Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:12
「動きました!」
青葉が数秒遅れの画像を表示した。
天体観測所の望遠鏡からの映像は、直接本部のメインスクリーンに映し出されているのだ。
月近くにある物体を捉え、その情報を転送している、それだけでもタイムラグはいなめなかった。
「コースは!?」
その映像からMAGIが軌道を予測し、現在の地点を割り出している。
「第三新東京市直上に来ます!」
それだけじゃ…
ミサトは歯噛みした。
直上って直径で何キロあると思ってんのよ…。
そんなミサトの懸念を、シンジが拭い去ろうとした。
「大丈夫、追えます」
「シンジ君!?」
来い…
シンジは自信に溢れた顔つきで空を見上げていた。
「成層圏突入!、…これは!?」
青葉が慌てて報告する。
「使徒が3つに分裂!」
「なんですって!」
くっ!
一瞬だけ、シンジはどれを追うか迷った。
いや、全部止めなきゃダメだ。
そして決断する。
「初号機、ATフィールドを展開!」
「S
2
機関、出力増大!」
まず一つ目!
右腕をバックスウィングすると、初号機はATフィールドを雲に向かって飛ばしてみせた。
「!?」
その光景に誰もが息を飲んだ。
雲が一気に散らされる、その遥か上空で、金色の閃光が弾けて消えた。
二つ目!
今度は左腕を大きく振り回す。
またATフィールドを飛ばした時に、一つ目はコースを外れて南洋に落ちたとの報告が入ってきた。
やった!
シンジは二つ目にも手応えを感じながら、その報告に喜んだ。
「いけない」
レイの呟きが聞こえて来た。
それは最後の本体を、直接手で受け止めようとした時だった。
使徒の頭、その尖塔が迫ってきた。
「くっ!」
両腕を突き出し、受け止める。
その手の先にはATフィールドが展開されていた。
「!?」
頭にはまるで仮面のような顔があった。
漆黒の闇のような落ち窪んだ眼孔。
かわせない!
カッ!
閃光が放たれた。
「シンジ君!」
「シンジ!」
ミサトとトウジが同時に悲鳴を上げていた。
「うわああああああああああ!」
「シンジ!」
アスカもだ、だがレイの声は無かった。
誰もが初号機と使徒とのぶつかり合いに気を奪われている。
そんな中、レイは一人冷静に零号機を近くの輸送用コンテナへ飛び込ませていた。
あああああ…
意識が少しずつ薄れていく。
喉が、胃が、煮えたぎるL.C.L.に直接焼かれていく。
毛細血管が破裂したのかもしれない、シンジの視界が赤く染まっていった。
エヴァが赤い涙を流していた。
く、はぁ…
それでもエヴァは堪え続けていた。
少しずつ、後ずさりながらも使徒を止めていた。
そのシンジの目に、使徒の顔がうつった。
まるで笑っているように見える。
ダメだ、ダメだ、ダメだ!
自分で考え、自分で決めろ…
そんなのもう嫌なんだよ!
走馬灯のように、様々な人の声が聞こえては消えていった。
反発する自分の叫びもこだましていた。
一度、みんな死んでいくことが嫌だと思ったことがあった。
アスカが、レイが、死んだのではないかと恐怖にすくみかけたことがあった。
加持さん…
誰かのために戦いたいと思った。
だけど、アスカに嫌われたんだ…
命がけで戦った、だが喜んでは貰えなかった。
でも、トウジは…、トウジの妹さんもだ、戦う僕を望んでくれている。
ミサトもだ、もしかすると、加持もそうだったのかもしれない。
だからもう、裏切るのは嫌なんだよ!
誰かの心を、期待を裏切るのは。
父さんみたいで…
キイイイィン!
初号機のATフィールドが、さらなる輝きを発し始めた。
!?
その眩しさに目を庇う発令所の面々。
シンジは初号機の右肩を使徒へと向けた。
この!
気力でインダクションレバーを握りこんだ。
反応する初号機、押され気味だった顔を上げる。
肩のパーツが左右に開かれ、そこから合計7本のニードルが打ち出された。
「使徒のATフィールドが弱まりました!」
はっと、ミサトは我に返った。
使徒の仮面に4本の針が刺さっている、残りは後部の本体側に刺となっていた。
「初号機は!」
ちょうど使徒のATフィールドを侵食し、その尖塔をつかんだ所だった。
「シンジ君!」
うわああああああああ!
シンジは使徒を適当な所へ投げ飛ばした。
ズガァン!
そこにはちょうどネルフの地上観測所があった、押し潰される。
「貴重な施設を…」
冬月の場違いな発言が耳に触った。
「だが日本消滅だけは避けられたな?」
「ああ…」
渋い顔をする冬月と、適当に相槌を打つゲンドウ。
やれたんだ…
L.C.L.の中を漂いながら、シンジは満足感を味わっていた。
力が抜け、体が自然と浮いてしまう。
指すらも動かすことができなかったが、心は充足感に晴れ渡っていた。
「大変です!」
その安堵するような空気を、青葉が一瞬で塗り変えた。
「落下物がもう一つ…」
ガァン!
鉄板にぶち当たるような音。
カッ!
続いて真っ白な閃光が皆の目を焼いた。
「くっ!」
そして誰かの苦悶の声。
はあああああ、うわあああああああ!
さらにはシンジの絶叫が、エヴァの口から漏れ出してきた。
「シンジ君!」
焼きつくモニター、ミサトはちらりとだけ初号機の前に立つ影を確認できた。
零号機?、レイ!?
