Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:14





 フォン!
 残っているガスを抜くように、一度アクセルを回してからエンジンを切る。
 実際には電気駆動なので意味はない、何処かのビデオで覚えた癖だった。
 バイクのライトが消え、天井都市から差し込んできている月明かりだけになってしまう。
 それは地上で浴びるものよりも遥かに暗い。
 アスカはバイクを止めると、第八区、第六シェルターの入り口に立った。
「直ってない…、あの後放棄されたままなのね、やっぱり…」
 入り口には「CAUTION」と書かれた黄色いテープが張られている。
 そこはアスカが第十四使徒に敗北した時、斬り飛ばされた頭が直撃した避難所だった。
「…匂いが残ってる、もうずいぶんと経っているはずなのに」
 それがエヴァの血の匂いか、それとも巻き添えを食った人のものなのか?、アスカには区別がつかなかった。


「どうしたの?」
 日向からの連絡に、ミサトは顔をしかめていた。
 地上の暴動、シンジを含めたエヴァの封印。
 このところまともに寝てもいなかったのだ、仮眠室の布団から起き上がり、ミサトはその不満を隠そうともしなかった。
「セカンドチルドレンをロストしました」
 その一言に、一気に頭が覚醒する。
「なんですって!?、保安部と諜報部は何をしていたの!」
 ミサトの脳裏に過るのは、以前病室送りになったアスカの姿だ。
「妨害が入ったようです…、巧妙に偽装していますが」
 ちっ…、っとミサトは吐き捨てた。
 一体何が目的なの?
 現在地上への道は全て閉ざされている、よほど強引な手段を取らない限り、侵入も脱出もできないはずだった。
「ロックが解除された痕跡はありません」
「じゃあ犯人はまだジオフロント内に潜伏中ってこと?」
「その可能性は…、でもおかしいですよ」
「なにが?」
 赤い上着に袖を通しながらミサトは問い返す。
「チルドレンを拘束、あるいは監禁しているのなら、必ず何処かで引っ掛かるはずです」
 目立つからだ、現在ネルフ職員は全てジオフロント内にかくまわれている。
「…アスカは自分で動いてるってこと?」
「その可能性は…、現在調べの付かない所を洗い出して人を向けています」
「わかったわ」
 電話を切って部屋を出る。
 アスカの行動を不明瞭にして…
「一体何の得があるって言うの?」
 ミサトは疑問に答えを見付けられないまま、ガレージに向かって走り出した。


「回線も全部切れちゃってる、思った通りね?、これなら監視の目も無いわ」
 暗い中、慎重に歩を進めていく。
 一応非常灯だけは生きていた、赤い光りが室内を照らしている。
 壁に目をやる、その非常灯の中、黒い染みが広がっていた。
 触れて見る…ねちゃりと言う感触。
 血かと思い気分を悪くするが、すぐにオイルだと気がついた。
「そうよね、いくらなんでももう乾いちゃってるわよ…」
 だが胃がむかつき、内容物が込み上げてしまいそうな程、強烈に匂いはこもってしまっている。
 カン…
 アスカは足元にあった何かを蹴飛ばした。
「あ、あった…」
 アスカはそれを探しに来たのだ、携帯電話だった、電池は既に切れている。
 アスカはそれを手に取ると、むせ返るような匂いの中から逃げ出した。


 夢?
 そう、夢…
 これが、夢?
 起きる寸前に、今まで見ていたものが嘘だと気がつく。
 シンジが台所に立っている。
 優しく微笑んでくれている。
 何かを話している、他愛も無いことを。
 ありえないこと…
 シンジはいつも暗い表情をしている。
 自分に本当の笑顔を見せてくれることは無い。
 他人をことさらに強調し、触れ合おうとしない。
 辛い?、いいえ空しいのよ…
 レイは自分の気持ちをそう位置付けた。
 だったら諦めればいいのに。
 辛ければやめてしまえばいいのに。
 そんな感慨をシンジに持つ。
 だが言葉はそのまま自分にも返ってきた。
 願望?、いえ、違う…
 夢の意図を探る。
 レイはゆっくりと瞳を開いた。
 とたん、空虚さに囚われてしまう。
 あの人が見ているのは、二人目のわたし…
 横を見る、そこに寝ているはずのシンジは居ない。
 レイはシンジの布団で寝入ってしまっていた。
 誰が見ているのも、二人目のわたし…
 あるいは、その上に居る人のことだろう。
 少しずつ、空しさが苦しみに変わっていく。
 逃げ出したい気持ちに駆られる。
 ここにいるのは、わたし…
 だが誰も彼女を彼女として見ていない。
 みな少女のことを、「綾波レイ」と見ているだけだ。
 恐い?
 そうかもしれない。
 誰もわたしのことを分かってくれない…
 誰もわたしの想いに気付いてくれない、考えてくれない…
 必要なのは、二人目…
 いらないのは、わたし…
 それはとっくに気付いていたはずのことだった。
 だからといって、したいことがあるわけでも、してあげたいことがあるわけでもない。
 だから命令に従って、シンジの面倒を見ていただけだ。
 他にすることも、したいこともないから。
 だからわたしは…
 レイは無意識のうちに、その先の言葉を飲み込んでいた。


