Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:4





 弐号機が地上に出た、「第三新東京湖」の北側に位置するポイントだ。
「ATフィールドの固有波形パターンを観測、98%の確率で第五使徒と一致しました」
「予定どうりと言うわけね…」
 青葉の報告にミサトは小さく呟いた。
「弐号機一機で大丈夫なんですか?」
 日向の心配げな声。
「エネルギーの収束を観測することで、加粒子砲の発射は予測できます、今の弐号機の反応速度なら避けられない攻撃じゃありません」
 それに、かわしたからと言って巻き添えになる街ももう無いしね。
 マヤのセリフに、心の中で付け足すミサト。
「エヴァの装甲も3秒は持ちます、その間に逃げれば…」
「だそうよ、アスカ」
「簡単に言ってくれるわね」
 ブッと、ノイズ混じりの声が返ってきた。
「なに?、このノイズ…」
「使徒からの電磁波が異常な数値を示しています、その影響でしょうかねぇ?」
「使徒周辺は被爆してる可能性が有りますね」
 数値をグラフ化する青葉。
「初号機、発進します」
 初号機が弐号機の隣に並ぶ。
「電源ケーブルは弐号機へ、シンジ君?、内部電源が切れそうになったら後退して、いいわね?」
「はい」
「いくわよ!」
 まず弐号機が駆けだした。
 湖岸となった街を踏みならす、地響きによって崩壊を免れていたビル群が、再び倒壊しはじめた。
「ダミーバルーン展開、いそいで」
「はい!」
 先行していたネルフの特殊車両が初号機そっくりのバルーンを引いて走った。
 湖上にも同様のバルーンが数体浮かべられている。
「あんなの邪魔なだけじゃない!」
 使徒がバルーンの影に隠れてよく見えない。
「目標内部に高エネルギー反応!」
「きたわね…」
 ミサトがマイクに向かう。
「これは…、このエネルギーの流れは…、まずい!」
 青葉の悲鳴が、ミサトから余裕を奪った。
「アスカ避けて!」
 カッ!
 八面ダイスのような鏡面が発光した。
「きゃあっ!」
 弐号機のATフィールドに数条の光が突き立った、だがその威力は弱い。
「アスカ!」
「何よ今の!」
 鏡面がゆらゆらと揺れている、波紋を浮かべていた。
「ダミーバルーンが全て破壊されました」
「目標は光を体表面で屈折させて撃ち出したようです」
「ちょっと待ってよ…、じゃあ加粒子砲じゃないの?」
 ミサトはどうしたものか判断に迷った。
 浮遊したまま、ゆっくりと進み続ける。
「ちょっとびびったけどね、ATフィールドで十分防げるわ、予定通り斬り刻んでやるんだから!」
 ガコンッと弐号機の脇に武器コンテナが現れた。
 その中から直刀のブレードを取る。
「いくわよ!」
 脇へ引くように横へ構えた。
「目標周辺部を加速!」
「今度こそ加粒子砲がくるわ!」
 カッ!
「遅いのよ!」
 アスカは横っ飛びに避けた、だが閃光はまるで明後日の方向へと飛んでいく。
「うわああああああああああああああ!」
「シンジ!」
 遅かった。
「あぐぅ、うが、あがあああああああああああああ!」
「シンジ君!」
 初号機の頭部が下顎を除いて消失していた。
 融解したのか、ぼこぼこと気泡がたっている。
「シンジ君は!」
「パルス逆流!、シンクロ反転、神経素子の半分以上が焼ききれました!、初号機の神経回路がパイロットと直結しています!」
「それじゃ、シンジ君は…」
 青ざめるミサト。
 ガクン! 初号機が膝をついて倒れた。
「まずい!、アスカ初号機を回収して、早く!」
「くっ!」
 初号機の元へ駆け寄る。
 使徒はニ撃目を放った、やはり初号機に。
「やらせない!」
 直刀を放り投げた、光が剣に弾かれたように軌道を変える。
「ATフィールドでコーティングしたの?」
「シンジ!」
 その隙に初号機に取り付く。
「弾幕張って!」
 ミサトの指示に従い、機銃座やロケット砲が火を吹く。
 使徒を飲み込み、広がる爆炎、あっという間に煙が視界を塞いだ。
 アスカは初号機と転がるように回収ルートへ逃げこんだ。
「戻して、早く!」
 すかさずミサトが命じる。
 カッ!
 使徒のレーザーが薙いだ。
 5・6条束になって回収用のボックスを破壊する。
「ミサトぉ!」
 アスカの悲鳴。
「アスカ!」
「初号機パイロット、心音微弱!、生命維持装置じゃ間に合いません!」
 全てが絶望的な方向へと進んでいた。


