Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:4
「はやく、早くなんとかしてよ、シンジがぁ!」
泣きの入った声。
アスカは悲鳴を上げた、ウィンドウに映るシンジが、ぴくりとも動かないからだ。
初号機の丸見えになっている喉から、潮を吹くように血がふき出していた。
使徒のレーザーが再び初号機を狙う、胸部装甲を狙って鞭のように振るわれた。
「アスカ!」
「わかってるけど!」
間へ割り込み、ATフィールドを展開する。
「弾幕を張って早く!」
ミサトの命令に従って、大量のミサイルが降り注いだ。
「なに?」
幾つかの爆煙をこえてきた光条が、ATフィールドへ届く前にかすれて消える。
「そっか!」
「アスカ!」
「わかってる!」
新しい武器コンテナが現れた、ハンディバズーカのような筒を両脇に抱え、アスカは2、4、8発と、全弾一気に撃ちきった。
使徒の光で迎撃する、だが弾は狙いどおり爆発せずに、煙をふき出し転がった。
スモーク弾だ。
「ていやぁ!」
槍を投げつけた、使徒のATフィールドを一瞬で貫き、突きささる。
「まだまだぁ!」
今度はライフルを構えた、フルオート、使徒のATフィールドは何故か展開されない。
弾着が次々と上がり、弾痕によって美しい鏡面がでこぼこにへこんでいった。
「シンジ?」
ATフィールドが中和されている、初号機かとも思ったが違う、初号機は相変わらず沈黙していた。
「なに!?」
マヤが数値に異常を感じた。
初号機の下顎部にべろんと何かが蠢いた、舌だ、舌が新しく生えていた。
続いてボコボコと気泡が泡立つ、はじける度に肉が盛り上がった。
「う、うえ…」
その不気味さに吐気を覚えるマヤ。
「再生しようというの?」
ミサトは戦慄した、使徒ですら頭部を破壊されれば死を迎える、零号機、弐号機とても、活動停止はまぬがれないのだ。
「神経接続の問題も有るわ、エヴァの苦痛が搭乗者へと逆流すれば、最悪死に至る可能性すらあるっていうのに…」
そこではっとする、ちらりとゲンドウを見た。
「初号機だけが自己再生能力とパイロットの防護機能を持っている、なぜ?」
リミッター…、まさか碇ユイ!?
「ていやああああああ!」
アスカの叫びに思考を邪魔された。
もう一本槍を投げつける、今度は光線で切り落とされた。
「ちぃ!」
使徒は怒りを光に変える。
「効かないっての!」
幾本かは弐号機に触れた、だが煙によって威力を削がれている、ダメージはない。
「内周部加速!」
青葉が叫んだ。
「アスカ、くるわよ!」
「待ってたのよ、ええええええい!」
プログレッシブナイフを抜いて走る、貫かれた空気の壁がドンと音をたてた。
「高エネルギー放出!」
加粒子砲が間に合わないと判断したのか、加速を続けたままで光を放った。
「無駄だってば!」
威力が弱い、エヴァに損傷はなかったが、アンビリカルケーブルが切断された。
「三分もって!」
祈り、弐号機をジャンプさせる、スモークが大きく吹き散らされた。
「たあああああ!」
太陽を背にほぼ直上から突撃をかけた。
ドガン!
ぶつかるようにナイフを突き立てる。
その衝撃にぐらつき、勢いに流されてふらつく使徒。
その底面を地面に接触させて、ひっかかるように転がり倒れた。
ズズズズズっと、その重量のためにずっていく。
「いやあっ!」
その激震に近い震動の中で、アスカはナイフを手前に引いた。
鏡面が奇麗に裂ける。
「アスカ早く!」
間に合わなかった。
使徒の加粒子砲が再び初号機を焼く。
「こんのぉ!」
切り裂いた場所に腕を突っ込む。
「うあああああああ!」
弐号機のフェイスが開く、アスカは使徒の中から何かを引きずりだした。
「あれは…、コア?」
コアを鷲づかみにしている、ずるずると内腑ごと陽へさらした。
ブブブブブブ!
震動なのか声なのか、使徒が不気味に空気を振るわせる。
「芸が無いのよ!」
両足で使徒を蹴った。
アスカはコアを手にしたままで、弐号機を飛びすさらせる。
ドォン!
