Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:5
ゴウンゴウンゴウン…
機械音が響いていた。
現在閉鎖中のはずのケイジに、ゲンドウと冬月、それにマヤの姿があった。
「それで、零号機の様子は?」
ケイジはL.C.L.で満たされていた、その中に胎児のような影が見える。
「クローニングは最終段階に入りました、後は…」
「コアかね?」
「はい」
緊張に声が裏返ってしまう。
「コアについてはダミープラグを改修すればいい」
L.C.L.の底に沈んでいる影を覗き見る。
「あれが最後の予備だからな、だが良いのか碇?」
「やむをえん、初号機には引き続きシンジを乗せる」
シンジ君、あんな状態なのに…
マヤは思うだけにとどめた。
「四号機についてはどうかね?」
マヤへと向き直る。
「は、はい、えっと…」
ファイルを開く。
だが手先が震えて、目的の資料を探し出すのに手間取った。
「ドイツに残されていた、四号機の予備パーツをベースに改装中です」
「コアはどうするのかね?」
「はい、マスターは専属パイロットと共にディラックの海へと飲み込まれましたから…」
「しかたあるまい、地下の予備から使える物を探す」
マヤはきょとんとした。
「予備…、ですか?」
マヤを見る。
「赤城博士の資料から探したまえ、後は任せる」
ゲンドウは返事を聞かずに踵を返した。
「は、はい!」
結局、ゲンドウは一度しかマヤを見なかった。
だがマヤはその一度だけで、これまでに感じたことがないほどの疲労感を味わっていた。
「あの子には荷が重過ぎるのではないか?」
肩越しにマヤを見ながら、後を追う。
「ああ、だが赤城博士以外に唯一ダミープラグの「正体」を知る人物だ、彼女でなければコアからの「引き上げ」はできまい?」
「まあ、それはそうだが…」
精神的な脆さが気になるぞ…
「こうなると、第二支部の消滅は痛かったな?」
「いや、老人達の手駒が減った、それはそれで意味のあることだ」
エレベーターではなく、通路へ向かう。
「どこへ行く気だ?」
「初号機の所だ」
冬月は「またか」と心で呟き、付き合うことにした。
アンビリカルブリッジ、二人並んで初号機を見上げる。
「碇、レコーダーの記録は読んだか?」
「ああ、何度かシンジと接触しているようだな」
ユイのことだろうか?
「彼女も危機を感じているのではないのか?」
ゲンドウを見る。
「いや、彼女は真実を知る者を生み出そうとしている、それだけだ」
ゲンドウは後ろに手を組んだまま、初号機から視線をはずそうとしない。
冬月は話題を変えることにした。
「このところ、ゼーレの老人達も大人しいな…」
「だがすぐにしかけてくるだろう、約束の日は近い、残された時は余りにも短いからな」
ゲンドウの瞳は、いつもの険しさをはらんではいなかった。
「すみませんね、このようなことに付き合わせてしまって」
1999年、夏。
この時、ゲンドウはまだユイに敬語を使っていた。
「あら、そんなこと…」
着物姿のユイ。
二人は京都の料亭で見合いをしていた。
「おじにどうしてもと、せがまれましてね」
二人並んで、小さな庭を歩いている。
「あら、あたしは一度ぜひお話ししたいと思っておりましたのよ?」
お互いの研究室同士は付き合いがあった。
「くだらない噂でも聞かれたのでしょう?」
だがゲンドウは発表会にも出たことがない。
学者肌でないためか、研究室の中では常に浮いた存在だった。
疎まれ避けられ、またゲンドウもその扱いを受け入れていた。
「余り人付き合いはうまくありませんのでね、適当に時間を潰してください、あとはこちらが失礼なことをしたと…」
「…それはあたしに魅力がないと言うことですか?」
「あ、いや…」
ユイは笑いながら責めた。
そのちぐはぐさに戸惑う。
「まだお話もしておりませんのよ?、お断りになられるのは、少し早いんじゃありませんか?」
ニュアンスで冗談だと伝える。
「あいにくと、女性を楽しませるような話題は持ち合わせておりませんので…」
「どうしてそう、自分を卑下なさるのですか?」
頭一つ分低い所から、不思議そうに訪ねた。
「生い立ちや環境…というのでは俗世間的過ぎますか?」
少しだけ振り返る。
