Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:14





「帰って来たくないの?、シンジ君…」
 ミサトは初号機を見上げていた。
「当たり前か…、あなたにとっては、そこが一番居心地いいんだものね…」
 母の中。
 人が一番愛され、慈しまれる瞬間。
 この世に生まれいでる前の安らぎ。
「羨ましいわ…」
 ミサトの呟きを聞く者はいなかった。


 3日前。
「初号機とのコンタクトは?」
「ダメです、全ての回線はお釈迦になってます」
 日向の答えに、ミサトはマグカップから口を離した。
「おかしいじゃない?、シンジ君の生命反応なんかはちゃんと確認できてたんでしょ?」
「それが…、防壁が展開されちゃって」
 申し訳なさそうなマヤ。
「誤作動か…」
「なら良いんですけど…」
 歯に物が挟まった様な言い方に眉をひそめるミサト。
「なによ?、まだ他に何かあるの?」
「防壁は正確にシンジ君との接触を断つよう展開されました…、その後なんですよね、初号機とのコンタクトが断たれたのは」
 意図的にやったってぇの?、誰が…
 シンジの名が脳裏に浮かんで、ミサトはありえるわねっと思考を巡らせた。
「葛城三佐…」
 威圧的な声が降りかかる。
「はい」
 ミサトは司令席を振り仰いだ。
「初号機を封印、以後変化があるまで監視にとどめる…」
「ですが、それは!」
 ミサトは続きを飲み込んだ。
 理由を知ってる!?
 その雰囲気からミサトは直感的に、ゲンドウへの疑惑と疑念を浮かび上がらせた。
「…わかりました」
 ミサトの返事に満足したわけでもあるまいが、ゲンドウはニヤリと笑って司令席を移動させた。
「葛城さん…」
「聞いたでしょ?、急いで」
 ミサトは悔し紛れに吐き捨てるよう、日向に向かって命令していた。


「バカシンジは帰ってこない」
 アスカはベッドにねっ転がり天井を見ていた。
「家に帰ることもできやしない」
 横では自分のベッドを占領されてしまったトウジが、床に座り込んで雑誌をめくっていた。
「なんや?、もうホームシックかいな?」
「こんなせまっ苦しい所に居たくないだけよ」
 本部敷地内宿泊施設。
 シンジの部屋からは遠いものの、アスカとトウジは隣同士の部屋に放り込まれていた。
「ベッド二台分の広さ、良く文句も言わないでいられるわねぇ?」
 トウジの平然とした態度に皮肉りたくなる。
「死にとうないし、しゃあないやろ」
 暴動はまだ続いていた、死傷者も出ている。
 このまま続けば、戦自の介入もあり得るだろう。
「だったら第二東京だか大阪だか知んないけど、帰れば?」
「あほ抜かせ、その方がヤバいわ」
 バサ…
 トウジは雑誌を放り出した。
「なんでよ?」
「…なんでもない」
 怪訝そうにトウジの見ていた雑誌を手に取る。
 それはアスカの見たことがない雑誌だった。
「何よこれ!」
 表題に驚く。
「ネルフの存在価値?、これが子供達の所業か?、ですって!?」
 パラパラとめくって見る。
 そこには写りは悪いものの、確かにシンジやアスカ、それに綾波の写真もあった。
「情報管制の賜物っちゅうわけや…、この街の人間の方が知らんこと多いで」
 すぐに察しが付いた、写真は第一中学で誰かが撮ったものだろう。
 アスカたちがエヴァを動かしていると言うことを知る者は以外と多い、その情報と共に漏れたのかもしれない。
「人の口に戸は立てられないってわけね?」
 この街の中でなら出まわらないような内容に驚く。
 ゴシップと割り切るには、遠回しに人殺しと罵る内容が癇に触っていた。
「まぁ、な…」
 トウジは気の無い様子で返事をした。
 ごろんとねっ転がる。
「この街に住んどった人間は、みんな使徒を自分の目で見とったさかいに、まだ我慢もできたんやろうけど」
 でなければ、これだけの死者を出す戦い方に疑問が出ない方がおかしいだろう。
「あたし達の…、せいってわけ?」
「そうおもっとるんやろうなぁ」
 実感を伴った言葉にアスカははっとした。
「あんた、まさかそれでここに戻って来たとか…」
 返事は無かった。
 それが逆にアスカの胸を締め付けた。
「…そう」
 もう、あたし達には帰る場所なんてないのね…
 居場所もどんどん無くなってきている。
 街、家族、家。
 アスカはそのどれもを失いつつあった。
 トウジの険しい顔つきからは、何を考えているのか計れない。
 人殺し。
 死ね。
 出てけ。
 マンションのドアに赤いスプレーの落書き。
 トウジはむくりと起き上がった。
「ま、お前が苦しむことないて…」
 トウジは急に赤くなって、鼻先をぽりぽりと掻いた。
「その…、お前らが無事に帰ってくんのを、ワシが待っといてやるさかいに」
「バカ!」
 アスカは勢いよく枕を投げ付けた。


 二日前。
「ここに居たのか、レイ…」
 隔離封印されている初号機の前、アンビリカルブリッジにレイは立っていた。
 じっと初号機を見つめている。
 ゲンドウはその隣に立つと、同じようにして初号機と視線を合わせた。
「どうだ、調子は」
「…問題ありません」
 そうか…と、ゲンドウは当たり前の会話をくり返した。


