Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:12
ガアアアアアアアァァァ…、ガコン!
押さえつけられるような重苦しさが終わる。
リフトのシャッターが開いた、そこにいるのはエヴァ初号機だ。
「じゃあシンジ君、いいわね?」
「はい…」
インダクションレバーを握るシンジ。
それと同時に、ATフィールドが弱く展開された。
「見える…」
シンジの呟きがスピーカーから流れて来た。
「調子は?」
「シンクロ率は50で安定しています」
そう…
マヤの返答に、一安心するミサト。
「シンジ君、調子はどう?」
「良いですよ…、ちゃんと周りも見えるし、大丈夫です」
シンジの言う周りとは、エヴァによって得られる景色だった。
神経のほとんどが異常とも言えるほどの率でエヴァと直結してしまっている。
病んでいるはずの視神経がエヴァと繋がっている。
そのことからも、シンジの体には別段これと言って異状は無いのだと、確認することができていた。
やはり精神的なものなのかしら?
シンジと軽く会話を交わしながら考える。
その途中で、ミサトはトウジをちらりと見やった。
頷くトウジ。
「あ、ちょっと待ってて」
ミサトは私用の電話をしているような感じで、その受話器をトウジに渡した。
「守秘回線を使ってるから、聞かれる心配は無いわ」
と、もちろん囁くことを忘れない。
「シンジか?」
トウジは聞き耳を立てられているのではないかと、声をひそめて話し出した。
「トウジ?」
「ああ、わしや…」
二人のやり取りを横目で見るミサト。
「ふう…、あんなぁ、わしは正直、まだまだ甘かったんやなぁと思っとるんや…」
「え?」
ミサトは腕組みして、日向の頭ごしに避難状況の確認をした。
「敵が来た、戦って、危ない目におうとる、それだけや思うとったんや」
ミサトの指が、トン・トン・トンっと、苛立たしげに動き出していた。
「そやけどな、さっきのあれ…、死んで来い言われとんのと同じやないか?」
シンジは黙り込んだ。
答えようが無かったからだ。
「…そやからな、頼むで?、生きて帰ってくれや?、なんちゅうても、あのアホらに好き勝手言わせたままやなんて、胸糞悪いやないか!?」
最後はつい声が大きくなってしまっていた。
「アホ…、誰?」
「あのセン公や!、けったくそ悪い…」
ああ、あの先生か…
シンジは思い返して、トウジの憤慨の仕方におかしくなってしまった。
「…そうだね?」
くすりと笑って答えるシンジ。
やれるだけやってみよう…
ちょっとだけ、元気が戻って来る。
「ありがとう、トウジ…」
「いや…」
すぅ…
トウジは深く、息を吸いこんだ。
「わしにはこんなことしか、言えへんさかいに…」
そんなことないよ…
シンジはちゃんと感謝していた。
トウジを…、その妹までも酷い目に会わせた自分を、元気づけてくれているということに…
「…ありがとう、僕は…、トウジと知り合えて、本当に良かったと思うよ」
だからシンジは、様々な思いを込めて、素直にトウジに伝えていた。
「あほぬかせ、わしら親友やないか?」
くすくすと、お互いに笑いが漏れた。
「ほなら…」
「うん、頑張るよ…」
通信はシンジの方から切れた。
どっと疲れたのか、トウジは受話器を降ろすと大きく息をついた。
「?」
そのトウジの前にミサトが立つ。
「…悪いけど、もう一人頼むわ」
トウジの手から、一度受話器を取り返した。
「いえ…、これがわしの仕事やさかいに」
そのトウジを横目で見る。
回線が繋がった。
「アスカ?」
顔を伏せ、表情を隠すトウジ。
そのトウジを冷たく見ながら、ミサトはアスカと軽口を交わし合っていった。
「なによ、わざわざそんなこと言うために守秘回線使ってんの?」
エントリープラグの中で、アスカは苛立ちをぶちまけていた。
「わかってるわよぉ、ちゃあんとやることはやるわよ、それがあたしの使命だって言うんでしょ?」
目を閉じ、投げやりな口調で答える。
「え?、代わるって、誰によ?」
その答えはすぐにわかった。
「惣流か?」
その声にどきりとする。
「鈴原!?、あんたがなんの用だってのよ?」
焦りが一気に高まってしまっていた。
せっかく今朝は逃げたって言うのに…
この間のことが思い出されてしまう、気恥ずかしくてたまらなかった。
頬が微妙に赤くなっていく。
「…すまん、わしはお前のこと、ほんまに知らんなぁと思てな?」
「それがどうしたってぇのよ?」
ついぶっきらぼうになってしまう。
音声のみなのがありがたかった。
「そやから、なんでそないに苦しんどんのか、何に脅えとんのかわしにはようわからへんのや…」
そんなの、あんたには関係ないじゃない…
トウジの真剣な声音に、アスカは口を開くことができなくなっていた。
「すまん…、そやから、こんな時に何を言うたらええのか、わからへんのや…」
さてはミサトね…
ミサトが余計な気を回したのだと察する。
「頼むで?、わしにはそれしか言えん…、死なんといてや…」
それでトウジからの言葉は終わりだった。
またミサトに戻り、一言二言告げられて回線は切られた。
「死なないわよ…」
死ぬもんですか。
アスカはインダクションレバーを握り締め、凛々しく顔を上げて口にした。
あんたはシンジと違うってぇの?
