Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:3
「シンジっ、シンジいるぅ?」
病室の扉が開く、パジャマ姿でアスカは叫んだ。
むくり…と起き上がるシンジ。
天井。
またこの天井…。
シンジはアスカを見た。
アスカが真っ赤になってふるえている。
「寝ぼけてんじゃないわよっ、このばか!」
シンジはようやく裸であることに気がついた。
「まったく、どうしてシンジってああ間が抜けてるのかしら、全く成長してないじゃない」
「まあまあ…」
ベッドに潜り込んで丸くなっているアスカ、ミサトは苦笑しながら愚痴を聞いていた。
「ごめん、はいるよ?」
アスカの病室に入る、引っ被ったシーツの奥から、ものすごい眼光が飛んできた。
「アスカ、まだ怒ってるの?」
「恥ずかしがってんのよ」
「うっさい!」
枕が飛ぶ。
「これ、持ってきたよ?」
少し大きめのバッグ。
アスカのロッカーから引っ張り出してきたものだ。
「なにもシンちゃんに頼まなくてもいいでしょうに…」
「だって他に誰もいなかったんだもん」
バッグを漁る。
「ロッカーの中に置いてあった服、言われた通り適当に入れてきたから…」
「だ・か・らっ・て・ねぇ〜…」
またも怒りにふるえている。
「女の子の下着までいじるバカがどこにいるってぇのよ!、まったくぅ!!」
バッグからショーツを出してつきつける。
「ご、ごめん…」
「ほらまた謝ってるっ、あんた前より性格後退したんじゃないの!?、せめてデリカシーぐらい育てなさいよね!」
ミサトはくすくすと小さく笑いながら部屋を出て行こうとした。
気がついたようにシンジの肩を叩く。
「なんですか?」
「デリカシーを育てろって、言われたばかりでしょ?」
アスカを見る。
「なにじろじろ見てんのよ」
白いワンピースを胸元に抱きしめ、体を隠している。
ギロッと睨んでいた。
なにか言ったら、また怒るよな、アスカ…
シンジは何も声をかけないで、ミサトと部屋を出た。
アスカは急に落ち着いた様子を見せ、ワンピースを離す。
「ちぇ、加持さんがいてくれたら、あんなやつに話しかけなくてもいいのに…」
アスカはため息をついて、天井にある照明を仰ぎ見た。
「加持さぁん…、あんなバカ、加持さんの代わりになんかなんないよぉ…」
泣き言、アスカの頬を、涙がつたった。
「それでミサトぉ、これからどこに行くの?」
ルノーの助手席、窓を全開にして、アスカは風に吹かれながら尋ねた。
「新しいマンションよ」
「新しいって…、前に住んでたところは?」
「昨日、管理人さんから建て直すし出てけ〜って、ありがたいお言葉貰っちゃったのよ」
アスカはルームミラーでシンジを見た。
「荷物とかは?」
「先にマンションの場所を教えておこうと思ってね、荷物はそれから取りに行きましょ?」
シンジはぼうっと流れる景色を見ているだけで、会話に参加しようとする気配を見せない。
「シンジ、あんたは新しいマンションの場所、知ってるの?」
「うん…、場所は聞いてる、行った事は無いけど…」
「あん?、どうして?」
答えない。
「黙ってちゃわかんないでしょうが!」
苛ついた声に、シンジは一瞬だけめんどくさそうな表情を見せた。
ルームミラーごしに視線を合わせ、そらす。
「あーっ、そう、あんたそんなにこのあたしが嫌いなわけ?」
「別に…」
ぼそっと。
「あんた達ねぇ、もうちょっと明るくできないの?」
「そこのバカが勝手に暗くするからよ!」
アスカは機嫌を損ねて窓の外へ顔を向けた。
倒壊した街並み、ビルもほとんどが傾いている、そのすき間から以前は無かった湖が覗けて見えた。
「あ、あれレイじゃない?」
言いながら、ミサトは車のスピードを落とした。
「綾波…」
シンジの呟き、アスカは確かに聞いた。
歩道でしゃがんでいるレイ。
「何してんのかしら?」
レイの前に小犬がいた、パンをはんでいる。
「へー、ファーストも案外優しいとこあるじゃない」
車に乗ったままで、アスカはわざと聞こえるように大声を出した。
視線だけ向けるレイ。
「な、なによ、誉めてやったんじゃない」
射すくめられるアスカ、一瞬だけレイの視線がシンジと合わさった、シンジはそっとそらせる。
レイもまた何も言わずに、小犬に視線を戻した。
菓子パンを千切っては小犬に与えている。
尻尾を振りながらも、その犬は決してレイの手から直接もらおうとはしていなかった。
歩道に置かれて、はじめて匂いを嗅ぎ、食い付いている。
「あーあー、ほぉらそんな冷たい態度とってるから、小犬にもシンジにも嫌われちゃうのよ?」
意地悪く。
「僕は…、関係ないだろ?」
またもぼそぼそと呟く。
「別に…、冷たくしているわけじゃないわ」
立ち上がると、小犬を見たままでレイは答えた。
「へーっ、そぉ?、じゃあなんでシンジから視線をそらすわけ?、シンジだってそうじゃない、なぁんかやましいことでもあるんじゃないの?」
びくりっとシンジが震えた。
「ちょっとアスカ…」
ミサトにはシンジが何を恐がっているのか見当がついていた。
「別にやましいことなんてないわ」
「へーっ、どうかしらね?」
意地悪な目つき。
「だってシンジ、ファーストのこと好きだったんじゃないの?」
からかったつもりだった、だがシンジは脅えたようにレイから遠ざかろうとして、身を縮こませた。
そんなシンジを無表情に眺めるレイ。
「な、なによあんたたち…」
さすがにアスカも二人の異様な雰囲気に気がついた。
「あたしがいなかった間に何かあったわけ?」
「…何も無いわ」
「うそ!」
勢いよくドアを開けた、レイをかすめる、アスカは気にもしないでレイの真正面に立ち、睨んだ。
「何もないってんなら、どうして知らない奴を見るような目をして、あたしを見るのよ!」
レイは冷めた目でアスカを見ていた。
「まさかあんた、あたしを忘れたって言うんじゃないでしょうね!?」
「ただ知らないだけよ」
はぁん?っと疑問符を浮かべる。
「なによそれ、なんだかよくわかんないけど…」
「もうやめてよ…」
キッとシンジを睨む。
「なによあんたさっきから、言いたいことがあったらはっきりと言いなさいよ!」
シンジは脅えて、視線をそらした。
「もういいじゃないか、やめてよ、アスカ…」
「よくないわよ!、なによ二人して、邪魔?、あたしそんなに邪魔なの?、いいわよシンジなんてあんたに譲ってあげるわよ!」
どぉ?、それで満足!?
