Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:2





「先輩、どこ行っちゃったんですか、先輩…」
 赤城博士研究室とプレートの張られている部屋へ入る、入り口のネコマークをそっと撫でて。
 持ってきた荷物を、とりあえず椅子の上に置く。
 今まで私室を持っていなかったマヤには、幾つかの資料をまとめたブックがあるだけだ。
「こんなの悪い冗談ですよね、先輩…」
 今日からマヤが、この部屋の主となる。


 一晩経って、アスカの退院は三日後との診断が出た。
 体調の回復ももちろんだが、落ちた筋力を取り戻すために、最低限のリハビリを行わなければならないからだ。
「憑き物が落ちたみたいに大人しかったわね、あの子」
 一人靴音をならせてネルフ施設内の廊下を歩む。
「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜、気が乗らないわねぇ…」
 陰鬱そうにミサト。
 ネルフ本部第二会議室の前で派手派手しくため息をつく。
「失礼しまーっす」
 かなり投げやりな声を出して入室。
「…マヤちゃん?」
 いつもはゲンドウが座っている位置に冬月がいた、離れたところでかしこまっているマヤ。
 ミサトにほっとしたような顔を見せる。
 そりゃま、副司令と二人っきりってのはね…、司令よりはマシだろうけど。
「座りたまえ」
 不機嫌そうに冬月。
「正式な辞令は碇が出すことになっているが…、君達には先に知らせておこうと思ってな」
 なんだろう?とマヤは小首を傾げた。
「伊吹マヤ君」
「はい!」
 声が裏返ってしまった。
 赤くなる。
「赤城博士の後任として、君についてもらう事となった、彼女の私室はそのまま君のものとなる、今日からつかいたまえ」
 一瞬マヤには理解できなかった。
「ちょっと待ってください!、リツコは…、赤城博士はどうなるんですか!」
 蒼白になって、ミサトはつめよった。
「今日をもって辞表が正式に受理された」
「辞表って…」
「そんなはずありません!」
 弾けたように立ち上がるマヤ。
「先輩が…、先輩がやめるはずありません!」
 マヤの取り乱しように、ミサトは逆に冷静になれた。
 そうね、まだ拘束中のはずだもの。
「あたしに黙ってやめるなんて、そんな…」
 冬月は「たまらんな」と口の中でもごもごと呟いてから、席を立った。
「そういう事だ、後は君に任せるよ」
「はい…」
 唇を噛み締めるように、ミサトは返事をしぼり出した。


 ガラスの向こうで初号機が銃を持ち上げようとしている。
 起動試験中らしい。
「目標をセンターに…」
 シンジの呟きがスピーカーから漏れていた。
 エントリープラグのモニターには、街の情景と使徒が表示されているはずだ。
「どう?、調子は」
「ハーモニクスの不一致が目立ちます…、シンクロ率は10%未満、起動しているのが不思議なくらいですね…」
 マヤの声に張り合いが感じられない。
 ミサトはマヤの手元を覗きこむ振りをした。
「あまり深く考えない方がいいわよ?」
「でも…」
「いま考えたって、どうしようもないことなの、だから忘れて集中して」
 マヤは唇を噛み締めた。
 ま、しょうがないか…
 ミサトは試験に立ち会っている冬月に視線を向けた。
 何を考えているのか、人に見せない点ではゲンドウと変らない。
「葛城君、いいかね?」
「はい」
 何かの資料なのだろうか?、ファイルブックを開く。
「弐号機のテストも待たねばならんが…、碇は初号機をレイに書き換えることもあると考えているようだ、まあもっとも…」
 そうそうパイロットを降ろすつもりはないようだがな。
「準備しておけと?」
「まあそういうことだな…、理由は他にもあるんだがね」
 ファイルの中身をミサトに見せる。
「現在使用可能なソケットの数が少ない、一度にエヴァを運用できる作戦地点は限られている」
 シンジくんがあの状態じゃ、S2機関に頼るわけにもいかないか…
「そうそうジオフロントまで侵入を許すわけにもいかんからな」
「電源の確保を考えた作戦を組み立てろ…と?」
「UNとの連携も君に任せる」
 言うのは簡単よね。
 ミサトは頭が痛くなった。
「シンジ君、あがっていいわよ」
 司令と副司令、本気で降ろすつもりがあるのかしら。
 それはないわね、と、確信めいたものをつかんでいるミサトだった。


