NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':125 


「馬鹿が、聞こえてるってのよ」
「はは……」
 ヒカリは赤い顔をして、笑って護魔化した。
「ねぇねぇ」
 興味津々と身を乗り出すレイ。
「で、鈴原君、何してくれるの?」
「レイ!」
「いいのよ、アスカ」
 ヒカリは余裕を見せて、アスカばりにニヤリと笑った。
「だって、わざと拗ねてるんだから」
「そうなの?」
「そうなの、トウジってね、引き出しが少ないから、こう言えばああしてくれるって言うのが決まってるの」
「ね、ね、例えば?」
「可愛くないって言ったら、そんなことあるかいって、頬に手を当ててね、こう……」
 っと唇を尖らせる。
 きゃーっとはしゃぐレイに対して、アスカは眉を顰めた。
「ちょっと生々しいって」
「そう?」
「そうよ」
 はにかむヒカリである。
「昔は逆だったのにねぇ」
「え?」
 キョトンとするアスカ。
「なによ?」
「だって……、中学の時なんて、アスカ達が何したか聞かされる度に、恥ずかしくって堪らなかったけど」
「今じゃ追い抜かれちゃったけど」
「でしょ?」
 笑った所で、ケーキセット二つと、ジャンボパフェ、それにヒカリの追加注文であるコーヒーが届いた。
「ヒカリ、コーヒー党だった?」
「ううん、でもトウジの家に良く行ってるとね、おじいさんにお父さんにトウジでしょ?、別に紅茶を作るの、面倒臭くって」
「おじいさんに、お父さんねぇ……」
 吹きこぼす。
「もう入り込んじゃってるわけね」
「そう言う分けでも無いけど……、ノゾミも一緒だから」
「お姉さんとおじさんはどうしたのよ?」
「お姉ちゃんめったに帰って来ないし、お父さんも忙しくてね」
「可哀想」
 アスカは憐れんでかぶりを振った。
「疲れて帰って来たら家は真っ暗、娘はと言えば男の所、こりゃ大変だわ」
「そういう言い方しないでよ」
 ヒカリは困り顔で言った。
「それにお父さん、もしかすると引っ越すかもしれないって言うの」
「え?、ほんとに!?」
「ええ……、けど、あたし達はこっちに残っててもいいって」
「なんだ」
 アスカは胸を撫で下ろした。
「ああ、そう言えばうちもそうなのよね」
「え?」
「パパとママよ、それにおじ様とおば様も」
「じゃあ、今は?」
「あたし達だけよ、家、まあ?、三人も居ればシンジの面倒くらい見られるけど」
 失笑するヒカリ。
「何よ?」
「シンジ君に頼らないってのが、アスカらしいわ」
「あの馬鹿に頼ってどうするってのよ」
 アスカは嫌な事を思い出した。
「この間だってねぇ、「じゃあ、誰かと二人っきりになったら何かすればいいわけ?」なぁんて大真面目に聞くのよ?、あのばぁか」
 レイが眉をしかめる。
「シンちゃん、今だに聞くから、そう言う事」
 ヒカリは苦笑した。
「でもアスカ達の気持ちも分かるけど、シンジ君だって、愚痴りたくもなるんじゃない?」
 反応したのはミズホだった。
「ヒカリさん、いつからシンジ様のこと、お名前で呼ぶようになられたんですかぁ?」
 口に手を当てて驚く。
「え?、呼んじゃってた?」
「はい」
 困り顔で首を傾げた。
「移ったかな?、最近多いのよね、相田君の事もついケンスケ君って呼んじゃうし」
「鈴原もそうよね、あたしのこと、たまにアスカって呼ぶし」
 ちょっとだけひくついた頬に意地悪く笑う。
「あれぇ?、ヒカリぃ、妬いてんの?」
「妬いてない!」
「冗談よ、でもヒカリだってその内、シンジに洞木さんじゃなくてヒカリって呼ばれるようになるんじゃない?」
 ヒカリはキョトンとした。
「アスカみたいに?」
「じゃなくて」
「あ、そうか」
 ぽんと手を打ったのはレイだった。
「鈴原ヒカリになっちゃったら、洞木さんじゃおかしいもんね」
「そう言う事」
 真っ赤に茹で上がったヒカリを肴に、アスカ達はケーキをつつく。
「もう!」
 ヒカリはコーヒーをあおり飲んだ。
「大体、アスカ達がいけないんじゃない」
「は?、何がよ」
「シンジ君!」
 憤然と怒る。
「アスカ達が強引過ぎるから怯えちゃったんじゃないの?、それに、誰かと仲が良くなって来ると怒って嫉妬するし」
「う……」
「アスカ達だって、もう愚痴っちゃって、自棄食いまでして」
「うう」
 レイもアスカに続いてダメージを受けた。






「あたしちょっとトイレ」
 数時間前、アスカの行動が発端だった。
 アスカが一人になるのを、じっと待っていた少年が居た。
 ポケットに決意を秘めて。
 ゲームセンター、一人トイレに向かおうとしたアスカの前に、彼は立ちはだかるように割り込んだ。
「なに?」
 少々不意を突かれて、アスカは焦った。
 真っ直ぐ見つめて来る少年の目には、懐かしい類の光りが見えた。
「これ!」
 手渡されたのは手紙だった、やはりと思う。
 この手の意志を込めた目には、独特の輝きがあるからだ、期待と、恐怖と不安と、希望が宿されて。
「それじゃ!」
 やや唖然と、アスカは駆け去る少年を見送った。


