなさい!」
「ふわぁい…」
 くるっとレイに振り返る。
「ま、だから今日はあたし達だけでってことにしたのよ」
「どうしてぇ?」
「あんたバカぁ?」
 ふふんとシンジの事を読み切っている余裕の態度で鼻を鳴らす。
「今日は猶予期間ってところよ」
「猶予?、なんの?」
「プレゼントを決める猶予に決まってるでしょ!」
「はぁ?」
「バカシンジのことだもん、もう買ってるならそわそわしてるはずよ」
「それもそっかぁ」
「そうよ」
「でもそれって、怒られるのも毎度のことだし、怒られた後で何とかしようって癖が付いちゃってるんじゃない?」
「うっ」
 そうかも…、と、これまでの歴史を振り返る。
「ついでに考えてなくてもアスカがうるさいからって、言うのを待ってるとか…」
「あ、のっ、ばかシンジ!」
「ってそれがいけないんじゃないの?」
「じゃあどうしろってのよ!」
「しばらく怒るのやめたらぁ?」
「それで?」
「あたしがシンちゃんに優しく教えてあげるから」
「ズルいですぅ!」
 ゴン!
「あんたはあっちを観てればいいの!」
「ふえぇ…」
「ま、今年はそう無理言わないわよ」
「そう?」
「ここんとこデートだなんだって奢らせ過ぎちゃったしね?、財布の中もろくに残ってないだろうし」
「さっすがアスカ、人の財布の中身までチェックしてるなんて…」
「ほほほほほ、今の内から財布くらい握っとかないとねぇ?」
「わたしなんてぇ、シンジ様のトイレットペーパーの平均使用量まで知ってますぅ」
 ゴゴン!
「計るな!」
「ミズホ下品…」
「くすんですぅ…」
「で、アスカ」
「なによ?」
「今年は何をねだるわけ?」
「そうねぇ…」
 アスカは人差し指を唇に当て、ふっと軽く笑みを浮かべた。
「タダなんだけど、高い買い物一つで我慢してあげるわ?」
「まさか…」
「あたし…、なんて言わないわよ?、でもキスぐらい良いじゃない」
ダメですぅ!
「ミズホだめ!」
「お、落ち着きなさいって」
これが落ちついていられましょうかぁ!
 うるさいぞぉ!っとの声が上がり、同時に係員らしいのが駆け込んで来る。
「まずいわね?」
「逃げましょう!」
 ガシッと暴れるミズホの両腕を取って、アスカとレイは劇場の外へと逃げ出した。


「あれ?、ここって…」
 ぴんぽーんっと和子がインターホンで呼び出すのを待ちながら、シンジはこの家が誰のものかを考えていた。
 Nakazaki…、じゃあやっぱり?
 表札と和子から誰を呼んでいるのか想像する。
「連れて来てくれた?」
「ばっちり!」
 え?
 二人の会話におよび腰になる。
「いかぁり先輩☆」
 いらっしゃあい♪、と言う手つきに引きまくるシンジ。
「ナカザキさん…、こんにちわ」
「ふふふ…、これで第一段階成功」
「あ、僕やっぱりかえ…」
「和ちゃん!」
「おっけぃ!」
 ガシッと腰にタックルをかける。
「ああっ、やっぱり騙したんだな!?」
 引きずり倒されるシンジ。
「ごめんなさい、だって薫ったら碇先輩を連れて来てくれたらチョコムース食べさせてくれるって言うんだもん☆」
「僕に何をするつもりなのさ!?」
「やだなぁ、碇先輩にはなにもしませんよぉ」
 ころころと笑って護魔化しにかかる。
 しかしシンジの勘は護魔化せなかった。
「嘘だ!、薫さんが「先輩」なんて言うなんて普通じゃないよ!」
「あ、しまった、かな?」
「うんうん、やっぱり後ろめたい所があるとそうなっちゃうよねぇ?」
「和ちゃん…」
「あ、ごめぇん、先輩も!、ちょーっと渚先輩の話し聞かせてあげればいいだけですから、ね?」
 にっこりと優しく微笑む。
「ほんとに?」
「「ほんとほんと」」
 シンジは引き倒されたまま涙目で振り返った。
 少女が二人がかりでシンジの腰を引っ張っている、そこに浮かんでいる引きつった笑みは…
「嘘だ!」
「ちっ、なんて勘のいい餌なの!?」
「薫が嘘吐けないだけだって…」
「そりゃあ、和ちゃんは慣れてるでしょうけどぉ」
「でもほんとに渚先輩、来るの?」
「もちろんよ!、わたしの計画にミスなんて無いわ!」
「…その計画だと、こんなことする必要なかったと思うんだけど?」
「むぐー!」
 手早くガムテープで巻き上げられ、ついでに口も塞がれている。
「さ、これから説得説得!、それから先輩に電話してもらわなきゃいけないんだから」
「…渚先輩じゃなくて、惣流先輩達が出たらどうするのよ?」
 どうやら和子を餌にシンジを釣り上げ、さらにシンジでカヲルを釣るという計略らしい。
「これぞ秋の友釣り計画!」
「もう冬なのよねぇ…」
 和子の一言が妙に染み入る。
(釣れる分けないよぉ…)
 シンジはさめざめと涙を流しながら、玄関の戸が閉じられるのをじっと見ていた。