幼い頃から、ゲンドウは聡い子だった。
学力のことではない、要点をつかみ、理解する。
その力がずば抜けていたのだ。
「人と会話していても先が読めてしまうのでね」
「それで人とお話しになられないのですか?」
「まあ、そうですね、内容のわかっている会話など無意味ですから」
「なら、こういうのはどうですか?」
正面に回りこむ。
「あたしは神と科学のどちらを信じていると思います?」
唐突な問いかけに、ゲンドウは珍しく戸惑った。
その隙をついて、唇を奪うユイ。
「!?」
ユイは離れると、自分の唇を指先で触れた。
それも嬉しそうに。
「…ほら、あなたはあたしのことを何もわかっていらっしゃらない」
薄化粧の下で、頬が桜色に染まっていた。
「あなたはただ、同じような物の考え方をする人たちの中にいたから、そう思うようになってしまっただけ」
「…かもしれません」
たちつくすゲンドウの腕に、ユイは手を添えた。
「そうですよ…、それと今のがあたしの初めてのキスだと言ったら、信じてくださいますか?」
ゲンドウは答えることができなかった。
だがユイはその結果に満足したのか、微笑んでゲンドウに寄り添った。
「こんなの…、本当に許される事なんですか?、先輩…」
いなくなってしまった人に助けを乞う。
マヤはダミープラグからコアを回収していた。
作業は全てMAGIによりオートで行われていく。
「予備って…、こんなの…」
シンジが「エヴァの墓場」と呼んだ区画。
そのすぐ側に、マヤの知らない空間があった。
「嘘ですよね、先輩…」
小型のピラミッド状のコンテナが、整然と並べられていた。
それをカメラで見ている。
「これ全部、人間から吸い出したなんて…」
打ち捨てられていた、零号機によく似たエヴァ達。
その失敗が意味する所は、全てが「起動試験」に失敗したと言う意味だった。
搭乗者は皆コアへ吸収されていた、そのコアはここに保管されている。
鈴原トウジが乗ったエヴァンゲリオン参号機、そのコアもここから持ち出されたものだった。
「汚れてくって、こういう意味だったんですか?、先輩…」
自分がどれだけ生命の尊厳を犯してきたのか?
その事に気づき、驚きおののいていた。
「いけない、こんなこと考えてちゃいけない…」
二三度首を振って、恐怖を振り払う。
「きっと深く考えちゃいけない事なんだ、きっと…」
そう思いこもうとした。
なによりもゲンドウが恐かったから、あの眼鏡の奥の目が…
マヤは仕事に没頭しようと決めた。
その間は、なにも考えなくてすむのだから。
「先輩…、帰ってきてください、先輩…」
ただその呟きだけは、どうしようもなくとめられなかったが…
「冬月…」
「なんだ?」
エヴァを見上げる二人、珍しくゲンドウから声をかけた。
「彼女は…、ユイはどこまで私たちのことを読んでいたのだろうな」
冬月はため息をついた。
「全て…、とはいわんが、しかしお前も私も単純でわかりやすい人間だっただろうな、彼女にとっては…」
冬月もまた、過去を振り返った。
「冬月先生?」
一つベッドの中、ユイが半身を起こした。
2004年、箱根。
豊かな乳房が重力に負けて揺れる。
「先生は神と科学のどちらを信じますか?」
温かい肌が離れていく、冬月は少しばかりの未練を感じた。
「君はいつも突然、突飛なことを聞くねぇ…」
そんな自分に苦笑する。
「まあどちらを信じるかと聞かれれば科学だな」
「あんなことがあった後なのに、ですか?」
セカンドインパクトのことを言っている。
「南極にいたもののことかね?、確かに神の存在を信じたくはなったが、あれは科学の産物だよ」
「科学的に証明できなくても、ですか?」
ベッドを降りて、ローブを羽織るユイ。
「ああ、現実にそこにあり、そして私たちの手に余らない限り、科学の範疇に捕らえられるものだ」
鏡台の前に座り、髪をすく。
「冬月先生は知ってらっしゃいますよね?、聖書に隠された暗号のこと…」
「聖書の暗号かね?、確か1990年代に聞いた話だったな」
古い記憶を呼び起こす。
「原典を神より与えられた時の形に戻すと、隠されていた暗号をひも解くことができる、だったな?」
「…はい、たくさんの数学者達が認めたと聞いております」
鏡の中で、ユイは冬月を見ていた。
