Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:5





 内側にこもるシンジ。
 それでもアスカは、ふるえる唇を開いた。
「あたしはね?、精子バンクで買われた精子から生まれたの…」
 独白する。
「でもパパはパパの子だから育てたいって言い出して…、ま、勝手だけどよくある話よね?」
 それはシンジの知らない話だった。
「だからパパはママのことを愛してなかったの」
 ぎゅっと唇を噛む。
「ママだっておんなじ、二人の繋がりはあたしだけだったの」
 必要以上に甘えてみた。
「だから頑張ったのよ、本当のパパとママになってもらいたかったから」
 悔しそうにうつむく、アスカのおでこが、こつんとシンジの額に触れた。
「でもダメだったの…、ママ、あたしを見てくれなくなっちゃった…」
 冷たい父親を思い出す。
「パパは酷かった、最後までママを見てくれなかった、なにも見ようとしないで、「ほら、新しいママだよ」って…」
 すごく悲しかった。
 すごく辛かった。
 すごく嫌だった。
 アスカはいい子だからね…
「何か言いたかったの」
 言いたい事いっぱいあったの。
「「良い子だね、アスカは」、…その一言で、全部片付けられちゃったの」
 もう、なんにも言いたくなかった。
 もう、なんにも口にしたくなかった。
「口にできなかったの…」
 すんっと、鼻をすする。
 大人になる、加持さんに貰った道…
 早く一人に、大人になりたいと思ったの。
 自分で考えて、自分で生きられる、自由な自分になりたかった。
「あたしって存在を、認めてもらいたかったの…」
 思考が自分の中に沈んで、言葉が飛ぶ。
「「誰かの子供」、じゃない「あたし」を」
 シンジは自分に重ねる。
 「エヴァを動かせる子供」、である自分。
 「エヴァを動かせる子供」、でしかない自分。
 頑張ったの。
 頑張ったの。
「頑張ってたの」
 いつの間にか、みんなが誉めてくれるようになってた。
 誉めてくれたの、みんなが。
「でも心はあの時のまま…」
 その後で…、この街に来て…、色々あって…、独りぼっちになっちゃって…
 誰もあたしを見てくれなくなって…、誰もあたしを認めてくれなくなったの。
「でも嫌、嫌なのよもう、そんなの嫌」
 だから皆を守るの、側にいてもらいたいから。
 誰かが死ぬのは嫌なの、寂しくなるから。
「ねぇ、シンジ?、あんたはどうかなぁ…」
 あんたみたいのでも、いなくなったら寂しくなるのかなぁ?
 アスカのそれは、独り言に近かった。
 わかんないよね?、そんなこと…


「だからあたしは、見捨てない」
 パイロット専用ロッカールーム。
 アスカはロッカーに取りつけられている小さな鏡に向かって宣言した。
「エヴァがあたしの価値を決めるなら、シンジにだって価値があることになる」
 そんなの嫌、あたしとシンジの価値が同じだなんて、絶対に嫌!
「エヴァだけがあたしの価値じゃない、あたしがエヴァの価値を作ってみせる!」
 だからあたしは強くなる…
 だからあたしはたくましくなるの。
「あたしを見ないから、あたしはシンジに用がない?」
 それを認めちゃったら、あたしはパパと同じになる!
「だからシンジを見捨てちゃいけない」
 あたしにしかできないやり方で、シンジに触れてやらなくちゃいけない。
「それが自分にしかない、自分でなきゃいけない理由を作ることにつながるんだから…」
 シンジにわからせてやらなきゃ!、人の価値は、自分自身の手で産み出していくものなんだって…
「他人の価値観から、作り上げちゃいけないって…」
 鏡の中の自分をみつめる。
「シンジに認めさせてやる」
 あたしがどんな女の子なのか。
「シンジに求めさせてやる」
 あたしだけを。
「もし、シンジを立ち直らせることができれば…」
 あたしにも、加持さんと同じぐらいの価値があるってことよね?
 ふっと頬をゆるめる。
「おかしいかな?、基準を作っちゃってるもんね」
 でも基準があるから、作り出せるのよね。
 基準は基準だもん、それに振り回されちゃダメ、そこから始めていかなくちゃ!
 あたしの始まりは加持さん。
 あたしや、ミサトを歩かせてくれた加持さん。
「でもあたしは同じじゃ満足しない」
 満足できない!
「だからあたしは目をそらさない」
 シンジがあたしを見つめるまでは。
「さあ、いくのよアスカ!」
 ぴしゃりと頬を叩いて気合いを入れた。
 シンジがあたしの頑張りを見れないって言うんなら、感じさせてやるまでよ。
「人の価値を、たった一つのことだけで決められてたまるもんですか!」
 アスカはバンッ!っと音をたてて、ロッカーを閉じた。


