Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:6





 非常警報が鳴り響く中、ミサトは怒ったように顔をしかめていた。
「まったく、起動テストもすんでないってのに」
 そしていつものように叫ぶ。
「状況は!」
「はい、現在芦の湖にて正体不明の生物を確認」
「生物?、使徒ではないの?」
「パターンオレンジ、MAGIは判断を保留しています」
「これを見てください」
 芦の湖の中央付近が、異様な細波を立てていた。
「なに?、魚?」
「拡大します」
「なっ、なによれは!」
 体長二メートル程度の魚に見えた。
「形状は第六使徒に酷似しています」
「それにしても、あの数はなに!?」
 千、二千どころでは無かった。
「葛城三佐…」
 それまで黙っていたゲンドウが動いた。
「弐号機を地上待機させたまえ」
「…パイロットは?」
「予定通り正副で出す」
「はい!」


「まったく、影みたいな使徒が出た時もいい加減うんざりしたもんだけど、今度のはさすがに呆れたわね」
 ビチャビチャと湖面を波立たせて泳ぎ、あるいは跳ねている。
 アスカはモニターの倍率を上げて確認した。
「で、どうすんのよ、まさか網持って追いかけろってんじゃないでしょうね?」
 ウィンドウが開かれて、ミサトの顔が大写しになる。
「ちょっと待って、現在n水中爆雷の使用検討中なのよ」
「早くしてよね、こっちは息がつまりそうなんだから」
 ちらりと肩越しに背後を見る。
 後部座席にヘッドセットディスプレイを被ったシンジがいた。
 インダクションレバーを握らず、手は足の上に置いている。
「良い?、あんたはそこで大人しくしてるのよ?」
 コクンと小さく頷く。
 なによ、少しは反抗しなさいよね!
 勝手なことを思った時、シンジが何かに反応した。
「動いた…」
 シンジの言葉を肯定するように、青葉が慌てて報告した。
「パターン青に変化!」
「使徒がATフィールドを展開!、湖底で潜行を始めました!」
「どういう事なの!?」
 日向が主モニターとエヴァの両方にデータを送る。
「まるで鮭ね…」
 アスカはその様に呆れた、使徒が体をくねらせて土を掘り返している。
「呑気なことを言ってられないわ」
「けどどうすんのよ、これじゃ手も足も出ないじゃない!」
 湖脇の山肌がスライドして、兵装コンテナが現れる。
「なに?」
 ライフルの先にコンテナブロックがついていた。
「n水中魚雷よ、4発しかないけど威力は折り紙付き」
「まさかこれでやれっての?」
「しばらく食い止めてくれればいいわ、今UNに協力を要請したから」
「どういこと?」
「使徒を焼き払うのよ」
 ミサトは憎々しげに呟いた。
 でも、その場合天井都市が消滅、最悪ジオフロントが丸見えになる。
 ちらりとゲンドウを見た、だがゲンドウは問題無しと見ているのか、特に反対する様子を見せない。
「消極的だけど…、行くわよ、シンジ」
 返事ぐらいしなさいよね!
 武器を取り、足を水辺につける弐号機。
「アスカ、ATフィールドを中和しないと」
「わかってるわよ!」
 バカシンジが!、どうして人の神経逆なでするようなことだけ口にするのよ!
 バシャバシャと水をかき分けるように進む、腰まで浸かった所で、アスカはATフィールドを発生させた。
「来る!、アスカ逃げて、下がるんだ!!」
「なによ!?、きゃあ!」
「アスカ!?」
「なによこれ!」
 弐号機の周囲に使徒が群れていた。
「ATフィールドは!?」
「ダメです、侵食、喰い破られていきます!」
「ああああああ!」
 アスカはお腹の辺りを掻きむしった。
 だが意味がない、実際に「喰われて」いるのは弐号機だからだ。
「シンクロ率の高さがあだになってるの?」
 マヤの頭ごしに数値を確認するミサト。
 弐号機の腹、太股、脛、その装甲のすき間に使徒は噛みつき、食いついていた。
「ピラニアだよ、これじゃあ…」
 マコトが場違いな感想を漏らす。
「シンジ君は?」
「わかりません」
「わからないって…、どういうことなの!?」
「ハーモニクスは正常、神経接続にも問題はないのに、シンクロ率は以前ゼロを示したままなんです、こんなことあるわけないのに…」
「ゼロ!?」
 ミサトはモニターに映っているシンジを見た。
「い、痛い、痛いよ…」
「アスカ、下がるんだ!」
「な、によ…、なんであんたの言うことなんか…」
「くっ!」
 シンジはレバーを握った。
「アスカ、ごめんよ!」
 意識を内側へ向ける。
 アスカのお母さん、お願いだから…
 祈るようにレバーを引く。
 直後、ハーモニクスのレベルメーターが振りきられた。


