Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:11





 ガタン…、ガタタン、ガタン…
 電車が揺れる、窓からは夏の夕日。
 そのきつさに外の景色が見えない。
 誰かいる…
 古い電車。
 隣の車両に人影が見えた。
 一人は座り、一人は立っている。
 座っている少女は頭に包帯を巻いている。
 右腕はギプスで固定されていた。
 その正面で冷たく見下ろしているのは、青い髪の女の子だった。
 彼女に比べると、座っている女の子はどこか柔らかな印象を受ける…
「寂しい?、いえ、むなしいのね…」
 包帯の少女が見上げて問うた。
「わたしには、何もないもの…」
 二人の間に、長く、重い沈黙が訪れる…
 ガタタン…、ガタン…、ガタタン…
 綾波?
 その光景を、シンジは不思議そうに眺めた。
「…あなたには、絆があるもの」
 無感動…、上からの声には、人としての暖かみや抑揚が欠けていた。
「絆?」
「そ、わたしにあるのは、植え付けられた記憶だけ…」
 ガタン!
 派手に電車が揺れた。
「それはあなたのものよ?」
「いえ、違うわ…、あなたは人として育てられたもの」
 人として扱われていたもの…
 かすれてはいても、シンジの耳には届いている。
 何を言っているんだろう?
 だがその意味はつかみかねていた。
「…あなたは違うの?」
「わたしは作られたものだもの…」
 あなたの代わりに。
 瞬間、殺意と憎悪が向けられた。
「生きることが辛いの?」
「いえ、あなたの代わりであることに、疲れたのよ…」
 その殺意が消える、後に残るのはやるせなさとむなしさだけだ。
「あなたは、何を望むの?」
「解放…」
 キキー…、ガタン!
 電車が止まった。
 シンジの目が明るい光に焼きつけられる。
「う…?」
 シンジは上半身を起こした。
 夢と現実の世界をまたぎながら。
「おはよう、碇君」
 部屋のドアが開いていた、ネルフの職員用宿舎だ。
 その一室、6畳程度の部屋にある、備え付けのベッドでシンジは寝ていた。
「…綾波?」
 まだ目は回復してくれない、シンジは声のした方に確認してみた。
 レイは部屋の入り口に立っている。
「…今日から学校が再開されるわ」
 ああ…、と思い出す
 確かミサトさんが、そんなこと言ってたっけ…
 いまさら何のために学校なんだよ…、そんな考えが浮かんで来る、だが逆らうわけにもいかない。
「わかったよ…、ごめん、制服、取ってくれないかな…」
 結局シンジは、取ってもらうだけではなく、着る所まで手伝ってもらった。


「舐めとんのか、おのれはぁ!」
 教室に入った瞬間、シンジはびくっとして身をすくませた。
「大声出さないでよ、耳が痛いでしょうが…」
 うざったくあしらうのはアスカだ。
「だいたいなんで、あんたなんかと仲良く並んで登校しなくちゃいけないのよ」
 シンジは大体の事情を察して、口を挟むのをやめた。
 レイに誘われて席に座る、廊下側の一番前の席だ。
 その隣に座るレイ。
 教室内には多種の制服が入り乱れていた、他の中学が廃校になり、合併されているのだ。
 …そりゃ残ってる人の方が少ないもんな。
 疎開せずに残っているのにはわけがある。
 大方は、親がネルフ関係者だと言うものであった。
「もうええわい!」
 ガタッと椅子の音。
「おはよう、トウジ…」
 シンジは声から大体の方向の見当をつけた。
「シンジぃ、お前いっつもあんなんの世話やいとったんかいな?」
 同情と哀れみがたっぷりと混ざった声だった。
「ほんま、奇特なやっちゃで」
「しょうがないよ…」
「なにがしょうがないのよ?」
 アスカはシンジの後ろに付いた、その隣がトウジ。
「…おはよう」
「まったく!、どいつもこいつも仲良しこよしってね?」
 シンジは首をひねった。
「…なんだよ、それ?」
「あんたのことよ、なぁによいちゃいちゃ手ぇなんか繋いじゃってさ」
 シンジはネルフの公用車で送られて来ていた。
 レイが先に降り、シンジの手を取って車から降ろさせた。
「目立つことしちゃってぇ、そんなに自慢したいわけ?」
 なにが?