「まったく、照れるんなら言わなきゃ良いじゃないのよ!」
 ずかずかと廊下を進むアスカ。
「こっちの方が恥ずかしいってのに…」
 初号機がどうなったのか気になり、ミサトの元へ向かう所だ。
 その途中で足が止まってしまう。
 数秒のためらいの後で目を移す、そこには加持が仕事に使っていた部屋があった。


 プシュっと開く扉。
 自動的に室内に明かりが灯される、中は加持が居なくなった時のままになっていた。
「加持さぁん…」
 自然と涙が溢れて来る、アスカは口をきつく閉じて鼻をすすった。
 しばらく立ち尽くした後で涙を拭う。
「どうしていなくなっちゃったのよ…」
 アスカは加持の座っていた椅子に腰掛けた。
 いつもその背中から抱きついていた椅子。
 加持ごしに見ていたモニター。
 雑然と物が散らばっている机。
 どれもが加持の匂いを残したままになっていた。
 でも…と、アスカは今までになかった考えを浮かび上がらせる。
 加持さんに甘えてた、加持さんにならわがままも言えた、けど…
「泣けなかったな」
 何故だかそんなことが思い浮かんでしまっていた。
 泣いて、すがって、頼ることはできなかった。
 しなかったのかもしれない。
 けれど理由は分からない…
 アスカは意味も無く、机の上に臥せったままで、端末機の電源を入れた。
「…まだ動くんだ」
 メモリチェックが終わる、次いでシステムが起動し、次々とデバイスチェックが行われ、そして数秒のブランクの後に、メインコンピューターとのリンクが行われた。
「あれ?」
 アスカは奇妙な違和感を感じた。
「なんだろう?」
 数秒のブランク?
 それに気がつくのに数秒かかった。
「そうよ、ブランクよ!」
 仮にもネルフで使用されているコンピューターである、起動処理だけで引っ掛かるほど、処理速度が遅いはずは無かった。
「なにか組み込まれてるのかしら?」
 興味を引かれたのか?、アスカはシステム部分を開いて中身を調べ始めた。
「そんなにおかしいものは…、なにこれ?」
 メモリの一部に、常に常駐している不可視属性デバイスがあった。
「なんのために?」
 しかも何の役にも立っていない、ただ無駄なだけの存在である。
「開けるかしら?」
 幾つかの暗号化、パスワード要求、アスカは全てをクリアしていった。
「加持さんの考えそうなことなら、何でも知ってるもの」
 その一つ一つを突破する毎に胸が傷む。
「ミサトとの出会い?」
 カチ…
「リツコが学生時代に作った暗号化ソフト?」
 カチカチ…
「ミサトと…、別れた日の…」
 カチ…
 やめようと思ってもやめられない。
 答えていくたびに、胸がえぐられるような感じがする。
 傷つきながらもようやくアスカは、その中身にたどり着くことができていた。
「電話…、番号?」
 それも恐らくは携帯の…
「誰のだろ?」
 ここまでで、既に十分危ない所まで来ていることは分かっていた。
「でも…」
 やめられない、アスカはその番号を控えると、電源を切って部屋を出た。
 意味も無く、廊下に誰か居ないかを確認してしまう。
「…監視されてるなら、とっくに止められてるはずよね?」
 希望的観測をもって、自分に言い聞かせようとするアスカ。
 アスカはいったん自室へ向かって急ぎ足で歩き出した。


「シンジ君の状態は?」
「至って健康、まるで問題はありませんよ…」
 その情報だけは通されている、しかし…
「それ、ほんとに正確なの?」
 ミサトは懐疑的な目を向けた。
「どういうことですか?」
 怪訝そうに振り返る日向。
「ダミーの情報をつかまされてるんじゃないかってこと」
 ミサトの目は数値に隠された真実をつかもうとしている。
「まさか!、そんなこと不可能ですよ」
「そうですよ」
 青葉も日向に同意した。
「これはエヴァからMAGI経由で直接受け取っている情報なんですよ?、途中で書き換えられているなんて考えられませんよ」
「だといいんだけど…」
 ミサトの生返事に、日向と青葉はお互い顔を見合わせて肩をすくめてしまうしかなかった。


 そのミサトのルノーを一瞥しながら、アスカは目的のバイクへ近寄って行った。
 所員のものである、が…
「持ち主が死んじゃってるんじゃ、可哀想だもんね?」
 フード付きのトレーナーの上にジャケットを羽織っている。
 下はジーンズに大きめのスニーカー、髪はピンでアップにまとめられていた。
 アスカは電子キーに、非合法に売られている改造キーを差し込んだ。
 400ccクラスのレーサーレプリカ、色は赤。
 NC30と呼ばれたバイクの復刻版である、もちろんエンジンは電気駆動。
 ウォン!
 バッテリーは上がっていなかったらしく、簡単に久しぶりの咆哮を上げてくれた。
 アスカにはかなり大きなバイクだったが、足の長さがそれをカバーしていた。
「じゃ、いくわよ?」
 またがり、引っ掛けられたままになっていたヘルメットを被る。
 アスカはジオフロント内の待避施設へ向かってバイクを走り出させていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。