「あ〜もぉ、ミズホのせいで追い出されちゃったじゃない」
「むきゅ〜って、元はと言えば、アスカさんがぁ!」
「はいはい、まったく、冗談が通じないんだから…」
 金を無駄にしたぁと言うことで、結局シンジの財布で補完させることは決定していた。
「絶対本気でしたぁ!」
「否定はしないわよ?」
「く、悔しいですぅ、なんだかとっても」
 両サイドに垂らしている髪の房を握って、ミズホは下唇を持ち上げた。


「…また増えてない?、カヲル君グッズ」
 グッズって、これが?
 等身大の人形や立て看板、ポスター、ぬいぐるみ、…マグカップやペンシル、カヲルのサイン入りノートパソコンというのは一体どうやって手に入れたのだろう?
 って言うのか?、誰が作っているのかかなり怪しい。
「ん〜、和ちゃんのおかげで相田先輩から直接買えるようになったしぃ、相田君の頼みだったら、カヲル君も聞いてくれるみたいだから」
「はぁ…、そこまでして欲しいのかしらね?」
「むがぁ!」
 どうやら「ここまでやってるくせに!」っと自分の不運を嘆いているらしい。
「碇君もぉ、ちょおっとカヲル君に電話してくれるだけでいいんだけどなぁ?」
 ああ、胸が、背中に胸が、耳元に息がぁああああ!
 抱き起こされた上になにやら羨ましい状態らしい。
「…もしかしてって思ってたけど」
「なに?、和ちゃん」
「先輩が童貞って噂、マジ?」
 もがぁ!
 あたり前だろう!、っとシンジは必死に訴える。
「…ガムテ、取って上げたら?」
「うん」
 ぴりりっと粘着性の弱いテープは薫の指によって剥がされる。
「ねぇねぇ、先輩?」
「なんだよ!、僕をもう帰してよ!」
「芋虫みたいな状態で怒っても迫力無いわよ?」
 ふふんと人差し指でシンジの顎を持ち上げる。
「…和ちゃんはまってるぅ」
「あのねぇ!」
「あ〜んな奇麗な人達と暮らしててなんにもないんですかぁ?」
「ないって!」
「碇君って、奥手なんだ」
「奥手って問題?、なぁんか不健全」
「ほっといてよぉ!、第一!、はっきり付き合ってもいないのにそんな事できる分けないじゃないか!」
 シンジの叫びも、この二人の前には無意味である。
「何か言ってるしぃ」
「うんうん、でもやっぱりカヲル君は違うと思うの」
「ん〜、案外碇先輩とそう言う関係なのかも」
「碇君!」
「ひゃあ!、誤解だよ!、何もしてないって!」
「ほんとに、ほんと?」
「ほんとほんと!」
「よかったぁ…」
「だからそのナイフをしまって!」
「あ、ごめんね?」
「横に引かないで!、喉切れちゃうよ!!」
 ちなみにカッターナイフである。
「薫ってほんと、渚先輩の事になると見境無くなるよねぇ?」
「きゃははって…、笑ってないで止めてよぉ」
「ごめんさぁい、で、キスぐらいしたことあるんでしょ?」
 薫の椅子に座ってあぐらを組む。
 …見えてるんだけど、と和子に思うのだが、話しのネタがネタだけに口にする勇気が無い。
「あのねぇ、僕達はそう言うんじゃなくて」
「なくて?、ん?」
「あの、その…」
「ん〜〜〜?」
 ニヤニヤと顔を近付けられて口ごもる。
「先輩ってほんと純…、って言うか免疫なし?」
「碇君だってぇ、あたし達くらいの時には色々話してたんでしょう?」
「してないって!」
「…その方がタチ悪くない?」
「うん」
「どう言えばいいんだよぉ!」
「ほんとに男かってこと!」
「不能だったりして」
「女に興味が無いの?」
「まさかほんとにホモ!?」
「碇君っ、やっぱりカヲル君のこと!?」
「うわああああああああん!」
 遂にシンジは泣き出した。
「「冗談なのに…」」
 やたらキツイ二人であった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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