「これと交換してっと…」
 携帯の電池はさすがに切れていた、だから自分のと交換する、このあたりの規格は統一されているのでありがたい…
「あたしの携帯は盗み聞きされちゃってるしね?」
 だから人のものを借用した、これも聞かれてしまうかもしれないが、それでも自分の物を使うよりは、遥かに長い時間話せるはずだった。
 すぅ…っと息を吸い込む。
 緊張に喉が渇いているのが分かる。
 それからアスカは、ゆっくりと一つずつ確かめるように、携帯電話のボタンを押した。


 夜の道路を、行く当ても無く走り出すミサト。
 リリンも本当はわかっているんだろう?、ATフィールドは誰もが持っている心の壁だと言うことに…
 そのミサトの脳裏に、不意に言葉が過って消えた。
 リリン?、初号機、いえエヴァのコアの秘密…
 まったく関係の無い時に、不意にパズルの答えが組みあがる。
 今のミサトがそうだった。
(彼女と生き続けたかもしれないからね?)
 碇ユイと惣流・キョウコ・ツェッペリン…
 生き残る二体のエヴァ…
 リリンも本当は?
 リリン、碇ユイのこと?
 あの時、彼の瞳は真っ直ぐにエヴァの目を見ていた…
(そして君は死すべき存在ではない…)
(君達には、未来が必要だ…)
 進化の可能性が使徒だとすれば、人の可能性が彼?、いえ、違うわね。
 以前からの疑問が氷解する。
 人類、18番目の使徒…
 なら新たなる世界に住まう人間とは?
 それがシンジ君、チルドレンの正体!
 ミサトの背に、激しい悪寒が駆け抜けた。
 だから使徒は来たの?、あの日、シンジ君がやって来た、この街に…


 トゥルルルル…、ピ!
 電話は1コールも待たずに繋がった。
 ゴクリ…と喉が鳴ってしまう、アスカは固まっていた。
 話し出せない、相手が誰かも分からないのだ。
 それは相手も同じなのもかもしれない。
 ややあって、確認するような言葉が聞こえた。
「誰だ?」
 ドキン!
 心臓が跳ねた、聞き覚えのある声に。
「…加持、さん?」
 相手も戸惑ったのか、反応するまでに間が開いた。
「アスカか…」
「加持さん…、加持さん、加持さん!」
 ぼろぼろと涙がこぼれて来る。
 生きてた、生きてたんだ、加持さん!
 またも間が空いてから、加持はアスカに切り出した。
「アスカ、良く聞け、時間が、無い」
 妙にたどたどしい声、間も切れ切れになっている。
「うん、うん、わかってる!」
 だが喜びに焦るアスカは気がつかない。
「弐号機の、情報、管理システムに、パスコード、を、打ち込め、パスコード、は俺達の、最初の想い出だ」
「うん、わかった!」
 アスカは元気に答えた、頬に涙が伝っているのだが気がついていない。
「すまない、じゃ、切るぞ…」
「あ、加持さん待って!」
 アスカはつい慌てて引き止めていた。
「なんだ?」
 抑揚のない返事、それをアスカはうれいているのだと受け取る。
「また、会える?」
 だから恐る恐る尋ねた。
 それに対する加持の返事は…
「ああ…、全てが終わったら…」
 というものだった。


「見つかったの?、アスカが!?」
 ミサトは車でジオフロント内を走っていた。
「はい、バイクで走っていたらしいです」
 まったく人騒がせな…、とは思わない。
 妙ね?
 ミサトは余計に疑問を深めた、オービスを装った監視カメラが、道路沿いに幾つも仕掛けられているのだ。
 さらにはこのような時に走りまわる物好きも居ない。
 それでアスカの駆るバイクが見とがめられなかったのは、あまりにもおかしな話だった。
「とにかくアスカはどこ?、迎えに行くから…」
「いえ、葛城さんはこちらに戻ってください、大至急です!」
 マヤの声に驚く。
「え?、どういうこと…、まさか!」
「はい!、使徒です!!」
 ミサトはその場で、車をターンさせていた。



続く





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。