Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:10
「あんたって良いとこあんのねぇ、見直しちゃったわ」
病院の待合室で、アスカは牛乳パックを片手にトウジをちゃかした。
「でもねぇ」
ぽかっと殴る。
「な、なにすんねん!」
「何が「仲良くしろ」よ!、よけいなお世話よ!!」
「シンジ呼んで泣いとったん、どこのどいつやねん!」
キッと目尻を釣り上げて、アスカは右手を振り上げた。
コホン…
看護婦の咳払いにはっとして踏みとどまる。
じろり…、まさにそんな感じで睨みつけられていた。
「アホが…」
アスカはもう、迷わなかった。
「あのなぁ、なに意固地になっとんねん」
病院、屋上。
陽射しが暑い、金網にもたれるトウジ、アスカは洗濯物が邪魔だと思いながら、トウジを睨みつけていた。
「そんなんじゃないわよ!」
はたかれた頬をさすっているトウジ。
「ほな、なんやねん?」
憤怒の形相に嫌気がさす。
「寂しいんとちゃうんか?、そやろ」
「…違うわよ!」
あまりにも激しい否定。
「あんたに…、あんたなんかに、何がわかるってのよ!」
アスカは泣いていた。
あたし、いつからこんなに泣くようになったんだろう?
わからない。
でも込み上げてくる怒りもおさまらない。
「ちょ、ちょお待てや…」
その涙におろおろと慌てる。
「泣く事あらへんやろ、な?」
何となく手を差し伸べる。
「気安く触らないでよ!」
ぱんっと、アスカはその手を弾いた。
「そ、そやけど…」
「なによ、なによ、なによ!、あんたなんかに…、あんたなんかに…」
ギュッと唇を噛む。
見透かされた。
その事が悔しくてたまらなかった。
「なんやっちゅうねん?、そりゃあの綾波との雰囲気見たら悔しいのもわかるけど…」
的外れなことを言う。
だがそれもアスカのカンに触った。
「そやけど、退院したら帰ってくるんやろ?、それまでの辛抱やないか…」
「帰ってこないわよ!」
髪を振り乱し、アスカはわめいた。
「帰ってこないのよ!、あいつはもう、あたしの側にいてくれないのよ、あたしは独りぼっちなのよ、誰も側に居てくれないのよ、誰も…」
わっと両手で顔を被い、アスカはその場にしゃがみこもうとした。
トウジが踏み出したのとタイミングが重なってしまう。
「帰ってこんて…、そうかぁ…」
アスカを抱きとめる形になってしまった。
戸惑うトウジ。
両肩に手を置き、その後どうしていいものやら迷う。
「と、とにかく泣くなや…」
アスカはわんわんと泣き続けている。
トウジに抱かれていることにも気づいていない。
どうにも止まりそうになく、トウジは困り果てた顔で切り札を切った。
「あ、あんなぁ、ミサトさんに黙っとけ言われてたんやけど…」
また隠し事…
アスカに新たな悲しみが生まれる。
「わしもな?、あそこに住むことになったんや」
「な!?」
アスカは即座に泣くのをやめた。
赤く泣きはらした目を上げる。
「そやから、独りとちゃうし、な?」
「冗談じゃないわよ!、なんであんたなんかと暮らさなきゃならないわけ!?」
「しょうがないやろ…、わしかて…」
ズグン!
激しく胸が痛む。
わしかて住みたないわ。
「…わかってるわよ」
アスカは落ち着いた声で遮った。
続きを聞きたくなかったから。
「勝手にすれば?」
レイなみのそっけなさで答えてしまう。
こいつも同じなんだ。
他の奴等と同じ、あたしなんていてもいなくてもいいんだ。
その悲しみが、先程までの激情を押し殺してくれた。
「それより、いつまで触ってんのよ」
「え?、あ、すまん!」
だが離さない。
「離せって言ってんのよ!」
「そやけど、お前まだ泣いとるやないか」
「うっさい、うっさいわね!、人の勝手じゃないの!」
トウジの胸を押し、離れようとした…
が、できない、指先がしびれたようになっていて、力が入らなかった。
「見てみぃ、な?」
はっとする、優しい目が向けられている。
「なんでよ…」
ぽつりと漏らす。
「あんたなんかに…、関係、ないじゃない…」
うずきが止まらない。
シンジと同じ…
拒絶されるのがわかってて、それでもすがろうとしてる…
そんな自分が嫌になる。
「さっきの話、聞いとったんやろ?」
トウジは穏やかな声で話しはじめた。
「あれはシンジだけに言うたんとちゃうで?、惣流も…、綾波もや、お前ら傷つき過ぎとる…」
アスカは気づいた、自分がもたれかかっているような感じをうけていたが、実際に体を預けているのはトウジだ。
片足で器用にそれを感じさせないでいる。
「…あんただって、そうじゃないの」
無くなった足の、付け根の部分に手を這わせる。
「ん?、ああ、これか…、こんなもん、見た目だけやないかい」
それで割り切れるの?
