こちらは碇家の居間である、今日の夕飯は海老がメインの天ぷらだ。
 ユイ不在のために三人の競作となっている、合作ではないのがミソだろう。
 アスカは、がぶっと尻尾ごと齧って言った。
「なぁにあいつ、ちょっと昔の男関係がバレたからって焦っちゃってさ、バッカみたい」
 冷ややかな視線が注がれる。
「そういうアスカはどうなの?」
「何が?」
「アスカだってぇ、知られちゃいけない事の三つや四つや五つや六つくらいあるんじゃないの?」
「あんたじゃあるまいし、あるわけないでしょ」
 ふふふふふっと睨み合う二人を余所に、ミズホが訊ねた。
「どうかなさいましたか?」
「あ、うん……」
 気のない返事の後に続ける。
「マナも、もてるんだなぁって思ってさ」
 これを聞き咎めないはずが無かった。
「なによそれ?」
「あ、シンちゃん妬いてる?」
「そうじゃないよ」
 裾を握って、う〜っと涙ぐむミズホに微笑む。
「マナってさ、あんまり、そう言う話し聞いたこと無いから」
「そう?」
「結構可愛いし、人気もあると思うんだけど……、みんなみたいに言い寄られてるの、見た事無いから」
 ピンと来るレイ。
「シンちゃん……」
「なに?」
「もしかして、もてない子の方がやきもきしなくて楽そうだ、なんて思ってない?」
 むぅっとアスカも突っ込んだ。
「不細工でも素直だったら、とか馬鹿な事考えてんじゃないでしょうね?」
「考えてないよ」
 慌てて答えたシンジに、アスカは頷いた。
「ま、不満があるってんなら、聞くけど?」
 ヒソヒソと声がする。
「アスカさんって……」
「その性格さえ、良ければねぇ」
 こめかみに怒りがひくついた。
なんか言った?」
「「別に……」」
「ふん!、心が奇麗なら、とかそんなこと言う奴に限って、ちょっと奇麗な女に言い寄られたら、すぅぐ浮気するのよ!」
「じゃあ、アスカってやっぱり汚いんだ」
「ふむふむ」
「こいつら……」
 ぷるぷると拳が震えた。
「別にそう言うこと言ってるんじゃないんだけどなぁ」
 ぽり、と頬を掻くシンジ。
「たださぁ……、マナの昔の話って、聞いたこと無いから」
「そう言えば、そうね?」
 レイは中学とか……、と言いかけて止めた。
 考えてみれば、マナ……、浩一もだが、普通に育ったにしては怪し過ぎるからだ。
 シンジに目線を送ると、シンジも気が付いたのか、深くは触れなかった。
「だからさ、せっかく昔の友達と会えたのに、邪険にする事も無いんじゃないかと思ってさ」
「はぁ?」
 アスカは惚けた。
「あんた、それ本気で言ってるの?」
「うん……」
 答えてから、不安になる。
「なにか、おかしいかな?」
「あんたねぇ」
 はぁと溜め息。
「そんなの、あんたが好きだからに決まってるでしょうが」
「え?」
「だからぁ」
 苛立ちを抑えて説明をする。
「今好きな奴に、誤解されて、良かったね、なんて祝福されてみなさいよ、情けなくって涙出てくるでしょうが」
「あ……」
 レイとミズホも責めた。
「シンちゃん、ちょっと鈍い……」
「ですぅ」
 さらに追い打ちが掛けられた。
「あんたの目の前でねぇ、友達だからって喜んじゃったら、いっくらあんたでも遠慮するでしょ?、でも目当てはあんたなのよ?、マイナスイメージ与えたくなかったら、あんな風に相手にする以外、ないじゃない」
 なるほど、と納得しかけて、シンジは首を捻った。
「そう言えば……、どうして屋上に居たの?」
「ああ、あれ?」
 気まずげにアスカ。
「ほ、ほら?、けっこう明るく笑うじゃない?、それでみんな、唾付けようとしたんだけどねぇ……」
 ピンと来た。
「それで、誰のことだか後着けたんだ?」
「う……」
「相田さんもいらっしゃったんですが」
 箸先を咥えて、レイが言う。
「じゃあ、明日の校内ネット新聞に記事乗るかなぁ?」
 ぽかんとシンジ。
「校内ネット?、なにそれ……」
「え、シンちゃん知らなかったの?、相田君、校内のサーバーでやってる学校新聞に、記事欄持ってるの」
「それで毎回、変な記事ばっかり乗せてるのよ、あいつ!」
「いいじゃなぁい、三学期の一発目って、アスカの晴れ着だったんだけど、すっごい人気で」
「はん!、おかげで良い迷惑よ」
「何が?」
 くすっとレイは笑った。
「それを見たいからって、学校外から結構ハッキングがあったんだって、不正ログインで、ついでに他のデータまで盗まれかけたって」
