Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:8
「ミサトぉ?、シンジはぁ…」
病室、アスカはベッドの上で膝を抱えていた。
すうっと息を吸い込むミサト。
「…司令の命令で、本部施設の宿舎に移ることになったわ」
そ…
視線をずらし、窓を見る。
カーテン、邪魔だな…
アスカは外の景色を見たいと思った。
「これなんですが…、どう思われますか?」
発令所、青葉が見せた地震観測所のデータを、冬月は眉をしかめて分析した。
「移動しているな」
「はい、伊吹山地から木曽を経て富士山へ向かっています、若干の修正はありますが…」
「まちがいなくここを目指しているな、深度は?」
「約地下6000メートル」
「どうする、碇?」
冬月はミサトの代わりにゲンドウを仰ぎ見た。
「使徒だな…、間違いない」
「だがまだ確認はされていないぞ?」
「地下六千メートルを300キロに渡って潜行する物体、使徒以外にはありえんよ」
冬月は後ろ手に組むと、マヤに初号機、及び弐号機専属パイロットの状態を確認させた。
「初号機パイロットは問題ありません、ただ弐号機専属パイロットについては、若干の不安定さが見受けられます」
ふむ、と顎を撫でる。
「どうする?」
「弐号機はいい、レイとシンジに当たらせる」
「そうか、そうだな」
冬月は日向にパイロットの搭乗を命じさせた。
男性パイロット専用ロッカールーム、他にエヴァを動かせるものが居ない今、ここは実質シンジ一人のための部屋だった。
「綾波は、なぜエヴァに乗るの?」
いつか聞いた質問を再びする。
「命令だから」
レイはシンジが脱ぎ散らかした服をたたんでいた。
それをシンジのロッカーにしまう。
「そ?、綾波は、命令なら何でもするんだね…」
目が見えなくても着られる…
それほどまでにプラグスーツに慣れ親しんでしまっていた。
手首のボタンを押し、プラグスーツを圧縮する。
「どうして、人としての選択をしないの?」
シンジの質問に、レイはプラグスーツの胸元で手を組んだ。
「綾波は人形じゃないのに…」
レイの瞳が不安に揺れる。
「人形は、僕の方なのに…」
エヴァに聞かされたユイとゲンドウとの会話が、頭にこびりついて離れてくれなかった。
シンジはそこから自分の役目に気がつかされていた。
ジオフロント内に配置される二体のエヴァ。
「正面をシンジ君が、レイは左方から、いいわね?」
「…あの、アスカは?」
少しほっとしているシンジ。
「まだ出撃できる状態じゃないのよ…、今日の所はお休みよ?」
「そう、ですか…」
そんな自分が嫌になる…
僕がアスカを受け入れなかったからいけないの?
できるはずの無いことを思う。
だって僕を拒絶したのはアスカじゃないか…
人のせいにしようとする。
でも、気づいてあげられなかった僕が一番悪いのか…
そんな自分を嫌ってしまう。
だいっ嫌い!
アスカの叫びが蘇る。
僕をいらないって言ったの、アスカじゃないか…
病室、うつろな瞳、シンジを見ないアスカ。
一体、どうして…
うまくやっていると思っていた日々。
お風呂の熱さにわがままを言うアスカ。
アスカの暇つぶしに付き合うシンジ。
何気ない日常の生活。
アスカとヒカリが軽蔑した視線を投げかけてくる。
それをトウジ、ケンスケとシンジが笑いながら受け止める。
一体、いつからだろう?、アスカが笑ってくれなくなったのは…
インダクションレバーから手を離し、膝を抱えこむ。
アスカを追い詰めたのは、僕なんだ…
みんなみんな、だいっ嫌い!
アスカの鬼気迫る声が耳について離れない。
僕が悪いんだ…
そう思うことが楽。
だから…、アスカを見ちゃいけないんだ。
近づけば、またアスカを傷つけてしまうから…
傷ついているアスカを可哀想だとは思わないの?