アスカにはわからない。
「良いとこあるって…、言ったでしょ?」
「ああ…」
「あれ、ホントよ、ヒカリが優しいって言ってたの、ようやく判った気がする…」
少し汚いジャージ、その肩に目頭を押し当てる。
「そうかぁ、そないな事言うとったんかぁ…」
感慨深げに。
トウジはアスカの頭を抱き、クシャッと髪をいじった。
「こんなことしてると、ヒカリに怒られちゃうわよ?」
くすくすと、自然に笑いが漏れる。
「委員長かぁ…、どうしとるやろなぁ?」
遠い目で赤い髪と、その先にある山並みを見る。
「…連絡取ってないの?」
ジャージを温める息がくすぐったい。
「ここ出てからなんもなしや…、それ程仲良かったわけやないし」
この鈍感…、まだ言ってる。
「ごめん…、もう大丈夫だから」
「んあ、そうかぁ?」
今度は解放する。
充血して、少し腫れた目がトウジを見ていた。
照れてはにかむトウジ。
「ちょっと…、すっきりしたわ」
アスカも笑顔で返した。
「でもね?」
パン!っとヤッパリはたく。
「…ったぁ!、そやからなんで叩くねん!」
さっきとは反対側の頬。
「気安くあたしの体に触ったからよ!」
「かなわんわ、ほんまにもぉ…」
トホホなトウジに笑いかける。
「それで勘弁してあげるわ!、ヒカリにも言わないであげる」
「委員長は関係あらへんっちゅうに」
「ヒカリには関係あるのよ」
「連絡とっとるんか?」
「…取ってないけど、でも、友達だから」
よっと、杖を持ちなおす。
「ほな、ワシ妹の顔見に行ったらなあかんし」
「あ、そ、勝手にすれば?」
トウジは苦笑いを浮かべた。
杖を先に、続いて足を前に出す。
「…足、早く治るといいわね」
なんとなく、アスカはその姿に声をかけてしまった。
トウジの足が止まる。
「元気になったら、ヒカリにも会いに行ってあげなさいよ?」
肩越しに振り返る。
「シンジだけじゃないんだからさ…、あんたの元気なとこ、見たいって想ってるの…」
「…らんのや」
小さな呟き。
何かをこらえるような呟きが耳に入った。
「え?、なに」
「あんなん、嘘や…」
「……?」
意味を取りかねる。
「そない、都合のええ話、無いて…」
息を呑むアスカ。
「なんで…」
そんな嘘ついたのよ…
聞けなかった。
トウジの笑みが、あまりにも辛く、そして悲しそうだったから。
「ほな、また後でな…」
今度こそトウジはアスカの前から消えた。
「シンジの、ためなの?」
トウジの気持ちがわからない。
アスカは青く広がる空を見上げた。
そしてほんの少しだけ心が軽くなっていることに気がついた。
自然と渦を巻くのは、トウジからかけられた慰めの言葉ばかりになった。
「じゃあ、行こうか、綾波」
無言でシンジの腕を取る。
もう随分と慣れてしまった体勢。
寄り添うように、それでいて少しだけ先に歩くレイ。
シンジは導かれるままに歩いた。
廊下を歩き、ざわついた場所に出る。
ロビーだとすぐに気づく。
「彼女よ」
小さく教えてくれた。
緊張に少し体が硬くなる。
「どこ?」
歩き出すことで答えに変えた。
「あ、シンジ…」
アスカも二人に気がついた。
どうしよう?
こっちに来る。
どうしよう?
困惑と混乱。
「アスカ…」
「な、なによ…」
寂しいんとちゃうか?
トウジの声が響く。
「べ、別に何とも思ってないわよ」
また意地を張ってしまう。
傷つき過ぎとる。
それはシンジも同じなのに…
「ご、ごめん、僕はただ…」
「ただ?、なによはっきりしないわねぇ」
いらいらしてくる。
なによりも、無言でたたずむレイに。
「早くしてくれない?、あたし忙しいんだけど」
嘘だ。
ただこいつのの目が嫌なだけ。
逃げ出したいだけ…
「あ、うん、ごめん…」
「またそれぇ?、もういいわよ話す気が無いなら話しかけないでよね!」
ぷいっとそっぽを向き、アスカは駆け出した。
さっきまでの気分を台無しにされたようで、ちょっと嫌な気分だった。
「…ふぅ」
緊張が溶け、シンジは息を吐いた。
「仲良くするって…、難しいね」
誰にでもなく呟く。
「話したい事はあるのに、言葉にできないや」
くっと腕が引かれる。
「行きましょう?」
レイに頷く。
レイの冷めた目は、シンジではなく、アスカの駆け去った方向を見ていた。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。