Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:7





「なぁによミサト、改まっちゃってさ…」
 きったない部屋に、足の裏を気にする。
「いや〜ん、なんだかべたついてるぅ、引っ越したばっかだってのに、一体何したのよ?」
「ちょっちビールこぼしただけよ」
「げっ、ゴキブリとかいそう…」
 はいはいっとミサトは机に向かった。
「見せるかどうか…、迷ってたんだけどね、約束したし」
 ノートに灯を入れる。
 振り返るアスカ、シンジはついてきていない。
「なに?、これ…」
 ずらずらとわけのわからないパターンが並ぶ。
「遺伝子配列?」
「そ、エヴァ零号機、初号機、そして弐号機以降と、ネルフ本部の地下にあるもの、さらに使徒との遺伝子配列を並べた物なの」
「同じに見えるけど…」
「ほとんど同じだからね、次にこれ…」
「なに?」
 また同じようなパターンが表示される。
「最初に南極で発見された「第一使徒」と呼称されるアダム、そしてアダムにコンタクトを取ろうとした…、葛城調査隊が打ち込んだ遺伝子の配列」
「葛城調査隊?、それって…」
「そう」
 何かを堪えるように、唇を噛む。
「あたしもあそこに居たわ」
「ミサト…」
 はっとして、ごめんと謝る。
「続き、話さなくちゃね…、葛城調査隊が打ち込んだ遺伝子こそ、アダム以前に…、ジオフロントで発見された「リリス」と呼称されるものの遺伝子だったのよ」
「ちょっと待ってよ!?、使徒との接触によってセカンドインパクトは起きたんでしょ?」
「違うわ…」
 鋭い眼光。
「セカンドインパクトは、人為的に起こされたのよ」
 アスカは息を呑みこんだ。


 ゴウン…
 真っ暗な闇の中に、さらに黒いモノリスが浮かび上がる。
「零号機の復活、それの意味する所は新たなる母体の創造…、少々危険なのではないかね?」
 また一つ、新たなるモノリスが現れる。
「出来損ないの群体として行き詰まった人類を、完全なる単体としての生物へと人工進化させる補完計画 、ロンギヌスの槍を失った今、その計画にも変更が必要だ…」
 残りのモノリスが現れる。
「だがそれは碇ユイの提出した「人類補完計画、第一次立案書」を用いることで修正できるのではないのかね?」
「碇ゲンドウ…、いや六分儀ゲンドウが持つ補完計画書は、我々のものとは異なるからな…」
「さよう、生物としての進化、欠けた心の補完を望む私たちとは違うからね」
「彼の狙いは現在の人類が次の段階へと進む、その足場を作ることにある」
「それではいかんのだよ、「個」であり「我」があるかぎり、私たちは互いに欠けているものを補うことができない」
「知る事はない、わかりあえない、理解できない」
「心の壁を乗り越えられぬ限り…」
「人は永遠に心の闇を打ち払うことはない」
「救いの手を差し伸べ、また取ることができない」
「その不安ゆえに他を求めるというのにな…」
「不安を知るゆえに、他を救おうとする」
「そして、互いに理解しあえないと気づく…」
「しょせん我を知る者は「我」だけなのだよ、自らを救えるのものは自分自身のみだ」
「そう、たとえ方を知った所で、打ち払う術を分かち合える事はない」
「それに気づかぬからこそ、人は理不尽な恨みを抱き、他の幸福をうらやみ、妬む」
「嫉みが人を歪ませる」
「そこにある理想を、幻想を追い求めることを、生きることと定義づける」
「そして理想を実現させる為に、他を踏みにじり、傷つける」
「他人の現実を破壊し、築き上げる」
「それが心の存在に疑問を投げかけた」
「善悪は二の次」
「良き者であることを願いながら、悪しき行為に染まらねばならない人類…、はたして存在する価値はどこにあるのかね?」
「それに答えられぬからこそ、目を閉じ、耳を塞いだのだよ」
「心の閉塞を望むしかなかった…」
「歪んだ生こそが人類の歩んできた道でもある」
「だがそれではいかんのだよ、我々は心あるゆえに、善悪を知るがゆえに道を正さねばならん」
「「「そのための補完計画でもある」」」
「ではまず、何から始めるかね?」
「まずは碇ユイの計画書に基づき、選ばれし者の心の喪失から始めよう」
 ゴウン…
 そして議場は、再び闇に包まれた。