直後、使徒の自爆。
ゴゴゴゴゴ…っと、大地が炎で焼かれた、天をつくような十字架がそびえ立つ。
「アスカ、シンジ君を回収して!」
「わかってるわよ!」
アスカはコアを投げ棄てて、いそぎ初号機を引きずり立たせた。
肩を貸すようにして、初号機を回収用ルートへ放り込む。
「葛城三佐」
ケイジへ行こうとしていたミサトを呼び止める。
「なんですか、司令」
「コアを回収しろ」
ぐっと唇を噛むミサト、睨みつけても、ゲンドウは一向に介さない。
「わかりました…」
ミサトはマヤに向かって頷いた。
「弐号機、コアの回収をお願いします」
「えーーー!?」
アスカの不満気な声、今度こそミサトはシンジのもとへと向かった。
「ミサト、シンジは!?」
プラグスーツのままで駆けてくる、べたついた髪が揺れていた。
病室の前で、ミサトはうなだれていた。
「ミサト?」
「脳神経に異常があるかもしれないらしいわ、精密検査待ちだけど、命に別状はないって…」
アスカも扉を見た。
「なんで、なんでよ?、まともに動かせないんじゃ、いつかこうなるって判ってたじゃない、だから降ろせないのって聞いたのに…」
ミサトは壁側にしゃがみこんだ。
「あなたの時もそうだったでしょ?、そうそう簡単に降ろすわけにいかないのよ、貴重なパイロットだからね…」
アスカは顔を上げた、意を決して扉を開く。
ガシュー…
「あ…」
シンジが横になっていた、その隣で何故かレイが本を読んでいる。
躊躇するアスカ、顔を上げるレイ。
「……」
一瞬だけその目に気圧されたが、アスカはベッドへと近づいた。
傍目には眠っているように見える。
「シンジ?」
恐る恐る声をかける。
「…アスカ?」
目には包帯がまかれていた。
シンジの返事にほっとする。
「まったく、ボサボサっとしてるからこう言うことになるのよ、わかってんの?」
安心してか、いつもの軽口が口をついて出た。
「ごめんよ、足を引っ張っちゃって…」
アスカはレイを横目に気にしながら、シンジに語りかけた。
「まったくよ、前はあたしの出番、全部持ってっちゃってたくせに、あの無敵のシンジ様はどこへ行っちゃったのよ?」
「ほんとだね…」
力なく笑う。
アスカもつられて笑みを浮かべた。
「碇君は無敵じゃないわ…」
明らかにアスカを責める口調だった。
だが目線は手元の本へと落としたままだ。
「そんなこと判ってるわよ…」
その物言いに、アスカは嫌気を覚えた。
「こんな時に、噛みつかなくてもいいでしょう?」
「噛みついてなんていないわ、ただ…」
「ただ、なによ?」
一拍の間。
「…どうして守ってあげなかったの?」
アスカはぐっと奥歯を噛んだ。
「守ろうとしたわよ、だからシンジは助かったんじゃない」
その言い訳が精一杯だった。
「そうね…」
あっさりと認める。
「それともあんただったら、シンジに傷一つ負わせる事はなかったって言うの?」
睨みつける。
レイはパタンと本を閉じた。
「また「命令があれば、そうするわ」とでもいうの?」
顔を上げる、レイは首を振った。
「あんたいったい、何が言いたいわけ?」
アスカと視線を合わせる。
「別に…」
レイは立ち上がると、そのまま部屋を出て行こうとした。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、なによそれは」
立ち止まる。
レイは背中ごしに答えた。
「碇君、失明したわ」
え?、と立ちつくすアスカ。
「もういくら頑張っても、見てはくれない、そう言ったのよ?」
レイの口もとが笑っているような気がした。
出て行くレイ、見送ってしまうアスカ。
「し、シンジ、今の話…」
シンジは枕に頭を預け、上を見上げていた。
「本当だよ…」
くぐもった声。
「僕はもう、アスカの勇姿は見れないんだ…」
アスカは後ずさった。
「あ、あたしが悪いんじゃないわよ?」
怯えている。
「何を言ってるんだよ…、アスカは助けてくれたんじゃないか」
抑揚のないセリフ。
「だからまだ、僕はこうして生きてる…」
アスカはごくっと喉を鳴らして、唾を飲み込んだ。
「そうよ、このあたしが助けてあげたのよ?、少しは感謝してよね?」
