NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':95
「ふぅむ、良く出来てるじゃないか」
「そうでしょうか?」
甲斐の漏らした一言に、秀麗な眉を酷く歪める。
「嫌いかい?」
「なんだか…、男の人のエゴが見えてて…」
カスミはモニターで観戦している。
「それにしても…」
と、とある事に気付いていた。
「このキャラクター達って、なんだかプレイヤーに対してリアクションを取ってるような?」
「良い所に気が付いたね?」
「え…」
ただにこにこと。
甲斐は笑みを浮かべていた。
●
「あ、シンジ、シンジ、シンジぃ!」
堰を切って呼び止める声に振り返る。
「…シホ」
「あ、なによその顔は!、人がせっかくい〜話し持って来て上げたのに」
廊下やや高い声が響き渡る。
(女版ケンスケ)
シンジはそう断定していたが、情報の正確さの一点においてケンスケには遠く及ばないと分析していた。
「それよりなにさ?」
「ん〜、えっとねぇ」
「早くしてよ」
「あのねぇ?」
「…あ、ぼく用事あったんだ」
「こら逃げるなぁ!」
「なんだよもぉ…」
しぶしぶ付き合う事を選択する。
「だからなに?」
「んっふっふぅ、情報よ情報!、それもとーっておきの!!」
やけに興奮した様子で勿体つける。
「ねぇ聞いて聞いて?」
「だから早くしてって…」
「一年生にぃ、超能力少女が居るんだって!」
「へぇ…」
「なぁによぉ、その反応は?、あー、信じてないわね!?」
「そんなことは、ないけど…」
シンジとしては素直な反応のつもりだった。
(超能力、か…)
レイ達のことがある、自分を考えないのは今だに自覚が無いためだろう。
(知られたら、やっぱりまずいよね?)
トウジ、ケンスケもこんな風にはしゃいでくれるのだろうか?
まあどちらにしても今更な事である。
そう深く考えるつもりもない、だからこその相槌だったのだ。
「お、噂をすれば」
「え…」
階段を女の子が昇って来た。
(なんだろう?)
酷く脅えた表情をしている。
「あ…」
「え?」
シンジを見て、彼女はわずかに表情を陰らせた。
(なんだ?、今…)
シンジは気が付いていない、エントリー直後からプレイヤーの表情はスキャンされているのだ。
彼女達が反応しているのは、なにも手動で選んだ選択肢に対してだけではなかったのだ。
「あの…」
そうこうしている間にも、女の子はためらいがちに近付いて来た。
上目づかいに対して、シンジはやや見下ろすような感じになる。
互いに戸惑いが浮かんだ。
「階段に…、気をつけて下さい」
結局、彼女が呟いたのはそれだけだ。
すっと避けるように去っていく。
その背中をしばし見送ってから、シンジは思わず息を吐いた。
「おっどろいたぁ」
シホもだったのだろう、やや目を丸くしている。
「あれが噂の超能力少女よ?」
「ふぅん…」
シンジは生返事を返し階段を昇ろうとして…
スッ転んだ。
「ってことがあったんだ」
「ほぉんと、話題の提供には事欠かない奴だよな?、シンジってさ」
足首を捻ったために、一応病院で見てもらう事になったのだが。
シナリオの都合なのか?、総合病院だけが街には存在していた。
外来客が多いために順番は待たされるのだが、シンジはそれに補うだけの幸運を手に入れていた。
ケンスケとの思わぬ再会、である。
「でも、こんな所に入院してたんだね?」
「ああ、酷い目に会ったからなぁ」
何を思い出したのだろうか?、ケンスケはぶるっと身震いを見せた。
「でも大変なんじゃないの?」
「なぁに、ここはここで美人の先生とか看護婦さん、それに病弱な美少女、なんてのも居るしな?」
「追い出されても知らないよ?」
苦笑する。
(元気だなぁ)
生き生きとしている。
「それよりその子だけど…、コトネちゃんだろ?」
「コトネ…、知ってるの?」
「髪の長い子だろ?、俺もちょっと関わってるからな?」
「え…」
シンジは首を捻った。
「おいおい…、まぁだ気が付いて無かったのか?」
「なにがさ…」
「パラメーター、開いてみろよ」
言われた通りに折れ線グラフで現在状況を表示する。
時間と共に当然記録は伸びていくのだが…
「あれ?、変動してる…」