「やーん、埃積もってるぅ!」
 コンフォート17マンション、11−A−2。
 アスカは洋服をパッキングし、段ボール箱に詰めていた。
「まったくぅ、まさか虫にやられてたりして無いでしょうねぇ?」
 大当たりだった。
「もう、いやー!」
「騒がしいわねぇ」
 苦笑するミサト。
「捨てちゃうなら、そのまま置いてけば?」
「嫌よ!、誰がなにするかわかんないじゃない」
 アスカはミサトが抱えている物に気がついた。
「それ…、シンジの?」
 チェロのケースだった。
「そ、あとはウォークマン」
「それだけ?」
「服はこっちの紙袋よ?」
「どうしてそんなに少ないの?」
 言いづらそうにためらう。
「覚えてる?、第13使徒を倒した後のこと…」
「第13…、あっ!」
 シンジはトウジを傷つけたことに苦しみ、エヴァを降りようとした。
「あの時にね、大半の荷物は送っちゃったのよ」
「送ったって、どこに?」
「おじさんの家…、らしいんだけどね」
「おじさんって…、やっぱりネルフの関係者よね?」
 しばしの沈黙。
「ねえ…」
 先に口を開いたのはアスカだった。
「シンジ…、ファーストもだけど、どうして制服を着てるの?」
 言われてはじめて、ミサトも気がついた。
「そう…、そうね、学校はないんだから、私服でも良いのよね…」
 理由を探す。
「レイは私服を持ってないだけでしょうけど…」
 やはり答えは見つからない。
「もしかしてシンジって、自分を見せたくないのかなぁ?」
 きょとんとするミサト。
「服を着る…、当たり前だけど、好みが出るわよね?」
「ああ…」
 納得する。
「だから皆と同じ物を着てる?」
「そんな気がしたの…」
 ちょうど制服を放りこむ所だった。
「でも…、どうして?」
 わからない。
「あたし、シンジの考えてることがわからない…」
 ビーっと、ガムテープで封をする。
「それはあたしもよ、アスカの考え方だってわからないもの」
「そんなのあったりまえじゃない」
 自分で答えを口にする。
「あ、そっか、そうよね、話さなければわかるはずないんだ…」
「じゃあ、話してみる?、シンジ君と」
 いたずらっ子のような笑み。
「すぐケンカになりそうだけどね」
 くすくすと、ミサトは冗談めかして言った。
 ばっと立ち上がるアスカ。
「さてっと!、これで終わりっ、ねえ、これいつ届くかなぁ?」
 箱の山を指す。
「午後には届くわよ」
「うそ!?、そんなに早いの?」
「ホントの業者が運ぶわけじゃないからね」
 そっかぁと納得する。
「さ、あたしたちはシンちゃんを迎えに行きましょう?」
「うん!、それからお昼!、あたしお腹すいちゃった」
 お腹の辺りをさすって、上目使いにペロっと舌を出す。
 ミサトは微笑んで、オッケーと明るく答えた。


 再びシンジの病室。
 カーテンごしの温かな陽射し。
 一度は出ていったレイが、再び戻ってきていた。
 シンジの制服をベッドに広げている。
 シンジはベッドに腰掛けると、服をレイに着せてもらった。
 見ているだけなら、微笑ましい恋人同士に見えたかもしれない。
 だが二人にそんな感動は無かった。
 シンジは照れもしなかった。
「ありがとう…」
 ただそう言っただけだった。
「何を恐れているの?」
 レイは、シンジを正面から見下ろした。
 シンジはぎゅっと唇を引き結ぶ。
「私が恐いのね…」
 小さく首を振って否定する。
「司令が恐いの?」
 同じく。
「エヴァ?」
「わからないから…」
 レイはすっと歩き出すと、カーテンに手をかけた。
 開くと、強い光がシンジを襲った。
 汗ばんでいた肌が乾き出す。
「どうして…、僕に教えたいのか…、教えようとするのか、わからないんだ…」
 再びシンジを見る、逆光に溶けむレイ。
「本当に?」
 ただそう尋ねた。
 シンジはアスカの時と違い、真っ直ぐにレイへと顔を向けた。
 向けることができた。
「知りたくないっ、知りたくないんだ!、知りたくなんかないんだよ!、どうして?、どうしてなんだよ…、母さん…」
 レイは一歩踏み出した。
 気配を察して、シンジは身じろぎで拒絶の意思をあらわす。
「私を否定するのね…」
 立ちつくす。
「どうして…、どうして気がつかなかったんだろう…」
 シンジは両の掌で強く目を押さえ、背を丸めた。
「私が、碇ユイの形をしているから?」
 淡々とした声。
「違う…、綾波は…、レイは、母さんの…」
 涙が流れてくれない…
 その分、胸が苦しい。
「そう…、私はあなたの…」
 左胸の、心臓の少し下の辺りが、酷く疼いた。
「僕の…」
 最後はかすれて、聞き取れなかった。







[BACK][TOP][NEXT]



新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です・