はぁはぁと息を切らせる。
「…碇君は貴方のものじゃないわ」
かー!っとアスカは赤くなった。
「そんなの当たり前じゃない!」
「じゃあ、どうしてそんな言い方をするの?」
レイはあくまで感情を見せない。
「…!」
言葉につまる。
「碇君が欲しいのね…」
パン!
アスカの平手、よろけるレイ。
「アスカ!」
ミサトは慌てた。
「そうやって人をからかって、そのおすました顔の下で、さぞかし楽しんでいらっしゃるんでしょうね!」
赤く腫れた頬をおさえながら、レイはアスカを睨んだ。
「なによ、人形みたいに表情かえないでさ、恐い目しちゃって」
「人形じゃないわ…」
ぼそっと呟く。
「あったりまえじゃない、「みたい」って言ったのよ、聞こえなかったの?」
バカにしたように見下す。
「あたしは人形じゃない…」
「そう言ってるところが、人間になりたがってるみたいだって言うのよ!、ねぇそう思わない?、シンジ」
「うん…」
アスカもミサトも、思ってもいなかった返事に驚いた。
レイも初めて表情を変化させていた、一気に青ざめている。
「碇君…」
白磁の人形を思わせる、危うさ。
「だけど、それは僕も同じだ…」
シンジは噛み締めるように吐き捨てた。
アスカとミサトの脳裏をよぎる、シンジの言葉。
このバカ、やめてよって言った、やめろよじゃない、まるで自分のことみたいに…
そう、レイを通して、自分の立場を知りたくなかったのね、シンジ君。
「綾波が人形なら、僕も人形だ…、アスカも、トウジも、カヲル君も…、父さんの、父さんの上にいる人たちの…、色んな人たちが便利に利用するための、人形にすぎないんだ…」
絶望に彩られた言葉だった。
「あたしは、あたしはお人形なんかじゃない!」
誰よりもアスカが一番激昂した。
「降りなさい、あんた降りなさいよ!」
シンジを引きずりおろす。
「ミサト出して!」
助手席に戻ると、耳を塞いで叫んだ。
「……シンジ君、マンションの場所、わかってるわよね」
「直接行きます…、前のマンションの荷物、適当に持ってきてもらえますか?」
「いいの?、自分でまとめなくても」
「持っていてもいなくても良いものしかありませんから…」
シンジは降ろされた時についた泥を払った。
「シンちゃん、レイを送ってあげて」
ギクッとするシンジ。
「お願い、いまはまだレイの機嫌を損ねないで」
小声で命令する。
「はい…」
シンジは極力抑揚を消して答えた、ただ瞳に浮かんだ悲しげな影は、消しようがなかったが…。
ミサトはルノーを出した。
思ってるほど立ち直ってるわけじゃなかったのね、この子。
ミサトは耳を塞いだまま「あたしは人形じゃない、人形じゃない、お人形なんかじゃない」とくり返しているアスカを見た。
あたしも、同罪か…
「じゃあ、行こうか…」
シンジはレイを見ないまま、レイのマンションへ向かって歩き出した。
背後からのびる影で、ついてきているとわかる。
「碇君は…」
「シンジ君って言ってくれないんだね、昔みたいに…」
「え?」
驚いて、立ち止まる。
「冗談だよ…」
シンジも立ち止まっていた。
「本当に、別の綾波なんだ…」
ドグマで見たものを否定する何かが欲しかったのかもしれない。
「で、なに?」
レイは何度か唇を開け閉めしてから、ようやく声を出した。
「あなたは、碇司令を信用していないの?」
シンジは心臓をつかまれたような苦しみを覚えた。
「同じことを聞くんだね、前の綾波と」
昔、レイに叩かれた頬が、また痛んだような気がした。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。