Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:9
使徒の口が開かれた。
「うわああああああああああ!」
両腕を突き出すように嫌がるシンジ。
後退しようとするエヴァ、その背に足の一本が回された。
ぐいっと引き寄せられる、口腔に。
「嫌だ、いやだ、イヤダ!」
その奥に光る赤い玉。
その光が歪み、女の姿を取る。
あたしと一つになりたくないの?
惣流・アスカ・ラングレー。
赤い髪が広がり、揺れている。
受け入れるかの様に広げられた腕、シンジに対する優しい微笑み。
「いやだーーーーーー!」
シンジは後ずさり、泣き叫んでいた。
「バカぁ…」
誰とも無く呟くアスカ。
ドアの前にしゃがみこみ、顔をくしゃくしゃにしてしゃくりあげていた。
「出して…、ここから出してよぉ…」
ベッドの上に人影が見える。
もちろん幻。
それはアスカの母の幻影。
人形を相手に何事かを呟いている。
「ここは嫌なのよぉ…」
それに対して怯えるアスカ。
ベッドの脇を見たくは無かった。
そこにも何かが見えそうだったから。
首を吊った母の姿が見えそうだったから…
「恐いよぉ、嫌なのよぉ、出してよぉ」
とめどなく涙が溢れてくる。
うつむき溢れ出る涙を止めることができないまま、誰かに助けを求めている。
「誰か助けて…、助けてよぉ…」
懇願。
明るく笑っていた頃の、シンジの笑顔が浮かんでくる。
「どうして、どうして笑ってくれないのよ…」
母と自分が重なる。
女になることを望まないまま、母になった人。
女になることを夢見て、希望を抱いた人…
手に入れるために女になった人。
手に入れられなくて、壊れた人。
「あたし…、ママと同じなの?」
人を恐れ、恐れずにすむものを手に入れようとしたアスカ。
身近に居る少年に優しさを求めたアスカ。
手に入れるために、女になったアスカ…
手に入らなくて、泣くだけのアスカ…
「あたし、ママと同じなの…」
死んでちょうだい…
殺してでも、自分のものにしようとした母。
優しくしてあげるのよ…
壊してでも、自分のものにしようとしたアスカ。
「でも、あの人よりは良い…」
嫌悪してきた父のイメージ。
「嫌いなの…、だいっ嫌いなの…、だからママの方が良いの…」
だが顔を上げられない。
アスカは母の幻影に脅えていた。
「ここは?」
エヴァの中よ?
そして使徒の中。
答えは簡単に返ってきた。
「また僕なの?」
そう、僕は君。
そしてあたし。
「あたし?」
目を開く。
黄金色の海、シンジを取り巻くように、無数のアスカが浮いていた。
「ひっ!?」
脅えて下がろうとする、だが背後にもアスカ。
「やめて、こんなのやめてよ!」
どうして?
不可解なことを、心底、そう思っている返事。
「アスカの形なんてやめてよ!」
でも君が望んでいるから…
この形なのよ?
アスカ達は一糸まとわぬ裸体で浮いていた。
さあ、あたしと一つになりましょう?
「イヤダ!」
耳を塞ぐ。
どうして?
それでも聞こえてくる声。
「僕はアスカを傷つけた」
僕がアスカを傷つけた。
「だから僕は嫌なんだよ!」
僕は僕が嫌いなんだ!
アスカ達は、そんなシンジに優しく微笑む。
あなたは、触れ合うのが恐いのね…
優しくできない自分を知りたくないから…
それは優しさを知らないと言うことだから…
それを自覚したくないから、あなたは離れたいのね…
掘り起こされるシンジの記憶。
ただいま。
帰宅するミサトに「お帰りなさい」
照れるようにはにかむミサト。
お腹減ったぁ、ご飯まだぁ?
手伝いもしないアスカに苦笑する。
アスカは「今日は何?」っと覗きこむ。
…ほんとは、とても簡単なことなのに。
いつの間にか、アスカのうちの一人がシンジに抱きついていた。
「そう、だね…」
電車を降りての帰り道、アスカに繋がれた手が心地好かった。
優しくしてあげてたじゃない…
「気づかなかったのは僕だ…」
うるさい、何が良かったのよ!
「でも、僕が側に居ると、アスカは凄く傷つくんだ」
あたしを見ない奴なんていらないのよ!