 流れてくる曲は「CHILDHOOD MEMORIES,SHUT AWAY」
 シンジのチェロの音が厳かに響いてくる。
「ばかシンジが…」
 そう思いながらも、アスカは音色に聞き入っていた。
 ベッドの上に体を放りなげている。
 広がった髪が体の下敷きになり、少しでも頭を動かせば引っ張られるように痛かったが、だからといってどうしようとも思わなかった。
「調律…、できてないじゃないの」
 一音外れている。
 当然シンジは気がついているはずだ、わざとなのだろう。
「どういうつもりなんだか…」
 これが加持の残していったものよ?
 その一言に、アスカは打ちのめされていた。
 じゃあ、加持さんは!?
 ネルフではないと…、思いたいわね。
 何かが足元から崩れていく感覚。
 エヴァに乗る事、みんなに誉めてもらう事、それは間違いだったの?
 加持の笑顔を思い出す。
「でも、加持さん、言ってくれたもの…、みんなを守る、大切なお仕事だって」
 何が本当で、何が嘘なの?
 その答えが見つからない。
「…でも、今はいいわ、あたしにはママが居るもの…、それにミサトと、百歩譲ってシンジもね」
 反動を付けて起き上がる。
「真相の究明はミサトに任せるわ、それはあたしにできることじゃないから…」
 お願い、エヴァはあなたたちの手に委ねられているの、最悪、アスカ、あなたに頼ることになるわ…
 だからこそミサトは打ち明けたのだ。
「それはあたしにしか、できないことだもんね?」
 それがどのようなことであれ、アスカにはアスカにしかできない使命が言い渡されたのだ。
「必要とされてるんだ…」
 それだけで十分だった。
「さてっと、ばかシンジでも慰めてやるか」
 アスカはベッドから足を降ろした。


 これは何?
 意識が浮上してくる。
 夢…、これが夢?
 やけに現実的で、それでいて知らない顔が幾つもあった。
 わたし、夢を見ているの?
 見下ろすような形。
 足元にプールが広がっている。
 L.C.L.…、ターミナルドグマ?
 いつもはレイが見上げている場所に、幾人かの人影があった。
「いいのだな、ユイ…」
 念を押すゲンドウ。
 周りに居るのは、ゲヒルンでもゲンドウ、そしてユイの直属の部下にあたる研究所員だった。
「はい、「使徒」に抗うためには、それと同じ力を用いる以外に方法がありませんから…」
 わたしに何を求めているの?
 ユイはじっとレイを見上げている。
 ユイのお腹が大きい。
 碇君…、そこにいるのね?
 幾つかの測定器と機械類、ゲンドウはユイに電極を張り付けていく。
「これから形作られていくシンジの…、シンジという命の形を、彼女にも見せてあげたいんです…」
 ゲンドウは軽く頷いた。
「彼女は、それを我が子だと認めてくれるだろうか?」
 レイを見上げるゲンドウ。
「あら?、子供は可愛いものですわ…、たとえ自分達の子でなくても、種を越えて愛しいと思うものです、違いますか?」
「どうかな…、私にはわからんよ」
 ゲンドウが何かのスイッチを入れた。
「人の形…、心の形…、あなたはあたし達の子を生んでくれますか?」
 ユイはレイを見つめて呟いた…
 わたしはこうして生まれたのね…
 レイはゆっくりと瞼を開いた。


「私を形作るもの…、私を形作った人…」
 いつもの部屋、殺風景な部屋…
 ビーカーの水に月明かりが反射して、不可思議な模様を部屋中に描いていた。
「私の心は、写されたもの?」
 うつぶせになる、顎を枕に乗せ、レイは視線を漂わせた。