何が起こったのかわからなかった。
シンジは爆発に飲みこまれて、自分がどうなってしまったのか一瞬見失っていた。
幸いにも落ちて来たものにそれほどの質量が無かったのか?、直径数百メートル程度のクレーターを作るだけですんでいた。
熱が空気を揺らめかせ、陽炎を作り出している。
初号機の正面には零号機が立っていた、両腕を体の前でクロスさせて。
初号機に直撃するはずだった「それ」を弾いたのは零号機だった。
いつのまに!?
ミサトはようやくジオフロントから姿を消していることに気がついた。
だがそんなことはシンジに関係無かった。
莫大な量の煙が吹きあがっている。
人が…、死んだ…
シンジの意識はそこに向かって収束していた。
「大変です!」
慌てふためくマヤ。
「どうしたの!」
「先程の影響でプラグの電算回路に問題が生じています」
はっとする。
「まずいわ!」
だが遅かった。
はぁ、はぁ、はぁ…
ガコン…
エヴァの額部ジョイントが外れた。
目を丸くし、クレーターの外輪部を見ている。
使徒はもがき、苦しんでいた。
はぁ、はぁ、はぁ…
本来エヴァから取り込まれる情報のほとんどは、コンピューターによって処理され、必要な情報だけをパイロットへと伝えるシステムになっていた。
はぁ、はぁ、はぁ…
使徒は周囲の熱によってその身を焼かれていた。
初号機の電算系回路が完全に潰れてしまっていた。
エントリープラグの挿入口、その回りから激しく火花が上がっている。
はぁ、はぁ、はぁ…
初号機はじっとその方向を見ていた。
背を丸め、だらんと手を下ろし、荒い息をついている。
人、人だ…
シンジの意識に飛び込んで来るものがあった。
きゃーーー!
あああああ!
いやぁ!
助けて…
うああ…
人だ。
呻き、怨嗟、悲鳴、全ての感情がシンジの中に流れこんで来る。
「ダメです!、せきとめられません!」
「なんや、どないなっとんのや!?」
不穏な空気にうろたえるトウジ。
シンジが見ているのは、使徒が残していた最後の一部、それが破壊した避難所だった。
「情報が直接送られています、このままでは!」
本来はその膨大な情報量によって、パイロットの脳に負担をかけないためのシステムであった。
だがその回路には裏の目的が備わっていた、すなわちパイロットの自我意識にとって負担となるような、あるいは誰かにとって都合の悪い情報をせき止めるためのリミッターとしての役割が。
「ちょっとミサト!、シンジはどうしちゃったっての!」
アスカの焦りは、ミサトのものと同じであった。
はぁ、はぁ、はぁ…
エヴァの中に貯えられてきた、膨大な量の「記憶」に流されそうになっている。
レイはそんなシンジを無視して、使徒にナイフを突き立てていた。
事務的にとどめを刺している。
使徒には地上で動き回るような機能が無いのか、ただ体をくねらせてもがいただけで、すぐにその活動を停止した。
人が…、死んだ、人が、死んでく!
エヴァがその感覚器官を全開にして、シンジにその全てを見せていた。
焼けただれる人、ずるりとゴムのように溶ける皮膚、炭化した肉体、瓦礫に潰された子供、引きちぎれた腕、あの嫌な教師のひしゃげた肉塊もそこにあった。
異臭、匂い、鼻につく、それすらもシンジを刺激する。
嫌だ、イヤダ、いやだ!
芦の湖から第三新東京市へ流れこんでいた水が、さらにはクレーターに向かって流れ込んでいた。
うわああああ!
助けて、誰かぁ!
死にたくないのぉ!
押し寄せる水に泣き叫ぶ人々。
親しかった、あるいは先程まで頑張れと元気づけていた相手を投げ出し、うち捨て、みな逃げ出そうとあがき始める。
イヤダ、こんなの嫌だ!
全員が没していく。
ゴボボ…
水と涙の判別がつく、恐怖に脅えながら、女の人が開いた口から空気の塊を吐き出して動かなくなった。
誰かを呪いながら、誰かを恨みながら、水面の光に向かって手を伸ばして…
うわあああああああ!
それを最後に、シンジの意識は閉ざされてしまった。
「ほんま、やわなやっちゃで…」
そう言いながら、トウジは優しく髪をなでた。
本部、医学部、その中でもそこは特別とされる集中治療室だった。
無菌を保つため、青みがかった白い光で満たされている。
「もうちょっと強うなってもらわんと…、なあ?」
トウジがなでているのは妹だった。
だがまるで反応を返さない。
「悪いわね…」
背後からの声。
「ええんですよ、ミサトさん…」
トウジは振り返らずに答えた。
手をとめたくなかったからだ。
冷とうなったなぁ…
そのことを寂しく感じる。
酸素を吸わせるためのマスクが白く曇っていた。
じっと見ていると、それが消え、そしてまた曇ることがわかる。
小さな体の小さな胸が、わずかながらに上下していた。
それだけがこの少女が確かに生きていると言う証しであった。
「わしは…、こいつに…、こいつが元気に戻ってこれるような場所を用意しといてやりたいんです」
辛さも罪悪感も何もかもを、トウジは引き締めた表情の下に隠して答えた。
「そのために、ミサトさんからの話を受けたんですから…」
こいつのために…
名残惜しげに、トウジは手を放した。
トウジには仕事が残されているからだ。
シンジをたきつけ、立ち直らせると言う仕事が。
「じゃ、頼むわね」
そんなトウジに、ミサトの言葉はとてもとても冷たく、きつかった。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。