「で、その手紙ってのが、それ?」
「ええ」
 アスカはざっと熟読していた。
 トウジ達は先に引き上げて行った、シンジはヒカリが座っていた席、アスカの隣に移っていた。
「ま、読んで見なさいよ」
 突き出された手紙に、恐る恐る目を落とす。
「いいの?」
「かまやしないわ、あんただって、気になるんでしょ?」
「うん……」
 おずおずと受け取る。
 前からレイが覗き込んだ。
「ふぅん……」
 感心した声を出して乾燥を口にする。
「情熱的ぃ」
「でも、これ……」
「なによ?」
「恥ずかしい」
 赤くなったシンジに、アスカは笑った。
「なんだよ……」
「ま、あんたじゃそうでしょうねぇ」
 手紙を取り返して、アスカは再び読み始めた。
「嬉しい、アスカ?」
 からかうレイだったが、アスカの反応は冷ややかだった。
「ま、悪い気はしないけどねぇ」
 レイは唖然とした。
「前は読みもしないで捨ててたくせに」
「ま、場所が場所だったからってのも気になったんだけど……、それより」
「なに?」
「なぁんで春休みに、ゲームセンターで偶然こんなの渡せるわけ?、着けて来たのか、待ち伏せとか、肌身離さず持ってたのか」
「ストーカーってこと?」
 肩をすくめた。
「まあ、答えってんじゃ決まってるけどね」
「どうするの?」
「断るだけよ」
 即答だった、迷いも無い。
「でもこの人、アスカのこと、ホントに好きみたいなのに……」
 だからシンジは口にしたのだが、アスカは深く溜め息で返した。
「あんたねぇ」
「ごめん……」
「そうじゃなくて、もうちょっと、ちゃんと読めって事よ」
「え?」
「初めて見た時の、とか、笑顔が、なんてのは最悪ね、要は奇麗でしたってだけでしょ?、シンジが一緒の所を見たってのが、なんとなく匂うじゃない?、ってことはよ、シンジにくっついてるあたしを見て、嫉妬したって事よ」
 アスカは辛辣に言った。
「分かんない?、あたしに惚れたってんじゃなくて、話してた、とか、腕を組んでた、とか、もっと言っちゃえばキスしてるんだろうな、とか、その先も?、なぁんて想像しちゃって、自分もしたいなってことになるのよ、誰かとそんな事がしたい、ちょうど見てたのがあたしとシンジだから、あたしにそう思って、好きになりましたって事になってる」
 シンジとレイは、感嘆した。
「アスカって……」
「色々考えてるのね」
「あんた達ねぇ」
 頭痛を堪えた。
「だから馬鹿なガキに興味は無いって言ってたのよ、それに」
「それに?」
「シンジ」
「なに?」
「あたしの事、好き?」
 唐突な質問にシンジは赤くなった。
「なんだよ、急に……」
「深い意味は無いわ、好きか嫌いかで良いのよ」
「それなら……、好きだけど」
 アスカは満足げに頷いた。
「よね?、あたしが蹴っても殴っても、怒るけどその時だけでしょう?、でもね、この子と付き合ったらどう?、あたし、そんな事出来ると思う?」
 アスカなら、と言う返事を二人は揃って飲み込んだ。
 それこそ殴られると思ったからだ。
「どうかってのは、実際に付き合って見ないと分かんないけど」
 そんなことは無いだろう、とも思ったが、賢明にも口答えはやめておいた。
「けど?」
「嫌われるんじゃないか、ってね?」
 苦く笑った。
「恐がられるんじゃないか、とか、探るみたいな事になるんじゃない?、あれはしていいのかな、これはしていいのかな?、レイには覚えがあるでしょう?」
「なに?」
「例えばお弁当、勝手に作って、喜んでくれる?、それとも迷惑がられる?、そんなの分かんないわけでしょ?、そんな風に怯えて遠慮がちになってるのが可愛いって場合もあるんでしょうけどね、そんなのあたしのキャラじゃないわ」
「ふうん……」
 レイは頬杖をついた。
「じゃあ、アスカの基準って、別にカヲルでも鈴原君でも相田君でも良いんだ」
「まあ、この子よりはね」
 そう言って手紙を振った。
「だってシンジと何かしてる、それが羨ましいってんなら、きっとこの子、付き合い出した途端にキスしようとか、エッチしようとかそんな事ばっかり言い出すんじゃない?、それでいつも、あいつとしてたんだろうって嫉妬して、それなのに、シンジにしてたみたいに甘えろとか、笑えとか、言うんでしょうね、けどそんなの無理よ、やってらんないわ」
 レイは呆れた。
「って、そこまで考える?、普通……」
「半分は今思い付いた話しだけどね」
「なに、それ」
「言いながら考えついたって事」
「いいかげぇん」
「良いのよ、大体当ってると思うし、それに、あんた、シンジに笑ってるみたいに笑える自信ある?」
「あの……」
 遠慮がちにシンジは割り込んだ。
「笑う、とかさ……、考えてやってるわけ?」
「あんたバカァ?」
 ほとほと呆れた。
「そんなの、考えてやってるわけないじゃん」
「だよねぇ……」
「でも自然にやってるから、余計に難しいのよ、そりゃ信頼とか親愛とか、難しい言葉で説明するのは簡単だけど、道を聞いてありがとうって笑うのって、ただの愛想じゃない?」
「うん」
「けどね、なぁんでシンジに愛想なんて使わなきゃいけないのよ」
 アスカはあっけらかんと、そう言った。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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