今、アスカがいることを望んでくれているのかもしれない。
…だったら!
「死ねない…、死ぬもんですか」
単純かもしれないわね、あたしって…
それでもアスカはトウジの言葉を拡大解釈し続けていった。
胸の高鳴りを、気分の高揚を自覚してしまったからだった。
「すまないわね…」
ミサトは受話器を受け取りながら、トウジに礼を言った。
「言うたでしょ?、これが仕事やて」
軽く頷くミサト。
「ええ…、シンジ君もアスカも、あなたにならまだ元気を分けてもらえるから…」
トウジは発令所の隅に移動すると、松葉杖を抱くようにして、直接床の上に座りこんだ。
「仕事か…」
今度はミサトの仕事を見る番だった。
「次弾は太平洋か…」
「三度目は本体で来るか、それとも消耗戦を仕掛けてくるか…」
ゲンドウと冬月。
ゲンドウは相変わらずだったが、冬月は渋い顔をしていた。
それもそのはずだろう、わずかに日本列島を外れたとはいえ、伊豆諸島のいくつかが消滅してしまっているのだから。
「津波の方は?」
「おさまりました、それでも湾岸部の被害は甚大なものになっていますが…」
気候にも変化があらわれるでしょうね…
しばらくは雨が続くかもしれない…
ミサトは主モニターに映る炎を吹き上げる海を見て、漠然とそう考えていた。
空からの攻撃か…
どうしよう?
シンジは少し迷っていた。
でも、確かに何かを感じたんだ…
それは気のせいでは無かった。
エヴァそのものが持つ感覚器官が、シンジに大気摩擦で燃え上がる使徒の一部分を認識させていたのだ。
…なら、真下で受け止められるかもしれない。
トウジに期待をかけて貰えた。
それが嬉しくて、シンジはやる気になっていた。
…人類を守るお仕事。
シンジはそんなことをしているつもりは無かった。
…そうだよな、アスカだって、自分のために乗ってるんだもんな。
以前アスカに言われた言葉を振り返ってみた。
僕は、誉められるために乗ってた。
それも現実を知ってしまった今ではむなしい考えだったと思えてしまっている。
綾波は…
以前は絆だと言っていた。
今はどうなんだろう?、と思う。
でも、どうせ大して変わらないよな、と、シンジは勝手に結論づけた。
誰も他人のために乗ったりなんてしてないんだから、と。
でも、今は違うんだ。
シンジは心が弾むのを感じていた。
トウジが応援してくれてる、やらなきゃ…
シンジ…、初号機が空を見上げた。
「来る…」
シンジの癇に触るものがあった。
「ここに向かって真直ぐ来る…」
シンジの呟きにわずかに遅れて、非常警告音が発令所に慌ただしさをもたらしていた。
「光学観測!、目標到達予測時間は約300秒後!」
ピ!っと、ものすごい勢いでカウンターが動き始めた。
「シンジ君?、悪いけど今回はMAGIによる誘導ができないの…」
それをするには、あまりにも敵が早過ぎた。
「それにこの天気…」
曇っている。
「最悪ね…」
ミサトは何ら有効なアドバイスを見いだせなかった。
「…わかっています、大丈夫ですよ、ミサトさん」
そんなミサトに、シンジは軽い口調で答えてみせた。
シンジ君?
その自信に満ちた声に、逆に不安になるミサト。
「わかるんです、使徒が来るのが、…まるで叫んでるみたいだ」
なにを?
その会話はフリーで流されていた。
ミサトはゲンドウに冬月が何かを囁いているのを見た。
「やれるだけのことはやってみます…」
シンジは通信を切った。
…そうだ、やれるだけのことはしないと。
その後で父が何を行うつもりなのか、シンジはそれを考えないように勤めた。
…そうさ、あの時とは違う。
父の手により、トウジを殺せと強要された時とは違っていた。
今なら、あの時みたいに外部からコントロールされるなんて事は無い、誰も僕を止められないんだ。
だから、父の暴走も止められるはずだと、シンジは勝手に思いこんでいた。
「さあ、こい!」
両手を広げ、天を仰ぐ初号機。
曇った空によって、使徒の位置は肉眼では確認できない。
ジオフロント内、弐号機。
「ほんとにやれるんでしょうね?」
アスカは雲よりも厄介な天井を見上げていた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。