「まただ…、やだな、ここ…」
 黄金色の海、シンジはそこでたゆたっていた。
「何も無い世界だ…」
 死んだのかな?、と思う。
「父さん、喜ぶよねきっと」
 僕に死んで欲しいと願っていたんだから…
 その想いが、キーワードになる。
 海の底へと引きずり込まれる。
「なに?」
 ものすごい力、あらがい難い力で、シンジは海の底へと沈み続ける。
「なんだよ、何なんだよ!、うわぁ!」
 海の底に光るものがあった、二つの光る目、エヴァンゲリオン、初号機の瞳。
「うわあああああああああ!」
 顎が開かれる、赤く暗い口腔…
 シンジは恐怖感に食いつくされた。


「捨てていくのだな、お前は、私も、シンジも」
 女はクスリと笑って見せた、どこかレイに似ている女だ。
 歳はもっとずっと食っているが…
「最後まで素直じゃないんですね、シンジを使って脅してみせるだなんて…」
 赤い眼鏡をかけた男は、自嘲気味の微笑みを浮かべた。
 その女の前でしか作らない顔だ。
「私は私にそれ程価値が有るとは思っていないよ、ユイ」
 碇ユイは何かを見上げた。
「自信が無いのでしょう?、人と触れ合ったことのない貴方ですもの」
 どこかで見た事のある場所、そう、そこは初号機のケイジだ。
「人の優しさに触れたことのない貴方ですものね…、自分の言葉に、あたしを引きとめるほどの力が有るとは思っていない…」
 二人は、けっしてお互いを見ようとはしない。
「お前には優しさと言うものを与えてもらった、中々良い夢では有ったな…」
 それももう終わりなのだ。
「シンジは、許してはくれないでしょうね…」
 胸ポケットから写真をとり出す。
「母親として、見守りたかったんです」
「だから産んだか?、シンジを」
「はい…」
 女ではなく、母として在りたかったから。
 妊娠と子育てが仕事においての能力低下を生むのであれば、組織の中にあって子を育む必要は無いのだ。
「それで満足すれば、もういいのか?」
「夢…でしたから」
 これから起こすことが。
「夢…か、お前は追いかけ続けているのだな」
 そのために俺を巻き込んだか?
 言葉にしなくとも伝わっている。
「すまないことをしているとは思いません、まだ貴方には頼らねばなりませんから…」
「夢が現実のものとなるには、今しばらくの時間が必要だ、振り返るには早すぎる」
 ゲンドウはユイを見ず、ユイの持つ写真に視線を向けた。
「シンジは余所へ預ける」
「育てては、くださらないんですね」
 ゲンドウもユイと同じ物を見上げた。
「お前の生んだ子だからな、育てもしたが…、お前がいなくなった後で、お前の思い出が残るようなものに触れられるほど、私は強くないよ」
 勝手だ!、と思う。
「あたしは、あたしが生きた証しをおいていきたいのに…」
「私は、証しを掲げることよりも、お前とあることを望むよ、ユイ…」
 ゲンドウはユイを抱きしめた。
「あなたは、あたしに甘えてばかりで…」
「いけないか?、甘えても良いのだと教えてくれたのは、ユイ、お前だろう?」
 ユイの方から離れる。
「お前は、お前の夢を追いかければいい、私はお前を追いかける」
 いつか再び出会える日を迎えるために。
「そのためには全てのものを利用しよう…」
「あたしと同じように、ですか?」
「そうだ」
 二人は無言で見上げた、紫色の巨人を、エヴァンゲリオン初号機を。
 シンジの目が、二人と合う。
「シンジは、幸せになれるでしょうか?」
