NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':96 


「学園祭?」
「はい!」
 今日も神社の境内で。
 シンジはアオイの言葉にキョトンとした。
「もうすぐ学園祭があるんです、そこで交流会と言う形を取る事になりました」
 表面上は楽しげに報告する。
「でもいいの?」
「う…」
 アオイの手は傍目にも分かるほど震えてしまっていた。
 木に吊るしたサンドバッグに、体操着、ハンドとレッグプロテクター装備で向かっている。
 しかし様子を見るように軽く突き出すだけで、決して打ち抜きはしないのだ。
「おかしいですよね?、あれだけ大見栄切ったのに、まだ緊張が抜けなくて…」
「緊張が抜けないんじゃないでしょ?」
「え…」
「緊張が酷くなってきてるんじゃないの?」
 アオイはサンドバッグを抱くように、額をそこへ押し付けた。
「…やっぱり、わかっちゃいますか?」
「わかるよ…」
(堅くなってる…)
 幾つかのありきたりな言葉が表示された。
 勝ち負けは関係無い。
 負けたらアヤカには追い付けないぞ。
 坂下に言わせておいていいのか?
 シンジはどれかを選択しなければならない事にためらった。
(違うのに…)
 かけるべき言葉は別にある。
 その想いが強くなる。
(違うのに…)
 だけど他に選ぶべき言葉も無くて…
 シンジは無難に、勝っても負けてもいいじゃないか、と説得していた。


「ふぅ」
 家に帰って鞄を放り出す。
「お兄ちゃあん!」
(お兄ちゃん、か)
 名前がユイだからだろうか?
 どうにも手が出しにくい。
 しかし出しにくい相手はそれだけではない。
「電話だよぉ?」
 その相手は…、アカリであった。


「ごめんねシンジちゃん?、でもどうしても散歩したかったんだぁ」
 河原の土手を二人で歩く。
「いいよ…、別に暇だったから」
「ふふ…」
 見守るような目にドキリとする。
「なに?」
「良かったって思って」
「え…」
「コトネちゃんの事…、気にしてたみたいだから」
「うん…」
『叶わないな』
 見抜かれている事をシンジは悟った。
「あ、ねぇ」
「なに?」
「公園まで歩こう?」
「いいけどさ…」
 シンジは場所移動を了承した。


「ふふ…」
 また目を細くしてアカリは微笑んだ。
「なにさ?」
「シンジちゃん、この間言ってたでしょ?」
 懐かしげに問いかける、甘えた声で。
「商店街からここに抜ける秘密の道」
「あ、うん…」
 バツが悪そうに頭を掻く。
「アカリを置き去りにして泣かせちゃったんだよね、僕…」
「うん…、でもね?」
 柔らかな微笑みを見せるアカリ。
「わたしがシンジちゃんを好きになったのって…、あの時からだよ?」
「え…」
『好き』
 突然の告白に動揺してしまう。
「え?、ええ!?」
「間で道が別れてて…、どっちに言っても知ってる場所に抜けられたんだけど、シンジちゃんの背中が見えなくなって恐くて動けなくなっちゃって」
「うん…」
「それでしゃがみ込んでたら、シンジちゃんが『ほら』って手を引いてくれたんだ…」
 わずかに頬が赤くなっている、それを見てシンジは緊張の度合を増した。
「で、でもそれは…、僕のせいだから」
「シンジちゃんは…、優しいから」
「え?」
 急に彼女のトーンが変わった。
「放っておけないんだよね?、気になって…」
(そう言う事、か…)
 シンジは話しの筋に気が付いた。
「コトネちゃんのこと?」
「うん…」
 それだけではない、とアカリの顔には書いてあった。


 幼馴染からの脱却、恋人への進展。
 踏み出せない一歩、これまでと、これからの落差。
 どこかで見て、聞いて、知っているお話であった。
 夜の公園。
 並木を二人で歩いていく。
 現われる選択肢。
 顔が違う、背が違う、髪の長さも全く違う。
 何よりも笑顔が違う。
(こんな風には…)
 アスカも、レイも、ミズホも、微笑みはしないだろう。
 妹のように、懐いて、甘えて。
 なのに選択できない、手が震える。
(これはゲームじゃないか…)
 好きだと告白すればいい。
 それだけでポイントは入る、得点をゲットしたことになる。
(でも!)
 ギュッと、レバーを握る手に力が入る。
「見て見てシンジちゃん」
 ハッとする、タイムアウトだ。
 アカリがはしゃいで少し駆け出していた。
 ゲームは自動的に進行を始めた。
「来年も、こうしていられたらいいね?」
 微笑みに対して自動的な返答が行なわれた。
『そうだね』
 合成された声は非常に良く似ているがやはり堅く、柔らかでない、なのに…
(そうだね)
 シンジは自分の声のように聞こえてしまう。
「帰ろうか?」
「うん!」
 恥ずかしげに…
 アカリは差し出されたシンジの手を握り返した。


 予定日数と言うものがある。
 アドベンチャーゲームでは特に見られる設定数値だ。
(時間が無い…)
 シンジは次第にエレクトし始めている自分を感じていた。
「あややややや〜!」
「ほら、だから僕が持つって言ったのに」
「ううぅ、すびばぜぇん!」
 鼻水を垂らしながら謝るメイドロボットに苦笑する。
 コピー用紙の詰まった段ボール箱を用具室へと運ぶ途中らしかった。
 それをシンジは手伝うと買って出たのだ。
「うう〜、人のお役に立つために作られたというのに、わたしはぁ…」
「仕方が無いよ」
 手に箱を持っていなければ、宥めるために彼女の頭を撫でていただろう。
「向き不向きってあるしさ?、マルチの腕って、力仕事をするようには出来てないんだよ、きっとね?」
「そうでしょうかぁ?」
「そうだよ、うん」
「はいっ!、シンジさんにそう言って頂けますと、なんだかそんな気がして来ましたぁ!」
 にこにこと寸足らずな声ではしゃぎ出す。
(結局、二択なんだ…)
 現実の自分を取り巻く環境、そこに居る人達との対人関係。
 それを逆手に取るか?、逆に逃げるように他を選ぶか。
(僕は…)
 シンジは、一応は心を決めていた。







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