シンジはここに居て、何もしていないのに下降していくのだ、ラインが。
「どうなってるの?」
「それはつまり、お前に対して好意を持ってるキャラクターに誰か他の奴がアプローチしてるって事さ」
「他って…」
「鈍いなぁ、これ、対戦だろう?」
「あ…、え?、あ!?」
思い出すのに時間がかかった。
「そっか…」
「忘れてたのかぁ?」
「だ、だって、まだその人達には会ってないし…」
思い返して見ても、敵プレイヤーに該当するようなキャラは思い当たらない。
「実は俺もなんだけど…、シナリオが進めばぶつかるんじゃないの?」
「そう、だね?」
シンジは納得することにした、自分達もまた『必然性』のあるイベントが無ければ接触できない様にされているからだ。
「あ、それよりコトネちゃんの事なんだけど…」
「ああ…」
ケンスケは言いづらそうに言葉を濁した、が、結局話した。
「彼女、人間じゃないんだ」
「え…」
シンジは言葉を失った。
(コトネちゃん、か…)
暗い帰路を歩きながら、シンジはケンスケの語った内容を思い返していた。
『って言っても怪物とか化け物ってんじゃなくて…、コトネちゃん、なんでも染色体が半分しかないとか、まあ特殊な体をしてるらしいんだ』
『へぇ…』
『そのせいか変な力も持ってるらしいんだけど…』
『人間じゃない、か…』
『ああ…、人ってさ?、ちょっとでも違うと酷く傷つけるんだよな』
『ケンスケ…』
『コトネちゃんは、人間だよ…』
『うん、そうだね?』
シンジは同時にチャットウィンドウを開いていた。
(ケンスケって、いい奴だね?)
(ばぁか、ゲームだろ?、ゲーム)
しかしモニターに映るケンスケのキャラは、明らかに照れて赤くなっていた。
「コトネちゃん、か…」
(会って話したい、話してみたいな?)
ゲームの中だけの安易な設定なのは分かっている。
だが符合する何かに引っ掛かりを感じるのだ。
あるいは興味を。
「ひぃいいいい!」
「へ?」
気の抜けるような声に首を巡らす。
「悲鳴…、なのかな?」
シンジはもう一度聞こえないかと耳をすませた。
「ひやぁあああああああ」
「あ…」
女の子が犬にじゃれつかれていた。
苦手なのか犬の勢いが良過ぎるのか?、その女の子は押し倒されてしまっていた。
(パンツ見えてる…)
腰を抜かしたように倒れている。
(はっ!、そうじゃなくて!?)
慌ててレバーを握り直すと、即座に表示された選択肢を入力する。
「あ、見てる場合じゃ…、ないよね?」
慌てて走る。
「おーよしよし」
犬のお腹を抱いて持ち上げる。
「おーい、大丈夫ぅ?」
だがまだ脅えているのか?
少女は目に光るものを溜めこんでいた。
それに体も強ばらせたままで立ち上がろうともしないのである。
「しょうがないなぁ…、ほら、あっち行ってて」
シンジは犬を少し離れた場所において撫でてやる。
「ね、君…」
シンジは彼女の前にしゃがみ込んで瞳を覗きこんだ。
二・三度呼び掛けると、ぼうっとしていた彼女の目の焦点が合い始めた。
「碇、君?」
呼び掛けに微笑みで答える。
「怪我してないよね?」
「あ、それより御洋服!」
「御洋服って…」
それ、制服、と突っ込みそうになる。
「破れてたらどうしよう…」
「え…、っと、ごめんね?」
「きゃ!」
小さな悲鳴が聞こえたのだがシンジは無視した。
お尻や肘などの、破れやすい部分を重点的に見る。
「大丈夫だよ、何処も破れてない、少し汚れてるけど…」
「そんなに酷い?」
「ううん、埃がついただけだよ」
シンジは彼女のお尻の埃を払ってやった。
「これでいいよ」
「あ、あの…」
「あ…」
彼女が赤くなっているのに気付いて、ようやく自分が何をしたのかに思い至る。
「あ、あの、僕」
「ご、ごめんなさい!」
「あ…」
ばたばたと走る先で「きゃん!」っと看板にぶつかっている。
それでも逃げるように足は止めない。
「行っちゃった…」
シンジはただ呆然として、そんな彼女を見送ってしまうだけだった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
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