 シンジはきょとんとした。
「あいつと付き合ってるってことよ」
 耳打ちするアスカ。
 シンジはレイが…、いるだろう方向に顔を向けた。
 レイは我関せずとばかりに、ただ本を読んでいる。
「…ばぁか、冗談よ、ジョーダン!、なに本気になってるのよ?」
 アスカはシンジの耳を引っ張った。
「いてて…」
 よかった、機嫌直ってるみたいだ…
 シンジはいじめられながらも安心していた。
 まだ病院でのことを怒っているかもしれないと心配していたのだ。
 そんなシンジたちにクラスの視線は集中していた。
 ざわざわと騒ぐ声が耳に入って来る。
 ねぇねぇ、あの人達でしょ?、あのロボットのパイロットって…
 うらやましー…
 バカ言え!、あいつらのせいで家が…
 ガラ!
 様々な声が、戸の開く音にぴたりと止まった。
 アスカとトウジの視線が、入って来た男とぶつかる。
 なんのことはない、担任となる教師だった。
 チッ…
 彼は四人を真っ先に見つけて、小さく舌打ちをした。
 ピク…
 アスカのこめかみに青筋が浮かぶ。
「…席に座れ〜」
 やる気のない声、二十半ばと言ったところだろうか?、それほど身長は高くないが、威圧感のある男だった。
 彼は全員が思い思いの席に着くのを待ってから、投げやりな声で自己紹介を始めた。
「…あ〜、わたしが担任になる青柳だ」
 そこでちらりとシンジ達四人を見た。
 トウジはやる気なさそうに机に突っ伏している。
 レイは頬杖を付いて、シンジの向こうの窓に視線を向けていた。
 アスカも同じく頬杖を付いている。
 ただし目が閉じていることと、あくびを噛み殺していることから、退屈しているのは間違い無かった。
 その中でも一番気に障ったのはシンジだった。
 シンジは適当に先生が居るだろうと思われる方向に顔を向けていた。
 目を閉じたままで、だ。
 青柳はそのシンジの前に立った。
「…なめてるのか?」
 シンジに向けた第一声がそれだった。
「え?」
「なめてるのか、と言っている」
 パンパン…
 出席簿でシンジの頭を軽く叩いた。
「や、やめてください…」
「ならちゃんとこっちを見なさい、それとも…」
 四人を順番に見る青柳。
「わたし達の顔を見るのが恐いのか?」
 そこでニヤリと笑う。
「どういう…、意味ですか?」
 シンジの代わりにアスカが聞いた、何かを堪え、押し殺したような声で。
「決まっている、お前たちのおかげで街はめちゃくちゃだ」
 そして生徒たちに視線を向けた。
「わたしだけではないぞ?、お前たちのロボットに家を潰された人間は」
 シンジはギュッと唇を噛んだ。
 レイは依然と無視し続けている。
「あほが…」
 爆発寸前のアスカよりも早く、トウジがキレていた。
「なんだと?」
 トウジを睨んだ…、が、トウジの眼光に怯んでしまった。
「あほやっちゅうとんねん、こいつらがやらんかったら、わしら今頃死んどるんやで?」
 そんなこともわからんのか…
 蔑むような言葉を投げかける。
「ほほう?、で、名誉の負傷をしたからいたわれ、と?」
 意地悪く、トウジの足元を見た。
「誰がんなこと言うてん!」
 立ち上がろうとする、だが片足ではふらついただけだった。
「ふん、確かにまともな神経をしていては、あんなロボットには乗れんだろうな」
 パンパン…
 青柳はまたもシンジの頭を叩いた。
「わたし達の命なんて安いものだと?、多くの人間を助けるための尊い犠牲か?、なあ?、何人友達を殺したんだ?、え?」
 がたん!