「シンジ君、いいかしら?」
 男子用更衣室に平然と入りこむミサト。
 奥にあるシャワー室の前で立ち止まり、ガラスごしに様子をうかがう。
「何ですか、ミサトさん…」
 シャワーの音にかき消されそうだった。
「エヴァ…、まだ乗る気ある?」
 しばらく無言の状態が続く。
「このままじゃ、いつエヴァが動かなくなるかわからないわ、なるべくなら死なせたくないのよ…」
 湯気が一瞬だけ薄まったような気がした、ミサトの目に、滝のように流れ落ちるシャワーの中で、じっと座り込んでいるシンジのシルエットが見えた。
「僕は…、僕は人を殺したくないだけです…、それだけです」
 人…が、第十七使徒「渚カヲル」を指しているのだと考える。
「違うわ、使徒よ、人じゃないわ」
「人ですよ…、この間、ようやくわかったんだ」
「この間?」
「アスカを巻き込んで自爆しようとした時、使徒の声が聞こえたんです、すごく嫌な叫び声だったけど…」
 アスカは平然としていた。
 あの子には聞こえなかったのかしら?
「そんな報告は受けていないわ」
「だって、聞かれなかったから…」
「アスカは聞いたって?」
「まだ一度も話していません…、会ってもいないし」
 酷く気だるそうな感じ。
「疲れたの?」
「取れないんです、血の匂いが…」
 それでずっとシャワーを浴びているのね。
「血の匂い、血の味、血の香り、ねぇミサトさん…、どうしてL.C.L.って血の匂いがするんですか?」
 ミサトは、シンジが望むような答えを持っていなかった。


「なあ、聞いたか?」
「マヤちゃんのことだろ?」
 無駄口を叩いているシゲルとマコト。
「突然の昇進、その上技術部の統括主任就任だぜ、変だと思わないか?」
「裏で色々あるんだろ?、やめとけよ、気にするだけ無駄さ」
 マコトとシゲルは、同時にため息をついて仕事に戻った。
 リツコの不在がMAGIの診断に遅れを生じさせているのだ。
「まあ、赤城博士の次にMAGIに詳しいのは、間違いなくマヤちゃんだもんなぁ…」


 暗い、カーテンが月の光さえも遮っている。
「マ…マ……」
 涙で濡れているのがわかった、アスカは手の甲でぬぐうと、ようやく病室にいるのだと思い出した。
 白い天井、暗い部屋、ベッドが右側に傾いている。
 違和感を感じて首だけ動かしてみる。
「な…」
 シンジが眠っていた、椅子に座り、アスカのベッドに倒れこむようにして。
「何考えてんのよこのバカ、気持ち悪いわねぇ…」
 ベッドから突き落としてやろうかと考えて、思いとどまる。
 すやすやと、実に気持ちよさそうに眠っていた。
 エヴァの中で見たビジョンが蘇る。
 シンジやミサトやみんなに、頑張ってるあたしを、生きてるあたしを見てもらいたい…
「そうよね…、こんな奴でもいないと、張り合いないもんね…」
 横を向く、体が固くなっていて痛い、それでもアスカは腕を伸ばして、シンジの頭を優しくなでた。
 それは母親の手つきだった。