「それでなんであたしが呼び出されなきゃならないのよ!」
「そんな事があったんだ……」
 多少呆然とするシンジであるが、それ以上に、そこまで人気があるんだなぁと再確認する。
「あの調子だと、夏は水着ね、絶対」
「ま、アスカのおかげで、こっちに被害は無いから」
 ふっ、ふふふふふっと、アスカは根暗に笑った。
「ああそう、いいわ、そんなこと言うなら」
「なに?」
「今度、学園祭か体育祭で、あんたに学ラン着せてやるから!」
「え、え?」
「応援団作ってやればって、そうね、マナにでも言っときましょ、あいつ、こういう話しって結構乗りそうだから」
「え〜〜〜?、やめてよぉ……」
「だぁめぇよ、前からあんたって、学制帽とかごっつい学ランとか下駄が似合いそうだって思ってたのよね」
 シンジはぼうっと想像した。
「う〜ん、そうだねぇ」
「シンちゃんがそう言うんなら……」
「って喜ばせんじゃなぁい!」
 素早くはたく。
(叩かなくっても良いじゃないか……)
 などと思いつつ、何を話していたのか、すっかり忘れているシンジであった。






「まんぷくぅ!」
 言葉のままに、ばたんと倒れる。
「もう食べられなぁい、お腹いっぱい!」
「そりゃあ……」
 呆れた目で、マユミはテーブルに積み上げられた蟹の足を数え上げた。
「これだけ食べれば……」
 原始人のごとく蟹味噌をすする姿も、見物の価値は十分にあった。
 しかもその上、こんなことまで言う。
「あ、雑炊は別腹だから、ご飯入れといてね」
「……はい」
 もはや何も言うまいと決める。
「なに?」
「いえ……」
 かぶりも振った。
「マナみたいに、人の目を気にしない方が、男の子にはもてるのかな、と思って」
 にたりと笑って起き上がる。
「マユミは奥手だもんねぇ」
 すかさずマユミは言い返した。
「良いと思う男の子が居ないだけです!」
 首を捻る。
「それこそおかしくない?、寄って来ないのは、マユミがどう思ってるかなんて関係無いじゃない、ねぇ?」
 っと男の子へと意見を求めた。
「どう思う?、浩一」
「どちらも正しいと思うけどね」
「そう?」
 茶をすすりながら答える。
「マユミが壁を作るから、とっつきにくそうだと思ってるんだろう、僕だって二人切りにされると困るよ」
「そうなんですか?」
 多少翳りを帯びたマユミに、浩一は続けた。
「どうか傷つかないで欲しい、なんて言うとキザに聞こえるかな?、この一言だけでも、マナなら笑って冗談にしてくれるけど、マユミだとどう受け取られるか微妙だろう?、特にシンジ君が相手ならどうかな?」
「ど、どうしてそこで碇君が出て来るんですか!」
 くすくすと浩一は笑った。
「ほら、意識するとシンジ君が碇君になる」
「マユミ!」
「違います!」
 顔が赤くなるのは、どちらの意味なのだろうか?
「マユミは何処か、そうやって言葉に気をつけようって感じさせる物があるのさ、思い込みが強いのかもしれないね」
「意識し過ぎなの?、シンジって、そんなにオトコノコって感じしないと思うけど」
「それは人それぞれなんじゃないかな?」
「なに?」
「赤ん坊がそうであるように、人はお母さんから、お父さんから、家族から隣人へ、世界を広げていく、マユミにとっては、それくらいシンジ君は近しい位置に居るって事だよ、家族の縁は切っても切り切れないだけに、憎悪は増幅してしまうのさ」
 心配げに見やる。
「そんなに嫌ってるわけ?」
「そこまでは」
 マユミ自身戸惑ったようだった。
「まあ、僕が言いたいのはだね」
 芝居がけた口調で、矛先を変えた。
「マナも、そう毛嫌いしないで、相手をしてあげたらどうなんだって事さ」
 自分を指差すマナ。
「あたしぃ!?」
「ムサシ君だよ、友達は大事にしないとね?」
「友達って言っても……」
 ねぇ、と言いかけて、はたとマナは顔を上げた。
「そう言えば」
「なんですか?」
 くりっとマユミに顔を向ける。
「電話……、借りるね」
「ええ……、構いませんけど」
 何やらぽけっとした顔のままで電話を掛ける。
 思わずマユミは、そんなマナを怪訝に思って、浩一にどう思います?、と問いかけていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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