 椅子を蹴って立ちあがるアスカ。
「な、なんだ?」
 青柳は動揺のあまりうろたえ、後ずさってしまっていた。
「…やってらんないわ」
 そう言って鞄を手に取る。
「お、おい!」
 呼び止める青柳。
「どこへ行く!?」
「帰るのよ、決まってるでしょ?」
 アスカの言葉遣いからは、完全に年長者への尊敬や敬意と言うものが失われていた。
「そんな勝手な真似が通ると…」
「そうね…」
 青柳の言葉を遮って、続いてレイが立ち上がっていた。
「綾波?」
 レイの言葉に、シンジは驚いていた。
 気にしたのかな?
 この程度の言葉に反応するとは思っていなかったからだ。
「さ、碇君」
「あ、でも…」
 ざわつく空気がわかる。
 シンジは戸惑った。
「ふん!、帰るなら帰りたまえ、社会の不適合者にいくら教育を施しても無意味だからな」
 それは完全な捨てぜりふだった。
 だがそれもアスカに鼻で笑い飛ばされた。
「はん!、あんたバカァ?、大体あたしは大学出てんだから、こんな「おさらい」にもならない教育なんて受ける必要ないのよ」
「な、なに!?」
 それは青柳にとって初耳だった。
「…碇君、今日来たのは命令があったからではないわ」
 命令…
 シンジはその言葉を反芻した。
「…なるほど?、お前らにとって学校とは命令されて来るものなんだな!」
 …好きで来てるんじゃないさ。
 シンジもようやく反発心を持ち出していた。
 何も感じていない、何も思っていないレイの瞳が青柳を捉えた。
「…な、なんだ!?」
 そのぞっとするような冷たい視線に、寒気を覚える。
 青柳が黙り込むのを待って、それからレイはまたシンジに顔を向けた。
「…行きましょう?、わたし達は義務教育の免除を受けているもの、ここに来ているのは葛城三佐の希望によるものでしかないわ」
 ふう…
 シンジはため息をついた。
「そうだね」
 そして立ち上がる。
「帰ろうか…」
 もうどうでもいいや…
 シンジは回りの…、クラス中の視線や空気などを、もう他人事のように感じていた。
「そやな、ほならわしも帰るわ」
 けったくそ悪い…
 最後に吐き捨てる。
 それが青柳を刺激した。
「なんだと!」
「なんやねん!」
 くっ!
 青柳はトウジを殴りつけようと拳を振り上げた。
「!?」
 ドガァン!
「「「きゃあーーーーーーーー!」」」
「「「うわあああああああああ!」」」
 地から突き上げるような衝撃が来た、横揺れも同時に。
「わわ、なんや!?、うわ!」
 青柳からの拳を受け止めようとしていたトウジは、その突然の揺れに対処できなくて転びかけた。
「ちょっと、しっかりなさいよ!」
「す、すまん、惣流」
 そのトウジの腕をアスカが組み上げていた。
 すんでの所でトウジは転ばずにすんでいた。
「なんだ、いったい!」
 青柳が窓の外を見た。
 南の空が赤く燃えている。
「……」
 その現象に息を呑む。
 トルルルル…
 はっとして、青柳は振り返った。
 その視界に入ったのは、シンジの鞄から携帯を取り出すレイだった。
「…はい、フォースまで揃っています、はい」
 簡単な確認だけで電話を切る。
「…行きましょう」
 先程までとは違うもっと鋭い声に、シンジはつい問い返してしまった。
「…使徒なの?」
「おそらく」
 そしてアスカとトウジを見る。
「校門に迎えが来ます、フォースも一緒にと言うことよ?」
 レイは伝えるだけ伝えてシンジを立たせた。
「は!、人類を守るお仕事とやらで、人を殺さないようにしてくれよな!」
 教室を出ていく四人に投げかけられた言葉は、青柳ではない、誰だか知らない生徒から発せられたものだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。