 ビーーーーーー!
 レッドアラームに反応して、忙しなく情報をかき集めるシゲルとマコト。
 マヤが急いで駆けこんできた。
 司令席にゲンドウと冬月が現れる。
「状況は!」
 早足でマコトのパネルを覗きこみに行くミサト。
「パターン青、使徒と確認、ATフィールドの固有波形パターンは第四使徒と酷似しています」
「目標を補足しました、主モニターに回します」
 それは第四使徒そのものだった、ただ腹部の節足の数が増えていたが。
 空中を漂うように進行してくる。
「芦の湖と第三新東京湖を迂回するコースを取っています」
「地上進行…、ソケットを二つ確保できる場所、ある?」
「待ってください…、直上までおびき寄せないと無理ですね…」
「ゆっくり構えてらんないのよね…、向こうの動きは?」
「聖岳から抜けてくる感じですね」
 手持ちの装備を頭の中で組み合わせる。
「エヴァ弐号機に予備の電池を装備させて」
「弐号機に…ですか?」
「そうよ」
「初号機は?」
「弐号機のバックアップ、ありったけの予備電池を持たせて、弐号機の電池の取り替えを手伝わせるの、よろしいですね?」
 最後はゲンドウに尋ねた。
「ソケットも弐号機に取り付けます」
「かまわん」
 ゲンドウはそっけなく答えた。
「良いのか?、碇」
「今の弐号機のATフィールドを維持するには、通常の電源供給では間に合わんよ」
 ゲンドウの手元のモニターには、ベッドに乗せられたままで医師に運ばれているアスカの姿が写っていた。
「シンジも身を護る程度には初号機を動かせる、なんとかなる」
 めずらしく確実性をかいている答えだった。


「そういうわけだから、シンジ君?、危なくなったら逃げてね」
「はい…」
 L.C.L.に吐気を堪えているシンジ。
「なによあんた、ひっさびさに顔見たけど、前より暗くなってンじゃないの?」
 アスカの辛辣な言葉にも「そお?」としか答えない。
「からかいがいの無い奴ね」
 夜のことは知らないふりをしているアスカ。
 それはシンジもそうしていた。
「アスカもシンちゃんいじめてないで…、わかってるとおもうけど、あんたが主役なんだからね」
「主役かぁ、良い言葉よねぇ」
 ふふんっと、横目でシンジの様子をうかがう。
 小さなウィンドウにシンジの顔が写っている、無表情を保とうとしているのが見て取れた。
「くやしい?、ねえくやしい?」
「アスカ…」
「アスカはさぁ…、エヴァに乗れて、そんなに嬉しいの?」
 守秘回線で繋ぐシンジ。
「なによそれ、元々あんたが「誉められるために乗ってるんだ」って言ったんでしょうが」
 やはり守秘回線で返す。
「でも、今はこんなことで誉められたくない…、だって…」
「なによ?」
「人殺しは、嫌だから…」
 何のことだか一瞬考える。
「ばーっか、あれは使徒よ、人じゃないわ、人のできそこないよ」
「やっぱり、気づいてたんだね…」
 アスカはため息とともに打ち切ろうとする。
「誰かがやらないと死ぬのはこっちなのよ、あんたがやんないんなら、あたしがやる、それだけのことよ」
 死にたくないのは、こっちも同じなのよ!
「それに使徒は人になる前の獣だわ、そんなのを相手に、遠慮なんてする方がおかしいのよ」
 アスカは渚カヲルの存在を知らない。
「内緒話はそれぐらいにして、発進、いいわね?」
 ミサトが割りこんできた。
「おっけー!」
 親指を立ててつき出す。
 初号機、弐号機ともに発進位置に着いた、地上に出た後は、歩いて作戦位置に着くことになる。
「シンジには、もうちょっとしゃんとしてもらいたいんだけどな…」
 戦いに否定的なんじゃ、いくら頑張ったってあたしを認めてくんないもんね。
 終わったらマンションに戻って、シンジの奴をたきつけてやろう。
「まあ、ちょっとぐらいならサービスしてやってもいいかもね」
 具体的にどうこうとは考えていないアスカだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。