「だから僕は側に居ちゃいけないんだ」
どうして?
「君の言う通りなんだ…」
顔を上げる。
「僕は、アスカに上げられるものを、何一つ持っていないから」
「自我境界線が歪んでいきます!」
一番早く我に返ったのはマヤだった。
「し、シンジ君は!?」
「心理グラフ、シグナル消失!」
初号機は使徒の口腔の中にいた。
たぷん…と、溶解液が泳いでいる、その中で胎児のように丸まっている初号機。
装甲がかなり溶け出している。
「デストルドーが形而化…」
「これ以上はパイロットの自我が持ちません!」
「シンジ君!」
サードインパクト。
冬月の脳裏にその言葉が過る。
まさか初号機を使って起こすつもりか!?
「どうする碇?、こうなれば初号機の放棄もやむをえんぞ」
ぴくっとゲンドウの眉音が釣り上がった。
「零号機とレイ、それに初号機のコアさえあれば問題は無い、どうする?」
パイロットを捨て、ATフィールドを消失させろと言っているのだ。
そうなれば使徒は興味を失うだろう、最悪の事態だけは免れる。
「時間が無いぞ、このままではセカンドインパクトの二の舞いだ」
「ああ、ただの破壊に留まる、だが背負うリスクも大きい、今しばらくは様子を見る…」
決めるなら早くしろ。
冬月は乾いた喉に、無理矢理唾を流し込んだ。
「僕のしてきたことは、傷つけることばかりだ…」
連動試験。
シンクロテスト。
勝利。
シンジの喜びが、アスカのプライドを傷つけていく…
「だから、側に居ちゃいけないんだ…」
あなたがいないとダメなの…
甘い誘惑。
あなたが見てくれないと、辛いのよ…
訴えかける。
一人は嫌なの…
寂しいのは嫌…
泣きたくなるから嫌…
「だけど、僕が居ると、アスカはもっと傷つくんだ…」
どちらにしても傷つく。
手を繋ぎたがるアスカ。
シンジと繋がったアスカ。
シンジを求めるアスカ。
受け入れないシンジに傷つくアスカ…
「触れあわなければ、ずっと傷つかなくてすんだのに…」
つい繋いでしまった手に後悔する。
甘い期待、もう一度戻れるかもしれないと言う予感。
「それが間違いだったんだよ」
無数の視線を受け止める。
「触れ合わなければよかったんだ…」
だけどあたしはシンジといたいの…
両手を広げて飛び込んでくるアスカ。
あたしの心に触れたくせに…
シンジの首に抱きつき、噛り付く。
あなたは、何を見てきたの?
あなたの中に、何を見たの?
弐号機に乗った時、シンジはエヴァと一つになっていた。
エヴァとアスカとの間で、シンジは双方の心に触れていた。
「泣いてるアスカを…、見つけたんだ」
自分の存在を知らしめるためよ!
「自分のために、頑張ってた…」
シンジに優しくしたのも、自分のためだ。
絆だから…
正直、自分の夢や希望を重ねて…
シンジは、許してくれるでしょうか?
「みんな勝手なんだ…」
だれもかれも、自分のことばかりで…
「でも、一番自分勝手なのは…」
僕は父さんに誉められたくて…
「僕だったんだ…」
涙がこぼれ落ちる。
「僕が、僕のことしか考えてなかったから…」
ぐっと手を握りこむ。
心が痛いのね?
耳元での囁き。
「僕は、人形なんだ…」
それは心が欠けているから…
「だから、人の気持ちがわからないんだ…」
なら、一つになりましょう?
アスカの胸が押しつけられる。
それはとてもとても気持ちの良いことなのよ?
シンジの唇に触れながら言葉をつむぐ。
心も体も、一つになるの…
満たしてあげる、心のすき間を…
アスカ達が抱きついてくる。
あたしと一つになりましょう?
一斉に囁いてくる。
あなたの心を癒してあげる…
あなたに安息を与えてあげる…
「んぐ!」
シンジの口を唇で塞ぐ。
あなたの心を、補ってあげる…
とろけるような感覚が、シンジの全身を満たしはじめた。
それが、一つになると言うことよ?
誘惑に抗うだけのものを、シンジはどうしても見つけられなかった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。