NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':114 


「敵機発見、これより、攻撃に移るっていきたい所だけど」
「やめてよアスカ…」
「わかってるわよぉ」
(ほんとにやると思ってるわね?)
 アスカは剣呑な瞳をシンジに向けたが、騒ぎはしなかった。
 アスカにしては大人しい、砂色の丈の長いスカートを翻し、シンジとレイを促すように歩き出した。
 コンサートは告知を必要とはしていなかったが、スポンサーのために多少の宣伝行為は行われていた。
 アスカが見ていたのはビルから降ろされている垂れ幕であった。
 色違いの幕それぞれに、ホワイトデーの文字に続いて、合同コンサートを行う参加者達の顔写真がプリントされていた。
 ついでにその人その人の、ホワイトデーにはご一緒に、との、応援文句が付け加えられている。
 その内でもアスカが凝視していたのは、もちろんマイとメイの垂れ幕であった。
「アスカ待ってよぉ」
 シンジは大股で、レイは小走りにアスカを追った。
「ねぇ、ホントにやる気なの?」
「当ったり前よ!」
 シンジは困り顔をレイに向けた。
「レイもなの?」
「あ、うん…」
 返事ははっきりしなかった。
 気分的には今は色々な事が片付いていないので、落ち着きたいと言っている。
 だが、アスカに発憤させて貰った身としては、どうしても嫌と言えない部分があった。
「大体さぁ、考え過ぎなんじゃないの?、二人だけならまだしも、他の人たちもいるんだよ?、そんなに大それたことをするかなぁ?」
「あっまーい!、あんた去年の今頃のこと忘れたの?」
 はぁっと溜め息。
「忘れられるはずないだろう?」
 どれだけ大変な目にあった事か。
「あいつら、いざとなったら人巻き込むなんて、何とも思ってないんだから」
 アスカの酷評に、シンジの後ろでレイはきゅっと唇を噛んだ。
(そんなこと…、させないもん)
 その目に強い光が宿る。
 シンジは肩越しに、レイもやる気になっちゃったんだなと嘆息した。
 −−はりきるのはいいけどさ。
 シンジは未だ、アスカほど気持ちに整理は着いていなかった。
(僕の音楽、僕の曲、僕の歌…、まだ答えは出ていないって言うのに)
 こんなことをしている場合じゃない。
 そんな想いが、くすぶっていた。






「で、俺の所に来たってわけか」
 一足先にやって来ていたケンスケは、少し大人を意識してアメリカンに口を付けていた。
「こういう時に役に立たないで、あんたなんていつ役に立つのよ?」
「えらい言われようやなぁ?」
 げぷっと下品な音をさせながら、トウジは苦笑を浮かべていた。
 トウジの前にはカレーの皿が三つ積み重なっている。
「シンジ、笑ってないでなんとか言ってくれよ」
「殴り返されるのがオチだと思うよ」
(なんだか不思議…)
 レイはそんな三人に目を細めていた。
 別れる時は喧嘩したのに、こうして揃うと本当にいつもの三人なのだ。
「ヒカリは?」
 アスカはやおら訊ねた。
「シンジと会う言うたら、無茶苦茶心配しおってな、妙な世話やいて話しが進まんようになったら困るし、置いて来たわ」
「ふうん、意外と亭主関白になったわけね?」
「ぬかせ、男の友情は女にはわからん、笑って許す言うんが、なんでわからんのやろうなぁ?」
 トウジはお腹をさすりながら愚痴気味にこぼした。
「トウジにはトウジの考えがあるし、シンジにもシンジの理想があるってことだろ?、それをお互い分かってて、譲れない部分もあるから意見をぶつけ合うしか無いんだよ」
「喧嘩に見えるっちゅうことか?」
「そういう喧嘩じゃなくても、殴り合いになるほど真剣になるってのは、熱血の証拠だろ?」
「ちょっとぉ、それじゃああたし達の喧嘩が、おままごとみたいに聞こえるじゃない?」
 アスカの言葉に、ケンスケは体を前に倒して本腰を入れた。
「一般論って言うの?、俺の言うことは俺の意見で、俺達の喧嘩が本気かどうかわからないみたいに、女の子には男の子のことはわかんないし、俺にも女の子の友情なんてわからないの」
「だったらいい加減なこというんじゃないわよ」
「それだと何にも言えなくなるだろ?」
 ケンスケは息を継ぐようにカップに口付けた。
「なぁ、綾波だって、変だとは思わないか?」
「なに?」
「例えばさ、トウジが浮気して、それが惣流だったとして、それでも洞木って『二人で愛し合いましょう』なんて考えるかな?」