腰に手をあてて、顔を背けて空威張りする。
シンジはアスカへ顔を向けた。
声のしている方を向いたつもりだったが、少しずれていた。
「そうだね、ありがとうアスカ…、助けてくれて…」
「あんたほんとにそう思ってんの?」
感情の無さにいらだった。
「どうしてそう落ち着いていられるのよ、目が見えなくなったのに、不安じゃないの?」
「怒らないでよ…」
うるさいなぁと言わんばかりの口調。
「なによ、そんな言い方しなくたっていいじゃない…」
怒鳴りそうになるのを堪えた。
「だって…」
何かを言いよどむ。
「はっきりと言いなさいよね!」
シンジは再び天井へと頭の位置を正した。
「何も変らないから…」
きょとんとするアスカ。
「変らないって、なにがよ?」
シンジはめんどくさそうに口を開いた。
「何もかもが…だよ、だって、ぼくの目が見えなくなったからって、それがどうしたっていうのさ?」
「どうって…」
答えられない。
それを返事だと受け取る。
「ほらね?、誰か何か困るの?、誰も困らないじゃないか、そういうことだよ…」
心配をするわけもない、シンジの言葉はそう語っていた。
「そ、そんなわけないでしょ?、そうよ、ネルフのみんなだって困るわよ、あんたパイロットなんだから…」
首を振るシンジ。
「目が見えなくなったくらいじゃ降ろしてくれないよ、きっと…」
それは確信に近かった。
「そんなわけないでしょ、第一…」
「歩かせることさえろくにできない僕をエヴァに乗せたんだよ?、目の見えない僕でも、困りはしないさ…」
シンジは諦めきっていた。
「そ、それじゃあ…、それじゃそれでまた死にかけたら、今度はどうするのよ?」
恐る恐る尋ねる。
「さあ?、死ぬまで続くんじゃないかなぁ、こんなことがきっと…」
アスカには理解できなかった。
「僕が死んだって困らないんだよ…、多分綾波が僕の代わりになるんじゃないかな?、その次はアスカかもしれないね、他の知らない人かもしれないけど…」
アスカは耳を塞いだ。
「違う違う違う!」
髪を振り乱して否定する。
「あたしはそんな、他人の都合に振り回されたりしないわ!」
人形じゃないんだから!
自分で考えて、ちゃんと生きてるんだから!
心の中で強く叫んだ。
「アスカは、強いんだね…」
疲れきったような声とため息で、シンジは返した。
「どうして、そんなに強くしていられるの?」
シンジの枕元に両手をつく。
「あたしがあたしだからよ!」
半乾きの髪がシンジの顔にかかった。
「あたしが、誰から見ても惣流・アスカ・ラングレーであるように、頑張っているからよ!」
他人の想いに振り回されない、他人の理想に合わせたりしない、この世でただ一人、自分という自分の選んだ人間であるために、その形を他人にネジ曲げられたりしないように頑張っているから!
その心はシンジに届いていた。
想いを素直に受け取っていた。
だからこそシンジは、感銘よりも、別のことを感じてしまったのだ…
「アスカは…、認めてもらいたいんだね、自分がアスカだって…」
「そうよ…」
顔を近づける、息がかかるほどに近い。
「いけないことなの?」
アスカの髪の芳香、それはL.C.L.の血の香りだった。
「ううん」
ため息、消毒薬くさい息が、アスカにかかる。
「あんたは認めてくれないの?、あたしのこと…」
「アスカは認めてくれてるの?、僕のことを…」
バカにしたような言い方だった。
「アスカは、いらない人間に認められて、うれしいの?」
「いらないなんて、いってないじゃない…」
「でも…」
アスカはシンジの言葉を待った。
「でも、僕はもう、頑張っているアスカの姿を見れない…」
アスカの願いを叶える事はできない…
「僕はもう、認めてあげられないんだ…」
アスカにとって、自分が用のない人間なのだと、シンジは口にした。
その告白にアスカは全身を強ばらせる。
僕はもう、必要じゃないんだね…
シンジの目には、アスカとユイがダブって見えていた。
シンジはまた、捨てられるのだと悟っていた。
続く
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この作品は上記の作品を元に創作したお話です・