「現在過去未来、その全てにおいて起こる事件の日時、人名が記載されている…、冬月先生はどう思われますか?」
「くだらんな」
頭を枕へ預けなおし、天井を見つめる。
「そうでしょうか?、わたしは未来を予見することが本当に可能なのかどうか、その事には興味をひかれましたけど…」
立ち上がるユイ。
ローブがはだけないよう、手で胸元をおさえた。
「全ての原子と分子の配列がわかれば、未来予測は可能だ」
「科学者の意見でしたわね、「神は過去と未来を同時に創造しておられる、なぜなら神に時間と言う概念は無いからだ」とういうのが、神学者の答えでしたかしら?」
ベッド、冬月のすぐ側に腰を下ろす。
「神は過去と未来を等しく見ておられる…、なら私たちは何のために物を考え、心を痛めている?、結果が経過よりも先に現れる事はない、だが経過がなければ結果が導き出されることもない、未来が既に創造され確定していると言うのなら、なぜ我々はここにこうして存在し、精進し、耐え続ける必要がある?、未来が既に決まっているのなら、ただ流されているだけでも同じではないのかね?、それは生きると言うことを否定することに繋がる」
ユイの手に手を重ねる。
「あたしは、その答えを知りたいんです」
握り返すユイ。
「あたし達…、人はどうして創られたのか?、気まぐれなのか?、必要とされたのか?、あるいは必然として生まれてきたのか?、…そしてあたし達は、本当にあたし達自身の心を持って「生きている」のか、それとも「生かされている」のか、それを…」
顔を冬月へと近づける。
「あたしは知りたいんです…」
そのまま口付け、二人はもう一度重なった。
「ユイ君の願い、その一端は叶ったが…」
「ああ、ユイはここにいる」
エヴァを見上げる。
「エヴァと共にある限り、ユイは答えを待つことができる、永遠にな」
「人と言う名の方舟か…」
ゲンドウの横顔を盗み見た。
もちろんゲンドウはユイとの情事を知っていた。
知っていて、捨て置いた。
ユイは冬月に言ったことがある。
あの人は先生のお力添えを失うことと、あたしの体を天秤にかけるぐらいのことはしますわ。
そういう人ですから。
けれどそれもあたしの望みを叶えるためのこと…、あの人は良くしてくれています、本当に。
体を重ねたのは片手で数えられる程度の回数だったが、その頃の冬月はゲンドウの、そしてユイの考えていることが、まるで理解できないでいた。
「ゼーレの老人達は黙っていないだろうな」
その冬月が、今は常にゲンドウの側に居る。
「ああ、魂の補完、それを果たすためには、どのような形であれ「人」と名のつくものを残すわけにはいかん…」
もう少しだよ、ユイ…
心の中で語りかける。
「ダミープラグが使えなくなった以上、初号機はシンジ君に守ってもらわねばならんな」
答えて返さない。
「ユイ君には己の意思で道を選んでもらいたかったが…」
そのためのダミープラグ。
ゲンドウはやはり返さない、冬月はやれやれと諦めの表情を浮かべた。
「レイはどうする?、お前への思慕の念を失っているぞ」
眼鏡の位置を正すゲンドウ。
「もう少し優しくしてやればどうかね?、彼女を失えば、お前の願いは叶わなくなるのだぞ」
「わかっている…、だがいま人形に関っている暇はない」
ゲンドウの目は冷たかった。
「人形か?、あれほど愛しておったくせに…」
「愛など抱いた事はない、一度もな」
二人はネルフ総司令官公務室へと歩き出す。
「いかに姿形が似かよっていようと、その魂はユイとは別物だ」
「そのくせ、ユイ君に似ていると言うだけで、汚すことを恐れていたな」
ゲンドウの口元に笑みが浮かんだ。
「私に微笑みを見せてやれと教えたのは、お前ではなかったのか?」
今度は冬月が黙り込んだ。
「心からではない、レイのあれは形態模写にすぎんよ」
「そして今のレイは、お前のレイではない…か?」
ゲンドウの笑みが歪む。
「ともかく大事にしてやれ、仮にとはいえ…」
「ああ、わかっている…」
ゲンドウは初号機を振り返り、呟いた。
「レイは、「ユイ」の娘だからな…」
照明が自動的に落とされた。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。