それは幻聴。
シンジははっとして顔を上げた。
何も変わってない、エントリープラグのモニターには、ジオフロント南西側の壁が映っていた。
「でも、遠ざけても傷つけるだけだったんだよ?」
もう、どうして良いのかわからない…
シンジは胸の苦しさにあえいだ。
固いプラグスーツを疎ましく感じる。
あなたはただ、人になにかをされた時、し返して、相手の嫌がる姿に自分が重なってしまうのを恐れているだけ…、そうでしょう?
優しげな声が響いてくる。
僕は優しくしてあげたかったんだ、アスカに元に戻ってもらいたかったんだ、でもできなかったんだよ!、アスカは僕を嫌ってたんだ、だから遠ざかることに決めたんだ!、それのどこがいけないんだよ!
幻の声に反論する。
嘘、あなたは嫌な事はしてあげたくないと、優しい振りをしているだけ…
みんな嫌な事はされたくない、そうでしょ!?
嫌がられたくないから近づかないだけでしょう?
違うよ…
嫌がる相手に、そこに知っているものを生み出したくないだけ。
違う。
それを目の当たりにすることが恐いのね。
違う!
怯えたように生きる彼女に重なる自分が恐いのね。
違う違う違う!
本当はその痛みから続く、さらに酷い目に合うのを恐れているだけなのに…
違う!、僕はただ、恐がりな僕が嫌だったんだ、喜んでる姿を見られるのも嫌だったんだよ、だってそんなの恥ずかしいじゃないか!
つまらない理由…
バカにする幻の声。
「綾波?」
初号機の顎が持ち上がり、その視線を零号機へ向けた。
零号機は動いていなかった、その周辺には遠中距離兵器が転がされている。
綾波じゃないのか?
視線を戻す。
アスカ…、泣いてたのかなぁ?
組み敷かれた時のことを思い出す。
優しくしてあげてたじゃない…
本当だったのかもしれない。
でも、わからなかったんだ…
見えない目、それでも涙は流れ出る。
「だって、僕の知っている優しい事とは、全然違ったんだもの…」
だがその涙も、溢れた側からL.C.L.に混ざっていった。
「来るわ」
ごしっと目元をぬぐう。
シンジがレバーを握ったのと同時に、ジオフロントの内壁に当たる崖が内部から吹き飛んだ。
「なによ、あれは!?」
形状は第八使徒に酷似していたが、その口腔は尻尾まで直通になっていた。
頑強な歯で削岩、削った土砂をそのまま後方へ捨てるように掘り進んできたのだろう。
だがミサトが驚いたのは、そんなことにでは無かった。
「使徒が…、喰われてるの?」
細長い四本足の蜘蛛達、そのサイズは一匹3メートル程度だろうか?
それがびっしりと取り付いていた、溶解液を垂らし、使徒の外郭を溶かしている。
「パターン青!、ATフィールドの波長解析、第八、第九使徒と確認!」
「使徒による同時強襲!?」
いえ、違うわね。
表皮がズルむけになっている第八使徒セカンド。
「あの高温、高圧にも耐えた第八使徒が…」
はっとして、ミサトは通信回線を開いた。
「二人とも大きい方は無視して、先に小さい方を目標に設定、いいわね!?」
小型の使徒に入りこまれたら、もう防ぎようが無いわ!
だが即座にシンジから拒否する返事が返った。
「ダメです!」
その指令を無視して、使徒が現れた穴の方にナイフを構える。
「シンジ君!?」
「来るわ」
レイだけがシンジの言いたいことに気づいていた。
崖下に開けられた穴から、別の巨大なものがのそりと現れた。
「あれが本体!?」
第九使徒セカンド、その形状はやはり第九使徒に似てはいるものの、後方に細長くなる涙滴型をしていた。
ズウゥン!
第八使徒セカンドが力尽きたように横たわった。
断末魔の叫びでも上げているのか、口元の牙が限界にまで広げられている。
そしてついにぴくりとも動かなくなった。
それでも群がることをやめない子蜘蛛達に、生理的嫌悪感を覚えるミサト。
「捕食しているとでもいうの?、いえ、まさかね…」
生命の実を持つ使徒が、そんなことをするわけ…
じゃあどうして?、ただのいさかいなの?