 ゲンドウは眼鏡を外した。
「チャンスはどこにでもある、そう言ったのはユイ、お前だろう?」
 ユイは顔をふせた、どのように強がって見せても、罪悪感が脱ぐいされない。
「私にもあったのだろうな、見逃していただけかもしれん、だがユイ、お前の言葉を信じよう、お前の望みは、私の願いに添うものなのだからな」
 それも、お前が望まねば私の一人よがりにすぎないが…
 ゲンドウはユイをおいて歩き出す。
「待っていますわ、それだけの時間を手に入れられるのですから…」
 そうやって、都合の良い言葉で適当に良い人ぶるから…
 シンジは吐気を覚えた。
 結局、誰も彼も自分のことしか考えていないんじゃないか…
「でも、結局、貴方は最後まで愛していると言っては下さいませんでしたわね…」
「愛されたことがないからな…」
「あたしは、愛していましたわ…」
「私のこの、力をな…」
 なんだよ、これなんだよ!
 絶対だと思っていた父の情けない姿。
 自分がそうであったように、誰かに誉めてもらおうとする父。
 優しくしてくれた者が遠ざかっていく恐怖に怯える、自分によく似た男。
 母さんの記憶?、違う!、これは…
 エヴァの記憶?
 エヴァの中にいるものの記憶?
 シンジとエヴァとの境目があやふやになる。
「エヴァを動かすのが僕でなくてもいいように、母さん、生まれてくるのが僕でなくてもよかったんだね…」
 女だったらレイ、男だったらシンジと名付ける。
 そう、シンジである必要性はなかった、そして現実にレイはいる。
「だから僕は必要じゃなくなったんだね、母さん…」
 絶望感に打ちひしがれる。
「母さんが欲しかったのは自分が生きていた証しだけだったんだ…」
 幼い頃夢見た母、恋し求めた父の背中、その全てが自分の夢でしかなかった現実。
「僕なんか、生まれてこなければよかったんだ…」
 涙が流れた。
 父と母は、子が思うほど甘えさせてはくれない。
 理想をおしつけはしても、子の想いをわかろうとはしない。
「ああ、そうか、だから綾波なんだね…」
 エヴァに乗ることしか教えず、エヴァに乗ることしか認めなかった人形。
 不満を口にせず、わずらわしさを感じさせない、手間もかからず、言うことだけを聞く、まさに理想の我が子。
「母さんに似ているかどうかなんて、問題じゃなかったんだ…」
 全く同じ価値観を持った相手だからこそ、父さんは微笑みもしたんだね…
 自分の理解の範疇を越えない相手だからこそ、ゲンドウは心に壁を持たなかったのだ。
 綾波も、だから父さんのことを理解していたんだ、父さんから与えられた以外のものを知らなかったから…。
 あるいはあの微笑みも。
「だから綾波を近づけなくなったんだ…、今の綾波は、父さんと過ごした記憶を持っていないから」
 父さんの知っている綾波ではなく、違う存在だから。
 僕と同じなんだ、エヴァを動かすために作られた存在…
 ただそのためだけにあるんだ、生きて…、生かされてるんだ。
 いやだ…、いやだ、イヤダ、嫌だ…
 もういやだ…
 壊れたい。
 壊れてしまいたい…
 壊れよう
 壊れてしまおう…
 きっと…
 きっと…
 きっと…
 それが僕にとって、一番良い心の形だと思うから…







[BACK][TOP][NEXT]



新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です・