「変な例えに使うんじゃないわよ!」
「いてっ!」
「ん〜〜〜、ヒカリは、そう言う事いわないかなぁ?」
「トウジだってさ、惣流のこと、アスカなんて言ってるんだぜ?」
「なんですってぇ!?」
「怒らんでも…、ヒカリの口癖が移ってしもたんや」
 ケンスケは肩をすくめた。
「そう言う事情があればな…、でもシンジが知らなかったら?」
「え?」
「トウジが、自分の彼女を呼び捨てにしてて、それが本当にそうだった時に、じゃあ共通の彼女に、なんて考えられるか?」
「そんな…」
「バカなこと言ってんじゃないわよ!」
「だろ?、例えだよ、ものの例え、だから怒るなって」
 まだブチブチと言っているアスカに冷や汗を流しながら話を続ける。
「男の子でも女の子でもさ、そういう共通した嫉妬とかって感情はあるだろう?、でも、惣流も綾波も、信濃もか?、中途半端に取り合いと譲り合いをやってるじゃないか、これって絶対変だろ?、俺には理解できないし、洞木も多分わかってないんじゃないか?、本気でシンジを奪うつもりがあるのかって聞かれればあるって答えられるのに、どうして今度みたいにさ、シンジと綾波が離れかけたら、惣流が出張ってくっつけるわけ?」
 本気で訊ねた、それだけにアスカは怒った。
「そんなの当たり前じゃない!」
「って、言うと思ったよ」
 苦笑する。
「だから、それが三人の友情なんだろ?、惣流にしてみれば当たり前の関係だけど、俺達には理解できない、世間的に照らし合わせたら理解できない繋がりなわけ、でもそれが成り立つのは、親友だからとか、そんな理由だろう?、友情に男も女も関係無い、違いもな?、その人その人でどういう繋がりかが違うんだからさ」
「あたし達の場合は、シンちゃんって事?」
 レイはこんがらがり始めた頭に、目が渦巻になるのを何とか堪えて訊ねた。
「正にその通りってところか?、シンジ抜きじゃ成り立たないんだよな、で、俺達は俺達でそれがまた違うわけよ、バンドがどうのこうのなんて無くてもかまわないわけ、中学の時なんてあれだったもんな」
「あれって?」
 レイは小首を傾げた。
「あんたさんざんタダで撮られてたでしょうが」
「ああっ、写真!」
「そうそう、シンジが釣って来て、俺が撮って、トウジが売ると」
「お前が主犯やないか!」
「トウジだってバイト代取ってただろう?」
「シンジぃ?」
「ぼ、僕はそんなの知らないよぉ!」
「まぁまぁ、若気の至りって奴だよ」
「あんたは今もでしょうが!」
「そやそや!」
 旗色が悪くなって、ケンスケは逃げた。
「トウジは委員長が恐いだけだろうが、…まあいいけどさ、話を戻すけど、洞木はさ、一つヒビが入ったら全体に影響すると思ってるわけよ」
「そんなに脆くはないってわけ?」
「俺は逆だけどさ、ひび割れた部分はさっさと欠けてなくなっちゃうわけ、その分、他の何かを見付けて継ぎ足すなりして、全体の形は一定を保つわけよ」
「じゃあ、この話は渡りに船ってわけね?」
「なに言ってんの、そっちこそ俺の本業だぞ?」
 ケンスケは笑って、アスカの持って来たコンサートチケットからスケジュールを確認した。
「たださ、俺は無理してまでやる事は無いと思ってるんだけど」
「さっきまで、そう言う話しをしとったんや」
「問題はシンジでさ、綾波も渚も、要がいないとパッとしなんだよな、シンジぃ、本当に大丈夫なのかぁ?」
 シンジは不安げに答えた。
「よくわかんないや」
「あんたバカ!?、わかんないじゃない、やるのよっ、絶対!」
「そんなこと言ったってさ…」
 ぶちぶちと文句を垂れるシンジに嘆息して、アスカはレイにこそこそと訊ねた。
「あんたはどう?、やれそうなの?」
「わかんない…」
 レイもまた正直だった。
「シンちゃんをなんとかするって言っても…、理屈はカヲルが説明してくれると思うけど、これって感覚的な問題だから」
「でもあんたと二人の時が、一番再現率は高いんでしょう?、なら…」
「それについて、なんだけど」
「なによ?」
「もう一人、巻き込んでもいいかな?」
「誰を?」
「…秋月ミヤ」
「げっ…」
 アスカはなに考えてんのよ、と睨んだが、レイは正面を向いたまま、深刻そうに考え込んでしまっていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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