 最後の小節を引き終える、シンジは余韻に浸ってからチェロを置いた。
 パチパチパチ…
 拍手の音に顔を向ける。
「聞いてたの?」
 椅子がギィっと音をたてた。
「まあね、壁が薄いんだもん、聞こえちゃうわよ」
「ごめん…、今度から気をつけ…」
「それがいけないって言ってんのよ!」
 いきなり怒鳴りつけられて、シンジは口をぱくぱくさせた。
「いったい何回言えばわかるわけ?、ここはあんたの家で、ここはあんたの部屋でしょう?、だったら自分の好き勝手やったって良いじゃない、少しは反抗しなさいよ!」
「そんなこと、言ったってさ…」
 しょぼくれる。
「あたしが恐いってわけ?」
 小さく頷く。
「じゃあ、あんたに合わせろってぇの!?」
「そんなこと言ってないだろ?」
「言ってるじゃない!」
「言ってないよ!」
「言ってるのと同じよ!」
「アスカが聞くからだろ!?」
 お互いに荒い息をつく。
 整えるように、シンジは大きく息を吸い込んだ。
「もう、放っておいてよ…、かまわないでよ…」
 アスカも息を吸い込んだ。
「嫌よ、何よ?、もの欲しそうな顔をしてあたしを見てたくせに…」
「そんなこと、してない」
「嘘!、知ってるのよあたし、あんたあたしをオカズにしてたでしょ!?」
 シンジは息を呑んだ。
「いつもみたくやってみなさいよ、ここで見ててあげるから!」
 鼻先に突きつけられる芳香、髪がシンジをくすぐる。
「やめてよ!」
 シンジは頭を抱えこんだ。
「やめてよ!、どうしてそんなこと言うのさ!」
「あんたがあたしを拒絶しようとするからじゃない!」
 シンジは泣きじゃくる子供のように頭を振った。
「良いだろう?、アスカが僕を嫌ったんじゃないか、居なくなれって思ったんじゃないか!」
「あんたがそうやって、あたしを都合よく見ようとするからでしょうが!」
「それはアスカのことだろ!?、僕のことなんて何もわかってないくせに、僕の側に来ないでよ!」
「じゃああんたはなんで、あたしの側に来たのよ!」
 アスカの頭の中には、ユニゾンのための特訓をしていた時のシンジが思い出されていた。
「あんたこそなんにも判ってなかったくせに、どうしてあたしに説教したのよ!」
「判ってたからだよ!」
「判ってないわよ!」
「判ったからだよ!」
「あんたあたしのこと判ってるつもりだっただけじゃないのよ!?、自分に似てるからって、勝手に思い込んでただけでしょ!」
 シンジの顔に、アスカの唾が吹きかかる。
「それであんた、あたしを救えたと思ってたの!?」
 パン!
 アスカの張り手が鳴り響いた。
 ガタンと椅子から転げ落ちる。
「それこそただの思い上がりじゃない!」
 見下す。
「だって…、だって」
 顔を伏せたまま、シンジは呟く。
「アスカは何も言わなかったじゃないか…」
 色々なアスカ、アスカに関する記憶がフラッシュしては消えていく。
「何も言わなかったくせに、何も話してくれなかったくせに、判れなんて無理だよ!」
 右腕を大きく振る。
 アスカの足に当たった。
 アスカはその足を持ち上げ、シンジに蹴り下ろした。
「あたしがいつ、あんたに判ってくれなんて頼んだのよ!」
 ガス!
 シンジの唇が切れる。
「他人が全部、あんたと同じだなんて思う方がおかしいのよ!」
 ガス!
 鼻血が流れる。
「ホントはあんたが判ってもらいたいんじゃないのよ!、だからあたしもそうだって、勝手に勘違いしたんじゃない!」
 襟首をつかみ、引き起こす。
「だから…、だからやめたじゃないか…」
「嘘ついてんじゃないわよ!」
「助けて…、助けてよ」
「それが本音じゃない!」
「僕を…殺さないで」
 その一言がアスカの理性をぶち壊した。
「あたしはママとは違うわ!」
 シンジを放り出す。
「う…、うう…、ごめん、ごめんよ…、もうやめてよ…」
 一転して優しげな声で…
「やめるわよ」
 とアスカは囁いた。
「だから、大人しくしてなさい」
 細い指をシンジのシャツのボタンにかける。
「やめて…、やめてよ、何をするんだよ…」
 シンジの体に手を這わせる。
「優しくしてあげるのよ…、あんたが望むようにね」
 それはシンジではなく、アスカ自身の望みに思えた。




続く





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。