「なにが、起こったの?」
 生唾を飲み込むミサト。
 発令所に居る誰もが同じ想いを抱いた、司令と副司令を除いては。
「あの炎は、使徒が?」
「いえ、弐号機、です…」
 弐号機の正面、背後、左右の真横に、十字架を象る炎が一度に上がっていた。
 湖面が大きくたわみ、歪み、弾ける。
 巻き込まれた使徒が波しぶきと共に舞った。
「と、飛ぶ?」
 アスカがよくわからないと言った感じで聞き返した。
 弐号機が腰から釣り上げられるような形で浮いた、そのまま空中にATフィールドを展開し、四つんばいになってその上に手足を着く。
「向こうね?」
 誰に確認しているのか?、アスカはそのまま弐号機を浜辺へ跳び下がらせた。
 入ってくる…
 シンジは目をつむっていた。
 アスカの匂いがする…、あの時と同じだ。
 レイの零号機に乗った時と同じ。
 誰かが僕の中に入ってくる…、誰?
 覚えのある気配。
 アスカのお母さん?
 違う、君は…
 浮かび上がってくるのは、色の白い少年のイメージ。
「カヲル…くん?」
 シンジの呟きに、アスカの怒声が重なった。
「てりゃあああああああ!」
 着地する寸前、アスカはATフィールドを水面へ叩きつけた。
 湖に八角形の穴が開く。
「そこ!」
 ライフルを発射、一度に百数十匹分のATフィールドを同時中和して、n魚雷をぶち込んだ。
 炎が吹き上がる、爆発的な水蒸気、それらを押し隠すかの様に水が流れこみ、湖を元の形に戻した。
「使徒の約10%を熱処理!」
「たった!?」
 ミサトはどう判断して良いものか迷っていた。
 弐号機は驚異的な働きをしている。
 だが使徒を撃退するには、まるで力が足りてない。
「次ぃ!」
 アスカの叫びに、シンジは無意識の内にレバーを操っていた。
 アスカの意図通り、ATフィールドが湖に穴を開ける。
 再び爆発。
「まどろっこしいのよ!」
 弐号機のフェイスガードが開いた。
 その四つの目が同時に光る。
「またなの!?」
 ミサトはそれでも我が目を疑った。
 十字型の炎が4本、天を突く。
 ズゥン…
 微震が響いた。
「に、弐号機の攻撃が装甲防御板を貫いています!」
「全22層中第7層まで貫通!」
「たった一撃で!?」
「ていりゃああああ!」
 アスカにその自覚は無いらしい、アスカはATフィールドを本能の赴くままに使っていた。
 潜行を諦めて、使徒は大挙して弐号機の居る浜辺へと向かい出した。
 水面を跳ね飛ぶように、水を切り、直進してくる。
「この!」
 弐号機の炎が水平に打ち出された、使徒がまたも焼け消える。
「……」
 シンジは意識を垣間見せずにレバーを動かしていた。
「…?」
 そのことに気がつくミサト。
「シンジ君の状態は?」
「変わりません、シンクロ率は依然ゼロを示しています」
「でもレバーを握っているわ、弐号機は反応しているんでしょ?」
「はい…、副パイロットの操作は…、その…」
「なに?、はっきりして」
 口の中が乾く。
「副パイロットの操縦は的確で、周囲の状況が全て見えているとしか思えません」
 さらに続ける。
「逆に主操縦士の動かし方はまるででたらめです、意味を成していません」
 ミサトはその言葉の持つ意味を飲み込んだ。
「神経、接続…」
 エヴァと直結しているの?
 コントロールに頼らず、意のままに操るアスカと…
 シンクロせずに機械的な操作だけでやってのけるシンジ。
 司令?
 ゲンドウは軽く笑みを浮かべていた。
「うわああああああ!」
 アスカが更なる雄叫びを上げた。
 使徒が浜辺を白く塗り変えている、浜に乗り上げ、その仲間の上を乗り越えて、弐号機に殺到した。
「気持ち悪いのよっ!」
 ライフルを撃つ、弐号機を巻き込む爆炎、芦の湖の形がまたも変わる。
「残りは!?」
 焼けこげた使徒の死骸を踏み付ける。
 弐号機は装甲の表面が僅かに黒ずんでいるだけだった。
「あと34…」
 シンジが答えた。
「あっちね?」
 アスカはそれを当然と受け取る。
「逃げるんじゃないわよ!」
 弐号機が腕を振った、ATフィールドが飛び、使徒を水ごと水上へ跳ね上げる。
「これで終わり!」
 再び弐号機の四つ目が光った。
 炎が吹き上がり、使徒を全て廃にする。
 少々爆発が大きかったのは、一緒に巻き上げられた水が水蒸気爆発を起こしたためだろう、それ程までに炎の熱量は凄まじかった。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 ふぅっと額に手をやる。
 汗をぬぐったつもりだったが、アスカはすぐにL.C.L.の中だったことを思い出した。
「あたし?」
 我に返ったように、周囲を確認する。
「あれ?」
 湖岸の惨状を見て、アスカは首を傾げた。
「…そうよね?、あたし、使徒を倒したのよね?、でも」
 どうやって倒したのか、まるで覚えていない。
 レコーダーを呼び出し、戦闘中の記録を見る。
「そっか、うん、思い出した…、けどどうして?」
 どうしてこんな事できたんだろう?
 それがわからなかった。
「シンジが逃げろって言って…、それから…」
 記憶があやふやになる。
 うん…、急にエヴァのことがわかって…、あたし、ママと一つになってた。
「シンジ?」
 返事がない。
 急に不安になって振り返る。
「シンジ!?」
「なに?」
 ディスプレイを後方へ押しやっている所だった。
「し、心配させんじゃないわよ!、このバカ!!」
「なんだよ、アスカだって危なかったくせに…」
 それがシンジにできる精一杯の抵抗だった。




続く





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。