ミサトの思考を邪魔するように、場違いな緊急回線のコール音が鳴り響いた。
アスカはずっと膝を抱えこんでいた。
「かっとしちゃった…」
その指で、軽く股間の間を縦になぞる。
「あんなことしたって、何にもなりゃしないってのに…」
シンジの望みを叶えれば…
あたしを見るかもしれない、なんでそんなこと思っちゃったんだろう?
求めてくれるなら、それがなんであってもかまわない。
体だろうがなんだろうが、それが目当てでも…
そう思ったのに…
「シンジの、バカ…」
ビーーー!
呟きに重なる非常警告音。
「なに?、使徒!?」
慌ててベッドから飛び降りる。
扉に取りつき、その開閉ボタンを押したが…
「…え?」
開かなかった。
「なんでよ!」
カチャカチャと何度押しても開かない。
業を煮やして、アスカは非常用の電話を取った。
緊急回線用のナンバーを押す。
それはすぐに繋がった。
「誰よ、この忙しい時に!」
ミサトのいらつく声にムッとする。
「ミサト!」
「アスカなの?、なに?」
「なにじゃないでしょ!、使徒なの?、出られないのよ、何とかして!」
「だめよ」
ミサトのトーンが一つ落ちた。
「ダメって…、どうして!?」
「まだ戦える状態じゃないでしょ?」
「戦えるわよ!、戦えるから、出してよ!」
「だめよ、そこにいなさい」
一方的に切られた。
「ミサト!?、ミサ…」
ガシャン!
叩きつける。
「ちくしょう…」
開かない扉。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!」
ドンガンゴン!
アスカは拳を叩きつけた。
「なんでよ!」
ゴン!
「ミサトが言ったんじゃない、あたしを頼ってくれるって!」
ガン!
「お願いよぉ…」
コン…
涙が流れる。
「戦わせてよぉ…」
額を押しつける。
「バカァー!」
アスカは張りさけんばかりに叫びをあげた。
「碇君はATフィールドの中和をお願い」
「わかったよ」
矢面に立つ。
これが僕の役目なんだ…
先に出てきた…、すでに活動を停止している第八使徒セカンドの屍を飛び越え、シンジは第九使徒セカンドへ距離を詰めた。
踏み付けられた子蜘蛛達が気持ちの悪い感触を与える。
踏み潰しながらシンジは走った、潰れた子蜘蛛達から飛び散った体液は、どこかL.C.L.に似ていた。
「ATフィールド、展開」
初号機周辺の空間が一瞬揺らいだ。
それに親蜘蛛が反応した。
鎌首を下げ、軽く体を沈める。
「碇君!」
レイの予測射撃でも捉えられなかった。
「わっ!」
親蜘蛛は猛烈な勢いで突進をかけてきた。
正面で両腕をクロスさせ、親蜘蛛の突撃を受け止めるシンジ。
「シンジ君!」
使徒とエヴァとの間で、金色の光が責めぎあっていた。
「大丈夫です、これぐらいなら…」
ミサトに強がって見せる。
だがそれもそこまでだった。
「なんだ、この感触…、くすぐったい、うわ!」
子蜘蛛達が初号機に取り付いていた。
ざわざわと群れて、這い上がってくる。
「なんだよこれ、なんだよ!」
「碇君離れて!」
零号機のライフルが火を吹いた、親蜘蛛を貫通する弾丸。
「効いてないの!?」
ミサトの叫び。
使徒は衝撃にふらついただけで、別段体勢を崩すことも無かった。
「碇君!」
レイは悲鳴を上げた。
親蜘蛛の前方部が上下に割れ、口が現れたからだ。
「うわ、うわ、うわあ!」
大きい、初号機を丸呑みにできるほどに。
シンジは恐怖に泣き叫んだ。
「初号機を喰おうっての!?」
「まずいぞ碇!」
「……!」
ゲンドウが珍しく焦りの色を浮かべた。
知恵の実を取りこむつもりか!
組んでいた手に、思わず力が入る。
「うわああああああああ!」
そしてスピーカーから流れた絶叫。
それは音が割れるほどに酷いものであったが、誰一人として画面から目を離せる者はいなかった。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。